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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
働き蜂と女王蜂
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ぼくのきおく

深い闇の記憶それは忘れ得ぬ出来事。喪失。

海底に沈んだ君の意識に反して過去の記憶が海面へと浮上していく。それは、最後に家族3人が集まった記憶。私と出会う前、もう一つの君の悲しい記憶。


 その日も雨が降っていたので、ぼくは青い傘を指していつもの公園に出掛けようとした。けど、玄関を出てすぐに気付いた。


 出掛けたはずのママが玄関を出た所で立ち尽くしている。


 ぼくは相手にされないと解っているけど、少し心配になって後ろから声をかける。


 「どうしたの、ママ?」


 少し青白い顔でこちらに顔を向けるママ。


 「ごめんね、緑青」


 ぼくはその意図が解らなくて首を傾げる。

 人の気配がして、ぼくは道路側を覗いた。

 そこには会社に行ったはずのパパが居た。


 「やぁ、緑青。喜べ、今日は家族3人でハンバーグ食べにいくぞ」


 ぼくは嬉しくなって両手を上げた。


 あ、でも、ハニーちゃんとの約束はどうしよ?雨の日は紫陽花公園で遊ぶ約束をしていた。でもまぁ、必ずという訳では無かったのでいいか。ママが、最近見て無い笑顔でぼくの頬に触れた。


 「これからはずっと一緒よ?」


 ママの口の端から、一筋の紅い線が走った。


 雨と一緒に紅い雫が地面に落ちる。


 よく見ると、ママのお腹には包丁が刺さっててそこから紅い染みが広がり、洋服を汚していく。


 綺麗な服が台無しだ。


 頭の中がぐるぐるして真っ白になる。

 これは血だ。


 誰かに刺された!


 「パパ!大変!ママが!!」


 近付いてくるパパ、ママは力無く前かがみになった。

 パパがママに刺さった包丁を抜いてあげようとして、困っていた。


 包丁がママから抜けないのだ。

 パパ頑張って!ママを助けてあげて!


 や、違う、ママがパパから包丁を奪わせまいとしているのだ。


 パパがママの悪口を何回も言った。


 それでも包丁をママは離さなかった。


 より深く自分に刺さる様に押しこんでいるようにも見えた。

 次々にママの口とお腹から血が溢れてくる。


 「ママ?」


 ぼくはママを横から抱きしめる。


 「こんなママを……愛してく……れてありがとう」


 そう呟くと、ママは全く動かなくなった。

 目から光が無くなったようになって。

 黒く綺麗な瞳も淀んでもうもどらなかった。


 結局パパがいくら頑張っても包丁は取れなかった。


 ママの血が地面に広がり、パパがそれで足を滑らせる。


 そして、そのままどこかに走り去ってしまった。


 「ねぇ・・・・・・ハンバーグは?」


 愛ってなんだろ。


 ママは確かに言った、愛してくれてありがとうって。


 でも、ぼくにはそれがどんなものか解らない。


 パパもママを愛していたと思う。だから刺したの?殺したの?

 なんで“ぼく”は刺され無かったの?


 パパは僕をどうするつもりだったの?


 ぼくはママを刺さなかったから愛してないの?


 もう全部、わかんないや。


 愛って何かな?


 全部の感情が僕の中で渦を巻いてひとつになって無くなった気がした。僕はママをそっと家の中に寝かせてあげて、家を出る。


 彼女なら、無くなったものを見つけてくれそうな気がしたから。



 海底に沈んだ僕の意識が浮上すると供に、水面を漂っていた記憶が溶けて消えて行く。その記憶は、母が父に刺された時の記憶だ。

 憎しみと愛情が入り混じったその情景は僕に何を訴えようとしているのだろう。誰かが僕の事を呼んでいる。


 やめてくれ、ぼくには何も無いのだから。

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