石竹君の夏休み
青の少年は黄金の少女を見送り、古き事件の足跡を追う。緑青君、ダメだよ!その事件を調べちゃダメ!
夏休みに入り、ほとんど人の気配が無い校舎に僕は居る。
登校時は杉村蜂蜜と紫陽花公園で待ち合わせをしてから一緒に登校してきた。杉村と僕の制服もすっかりと夏服に衣替えしている。
僕と合流する前の杉村は解離性多重人格障害の影響で生まれた”働き蜂”さんが表層に現れていたが、僕を見つけるとやんわりと微笑み、宜しく頼むと一言添えた後、主人格である”女王蜂”の杉村蜂蜜にバトンタッチする。
僕はそれに軽く頷く。
「おはよう」
「うん、おはよう」
僕は二重の意味を込めて挨拶をする。
*
校舎の下駄箱置場に着くと僕等はそこで一旦別れる。
あくまでも僕は、夏季補習がある杉村蜂蜜の付き添い人なのである。
杉村蜂蜜が症状を悪化させ、暴走した際の歯止め役として僕は居る。
この役目は僕が自らが名乗り出た。
先日の職員総会議にてあそこまで出しゃばってしまった以上、責任は最後まで取るつもりだ。
それに、この時間を利用して、僕も調べたい事があったからだ。
ちなみに宿題も持参してきている。
カウンセリング室の合鍵もランカスター先生から預かっている。
そのランカスター先生は、少し調べ事があると英国に一時帰国をしているのでカウンセリング室は実質、僕等心理部員が好き勝手に使える場所と化している。
話を戻すと、僕の調べたい事とは我がクラス”2年A組を襲撃した犯人”である。
場合によってはうちの生徒で、杉村の過去を知る人間である可能性が高かったからだ。
杉村の関わった事件、それは7年前に発生した「八ッ森市連続少女殺害事件」である。
そうランカスター先生からは聞いている。
その詳しい情報を調べる為に、まず僕は夏休み中解放されている図書室に足を運ぶ。
そこにはネットに繋がるPCと、過去の10年間の新聞が保管されているからだ。
と、その前に、持参してきている宿題やお昼に食べる菓子パンが邪魔なので部室に僕は寄る事にした。
生徒がほとんど居ない校舎はセミの鳴き声だけが鳴り響き、どこか寂しい感じがした。