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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
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淵に僕と僕

「今更、何の用事だ?石竹緑青っ!」


 西陽が途絶え、辺りの森は熱を奪われた様に暗く淀み、全ての境界を曖昧にしていく。その曖昧さは元を違えた二つの人格、浅緋の記憶を持つ七年前の僕と、待たない七年後の僕が暗闇の中で向き合っている。


 ……返して欲しいんだ……君のその記憶を。


 額の傷から血を流し、左目を紅く染めた嘗ての僕が近付いてくる。


「随分手前勝手な奴だな……僕を都合で捨てて切り離したお前が!」


 それを決めたのは僕であり、君だ。


「誰が、渡すかっ!」


 脚を払われ、地面に顔面から引き倒された僕はその痛みの錯覚で目眩を起こす。こいつ、小さいのに強いな。僕と違って。その拳が背中に振り降ろされて僕は血を吐きながら咳き込む。森に落ちていた枝を肺に突き立てられたらしい。


 し、死ぬ。


「お前に何が分かる!」


 肺の裏に二本、三本と枝が生やされる度に口以外からも血を吐き出して痛みと共に血溜まりが地面に拡がっていく。この痛みは七年前の僕の痛みであり、苦しみだ。それを、拒否する事は自分を否定する事になる。


「僕は助けられなかった!助けられたかも知れないのに!」


 そうだな……もし、僕がもう少し時間を稼いでいたら、北白直哉の弟である暗殺者狩人を手早く仕留め、笛吹き男が駆け付ける前に浅緋と逃げていたら?すぐ近くまで来ていたハニーと誠一おじさんと合流して倒せていたかも知れない。


「なんで!なんでお前は躊躇した!」


 そう……僕は早い段階で殺そうと思えば殺せた筈だ。北白直哉の弟を。僕と君は生かす価値の無い人間を殺す事に躊躇した。


「そうだ!お前が優し過ぎたからだ!犬は殺せて、人は殺せないのか?それとも、大事な相棒を殺されて怒るあの男の気持ちを哀れんだのか?」


 それはもう僕には分からない。


「お前が躊躇した結果、どうなった?言えよ!言ってみろよ!」


 笛吹き男に誘拐された。僕と浅緋は。


「違うだろ?殺したんだよ!お前が!」


 背中に刺さった枝目掛けて石が叩きつけられ、僕の身体の奥深くに鋭い先端が沈む。その痛みに息すら出来なくなる。


 そうだ。


 僕が殺した。そして、判明している限り、廃部になった軍事研究部宍戸友華先輩がぼくが生かした暗殺者狩人の手にかかり陵辱の末に拷問され、苦痛と恐怖の果てに殺された。それが他の部員の死にも繋がる。


「お前は見殺しにしたんだ。もし、若草青磁が間接的に関係の無い軍事研究部の連中を匿い、保護して居なかったら更に被害は増えていた。違うか?二川亮が他の部員を見逃したのは、もう一人の少年が残りの部員を始末していると勘違いしていたからだ。一歩間違えていれば、更に死者は増え、その遺族は悲しみ、憎しみは拡がっていた」


 七年前の僕は、僕の中の全ての情報を拾い上げる事が出来る様だ。僕に彼の記憶を覗けたのは……深緋の切っ掛けが無ければ戻らないままだった。いや、覗けないままだった。


「お前は、クズを見逃して、大事な友達を殺した」


 僕は間接的に人を殺している。

 浅緋も、そして僕にかかわった人達も。


「いや、それだけじゃない……お前が見逃した所為で、狩人にハニーは背中から撃たれた。背中に収納していたトンファーが無く、あと少し着弾点がズレていたら死んでいたんだぞ?あの時、誠一おじさんや深緋、青磁がお前の後を追ってなければ、ハニーは間に合わず、お前と日嗣尊は殺され、下手をすれば他の三人も死んでいた。誠一おじさんがやられる事は無いと思うけど。お前があの白髪女と森に入ったが為に友達が死ぬ可能性だってあったんだ。お前はまた、お前の弱さで人を殺すとこだったんだぞ?しかも一番大切な人達をだ」


 僕はただ……。


「あの白髪女に前に進んで欲しかっただけって言うんだろ?随分ご立派だな?お前自身、進む進まない以前に覚えてないくせに」


 君が抱えて離さなかったんだろ?


「お前が捨てたんだろ?憎しみも愛情も、浅緋の事も引っくるめて無かった事にした」


 そう……だね。


「愛が分からない?それがどうした?ちょっと綺麗な歳上のお姉さんに誘われてうつつを抜かしておいて、お前は、あの教室に残されたメッセージ以降、お前を生かす為に只管動いていたハニーの苦しみにすら気付かずに!」


 新たな枝が僕の背骨を砕いて心臓の裏側に突き立てられる。


「お前なんて!あの時、死んでいれば良かったんだ!そうすれば誰も死なず、誰にも迷惑もかけず、ただの不幸な星の下に生まれた子供として幕を閉じる筈だった。なんでお前は!あの時、父親に殺されなかったんだ?!お前はあの時、死ぬ筈だった!」


 心臓に突き刺さった枝に石が打ち付けられ、意識が飛びそうになるのを僕は必死に堪える。これは僕の痛みであり、君の心の痛み。


「まだあるぞ?お前に向けられた刺客……それを影から退ける為にハニーは何人もの人間を殺し、その手を汚させた……危うい橋をお前はハニーに渡らせた。もうお前、此処で死ねよ。このまま浅緋の姉である深緋に刺されて死ね……これ以上、お前が生きてても人が死ぬだけだ……」


 心臓に突き立てられた枝を捻られ、穴の空いた心臓から血が止めどなく溢れ、地を紅く染めていく。


「日嗣尊は自業自得だが、お前が隔離病棟から救った天野樹理はどうだ?外に出て何日も経たずにあいつが殺した被害者遺族に殺されかけた。死んでいてもおかしくない傷を負わせ、一生消えない手術の痕を天野樹理の身体に刻み込んだ」


 僕はその時、それが正しいと思っていた。


「病院から連れ出したのはお前のエゴだろ?無意識に罪の意識が働いて自分の満足の為に人を死なせかけた。それは偽善者だ。お前が歩んだこの七年間、平穏に暮らせる筈だったお前の日常を自らぶち壊したのはお前だ!八ツ森の人間、全ての好意を無駄にして!お前はそれで満足か?」


 ……やっぱり、君は優しいね。


「何を言ってる?」


 君は、僕は、この七年間、この悪夢の様な一日をずっと繰り返してきた。僕が紛いなりにも平穏な日常生活を送る傍ら、君はずっとこの僕の中に眠る狂気を、罪を一人で抱え込んで耐えてくれていた。


 それが、浅緋との約束だったから。


「僕はもう、この生かされた恩をどう返していいか分からない……だったら、約束を守ってやる事しか出来ないじゃないか……分かるか?生かされた僕の辛さが。死ぬ事も出来ない辛さを!」


 なら、生きればいいじゃないか。


「そんな資格、僕が幸せになる資格なんか無いんだよ……」


 母が父に殺された日、僕も死ぬ筈だった。でもその運命を変えてくれたのはあの不器用で儚げに笑う母だった。


 僕が第四生贄ゲームの被験者に選ばれ無ければ佐藤深緋が死んでいた。ハニーが駆けつけたからこそ、北白直哉を誘い出し、誠一おじさんが奴を捕まえてくれた。


 それに僕は確信してたろ?ハニーが北白直哉なんかに負けないって。あの男に負わせた怪我は消して浅く無かった。その状態で僕は幼馴染が負けるはず無いって。


 それに僕は間接的に、狩人に怪我を負わせ、子供の売買人、笛吹き男を結果的にあの森から追い払った。


 それが無ければ北白直哉は、生贄ゲームを続けていたかも知れない。儀式に必要なのは第五ゲームまで?共犯者の少年達が儀式のルールを変えていればもっと続いたかも知れない。実際、北白直哉が施設を出た後、第五、第六ゲームと事件は継続した。


 僕とハニーが巻き込まれたからこそ、その運命を変えられたんじゃないのか?日嗣姉さんも人見知りで、人前に出るのが苦手な人だけど、何かを変えたくて抗った。それは自らの命を賭して生き残させた日嗣命さんの抗いがそこにあったからだ。


 だからこそ、彼女は立ち上がれた。


 天野樹理さんはあのままじゃずっと、あの閉ざされた世界で一生を終えていた可能性もあった。罪の意識に苛まれて自死を選んでいたかも知れない。


 死んだままの心で生きて、それが本当に幸せと呼べたのか?


 鉄の籠の中から出て、荒川静夢先生や家族の人と再会できた事は何とも思わないのか?被害者に囲まれて刺される為に牢獄から飛び出す事を選んだのは彼女自身だった。


 軍事研究部員達の死因はどこにある?


 切っ掛けを作ったのは僕とハニーの再会かも知れないけど、学校の教室を荒らしてめちゃくちゃにする犯罪を目先のお金欲しさに行なった。秘匿を対価に得た金銭は、その秘匿をバラそうとしたから口封じの為に殺されたんじゃ無いのか?依頼した二川亮によって。


 新田透君は杉村蜂蜜に最初に接近された。


 脅された彼はあっさりと秘匿した秘密を話した。


 それが切っ掛けとなり、彼は殺され、そこから軍事研究部員の二年A組襲撃事件に関わった人間から殺されていった。


 二人目の犠牲者、宍戸友華先輩をプロの殺し屋、狩人に依頼して。


 それともう一人の少年、白き救世主が黒板に刻んだメッセージにより、僕達の幼馴染の心は壊れ、生贄ゲームは再開されたんじゃないのか?


「そんなの……都合のいい解釈に過ぎない。僕は死ぬべきだった。あの日、母さんと一緒に……」


 死ななかった事の後悔、何より母を理解して、止められなかった事、愛されていた事に気付かなかった自分への怒りだろ?


 六歳の君に何が出来た?


「僕がもっと……強く母さんを引き止めていれば……母は父に殺されなかった。父さんとももっと話したかった……刑期が終わり出所して来たら、お礼を言いたかったんだ……僕の七年間を有難うって……なんで自殺なんか……死んだら最後、何も話せない!僕の時計はあの六歳の出来事に囚われ続けている。答えの出ない事を分かっていながら、両親の気持ちを推測する事しか出来ない……もっと別な道があった筈だ!」


 全ては過去の出来事だ。


 今至る過去が既に道を造り上げている。

 それを変える事は出来ない。


 僕等が変えられるのは、今この瞬間だけで、その数多の幾多もの人達の世界の選択の果てに未来が決まるわじゃないのか?


「だからって僕は過去を無かった事になんて出来ない……」


 なら、無かった事にしなければ良いじゃないか。取り戻そう、失った過去を。そうする為に僕は最後の生贄ゲームを始めたんだから。


「お前……何を企んで……」


 やられたらやり返す。借りた恩は返さないとね?その為にさ、僕は僕を否定せず、受け止める必要があるんだ。そう嫌いにならずにさ……。


「石竹緑青……お前、まさか……」


 それが僕の隠しナイフだよ。君は隠したナイフは使わないのかい?


「使うし、僕は躊躇なく使うべき所で使用した……出し惜しみはしてない。ナイフが折れればその時に考えればいい」


 そうだ。それが僕達だ。


 楽観主義者。それが僕の本質だったはずだ。それに浅緋の死を僕一人が抱え込む必要は無いんだよ。浅緋ちゃんはそうなる危険性が分かっていながら、第零ゲームの少年と北白直哉に近付いた。


 そして、命を賭して姉の命を脅威から守ったんだ。


 聡明な彼女の勇気ある決断でさえ、君は否定するのかい?悪意ある犯罪者の前に被害者はただただ無力な存在だった訳じゃないだろ?


 生贄ゲームの最初の被害者、天野樹理の行動は恐らく北白直哉やその共犯の少年達の想定を超えたものだったはずだ。目標以上に世界に憎しみはばら撒かれた。


 第二ゲームで被害に遭った女の子達はお互いに傷付き殺し合ったけど、矢口智子さんの最期の一撃で怪我を負った北白直哉は結果的に犯行周期を遅らせる事になった。


 そして事件解決へと大きく近付いた第三ゲーム、双子の姉妹。

 命を賭して姉は妹を生かし、妹は姉に報いる為に立ち上がった。


 日嗣尊は事件の被害者でありながら、警察やマスメディアと共に事件を白昼の下へと晒し、解決一歩手前まで導いた。


 そして第四ゲーム……標的は佐藤姉妹だった。

 だけどその妹である佐藤浅緋は自分が殺される事を分かっていながら僕を誘拐せざるを得ない状況を作り出し、ゲーム瓦解の決定打を間接的に画策した。彼女は、きっと知っていた。


 北白直哉の生贄ゲーム事件が少年の手引きによって行われている事を。知ってしまったからこそ、彼女を消さざるを得なくなった共犯者の少年達は彼女を標的に選んだ。


 もし、佐藤姉妹が誘拐されていたら?


「分からない……深緋が浅緋を殺す事はあり得ない。辿るとしたら、第三ゲームと同様の結末。姉が死に、妹は生き延びる」


 生き延びた浅緋はどうなった?


「自責の念と罪悪感から、壊れ、まともな生活を送れなくなっていたかも知れない。深緋は……君が浅緋の記憶を失った所為で、その最期の言葉を求めて只管事件の真相を追い続けた……もし、あの時、僕が浅緋と今日の記憶を抱え込まなければ……」


 僕は真相を、妹の言葉を話していたと思う。


「……生きる目的の無い、復讐すら許されない呪いの果てに、壊れていたかも知れない……。僕も同じだ。自身を分かたなければとっくに壊れていた」


 僕とハニーは生贄ゲーム事件に巻き込まれた。


 それは特異点。


 あの時、僕が父に殺されていたらハニーは本国に帰っていたかも知れない。第四ゲームの行われたあの日、その場に居ない筈の人間だ。僕が居ないから。


「どうすれば良かった?」


 少なくとも、僕は死ぬべき存在では無いと言う事。


「よくその答えに辿り着けたな」


 少なくとも僕の命は僕だけのものでは無いって……母さんの命懸けの抵抗が僕を生かし、数奇な運命を辿り、あの事件へと結び付いた。それは不幸な出来事かも知れない。けど、不幸な事ばかりじゃ無かっただろ?


 小雨降る紫陽花公園で、一人ぼっちで空を見上げて居たあの頃とは違う。黄金の輝きを持つ彼女と出会い、佐藤姉妹と出会い、そして同じ境遇の事件被害者達とも出会えた。


 意味も無く、父の母への苛立ちをぶつけられた暴力の日々。

 雨の日に何処かへ姿を消す母と孤独な夕暮れ。


 殺人者の息子となって虐められたあの虚しい日々はもうどこにも無いんだ。一人じゃ無い。僕は全てを抱え込める程強くは無いし、それを一人で抱え込もうとするのは君の身勝手なエゴに過ぎないよ。


 僕は既に体験を通じて痛感しているだろ?


 人間は君が思うほど弱く無い。


 少しは信じようよ、他人を。


 そして……許してあげようよ、こんな不甲斐ない自分自身をさ。


 自分を救えない奴に誰も救う事なんて出来ない。自分を蔑ろにする奴が他人を救う事で満足してもそれはただの代替に過ぎない。


 第六ゲームの黒猫少女を救えないと思っているみたいだけど、もう君には充分、その力があるじゃないか。君が間接的に誰かを傷つけるのと同じぐらい、誰かを救って来ただろ?


「ただのお節介だ……ろ」


 あはは、そうとも言うね。それにさ、ここに来たのはもう一つの目的もあるんだ……。


「目的?」


 君が浅緋の記憶と一緒に封じたそれ……憎しみと共に抱え込んだそれがどうしても必要なんだ。


「何を言ってる??」


 えっと、さ、それを持って此処から帰らないと僕は多分、あの黄金の幼馴染に殺されちゃうからね。君も久し振りに会いたいだろ?


「……なぁ、お前は……何故、心臓を杭で打ち抜かれても死なないんだ?」


 起き上がり、身体を見下ろすと胸からは幾多もの枝が体を貫通して飛び出している。完全にホラーで、その一本は心臓を串刺しだ。いや、現実だと確実に死んでるけど、此処は僕の心の中だ。ダメージがそのまま心的外傷となって僕の心に突き刺さる。


「お前は、なんで平気なんだ?」


 言ったろ?僕は生かされた存在だ。僕の心は死なない、死ねないんだ。多くの人達に生かされ、ここまで来たからね。それを今度は僕が引き継ぐ番でもある。


「……もし僕に許されない罪があるんなら……」


 幼馴染の女の子の気持ちを返せてない。それが何よりの罪だよ。極刑に値する。


「……」


 さぁ、本当の意味で還ろうか。……僕と君の帰るべき場所、あの甘い蜂蜜の匂いの下に。きっと彼女も待ちくたびれて欠伸してるよ。捨てられるかも。


「愛された経験の乏しい僕達に……彼女を愛せる?しかも三人分だ」


 そこは半々、お互いに1.5倍愛せばオールクリアーじゃないかな?


「あと、一つ……アオミドロっていう僕の名前、君の名乗った隠者を貰っていいかな?なんかカッコいいんだ」


 ……それは多分、無理じゃないかな。彼女にとっては今も昔も僕は接合藻類だ。


「ハニー次第って事ね」


 七年前の僕が、七年後の僕の身体に突き立てた杭を引き抜いていくと、小さなその手を僕に伸ばした。


「僕等はどうなる?」


 失った記憶と感情を僕は取り戻す。


「切り離された僕は死ぬの?」


 いや、最初から僕等はずっと一緒だよ。君も含めて僕なんだ。


「この悪夢の様な記憶をお前はこの先、ずっと抱えていく。正気を失い、狂気に飲まれ、壊れてしまうかも知れない」


 君はやっぱり優しいね。僕を助ける為に、君はわざと僕から解離した。

 大丈夫さ、元々僕は壊れているからね。


「本当に僕は……ひどい楽観主義者だな」


 不器用な僕が見つけた唯一にして最強の渡世術だ。七年前の僕が伸ばした小さな手を掴み、握手を交わすと僕等は頷き合った。


「……もし、上手く混じれ無かったら、仲良く多重人格障害のカップルなんて笑えない」


 その時はその時だよ。

 それに僕等は人格障害じゃ無いよ、正確には。


 二重思考が生んだ催眠にも似た強い、強い自己暗示。

 それをただ、解けばいいだけさ……きっと、それはハニーも同じ。


「……あの三人が融合したら……どうなるの?」


 多分きっと、昔のハニーに戻るだけさ。ちょっと勝気でお転婆な、僕に甘い、可愛い女の子に。


「絶対、そうはならないと思うよ、断言できる。僕はお前の一部として存在していた。けど、ハニーは……全く性質の違う三人の人格が同時に存在して、分化が進行してしまっている。それを全く元通りに出来るとは到底思えない。無理に融合しようとすればきっとその負荷に耐えられない」


 暗い森に陽が登り、闇に覆われていた森がその輪郭を朧げに浮かび上がらせていく。身体に刺さった僕の枝と共に、七年前の僕は最初から其処に居なかった様に消えて居た。


 最後まで心配性だった僕に僕は微笑みかけると僕は麓を目指して太陽と反対方向に歩き出した。別の太陽が輝くその場所を目指して。


 大丈夫さ、僕が狂ってもきっとハニーが寄り添い、助けてくれる。

 もし、ハニーの心が壊れたとしても、僕が必ず救い出すさ。


 違和感を感じて見下ろした先、僕の胸の辺りに刺さったままの枝が残っていた。


 あのさ、地味に痛いんだけど……これも抜いてくれない?


 あぁ、それ?


 それは僕は関係無いよ。

 だってそれ、物理的に刺さってるから僕には抜けない。


 あっ、そう言えば……僕は深緋に刺されたんだった。


 ちょっとヤバイな。


「かなりだろ?」


 と僕を見守る様に背後から声が聞こえてくる。

 仕方ないさ、僕はどうしようもない楽観的主義者なのだから。


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