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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
265/319

星の心

 <室内:星の贄>


 隠者側から提示された設問に私が答え、八ツ森側は不正解を言い渡した。けど、それに反論したのは佐藤深緋さんだった。彼女の言い分では杉村蜂蜜にその罪は無いとした。


【設問20:(隠者側)七年前の私の罪は?】

(隠者側→八ツ森側)


【回答20:杉村蜂蜜はこの事件に関しては本来全く無関係の人間。幼馴染の少年を助ける為、自ら事件に介入し、そして北白直哉に森で追いかけられ、殺されかけた。罪とは遠い場所に居る人間じゃ】(星の贄)


【解答20:私は……私の罪は、佐藤浅緋さんを見殺しにした事よ。私が現場に駆け付けた時、中からは彼女の声が聞こえていた。私は……緑青の強さを信じていた。状況が分からない中、私は……彼を生かす為に選んだの。彼女が死んで緑青の生存率が高まるならと、その時が終わるのを小屋の外で只管待ってたの……あの数分間の罪悪感は……今でも忘れてないわ】(蜜蜂)


【補足20:それは違います。勘違いしないで下さい。全ての罪、元凶は耐え難い境遇に居たとはいえ、少女を監禁し、殺し合いをさせた張本人……北白直哉であり、その共犯者である子供達です。その事に関して私は譲るつもりはありませんので。彼等が死んで当然とは言えませんが、私は……杉村さんや緑青が罪の意識を背負う事に関しては違和感を感じます。そして……一つの可能性として……私が生贄として選ばれた場合、私は死んでいた可能性の方が高い様に思います。私に妹は殺せません。これは日嗣姉妹の件にも言える事で、姉の命さんがその命を自ら差し出しました。私は恐らく、彼女と同じ行動を取るでしょう。ですので、私の身代わりとして緑青が選ばれ、杉村さんが事件に巻き込まれました。妹は聡明な子で、被験者として選ばれた瞬間からある程度、この事態は予測していたと推察出来ます。そして彼女は、緑青に助けを求めた。私では無く。………死ぬべきは私だったのかも知れません。何故、私はその場に居なかったのかと!】 (太陽の少女)


 佐藤さんの被害者遺族としての彼女の胸の内がここにきて初めて吐露された気がする。そう、彼女が抱いている罪の意識とは私と同類の罪の意識だ。被害者遺族としてその場に居合わせられず、何も出来なかったという後悔。尤も、私の場合はその場に居ながら何も出来なかった後悔なので全く同じでは無いのだけど。彼女は掛け替えのない妹を亡くし、私は姉を失った。時々思う、もし、犠牲になった彼女達がもし生きていたら……どうなってたのだろうか。どうすれば彼女達が犠牲にならない未来へと繋がったのだろうか。北白直哉が両親から蔑まれ無ければ?第零ゲームの共犯者が北白と出会わなければ?そして被害に遭った少女達が生贄として選ばれ無ければ……いや、それではダメだ。別の誰かが身代わりに被害者になっていたに違いない。寧ろ、私が、樹理たそが、石竹君があのゲームを生き残ったからこそ今がある。あのゲーム、私達の三人のうち、誰かが欠けても、誰か一人でも別の人間が被害者に代わっていたら此処まで辿り着く事は出来なかった。


 樹理たそが抵抗せず、そのまま相手の女の子に鎖で締め殺されてたら?


 私の姉が自らの命を優先し、私を刺し殺していたら?


 第二生贄ゲームの矢口智子さんが北白直哉へ最後の一撃を与えて無かったら?


 第四ゲームでもし、佐藤姉妹が被験者として選ばれていた場合、深緋さんが亡くなっていたとしたら?


 此処までの生贄クイズゲームで得られた証言を元にその可能性と、分岐していく未来の枝葉を推測する。そうならなかった未来と過去、亡くなった者達と生きる事を託された私達の思い……。


(あなたの方が生き残る価値はあった。だから私頑張ったんだからね!)


 それは私が生死を彷徨い、病院で治療を受けている間、白い霧の中で姉から聞いた言葉。私の才能は宙を彷徨っているだけ、その一つ一つを繋ぎ合わせる事が出来れば貴女は前に進める事が出来ると。けど、あれは唯の夢、私の後悔が産んだ妄想に過ぎない……繋ぎ合わせる……事……それに関しては私はこの中で誰よりも秀でている気がする。


 考えろ、考えろ、考えろ……何かヒントをきっと私達に残してくれていたはず……私だけにしか提示できない事実を明らかにし、そして私は此処から退場しなくてはならない。


 八年前、十二歳の私はあの生贄ゲーム事件に対する情報を求めてメディアに露出した。警察による捜査は行なわれていたけど、杉村さんの親御さんの関係で英国側が介入。全ての情報は英国側により管理され一般市民である私に回ってくる事は無かったら。だから私は今の石竹君と同じ様にメディアの前に自分自身を晒した。もしかしたら、彼等も市民の声を待っているのかも知れない。もう一人の犯人からかも知れないし。


 市民の……声……?


 私は番組や局に寄せられた情報を記憶の海から掬い出していく。その中に確か、浅緋さんから寄せられた手紙もあった。結局、子供からの手紙という事でテレビ局の人に不要な情報として私には辿り着かなかった手紙だ。その時の手紙の内容は確か……一連の事件の犯人として北白直哉の名前を挙げていたのでは無く、行方不明にとなっていた矢口智子さんに関する情報と川村仁美さんに関するものだ。彼女達二人の共通点は仲良し二人組で親友同士。それもそうだ北白直哉達は敢えて仲の良い二人組を選んでその反応を楽しんだ。浅緋あわひさんが事件に巻き込まれたのはこの二人が失踪した真相を求めて犯人に近いたからだ。ちなみに私と木田さんと陽守芽依さんで作った映画版「幼馴染と隠しナイフ」では芽依さんの意向で実際に起きた事件と若干異なる表現をしている。映画版で彼女が追って居たのは第一ゲーム被験者の里宮翔子さんとしていたけど、実際に彼女が追って居たのは第二ゲームの被験者二人だった。学年的にも校内行事、もしくは家が佐藤喫茶店を経営する関係上、何処かで接点があったのだろう。生贄ゲームの被験者選定基準については私も把握している。けど、彼女が気付いたのはメディアで私が生贄ゲーム事件に連続性がある可能性と犯人の人物像、犯行内容……当時、私は霊樹の森を管理する者かそれに関わる単独犯だと思い込んでいた。私が北白直哉に共犯者がいる可能性に行き着いたのは石竹君と一緒に第三生贄ゲームの事件現場である山小屋に赴いた時だ。


 北白直哉は被験者の選定には恐らく関わって居ない。彼は謂わば司会進行役に過ぎない道化師だ。生贄ゲーム自体のルールも恐らく北白直哉では無く、共犯者である二川亮ともう一人の少年、もしくは少女が決めていた可能性が高い。そしてその犯行動機と犯行目的も両者、北白と共犯者では違う筈だ。北白は彼等の目的の為に操られていた。もしくは、北白によって

 彼等の命が脅かされようとしていた場合、その脅威から自分達を守る、もしくは逸らす為に生贄ゲームは始められた可能性もある。この違いは大きい。自衛の為の犯行であるか、悪意ある目的の為の犯行かによって二川亮とその共犯者の犯行動機はこれまでの推測が総じてひっくり返ってしまう可能性がある。そして私は石竹君が始めたこの「最後の生贄ゲーム」を通じて、只の異常者サイコパスだという認識しか無かった二川亮への評価が揺らぎ始めている。


 私は事件を推測する者としての資格は本当にあるのだろうか。

 私は北白と二川を悪だと決め付けて事件の真相を求めていた。


 しかし、北白は事件に救いを求め、彼自身もまた周りからの弾圧に耐えていた。二川亮は自らの保身の為だけに狡猾に殺人を犯していた訳では無かった。必要最低限かつ、彼が殺した生徒達の遺体の処理はどこか杜撰で、被害に遭った生徒達の遺体は全て警察により回収済み。本格的な隠蔽工作、アリバイ工作の抜けがある事から……犯行が明るみになった際、自分自身への糸口をわざと残した可能性も否めない。


 そして行方が分からなかった軍事研究部の生徒達の居場所を他の誰かが随時把握していた可能性が高い。生存者は若草青磁が商店街ぐるみで匿っていた。なら、殺された軍部の生徒の遺体位置の把握は誰が?それもまた若草青磁なのだろうか?いや、それは違う気がする。彼が最初から関わっているのだとしたら、もっと多くの生徒が助かっていたはずだ。彼が敢えて助けようとしなかった場合を除いて。それは彼が全ての犯行を二川に擦り付けようとした場合だ。そうで無いのだとしたら、最初から二川亮の犯行に気付いていた別の第三者が警察へと犯行現場の情報を流していた可能性がある。佐藤深緋さんの証言から、彼(二川亮)が死んでまだ三日しか経っていない。彼がもし、あの文化祭で遺体の隠し場所を彼女達に吐露していたとしても遺体捜索から、発見、そして司法解剖、DNA型鑑定結果が分かるまでの期間が短過ぎる。最低でも新田透の遺体が発見されてから12月初旬の間に遺体が発見されてない限り鑑定結果の内容を佐藤さんが知るには至らないはず。彼女が単独で司法解剖を行なっていた場合はどうだろうか?いや、それは無い。司法解剖は国のルールに則って、正式な手順を踏まないと行えないし、資格も無い佐藤さんが単独で行えるとは思えないし、彼女の補足事項の中では、あくまで解剖を担当した監察医からの証言という形で信憑性を示していた。


 けど、違和感を感じる。


 私が石竹君と出会った夏休みから冬休みの間に起きた出来事を振り返る。もし、その間に二川亮が警察から容疑者としてマークされていたら、みすみすその犯行を許すだろうか。私達でさえ、彼に追い付くのに約半年かかって私が彼を刺したのが約二週間前。傷害事件として彼のDNAが警察に採取されていたとしても不思議では無い。けど、彼が文化祭で死ぬ迄の間、彼を北白事件の共犯者であり、且つ軍事研究部員殺害の容疑者として疑念を抱いていた人間は私以外に居ない筈だ。もっと前に彼に疑いの目を向け、体組織のDNA型サンプルを入手出来た人間が居る筈だ。


 彼の犯行を知りながら証拠集めを出来る人間が果たしているのだろうか?


 人が殺されていくのが分かって居ながら……その犯人が分かっていながら犯行を傍観出来る人間だ。


 それは……彼の共犯者、もしくは……彼に何としても復讐したいと願っている人間だ。


 ……狂気にも似たその復讐の炎を宿す人間……あっ。

 あぁ……ふとその炎を断片が脳裏を過る。


 あの時だ。


 夏休み、私は見誤った。


 キャンプ場の女湯で見せたあの復讐の眼差し。

 佐藤深緋さんのやり場のない怒り。


 あの時は確か……杉村さんに宥められて落ち着いて……それ以降、彼女の激情を垣間見る事は無くなったけど、この最後のゲームに於いて佐藤浅緋さんに関する事柄に対して激情を垣間見える事が出来た。


 あっ。


 私が犯人からの監視を逃れると共に関係者への防衛を兼ねて配信したメール……星の教会の表面的な解散に加え、私の身に何かあった場合に備え、佐藤深緋さんへと送るように指示した佐藤浅緋の当時の交友関係を改めて彼女に報告する様に伝えたあの一件だ。


 私は夏休み、生死を彷徨った。

 それはつまり、私の身に何かあったと客観的に見たら捉えられるはず。

 私は死んだらそうして欲しいって意味で送信したのだけど、もし、星の教会のメンバーが死に掛けた私の事を聞いて佐藤深緋さんへと情報が流れるルートが出来ていたとしたら?


 彼女からはあれから事件に関する情報交換を一切していない。


 てっきり諦めたと思っていた。


「そうだよね……貴女が諦めるなんて事、ある訳無いか。そしてそれは今もきっと……」


 鎖に繋がれ、太陽の紋が描かれた彼女がその心の苦しみに耐えながら私の言葉に反応し、此方に顔をあげる。生贄ゲームは膠着状態。ゲームが長引けば長引くほど石竹君達の危険度は増していく。情報では特殊部隊も動いているらしい。


 殺された軍部の生徒達の鑑定結果は出ていた。

 けど、そこから採取されたDNA型と一致するDNA型が恐らく照合するデータベースに該当しない人物のものだった。だから警察では二川亮の事は私に刺された被害者としての認識はあったものの、容疑者として名前は上がっていなかった。


 そしてそれはほんの二週間と三日前。


 二川が死んで北白事件との関与が噂され始めたのは三日前。


 佐藤深緋さんが石竹君に誘拐されて行方不明になったのも同じ日だ。恐らく、鑑定結果はそれよりも前に彼女の元にあった可能性ある。


 つまり、予め二川亮のDNA型サンプルをそれよりも一ヶ月ぐらいは前に入手していた可能性が高い。そして彼女はその事実を伏せて鑑定結果を照合した。


 でも二川からDNA型サンプルを入手する手段は限られている。


 不特定多数の人間が触れる場所からのサンプル採取は信憑性に欠ける。彼から触接入手するのが早いが、彼も警戒心は常に持っていたはずだ。


 私も彼からは一応、ナイフで刺した際に、血液サンプルを何かがあった時の為に採取したけど、それよりも前に彼女は彼からサンプルを入手した。


 私だけでは無かった。


 姉をあの事件で失った悲しみと犯人への憎悪が最も忌むべき人間とベッドを共にする愚行を受け入れられた。


 彼は壊れた女の子に性的興奮を覚える青年だった……。

 貴女は……彼からDNA型サンプルを入手する為に接触を何処かで図った可能性が高い。監察医の見習いとしてどういったサンプルがいいか、鑑定結果の信憑性を損なわない確実な採取方法も彼女なら熟知しているだろう。


 確か……DNA型サンプルが取れるものは……一般的に口内の粘膜採取だけど、それを大人しく彼が取られる筈も無い。なら他に考えられるのは爪、毛根付きの体毛、血液、血痕、衣類、体液付きの下着やコンドーム、へその緒やヒゲ……に……タバコは吸ってないとして、歯ブラシやガムで……毛根なしの体毛や骨、便や尿は鑑定が困難だったはず……。


 この中で彼女が自然な形で入手出来るサンプルと言えば限られてくる……。


 でももしそうだった場合を懸念して……私はこの事を推論としてメディアを通じて発言するつもりは無い。この事は彼女の名誉に関わる事だし、この生贄ゲームの目的からは外れているからだ。本人の口から語られる迄は触れるつもりは無い。


 ここでもう一つ、重要な事に立ち戻る。それは当時十二歳の私の犯した罪でもある。公平な立場の推論者としてでは無く、直接的な被害者としての立場が知らずのうちに思考を歪めていた。


 ……佐藤浅緋さんの手紙が何故私まで届かなかったのか。それは当時、私自身の描く犯人像、及び目撃像が北白直哉のみを差していたからだ。何百、何千と寄せた情報の中にあって彼女は唯一、真相に近い文言を書いていた。匿名で寄せられたそれは彼女が死んでから開封され、そして私の過去の記憶の片隅に追いやられていた。今なら分かる、その手紙の差出人は事件当時、一番真相に近い証言をしていた。それを……私は見逃したのだ。予兆はあった……そして、事件のショックで閉鎖病棟へと隔離されていた天野樹理。この二人の女の子だけが北白直哉の共犯者の存在にいち早く気付いていた。片方は狂気に飲まれ、証言の信憑性は失われていた。片方は……真相に近づき過ぎた為に殺された。


 これは誰の生贄ゲーム?北白直哉?


 違う、これは第零生贄ゲームの被験者が始めたゲームなのだと。


 そうして私は私にとって最後のカードを切るのです。

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