双星の視る夢
あれから七年経ったのか……それでも僕は、あの山小屋へ花すら手向ける事が出来ない。
君が死んだ、僕が殺したあの場所へ。
僕は向き合わないといけない。過去に犯した罪を。人を殺した事実を。ありのままに。生きる事が罪になるのだとしたら僕はその罪を贖う為に死ぬ必要がある。けど、その前に、遣り残した事があるんだ。それを遂げる迄の間、暫く待っててくれないかな?
☆
身体が痺れる感覚に眼を開けると目の前は白い霞に覆われた森の中だった。私は今、何処に居るのだろうか。身体を動かそうとするけど、力が入らずに座った姿勢のまま、四肢を投げ出している。何故、倒れずに座った姿勢を保てているのかを考える。
そうだ。私は、杉村さんにお腹を殴られて気を失った。
私は日嗣尊。北白事件、第三生贄ゲームの被害者の一人だ。
少し無理矢理ではあったものの、最後の生贄ゲームから自然と退場する事が出来て良かったと思……いたい。私は探偵では無い。真実を暴くという事は人の心を土足で踏み荒す行為、墓暴きに近い。私の過去の決着は姉の死んだ山小屋に花を添え、二川亮を刺し殺しかけた事でケリが着いた。あとはあの子達の問題……これ以上の私の邪推、介入はあの子達の本当に望む終わり方にはならない可能性があった。それに私は……文化祭でもう一人の犯人の誘い出しに失敗している。それは私の犯人像の見立てが甘かったからかも知れない。
「これで……これできっと良かったんだよね……お姉ちゃん……」
でも私……気を失う寸前、嘔吐しそうな感覚に襲われたから少し心配だ。全国放送で吐くなんて……大事故。それでなくとも私は指名手配犯。二川亮の罪が証明されないと私は前科者になる。きっと、他の生贄の子達みたいに安らかな顔で眠りについているに違いない。そう思う事にする。でもちょっと怒らせ過ぎたかも知れない。ただでさえ、私は過ちを犯しているというのに、これ以上は本当に杉村さんに頭が上がらない。でもなんだろ……凄い、食道がヒリヒリと灼けつく感覚に襲われ、気持ち悪い。吐きそう……いや、吐いてるかも知れない。
「もういいのね……尊?」
頭の中に響く命お姉ちゃんの声に私は微笑みながら頷いた。もう私のやれる事はやり尽くした。あとの事はあの子達に任せようと思う。
「本当に本当?」
この幻聴、ちょっと煩い。
「煩いとは何よ!」
ゴツリと額に衝撃を受け、見上げた先に私に良く似た女性が拳を可愛く突き出して立っていた。
「ひぇ!ドッペルゲンガー!死ぬ!私死ぬの!?杉村さんに殴られてきっと私死」
「落ち着きなさい尊。少し姿は変わったけど、貴女のお姉さんの命だから」
「お、お姉ちゃん?でも私の知るお姉ちゃんは子供の姿で……」
「これはもしもの姿」
「もしも?」
「あの事件に巻き込まれ無かった場合の成長した私……」
よく観察するとそっくりな私達にも若干の差異はある。身長は殆ど同じだけど、私が昔憧れていた癖の無い真っ直ぐな長い髪に(私はショートカットなのを忘れていた)、仄かに明るい灰色の瞳は三白眼気味な私と違って優しげだ。身体も私よりも細くてやや骨張った華奢な身体が哀愁を漂わせる。
「誰が貧相な体よ!」
お姉ちゃんがナチュラルに私の心を読んできた。迂闊な事は言えない。お姉ちゃんに触れたい。その温もりを感じたくて手を伸ばそうとするけど、全身が痺れて動かない。
「無理しなくていいわよ。貴女は杉村蜂蜜さんにお腹を殴られて気を失った。動けなくて当然よ」
フワリと私の顔をその身体が包み込む。心音は聴こえてこないけど、その温もりはまるでお姉ちゃんが生きている様に思えた。でもこれは脳が起こしている錯覚だ。姉は死んだ。私を助ける為に。過ぎた時間は戻らない。そして私の時間もまた止まっていた。それを進めてくれたのは石竹君であり、みんなのお陰だ。
「良い友達に巡り会えて良かったわね……私の当時の友達はとっくに私の事なんか忘れてるわよね、きっと……」
私はそれに首を振る。
「石竹君が生贄ゲームの全貌を伝えようとしている。その中でクラスの人気者だったお姉ちゃんの事はきっと皆んな思い出してるはず!だからそんな悲しい事を……」
ところで、何故このタイミングで再びお姉ちゃんは現れたのだろう。偶然にしては出来過ぎて居る。もし、お姉ちゃんが現実で起きている事を認識できるのなら……聞かなくちゃいけない事がある。その中の一つ……。
「ねぇ、教えて!私は……吐いたの?吐いてないの?」
「聞きたいのそっちなの!?で、でも、それは教えられないわ……」
私がテレビの前で醜態を晒しているのだとしたら、私はつまり吐瀉物塗れとなっている。私はいっつもどこか残念な感じだ。最後まで。呪われているのかも知れない。
「だ、大丈夫よ……そういうジャンルが好きな殿方もいるし」
「全然嬉しく無いぃ!って、そうなのね!私、ゲロ塗れなのね!」
事実を教えてくれないお姉ちゃんを余所に、制服姿だった私の身体が突然蒼い光に包まれて黒くてヒラヒラしているゴシックドレス姿になる。夢の中だとは言え、私の意思を無視して起こる怪奇現象に違和感を感じる。まぁ、夢の中なので何でもありなのかも知れない。気の所為か、胃のむかつきは無くなったし。
「……何これ?お姉ちゃん、何かした?」
「私にそんな力は無いわ……多分、それは……芽依さんの力……」
「芽依の?確かに彼女は私の占いの師匠だけど……そんな非現実的な事が……それに彼女は山小屋の外に居る。戦いの最中、空間を渡る様な真似、出来る訳無い……。それにあんな人間離れした戦い方……きっと映画製作の何人かが手伝って……って!お姉ちゃん、当時、芽依さんの事知らないでしょ?まぁ、夢なんだから何でもありなのね、きっと」
「……私も彼女の事はよく知らないわ。けど、私達がこうして正気を保って生者である貴女達と夢の中で言葉を話せるのは彼女のおかげ……信じられないとは思うけど。それは教えられない」
いつも姉のする事は正しかった。いつも間違えてばかりの私とは違って。間違って?私はもしかしたら何かをまた間違えているのかも知れない。だからお姉ちゃんが枕元に現われたのかも知れない。よくない予兆として。虫の知らせならぬ、姉の知らせ。
「これはきっと何かの暗示……お姉ちゃんが言うなら私は信じる……なら!教えて?一体誰がもう一人の犯……」
私の唇にそっと人差し指を当て、それ以上の言葉を遮る。
「ごめんね。知らないけど、もし知っていたとしても教えられないのルールだから……」
私は八ツ森の四方の名を冠する者達が所有している古い文献の中の一節を思い出す。
「まさか……言えないのね?お姉ちゃん……」
寂しそうに微笑む姉の姿は森で消えた母親を思い出させた。
「八ツ森を囲む霊樹の森は死者の魂を留め置く為の結界であり、また牢獄なのである……そして、決してその禁忌を犯してはならない。一つ、生者と死者の交わりを禁ずる。一つ、死者の言葉を聞いてはいけない……」
ここで言う交じわりとは肉体的なものでは無く、単に降霊術を禁じる為のものだろうか。そもそも肉体と霊体では干渉する事すら叶わない。でも、もし、それが可能なのだとしたら……この決まりは肉体的な交わりを禁じたもの?ここで言う死者とは死人では無いかも知れない。別世界の住人を指すのだとしたら……生者と死者との間に生まれてしまった子はどうなるの?そして、それが禁忌として刻まれているという事は少なからず前例があったから取られた処置……いや、この一節は私の今の状況には関係無い。相手はお姉ちゃんだし。なら、この二つ目の禁忌も前例があったと考えるのが自然なのかも知れない……死者の言葉を聞いてはいけない。
それは、例え言葉が通じたとしても、その言葉に耳を傾けてはいけない。
もし、今、私の目の前にいるお姉ちゃんが死者とするなら言葉を聞いてはいけない。いやさっき、お姉ちゃんは現実に起きている事実に対して、知っていても言えないと言っていた。つまり……。
「そういう事なのね……この掟の一つの意味するところ……死者の声が現実を変えてしまう結果を招く事を禁じたもの。つまり、死者は生者に干渉し、生者の人生を変える様な事があってはいけない。だから、お姉ちゃんは私に話せないのね……」
なら、もし、話してしまったら……どうなるの?その問いにも答えられないのか、お姉ちゃんが寂しそうに微笑んでいる。
もし、この現象が八ツ森だけで起きていて、それを世間に隠しているのだとしたら?この八ツ森だけに存在する死者と生者の交わりを監視し、管理する組織が必要に……裁く者が居なければ、命の循環は無法地帯となり、混沌とした世界へと移り変わってしまう。生者と死者の交信がもし、自然現象では無く、何者かの介入により実現してしまう理りの外にある事象なのだとしたら、そのカウンター的存在として、人為的な監視が必要に……。他の県に無くて八ツ森にある組織……それは……それは!
「八ツ森にのみ存在する特殊部隊……ネフィリム……杉村さんの義姉さんが所属しているあの組織が、それを監視する為に作られている……秩序を守る天使達……そして人と天使との間に生まれた子Nephilimを表す言葉……だから私達は……生きている者達で物事を解決しなくてはならない……そして、その禁を破れば、私達を守る盾でもあるネフィリムは存在を滅する為の剣にもなり得る……」
しかも、それは……恐らく、死者だけで無く、生者にも悪影響を及ぼす。つまり、その身柄を拘束されるか、最悪の場合……殺される?杉村蜂蜜さんがあの強さをほこるなら、その義姉さんは更に強いという事に?そんなの無理だ。
青冷める私の姿に姉がコクリと頷こうとした瞬間、それを慌てて止める。
「ダメ!答えないで……例え、言葉を発して無くても、その行動が生者の肯定や否定を促した場合、それは生者の現実を変える結果に繋がってしまう。もう嫌よ!目の前でお姉ちゃんが死ぬのを見るのは……考えろ、考えろ私……私は何を見落とした?」
きっと、私やあの生贄ゲームを通して得られた検証結果は強ち間違いでは無いと思う。証言が取れない第四ゲームの内容は兎も角、第三ゲームまでの内容と、それを元に導き出した推論はそう遠く無いはず。
いえ……本当にそうかしら?
文化祭の日、石竹君と二川亮は対峙し、そしてもう一人の少年を誘き出すつもりだった。けど、私は……失敗した……本当に?だからこそ石竹君は自らが北白として、生贄ゲームを始めざるを得なかった。それは恐らくもう一人の少年を炙り出す為だと思っていた。
でも、本当にそれが目的なのかしら?
私はあの場で私の語れる事は語り尽くした。恐らく私にしか導き出せない様な事を……あの場でもし、私が主導権を握ってしまっていたら……それは恐らく彼等の望む結末が迎えられなかったと思ったから。そもそも、高校の文化祭圏内で姿を現さなかった少年が、更に拡大した全国放送の中継で名乗りを上げるだろうか。普通なら証拠を固めて犯人には動向を気付かれない様に犯人確保の準備をするはず。
隠者側は本当にゲームに勝つ事が目的だった?少なくとも、ゲームを継続させる気はあったはず。出ないと、本気で私達贄を昏倒させる意味は無い。口裏を合わせて、気を失ったフリをしていれば良かったはず。それがテレビ。
そこまでして何を……。
いや、もしかしたら、彼等も不確定要素を抱えながらそれに賭けているのかも知れない。
何に……?
半覚醒状態の私の脳の動きは鈍く、上手く働いてくれなくて混乱していく。それを落ち着かせてくれたのは、隣に腰掛けた姉だった。
「尊……落ち着いて……大丈夫、貴女なら出来る。全てを結び付け、答えを出す才能を、力を持ち合わせているはずよ……」
「無理だよ……お姉ちゃん……お姉ちゃんが生きていればもっとスムーズに……」
パシリと音が響く。
私、ぶたれた。
お父さんにもぶたれた事無いのに!
「最後通告よ……次はグーで殴るわ」
「酷い!夢なのに痛……い……お姉ちゃん?右手、少し消え掛かって……」
「私の事はいいの……大事なのは今を生きてる貴女達なのよ?私達は謂わば既に終わった存在……未来ある貴女達とは違う。既に過ぎ去った過去の幻影よ……そこまでの力と権限を私は与えられていない」
与える?誰が?それは恐らく陽守芽依から。力とは?権限とは?そして別の人には与えられている?私を殴って消え掛かった手……それはお姉ちゃんにはその力を与えられていない。なら、もし、与えられていたとしたら、その手は消え無かった。考えろ、考えろ……現実を変えてしまう事象に関してはお姉ちゃん達は変えられない。つまり、そのラインにはギリギリ触れてはいない事になる。
現実的事象と幻想的現象が入り混じり、八ツ森を巻き込んだこの最後の生贄ゲーム。私達はどちらにしろ、自分達の力で答えに辿りつかなくてはならない。
今、現実を捻じ曲げようとしている人物は……誰?それは陽守芽依。
あの映像がもし、本物だった場合、彼は人ならざる禁忌の力を行使して、私達を助けてくれている事になる。故に彼女は特殊部隊ネフィリムとの交戦状態に入っている。いや、待って……正確には……ネフィリムで動いている人間は黒装束の女の子だけだ。杉村さんの義姉さんが指揮する白装束の男達に出ているのは待機指示であり、あの黒い泥人形の様なお化けの処分もその場で保留状態。もし、法を、陽守芽依が犯し、それに加勢しているのであれば泥人形達も処分対象になるのではないだろうか。そして、あの段ボールを被っていたおじさんと、くノ一少女への命令は別?ネフィリムの部隊が出たのは外法の力を使い、陽守芽依が反旗を翻したと思われたから。そしてそれは今保留状態にある。けど、段ボール頭の人は裏切ったとはいえ、くノ一少女は指揮官の命令に従わずに陽守芽依と戦い続けている。
考えろ、受け入れて、起きている事象全てを繋ぎ、照らし合わせろ。
それが私になら出来ると命お姉ちゃんは言った。つまり、私の把握している範囲でも充分答えは導き出せるという事。
「やっぱりお姉ちゃんには敵わないや……ありがとう……」
お姉ちゃんは答えられないなりに、私に伝わるギリギリの範囲でヒントを与えてくれていたんだ。私の考えている事は恐らくお姉ちゃんに筒抜けになっている。けど、何も答えてはダメ。私にこれ以上示せば消されてしまう。下手をすれば私やそれに関わった人間まで処分対象となる。けど、私が、私の力で辿り着いた答えなら、誰も処分は出来ないはず。受け入れろ。全ての事象を。捨てろ偏見を。そして噛み砕いて糧としろ!
「これは私の独り言……だからお姉ちゃんは何も反応しないで?私が思うに陽守芽依は……ギリギリの範囲で法を犯してはいない。それはつまり、結果的に石竹君達を助ける事に繋がるけど、直接的に手は貸していないという事になる。今、彼女は……山小屋へ突入し、生贄ゲームを中断しようとする英国の特殊部隊介入を防いでくれている。その事が助力にならないのだとしたら……答えは1つだ。彼等は……そこに居ない!」
そしてもう1つの違和感。
私と陽守芽依が個人的に撮影した映画。私の推測も交えて作られたけど、私以外の助言も含めて作られている。
そして、文化祭で上映された映像はあくまでifの世界。つまり、理想であり、事実とは異なる。
そう、八ツ森の古の掟、死者の言葉を聞いてはいけない。それは事実と異なるから。
死者は自ら真実を述べる事は出来ない。
けど、もし、それが映画の中の出来事だとしたら?何故、単なるビデオメッセージにせず、陽守芽依は映画の話を持ち掛けてきたのか。しかも、私と木田監督が最初に用意して居た映像を全く使わなかったのは、あれは多少誇張はあるものの、被害者や被害者遺族の証言やインタビューも行なったドキュメンタリー映像だったからだ。(石竹君と杉村さんのイチャラブシーンは含まれないとした方が良さそうね)
結局、その前身の映像作品はお蔵入り。文化祭で流した映像も私と芽依と木田さん親子、そして星の教会メンバーで撮影を行なった。
何か不審な点は、違和感は……無かったかしら。もし、全てが偶然で無いのだとしたら、 何か意図的なものが盛り込まれているはずだ。
思い出せ、撮影風景を……。
何か、何か手掛かりが……そう言えば、あの普通では放送出来ないレベルの生贄ゲーム再現映像は、あまりにも再現性が高過ぎていた。近くの小学校の児童達の協力もあったけど、その中で陽守芽依の関係者と思わしき人間が居た。
幼少時の杉村さんと石竹君の配役に起用された男の子と女の子……そして……そして……本名を名乗らなかった佐藤さんの妹役をこなした女子高生……いや、違う。名乗ら無かったんじゃない、名乗れなかったのね。
偽物である映像の中でしか、彼女は彼女の名前を語れなかった……真実を話してしまえば、彼女、もしくはそれに気付いた人間は消されてしまう?いや、自力で気付いた場合は消されない。それは何も掟を破ってはいないからだ。
あの時点で気付いた人間は恐らく一人も居ない。居れば今頃大騒ぎになっている。
その事に……石竹君は気付いていた?
いや、それは不可能だ。
彼はそもそもあの映像を見ていない。
あのセットが組まれた視聴覚室に、二川亮と佐藤さんと一緒に閉じ込められていたからだ。
そしてあの場に現れたのは若草青磁だった。石竹君が二川亮を殺害するだけの動機が充分成立する。けど、若草君の事は殺さなかった。
もし、彼が共犯者の少年、白き救世主なら、殺すだけの動機はある。
けど、殺さなかったのはそうじゃ無かったから?いや、もしそうだったとしても殺すだけの殺意は湧かなかった。
そもそも、本当に石竹君は二川亮を殺したの?私はあの時、身を潜めていたからその映像を見ていない。撃たれる前にもう既に死んでいたとしたら?
誰が、殺した?
何を隠そうとしている?本来なら証拠となる録画映像は石竹君の正当防衛を証明するのに有利に働くはず。それを現場から持ち去るのはやはり不自然だ。
あの中で、殺す程の殺意を抱いている人間は、石竹君の他に……妹を殺された佐藤深緋だ。
彼等は、彼女を庇う為にこんな事を……いや、違う!そんな事で誤魔化せない事は深緋が一番分かっているはず。
生前傷と死後傷は生活反応の有無で見分けはつけられる。例えそれが大きな銃創であったとしても。二川亮は胸と胴体、頭部を撃ち抜かれた。何故、頭部を最初から狙わなかったの?それは傷跡そのものを傷で掻き消す目的だった?
でも、調べれば分かるはず。銃創が死後につけらたものであるという事は。
文化祭の事件後、時を待たずに三日後、最後の生贄ゲームは始められた。本来、生贄ゲームは私達抜きでも始めようと思えば始められた。その三日間が彼等の待てるギリギリの期間であり、待たなければいけない時間だったのだとしたら、それは警察をその場所に向かわせる為に必要な時間だとした場合……警察は彼の思惑通りに動いた事になる。そして警察が動くキッカケを作ったのは、その時、現場に居た重要参考人……警察に唯一接触した若草青磁だ。
彼が……何かを仕込み、そしてその思惑通りに事が運んでいると仮定した場合、彼も石竹君と裏で繋がっている可能性がある。
……私が逃亡していた二週間が悔やまれる。
何かがあった。その情報を私は知らない。
いや、それを知る必要は無い?お姉ちゃんは今の私で真相に近い答えを導き出せる事を示唆してくれた。
関係無い事は頭から排除しろ。
雑音を消し、必要な旋律だけを拾い上げろ。
真相を最も知る人間は失われていた石竹君の記憶、そして共犯者の少年。若草青磁、君が……そうなの?彼は確かに施設育ちで、詳しい経歴は私も知らな……い。石竹君を始め、北白直哉、若草青磁は親から暴力を受けていた。自らの境遇を嘆き、世界に理不尽な憎悪を撒き散らすだけの動機はある。もし、石竹君が杉村さんと同じ様に多重人格で、そのトリガーが七年前の事件だったとしたら?いや、生贄ゲーム事件はそれよりも前に始まった……石竹君の母親が父親に殺されたのは……いつ?その事件が心に深い影響を与えたのは想像に容易……い。
待って?
生贄ゲーム事件の始まりは、七年前じゃない。最初の犠牲者、天野樹理が山を降り、街で事件を起こした日だ。
「八ツ森小3女児無差別殺傷事件」が起きたのは第一ゲームと同じ日、二〇〇一年十一月八日。十一年前の出来事だ。
石竹君が北白事件に巻き込まれたのは七年前の10歳の時。……そして、石竹君の母親が刺し殺されたのは杉村さんと出会い、佐藤さん姉妹と出会う前。彼が世界を憎むキッカケとして母の死があるのだとしたら、6〜8歳前後。その時期は丁度最初の生贄ゲームが行われた期間とも重なる。それは偶然?それとも……?
いや、でも、違う。
彼は生贄ゲームの被害者だ。
もし彼が共犯者なのだとしたら、佐藤姉妹を巻き込む様な真似はまずしないと思う。けど、確かに、佐藤姉妹は事件に遭うまで一般的に幸せな家庭環境にあった。被験者としての資格は充分有する。それに近くで見ていたからこそ、起こる妬みもあったのかも知れない。もう一人の人格が残忍である場合も……。
ふと脳裏に山小屋で血だらけになりながらも私を必死に助けようとしてくれた記憶が甦る。
「そんな訳無いじゃない……彼は他人の為に血を流せる人間よ?私の為に野犬に全身を噛まれ、樹理が自死を選ぶ寸前で手に怪我を負いながらそれを食い止めた。そして文化祭の時も深緋を二川亮から救う為に木刀で殴られ……」
殴られ?
私はその可能性を考えても見なかった。真相に最も近い人間がもう一人居た事を思い出した。
彼が射殺したとされている二川亮……もし、彼が何かを話していたら?石竹君が最後の生贄ゲームを始めるだけの動機を与えていたのだとしたらどうだろうか。
私は彼の事を生贄ゲーム事件のクイズの中で認識のズレが生じていた事に気付かされた。
もし、彼がただのサイコパスでは無く、血の通った人間であり、そうするだけの動機が存在したのだとしたらどうだろう……。
この最後の生贄ゲームは……あの場に居た四人が仕組んでいたとしたら?
私はまだ二川亮を許せた訳では無い。
お姉ちゃんと私を被験者として選んだ罪は重い。例え、死で清算したのだとしても。
ふと、違和感を覚える。
佐藤さんは解剖学的検知を元にクイズゲームの真相を私達に示した。それは二川亮が殺した軍事研究部の遺体が既に発見されていたからだ。けど、そんなに都合良く遺体が発見されるだろうか。
八ツ森の霊樹の森は広大だ。犯行現場や、死体の隠蔽場所を予め分かっていない限り……?
二川亮はその罪を被らせる為に、施設を出た北白直哉に第五ゲームの開催を促した。全てを終わらせる為に。けど、二川亮は誰が共犯者の少年かを知らなかった。
北白直哉の中でルールは絶対。
少年達の間で交わされた約束自体の効力は……彼等自身にも適応されていた?
そしてそれが最悪の形で伝わってしまっていた場合……生贄ゲームはまだ続いている事になる。
第五ゲームで終わりだと思っていたのは、森の結界を強める為に必要な生贄を捧げる場所が五つだったからだ。つまり、それは単に……北白直哉の都合でしか無い?
なら、彼等の間で定められていたルールに従ったとした場合……考えうるのは……まさか……まさか……第六の生贄ゲームが行われようとしていたか……もしくは……既に別の場所で行われていたと言う事に……なる……。
【 Σter 】
(。・ω・。)凍てつく白夜
@red-west-nienie
[太陽は沈む事を恐れ、月は昇ることを諦めた。暗がりの空が割れ、姿を現したのは彷徨える混沌の神々だった……。]
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「なんだこの展開は……ぐだぐだじゃないか……黄昏の姫蜂と剣閃の戦乙女はルール無視で暴れて……太陽の贄の止める声すら届いていないじゃないか…何をやってるんだ!石竹緑青!気を失ってる場合じゃないぞ!お前はゲームを支配する立場だろ!!!!#生贄ゲーム」 □ 3 ⇄2万 ♡ 4
(。・ω・。)白夜
@red-west-nienie
「本当に」
(。・ω・。)
@red-west-nienie
「何もお前らは……」
(。・ω・。)白き
@red-west-nienie
「分かってはいない」
……ザザッ……
…ザッ!
ƪ(˘⌣˘)ʃ 白き救世主
@red-west-nienie
「さぁ……真のゲームの始まりだ……」




