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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
働き蜂と女王蜂
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職員緊急招集

集められた民女王への不満をもらす。それは暴力と成績の代償。

 職員棟最上階に位置する特別会議室。

 約百人を軽く収容する事が出来る大きなホールの真ん中に設置されたパイプ椅子に僕は座っている。


 この僕を囲う様に、ホールには長机が並べられ、そこに全教員が席についている。


 各教科を担当する教師と運営的な権限を持つ特別顧問、教頭、校長までもが僕の正面に座っている。

 朝10時に召集させられた教員からは迷惑そうな視線が僕を突き刺す。


 1学期の期末テストが終了し、一息着いた矢先の出来事である。


 隣に座る偽職員であるランカスター先生の方を見る。


 この様な緊迫した状況であるにも関わらず、ランカスター先生は堂々として胸を張っている。


 「石竹君、私の胸ばかり見てるでしょ?」


 僕は慌ててそれを否定する。見てたけど、そういう風には見て無い。


 「安心して、いつでも触らせてあげるわ」


 とウィンクする。


 「ちげーよ!!」


 と大きな声で突っ込みを入れる僕に、教員全員が何事かと注目する。

 ランカスター先生が笑顔で「何でもありません」と他の教員に合図を送る。


 ランカスター先生がいたずらっぽく笑う。

 どうやら僕の緊張をほぐすのが目的だったらしい。


 教頭が咳払いをして、会議の始まりを告げる。


 「今回、皆さまにご出席頂いたのは他でもありません。この春より転校してきた杉村蜂蜜さんの件です」


 やや会場がざわつく。

 僕のあまり知らない教員の1人が立ち上がり、進言する。

 

 「それは結構ですが、肝心の彼女では無く、なぜ石竹緑青君がそこに座っているのですか?ランカスター氏の横に座る必要があるのは彼女の方では?」


 ごもっともですといったように咳払いして、落ちついた表情でそれに回答する教頭。

 さすが次期校長とだけ言われているだけの落ちつきである。  


 「彼女は今、会議室横の休憩室で待機して貰っています。必要なら、お呼びしますが?」


 という言葉に、発言した教員の腰が引いた。

 前田先生の件は全教員にトラウマを招いているようだ。


 多分、彼女が暴走したら、この場に居る全員を瞬く間に病院送りに出来るだろう。


 「えぇ、本題に入ります。その問題の彼女の特別処置についてです」


 会場がざわつき、互いに言葉を交わしている。

 そのほとんどがついに退学処分かどうかというものだった。


 「彼女の暴力行為について、今回追求するつもりはありません。彼女の補習を認めて貰う為の会議です」


 まだ若い教員の1人が発言する。


 「補習なら、夏休みの期間に他の生徒に対しても設けられています。今更、そんな事を議題にあげても意味が無いのではないのですか?」


 「はい、しかし、彼女の内申点に関して、移動教室のもが加えられていません。具体的な教科をあげると、体育科、音楽科、美術科です」


 その言葉を受けて、頷く二年のその3教科担当の教員。


 「ならば、そのお三方と話をつければいい話では無いのですか?わざわざ我々をこの会議室に召集する意味が解りかねます」


 横で目を瞑りながら頷いていた校長が立ち上がる。

 寝てるのかと思っていて僕は少し驚いた。

 

 「彼女が教室を離れなくなった原因を知っていますか?笹本先生?」


 笹本と呼ばれた教員が、首を傾げる。校長がそれに構わず、全教員に視線を注ぎ答える。


 「4月20日、皆さんの記憶に新しいと思いますが、2年A組が何者かに襲撃され、全ての窓ガラスが割られ、黒板には謎のメッセージが残されていました」


 ざわつく教員。


 構内でもそれなりの影響力を持つ3年の学年担当が発言する。


 「その件に関しては、警察が動いているはずです。犯人はまだ見つかっていないようですが、時間の問題でしょう」  



 「その犯人が生徒の1人だったとしてもですか?」


 その校長の言葉にその場の全員がざわついた。


 「切欠は、ランカスター心理士の提言です。彼女の話では杉村蜂蜜さんが教室を移動しないのは、襲撃した犯人から教室を守る為なのだそうです。その事は、私も直接彼女から聞き及んでいます」  

 

 驚いた表情をする各教科教員。

 前田の代りに配属された体育科の男性教員が進言する。


 「だからと言って、授業に参加していなかった彼女に授業点を与える事は出来ません」


 校長が横に首を横に振る。


 「私はただ、彼女にチャンスを与えてほしいと。その許可を取る為にこの場を設けました」


 顔を見合わせる教員達。体育の教科担当の先生が進言する。


 「補習は認めます。しかし、それは補習で賄える範囲でです。今後、彼女が授業に出席しない限り、私はそれを認められません」


 それもそうだと頷く教員達。


 美術を担当する女性教員が、彼女の必要な提出物については一定基準を回収している為、補習さえ受ければ問題無いそうだ。授業点は差し引かなければいけないが、留年するほどではない。


 音楽の担当教員は「筆記テストの結果は平均点以上でしたので、あとは歌声を拝見しないとどうとも言えません」と。


 ランカスター先生が、不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。


 「2学期以降の授業に関しては、私から提案があります」    


 立ち上がっていた3教科の教員がランカスター先生に視線を移す。


 「彼女は、教室を犯人から守っていると言っていました。つまりは、教室を留守にしなければいいんです」


 戸惑う教員の中から、手を挙げて僕等の担任が立ち上がる。


 「雑務なら教室でも出来ます。私が杉村の代りにあの教室を守ります。それならあいつも安心して授業に出られるはずですから」


 所々で笑い声があがる。


 それもそうだ、客観的に見れば教室を守ろうとしているなどという理由は一般的に通じない。ましてや精神的疾患を抱える彼女の発現なら尚更だ。

 それを信じて、協力をしようとするランカスター先生と荒川先生が笑われても仕方ない。


 3年の学年責任者が口の端を歪めながら、校長に進言する。


 「これからずっと、彼女がここを卒業するまで、荒川教員がそれをするって事ですよ?1人の問題児のために。それなら強制的に授業に出させるか、何らかの処分を行なうべきです」


 多くの教員からそうだという声が上がる。


 校長先生がこちらを見る。

 あ、僕の出番ですか。


 僕は一度、深呼吸をしてパイプ椅子から立ち上がる。大勢の大人を前に自然と膝が震え、額と手には汗が滲んでいる。

 そんな僕を勇気付ける為に、ランカスター先生が背中に手を置いてくれる。


 「本当の問題児は誰ですか?」


 呆れた様な表情で「決まりきっている、杉村さんの……」


 僕はもう一度、同じ言葉を繰り返す。


「本当の問題点は?」


 「君は、大人をなめているの……」


 その教員の言葉を打ち消す様に、担任の荒川先生が声を上げる。


 「気付けよ、うすのろ。本当に悪いのは誰だ?考えろ!」


 たじろく教員、他の教員も困惑気味だ。


 そして考えに行きついたのか、その答えを口から出す。


 「……教室内を荒らした犯人」


 頷く荒川先生。僕は引き継ぐ様に話を続けた。


 「そうです」


 「しかし、四六時中見張っている必要は無いだろ?警察も動いている訳だし」


 咳払いをする僕。 


 「確固たる証拠が無いので、警察には話していませんが、今回の襲撃事件は我が校の生徒である可能性が高いのです。それも杉村さんを狙っての犯行です」


 困惑する教員達。手口から外部の犯行だと決めつけていたのだろう。 


 「なぜ、犯人が生徒で、杉村を狙っていたと解るんだ?ただの悪戯では無かったのか?」


 僕は許可を取るようにランカスター先生の方を見ると頷きが返ってくる。

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