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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
星の女神と接合藻類
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四人目の心理部員

青の少年は銀色の少女と遭遇す。なんでこんなところに貴女が?

 制服のポケットから、合鍵を取り出して部室の扉を開ける。

 中の空気はそれほど淀んでいる訳では無かったが、窓を開けてまずは換気を行なう。


 まぁ、荷物を置いたらすぐに退室する訳だが。


 部員それぞれに荷物や作成書類を保管する為のやや大きめのロッカーが設けられている。

 このロッカーにも下駄箱と同じ様にダイヤル式の鍵が設けられている。


 僕は、自分の誕生日の数字に合わせて鍵を開けて、宿題と菓子パンを放り込む。

 仕切り板一枚を隔てて、その下には杉村蜂蜜に関するランカスター先生への報告書が保管されている。


 もう数十枚にもなるそれの更新は、今は止まっている。

 杉村の容体がひとまず安定したからだ。


 ロッカーを閉じると僕は辺りを見渡す。


 心理部員それぞれにロッカーは用意されているようで、ネームプレートが全部で9枚ほど貼られている。

 僕の左右には、佐藤深緋と若草青磁の場所が。杉村蜂蜜のロッカーはここには無い。彼女は正式には心理部員では無いからだ。


 ランカスター先生によると、他の部員との対面はそれなりの準備を要するらしいのでまだ面通しはさせて貰っていない。


 若草は確か、”嘘”に関する心理学の分野を調べてて、佐藤は”犯罪心理学”を調べていたと思う。


 ふと気になって佐藤のダイヤル式の鍵に手を伸ばす。


 佐藤の誕生日は確か、2月20日。って、合わないか。


 僕が手を離そうとした時、後ろから声が聞こえてくる。


 「6月2日」


 それは僕の誕生日だ。


 0602にダイヤルを合わせて見ると、カチンという音と供に鍵が開かれる。

 僕は恐る恐るロッカーを開けた。


 そこにあるのは、僕の数十枚に渡る調査報告書の百倍ぐらいの区分けされたファイルの山になっていた。

 ロッカー全てが書類で埋め尽くされていたのである。


 「犯罪マニア?」確か、佐藤がこの課題を選んだ時、すごく嬉しそうだった気がする。


 そのファイルは年代毎の犯罪者によって分けられている様で、世界中の快楽殺人者による事件のあらましがまとめられていた。

 これ、勉強よりも気合い入ってないか?


 僕は呆れながらロッカーの一番下層、一枚板で分けられているスペースに着目する。

 ファイルの背表紙には、”八ッ森市連続少女殺害事件”とあったからだ。


 僕は自然とそれに手を伸ばす。


 最近のは夏休み前の日付、そして一番古いのは……ちょうど7年前の事件発生時の記録である。

 なぜ佐藤が?確かにこの八ッ森市で起きた大きな事件の一つだけど、なぜ記録日が7年前なのだろう?


 その頃から佐藤は……この事件を追っていた?


 「お前、石竹緑青だろ?」


 僕は後ろからの声に驚いて、手にしていたファイルを落としてしまう。

 そのファイルに挟まれていた紙は年月が経ち、黄色く変色しているようだった。


 そして拙い文字で、こう書かれている様に見えた。


 「私は絶対に許さない」と。


 僕はファイルを慌てて元の場所に戻すと後ろを振り返るが、カウンセリング室の半分を仕切る黄緑色のカーテンが隔てているので誰の姿も確認出来ない。

 室内に外気が流れ込み、そのカーテンを揺らす。


 カーテンの奥はベッドで、陽光が布を透けさせて向こう側にいる人物のシルエットを浮かびあがらせる。

 そのシルエットは細身で女性の様に思えた。


 僕は恐る恐るカーテンを捲り上げてその姿を確認する。


 

 そこには陽の光を浴びて銀色に輝く長い髪を揺らす美少女が居た。

 目は手元に広げた文庫本に視線を落としている。


 こちらに構う様子も無く、淡々と言葉を並べる。


 「全く、人のロッカーを勝手に開けるなんてなんて趣味が悪い男の子なのだろう」


 「あんたが教えたんだろ!」


 「はて?私がお主の誕生日を口走っただけであろう。どう解釈するかはお主の勝手であろう」


 姫君の様な口調のこの銀髪のお姉さんは、黄色のノースリーブに桃色のホットパンツといった明らかに部屋着といった格好をしていた。


 僕は、彼女をどこかで見た様な気がして記憶を探る。


 彼女は確か、「日嗣ひつぎ みこと」期末テストにだけ現れる黒衣の亡霊、留年女だった。


 「ぼ、亡霊!」


 少しムッとした顔になりながらも、手元の文庫本を閉じる。

 一瞬、中身が見えたがそこには文字では無く、漫画の様だった。


 あれは確か”天才ばかぼんど”だ!


 「ふにゃにゃちわ」


 彼女が謎の挨拶を交わし、僕を改めて見据える。


 「初めてこうやって顔を合わすのぉ、石竹緑青くん。いや、アオミドロ君とお呼びした方がよいかな?」


 初対面なはずなのに、彼女の方は僕の事を結構知っている様だった。

 僕が知っている彼女の情報は、期末テストの時期に喪服で現れては最高に近い点数を弾き出して、すぐに姿を消すと言う都市伝説レベルである。


 彼女が何かを小さい声で囁く。


 「第4の少年か……君は元気そうでよかった」


 僕は首を傾げる。


 「お前、その事件、どこまで知っている?」


 僕は先程眺めていた佐藤のファイルを思い出す。


 「7年前の”八ッ森市連続少女殺害事件”の事?ですか?」


 そうだと彼女は頷いた。そして、年上とはいえ同学年であるので敬語は不要だと付け加えた。


 「えと、昔、八ッ森市を囲う樹林で少女を誘拐して殺す事件があった。その犯人は重度の精神疾患を患っていて、3件の連続殺人を犯した。けど、4件目が発生する前に、たまたまその日に森で居合わせた1人の少女の功績により警察に拘束される」


 「ふむ、まずは合格だな」


 気の性か彼女が何かに耐える様にベッドのシーツを強く握っていた。


 「そして、同じ部員とはいえ、他人のロッカーを開けるのはよくない」


 僕は慌てて佐藤のロッカーを閉じて鍵をかける。


 そして、喪服では無い黒衣の亡霊に向き直る。


 その瞳は伏せ目がちで、漆黒の闇を思わせた。

 そしてその黒すぎる瞳とは対照的に眩しいぐらいにかがやく銀色髪が異国を感じさせた。


 「君も、外人さん?」


 黒衣では無い薄着の亡霊さん、日嗣尊ひつぎ みことは小さい声で生粋の日本人だと答えた。


 そして僕を指差し、こう宣言する。


 「お主、わらわが占ってしんぜよう」


 だが相変わらず目は合わせてくれない。

 僕は以前感じた予感通り、また少し、変な人と関わりを持つ事になってしまった。


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