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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
267/319

人喰い魔女と銀髪の魔女

 <ポゥ=グィズィー(ネフィリム十一使徒):山小屋外>


 私は15歳の殺人鬼であり、特殊部隊ネフィリムの十一使徒の一人、ポゥ=グィズィー。短刀の二刀流使い。草叢でトイレを済ませたところ。


 若いからって舐められない様にキツめのアイシャドウと口紅を塗ってる。それにちょっと流産経験と何人もの子供達を殺め、そして食べてしまった連続殺人鬼。樺太島で暮らしていた北方の人間で、ロシア人と日本人のハーフだ。見た目は黒髪で殆ど日本人だけど、本来の淡い青の瞳と白い肌はどこかロシアを感じさせた。


 最初の殺人は数人の男。


 私達の様な若い年代の女の子を飼ってた誘拐犯。ロシア人がお好みらしく、人身売買のブローカーからロシア人の娘ばかりを買い漁る変態男。私は高値の金髪碧眼の女の子を買ったおまけで誘拐され、奴らに飼われた。12歳の極寒の地で訳も分からないまま豚の様なエサを与えられながら男達に嬲られ続けた。


 誰とも分からない子を孕み、絶望の中で垣間見えた光。


 それすら潰えた時、私の中で何かが変わり、そして生まれた。


 それはサリア隊長に言わせれば……深淵を覗き、深く潜った者だけが触れられる何からしい。この紅い両目と短刀を陽守芽依さんから与えられてからは、その何かがハッキリと見える様になった。


 隣り合うもう一つの世界の住人。死者達の影だ。表の世界で暮らす私達は通常、裏の世界へとアクセス出来る事なんてない。


 けど、極稀に狂気という狂おしい感情が何も持たない筈の世界に住む人々と共有された時、生者は死者に触れる事が出来る。


 それは今の所、八ツ森という霊樹に囲まれた特殊な環境下でしか起きない現象だ。遥か昔、この土地のとある一族が死者と交信する為に行われた儀式が起因している。


 元々、古き神々の血を引く者達は居たらしいのだけど、謂わばそれはその者達が起こした過ちが尾を引いて現在に至るらしい。


 そして、行方不明になっているサリア隊長の父親がその一族であり、ネフィリムの人ならざる部隊員を生み出した。人工天使と呼ばれる彼等は、人の姿と向こう側に干渉する為の力を有する。鎧姿の彼等が本来の姿だ。


 でもサリア隊長は少し違う。


 父親、天ノ宮とゾフィー=レヴィアンとの間に生まれた混血児。人であり天使である。


 まぁ、人によって作られたって意味では私達も人工な訳だけど?そしてその余波を少なくとも彼女の義妹さんも受けているようだった。流石に、サリア隊長みたいに半分不死身では無いだろうけど。


 不死身といえば……私が黒い球状結界の上にその体を磔にしてる陽守芽依さん。サリア隊長のお友達だ。自称、探偵らしいけど、彼女が事件を解決するのは……ずば抜けた洞察力でも推理力でも無い。単純に、死者とお話しして事件を解決に導いてる裏技探偵だからだ。その彼女は今、婦警服姿に戻ったサリア隊長の膝上でお昼寝して涎を垂らしていた。それに慌てるサリア隊長の横に座り込む私。


「サリア隊長……こんなとこでお漏らししちゃダメですよ。するならあっちの茂みで。あ、7時方向はダメですよ?私のトイレ場ですから」


 サリア隊長が芽依さんの首を片手で抱き抱えて持ち上げ、あたふたしながらハンカチで制服のスカートを拭いていく。その横に私がそのまま胡座をかいて座り込む。

「これはヨダレだっ!違うからなっ!」

「サリア隊長の?」

「この居眠り姫のだ!」

「アハッ、本当に芽依さんには弱いですね?」

「そ、そうか?普通だと思うが……」

「違いますよ、口調も私達部下に対するよりも優しいですし、何より、気取らないサリア隊長を見れるのは貴重ですからね」

 その長いブロンドの髪がサラリと揺れて頬にかかる。

「フムッ?まぁ……芽依は組織の人間では無く、私の只の友人だからな」

「親友でしょ?」

「……恩人でもある。数年前は私も荒れていたからな……芽依と出会う前、敵は即殲滅対象……その欠片一つ、残さなかったからな……本当に甘くなったな私も」

「へぇ……随分丸くなったって事ですね。それを言うなら私も随分丸くなりましたけどね」

 サリア隊長が近くに置いてあった婦警帽を空いてる左手で掴んでそれを被り直して呆れた様に溜息を吐く。

「お前の方は丸くなって貰わないとうちで雇えないからな」

 私が処刑されなかった理由は組織にとって有用な人材であるとされたからだ。そうで無ければ連続殺人鬼として死んでいた。

「あは、性格は変えられないですけどね。趣向は我慢出来ますから」

「私はお前を信頼している。他の者がお前をどう見ようとだ」

 私はサリア隊長に拾われた。この世から消えて無くなるはずだった命、もう一度、自分の為、そして誰かに使おうと思った。

「これでも感謝してるわ。仕事は真面目でしょ?」

「あぁ。徹底的だからな。その眼と武器を与えた陽守芽依すら両断する忠誠心、恐れ入ったよ」

「それはそれ、これはこれ、だから」

「その性格が羨ましいよ。私はあれもこれも大切で、もうどれも失いたくないんだ」

「ワガママね」

「そうだな……私は義妹も妹婿も、あの少年達も、特殊部隊ネフィリムの面々も芽依と加担する外道者、警察も、SASも母様も守りたい、ついでに暗殺者達もだ。杉村誠一はどうでもいいが、あいつは死んでも死なないから問題無い」

 私達から離れた所で全身黒いコンバットスーツに身を包むイギリス陸軍特別航空任務部隊(SAS)の戦闘中隊が横並びに芽依さんの張った球状の結界へとM16A2のアサルトライフルから掃射が行われるが、跳弾は無いものの暫く撃ち込まれた箇所で実弾が留まったあと、パラパラと地面に転がる。お互いに顔を見上げてお手上げのポーズをとる隊員達。


 爆薬や炸裂弾も試すけどどれも芽依さんの張った非干渉結界を壊す事は出来ないでいる。


 上空を見上げると段ボールを被ったレオボルトが芽依さんの身体をお姫様抱っこして抱えていた。首は無いけど。


「レオボルトーっ!そこに突き刺さってる私の短刀こっちに投げて頂戴!」


 段ボールにくり抜かれた穴が周囲を探して、球状結界に突き刺さったままの私の短刀を見つけるとそれをこちらに放り投げてくれる。


 回転する刃に怯えてサリア隊長が芽依さんの眠る首を抱えて遠ざかる。その足下には小屋内の様子、少年達の姿が映し出されている。


 回転する短刀の柄を握ってそれを受け取ると、腰に提げていたもう一本の短刀を両手に構え、SASの人達が居る場所へと歩いて行く。


「ネフィリムの上層は英国、その英国側にも仕事してるってとこ、見せとかないとねっ!」


 白銀に輝く刀身に木造りの柄、私の愛刀「白蕾はくらい」。


 銀色の魔女とも呼ばれる陽守芽依の魔女創造ウィッチクラフトから産み出された二振りの刀。包丁両手に大男を殺し回った私にとってはお誂え向きだ。刃毀れも無く、返り血による錆も無い。その刀身は未来永劫その輝きは損なわないだろう。


「……干渉……伝達、白蕾……」


 私の淡い青色の瞳が朱を帯び、その虹彩がルビーの様な赤みを帯びて輝く。干渉力、私が深きへと潜り世界に触れた時、その何かを手に入れた。そしてその力を此方の世界に伝える為の媒体となるのがこの二振りの刀だ。


「さぁ、お兄さん達、私に食べられたく無かったら退いてなさいっ!」


 両手に刀を携える私の姿に驚き、SASの殿方達が武器を構えるのも忘れて後退る。白銀の刀身がまるで紅く輝く私の眼に呼応するように朱色へと変色する。爆薬の煙が未だ漂う最中、私は真黒の球体の一部に二本の刀を突き入れる。私の愚行に周りの男達も呆れているようだ。爆薬や弾薬で傷一つ付けられない結界に刀二本でどうこう出来るとは思っていないようだ。


「まぁ……そうよね。けどね、こっからは単純な力比べ。私と芽依さん、どっちが干渉力上かどうかのねっ!」


 手に力を込め、短刀の柄を強く握り、それと合わせて私自身の心も振るい立たせる。紅色の稲光が迸り、球状の結界が私の干渉力に反発する様に私を異物として排除しようと私の刀を押し返そうとする。普通の刀なら、それでお仕舞い。


「けど、干渉力を帯びた私の刀身はその反発に干渉し、抵抗出来るっ!」


 私が刀を突き刺した部分から球状結界全体に波紋が拡がる様に胎動する。


「アハッ!!流石ね!芽依さん!全然ダメ!」


 周りの殿方から感嘆の声が聞こえるけどまだ、まだ足りない。世界に触れ、変えるだけの干渉力、狂気が!


「穿て、穴を!全部壊れなくてもいい!人が通れるだけの穴を!」


 全身の筋肉と骨が軋み、額に汗が滲む。


 狂気か……そんなもの過去に幾らでも転がっている。でもこんな壊れた私でも過去と向き合うのには勇気が居る。それをあのサリア隊長の妹さんと北白事件の被害者達は向き合おうとしている。ま、私の方が年下なんだけどね?スタイル的には大人と遜色無いけど。


 画面越しで見た彼等の中……この眼でしか見えない事もある。


 あの中の数人は明らかに過去、深淵へと潜り、向こう側に触れた者達が居た。普通の人間には見えないけど、この眼にはその深淵の名残を纏う者をも映し出す。その者達は深淵を除き、怪物となる。人成らざる力、干渉力を持つ者だ。


 一人は小学生の様な女の子。

 彼女が一番色濃く現れていた。


 そして次にサリア隊長の妹さん。

 けど、彼女はそのどちらも宿して居た。

 深淵の闇と天使の光……不思議な女の子だ。


 そしてもう一人……隠者の少年……ただ、不思議なのは……その深淵の闇が体に纏わり付いているというよりは……まるで寄り添う様に影が見守って居た事だ。一体、君は誰に守られているのだろうか。少なからず、深淵を覗き、向こう側に触れた者はその精神力問わず狂気に心が侵食されてしまう。通常の人間ならそこを向こう側の怪物に飲み込まれ、自我を破壊され、乗っ取られてしまう。そうなってしまえば最後、私達の殲滅対象となってしまう。その時点で既に人では無い怪物だからだ。


 あの隠者の少年はその影響を全く受けて居ない気がした。


 あと何人か、あの場には深淵覗きが居たけど……まぁ、私には関係無いか。職務全う、任務遂行、作戦成功が私の唯一の生存手段。


「ね……リリィ……流れてしまった私の可愛い女の子……力を貸して!」


 私の空の子宮にかつてそこに居た命がまるで宿る様に私に力を与えてくれる。それは只の錯覚。私の娘はもう居ない。どんなクズの男が親でもいい!私の娘でさえ居てくれればそれで良かったのに!


 私の頬から自然と涙が溢れ落ちる。

 その光景に気づいたサリア隊長が私を止める声が聞こえる。


「あんの!クソゴミ、ロリコン野郎!私の!娘を刺し殺しやがってぇ!!」


 その叫びと共に干渉の波が大きく揺らぎ、眩い閃光と共に小さな亀裂が入っていく。飲み込まれろ、私、狂気に!世界に触れ、変える力を!


「アハッ、あのゴミ男どもの最期の情けない顔と来たら……本当に笑えるわ!あのバカ、私が無抵抗なか弱い女と最後まで信じ込んで!あぁ!気持ち良かったわぁ……その手を、腕を、足を脚を耳を口を鼻を!目玉を!刺して掻き回して皮を削いで!ハンマーでアレを砕いたら泡を吹いて気を失ったわよね?ねぇ?!聞こえてるかしら?そっちの暮らしはどう?ねぇ?居場所を教えて?今すぐ、私が、もう一度殺してあげるからっ!!!!」


 そして、ごめん、守れなかった……私の可愛い、リ……リ……ィ……あの日、君と共にあいつら全員殺して逃げるつもりだった……。でも叶わなかった……一人になった私は……空になった子宮に止まる娘の魂に捧げる様に代わりの肉体を捧げ続けた。


「待っててね……すぐに代わりを用意するから……ね」


 臨界点に達したのか激しい干渉力のスパークが巻き起こり、私の身体がその爆発を受けて吹き飛ぶ。眩い閃光の中、山小屋を包んで居た球状の結界の一角に大きな亀裂が入り、パラパラとガラス片の様に結界の欠片が崩れて砂の様に崩れていく。


 サリア隊長の叫び声と共に投げ出された私の身体は空中で誰かに受け止められる。


「アハッ、珍しいわね。貴方が此方側につくなんて」


「……幾らポゥ殿でもあの衝撃で木に叩きつけられては無事ではすまないと思ってね」


 芽依さんの身体を見張って居たダンボール男が鋼の翼を拡げて私を受け止めてくれていた。二本の短刀は無事で、山小屋近くに転がり落ちていた。まだ戦えそうね。


「レオボルト……そんな抗弁よしなさいね。貴方、合法的に芽依さんを私達ネフィリムの手から助けたかっただけでしょ?」


 段ボール男が空中で黒球結界の穴の空いた部分を見つめる。その先には黒い影のドレスを纏った銀色の魔女が悪魔の様な仮面と鎌を携え、穿たれた穴をまるで塞ぐ様に幾何学的なフィンの翼を威嚇する様に大きく拡げていた。


「芽依さん、首の具合どうですか?」


 銀髪の魔女、冥府の防人、陽陰歩きの芽依と呼ばれた彼女が首を何度か傾けてその具合を確かめた後、片手でグッドサインを送ってくる。


「本当に……貴女って喰えない人……」


 仮面の下から透き通る優しい声が発せられる。


「大丈夫です。私は貴女の興味範囲外の年齢ですし、そもそも……」


「人じゃないか」


「人だった怪物です」


 ……そういうのを食えない人って言うのよ、芽依さん。眼下ではSASの部隊が慌しく山小屋への突入準備を始め出す。この場の敵は芽依さん一人。けど、私達が対峙しようとしているのは……深淵そのものを体現した様な怪物を超えたまさに悪魔の様な存在だ。勝てる見込み、あるかしら?サリア隊長は厳しい顔をしてどちらに付くべきか考えあぐねているし、戦力として期待は出来ないし。彼女は優しすぎる。きっと友人とはいえ、組織からは協力する事を条件に殲滅対象から免れている芽依さんをこの一連の事件が終わった後で助ける算段をしているのだろう。その場合、隊長が芽依さん側に着いた場合、それは著しく困難を極めるからだ。


「レオボルト、偶には働きなさい!」


「……それには賛同しかねる」


「この裏切り者!サリア隊長!足下に落ちてる短刀を投げて下さい!今回はそれだけで見逃してあげますよっ!」


「おぉ!それは助かる!」


「えぇー……サリアさん!私の味方になってくれないんですかっ!」


 芽依さんが駄々をコネながらもサリア隊長の投げた短刀を見過ごす。こういうとこ、本当にぬるいわね。


「レオボルト!落として!」


 その正確に投げられた短刀を交差する様に私はそれを受け取る。幾度と無い鍛錬の中、私はこの二本を自分の手足の様に扱える様になった。


 大丈夫、まだ戦える。まだ、役立たずじゃない。


「干渉反転、陰の纏……」


 私の身体から深淵の闇が溢れだし、視認できる黒い影として顕現する。その布が私の身体に巻きついて黒装束の様に纏わりつく。最後に首回りにまるでマフラーの様に長く伸びる布として空間に靡いている。私は両サイドにしていたサイドテールを解くと、陰の纏の切れ端でリボンを構築し、それを後頭部の上の方で纏めてポニーテールを作る。


 私の着地と共に一足遅れて長く伸びる陰の布の切れ端がフワリと宙に固定される。うん、私、まるで忍者みたいね。干渉力を反転させればこうやって形造る事も出来る。私はまだ未熟で黒い布みたいなものしか出せないけど、芽依さんやサリア隊長クラスになると色違いの無機物まで構築出来る優れもの。まぁ見た目はただの布でも強度は引けを取らない。それが私をネフィリムの最高戦力たる十一使徒足らしめているのだけど。


「芽依さん、容赦しませんよ?」


「ウフフ、人の首落としといて今更何を……です」


 さて、くノ一の魔女狩りは成功するのかしら?どちらにしろ、骨が折れるわね!っと!私は両手に携えた短刀を構えたまま飛び上がると、空中に身体を固定している芽依さんに向けてそれを勢い良く振り下ろした。小さな声で芽依さんの「あっ、速い!」という慌てた声が聞こえてきた。案外いけるかも?


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