僕
ごめんね、ロクショウくん。
目を覚ますとそこは病院で僕はベッドに寝かされていた。
左眼のうえ辺りに痛みを感じて僕はその部分に触れる。心電図の機械音が、僕の心に呼応する様に乱れ始める。あれ?頭に包帯が巻かれている?
いつ怪我をしたんだろう?
思い出せない。
思い出せないけど、分かる。
僕は何かを失ってしまった。
とても大切な何かを。
心が血を流しながら、何かを求めるように震える。僕はその痛みに耐えられなくなって、泣き叫びながら頭の包帯を引きちぎり、額に出来た傷を掻きむしる。
この傷が僕を苦しめている。
縫われた傷の隙間から、血が滴り、僕のベッドを紅く染めていく。周りが騒がしくなり、多くの人の足音が聞こえてくる。
真っ赤に染まった僕の両手。
その両手を誰かに掴まれる。
君は誰?
その女の子の名前を僕は口にする。
「佐藤深緋ちゃん?」
深緋ちゃんはポタポタと流れていく僕の血に構うことなく真っ直ぐと僕の目を覗き込む。
「ねぇ、教えて!妹は最後に何を言ったの?!」
深緋ちゃんの握る僕の両手に力が込められる。
「浅緋は、最後にあなたに何を託したの?」
あわひ?
誰の事だろう?
深緋ちゃんに妹なんていないのに。
喧騒と共に多くの人が僕のベッドに集まってきて僕から深緋ちゃんを引き剥がす。彼女が必死に抵抗して、再び僕に掴みかかる。僕は深緋ちゃんの手に触れて、涙を流しながらその質問に答えた。
「浅緋って、誰?」
僕に掴みかかる深緋ちゃんの手に込められた力が急速に力を亡くしていく。
僕のその言葉に周りの大人達がお互いに顔を見合わせている。深緋ちゃんのお母さんが、僕と彼女の距離をゆっくりと離していく。
静寂の中、深緋ちゃんが口を開く。
「この人殺しっ!」
僕は真っ赤に染る両手を見下ろす。その血の色は僕の罪の重さを現しているようだった。
僕は……人殺し?