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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
263/319

クラスメイト:川岸詩織


 あっ、お久しぶりです。

 こんにちわ。


 三日ぐらい前から八ツ森無料タクシー運転手である父と連絡が取れない川岸詩織かわぎし しおりというしがない女子高生です。美少女揃いの八ツ森高校二年A組の中に居ながら、ある意味レアな素朴な顔立ちの女の子です。恋文もファンクラブとも無縁です。テレビに出てるクラスメイト達の殆どがファンクラブ有りだという格差社会。八ツ森高校の女生徒が皆んな美少女と思うなよっ!


 杉村さんは何故殺されない?って問題が画面を通して出題されたけど、そりゃそうだよ。殺さないんじゃない、殺せないんだよ。警察の人も投げちゃうし。石竹君もあんなに強いなんて思わなかったけど、杉村さんの幼馴染だし、夏休みに黒衣の留年生を野犬や不審者(話によるとこの人物は生徒会長だったらしい)から守ったって言う話もあったし、警察より強くても不思議では無いのかも知れない。


 さて、年の暮れも近い12月、私はクラスメイトの友達(梨果ちゃんと花ちゃんの)二人と一緒に自宅の居間でとあるチャンネルのテレビ中継に釘付けになっています。台所に立って私の母も拭き掛けの丸皿を手にしたまま画面に映し出されるクラスメイト達の行末を、どこか痛ましい表情で眺めていました。何だろ、私達の世代と親の世代では北白事件に対する印象が違うのかも知れない。私と友達二人は石竹君の始めた最後の生贄ゲームを前にただ唖然とするばかり。画面の向こう側から黄色いレインコートを羽織った金髪の英国美少女、杉村さんが私達を射抜く様にカメラ目線で生贄クイズゲームの次の問題を宣言した後、画面の下の方にテロップが表示されている。左端にはデフォルメされた杉村さんが描かれている。


【設問18:二川亮はなぜ私(杉村蜂蜜)を殺さなかったのかしら?】

(隠者側→八ツ森側)


 最後の生贄ゲームという事で始まった八ッ森高校男子生徒による誘拐立籠もり事件。その主犯の石竹君が警察の人を薙ぎ倒してまで始めたこの事件は視聴者参加型で、何故かクイズゲームという方式でドタバタとコメディっぽく始まったけど、題材が少女殺害事件という事だけあって、クイズ形式という様相を取りながらも生贄達の心理戦や物理的攻防に視聴者は目を離せなくなっていた。そして何より風化寸前で石竹君の暗黙のルールだけが細々と続いていたあの北白事件の詳細と単独犯と思われたあの事件には共犯者が二人居て、その片割れが生徒会長だという事実に八ッ森の人間は戸惑いを隠せないでいる。それに沈黙を貫いていた日嗣尊(北白事件の被害者だったなんて)と妹を殺された佐藤深緋さんが声を上げ、更に展開はヒートアップ。今は一方的に攻撃されてるけど、流石B組の東雲さん、十秒間の杉村さんの攻撃に耐えられるだけの強さを備えていた。その今の状況を作り出した日嗣さんの手腕も流石だ。


 隠者側と八森側の攻防に於いて、実質的に八ッ森側は実に手堅い布陣で蜜蜂の猛攻を耐えている。正直、白滝レポーターに任せたままだとグダグダのまま八ッ森側が負けていた様な気がする。


 そしてもう一人のダークホース、佐藤深緋ちゃん。


 彼女の語る検視結果の発言が公平性をより強固なものとして両者の言い分の穴を埋めてくれている。私はちょこっとミステリー好きなので事件の全体を復習出来、その真相が明らかになるにつれて少し興奮気味に画面に食入る様にその進展を見守っているのであった。


 そしてそう……今回の問題、正確には不特定多数の人間では無く、二川亮。対象者が指名されている。……彼は生徒会長で遠目から見てても模範生でした。生徒会長と剣道部部長をこなしながら、校内の行事にも率先してまとめ役を買い、私達後輩からも慕われていました。私は直接的な関わりはありませんでしたが、友達の何人かも彼に対して憧れに近いものを抱いていた気がします。いくら剣道部部長でも勝てないよね?校内でも何度も杉村さんにラブレターを渡そうとして倒されてたし。でも、今迄の話が本当なら、彼は連続殺人鬼だ。殺人鬼の彼なら敵うのかも知れない。


 けど、確かめようにも彼はもういません。


 ここ何日かの報道でもあったけど、文化祭の件で男子生徒が一人死亡したと報じられていたから。死因は今のとこ不明みたいだけど、目撃情報から射殺されたとニュースでは報道されてるし、最後の生贄ゲーム内でも本人がそう自供してた。最初は石竹君が二川会長を射殺した光景も文化祭の催し物の延長上だと思ったけど、世間に発信された情報がそれを嫌でも現実として認識させられた。心理部のメイド喫茶で返り討ちにあって死亡したヤクザの情報は流れて無かったけど。証拠隠滅でもしたのかな?

 あっ、友達伝手に聞いた話では石竹君に報復に来た極道の人達に対して心理部員や荒川先生、ランカスター先生が人質にとられ、誰も手が出せない中、B組の東雲さんが極道の人達に辱しめをうけようとされたのを止めたのは一年の後輩君。テレビにも映っている男子で、江ノ木カナちゃんがゾッコンだけど、杉村さんのストーカーな鳩羽君がそいつを含む三人のヤクザを撲殺したのは確実らしかった。第五ゲームでもカナちゃんを助ける為に人を殺してる。その鳩羽君の行動に腹を立てたヤクザが彼を射殺しようとしたのだけど、そんな一触即発の状況に現れたのが二川亮を含む生徒会の四人だった。その立ち回りは明らかに善人のもの。生徒と文化祭を守る為に命すら賭して自体収拾に努めたらしい。心理部を守ろうとした彼が心理部の人に悪者扱いされてるのも少し変な違和感がある。だから、私は画面の向こうで生徒会長の為に叫ぶ東雲さんの言い分の方がまだ理解出来る。信頼の厚かった生徒会長は射殺されて一転、殺人鬼へと成り代わろうとしている。その戸惑いの方が大きい。

「詩織?どうしたの?難しい顔して」

 クラスメイトの梨果ちゃんが、珍しく難しい顔をしている私に違和感を感じたのか声をかけてくる。クリスマスに余ったお菓子を食べながら。

「あっ、いや、脳内で事件を振り返ってるの」

「そっか……。私さ、まだ信じられないよ。あの没個性の石竹君がテレビジャックして、こんなに目立ってるなんて」

「え、そこ?!」

 確かに……そうだけど。一年の頃の彼の立ち位置はモブ顔の私と殆ど変わらなかったのに。金髪の幼馴染が転校してから一気に彼への注目度が集まり、森で黒衣の亡霊さんを聴力を一時的に失いながらも助けた一件で更に彼の評価は一転しちゃう。

「でも私、生徒会長の事、結構好きだったんだけどなぁ」

「リカちゃんも?」

 もう一人のクラスメイト、花ちゃんが少し顔を赤くしながら驚いた声をあげる。……二人はどうやら恋のライバル同士だったようだ。

「詩織は……どうなの?」

 台所で洗い物をしてた母までもが会話に参加してくる。

「お母さん!違うって!確かに勉強も運動も得意で、しかも生徒会長だったけど、私はそんな風には全然思ってなかったからね!」

「ほんとにぃ?」

 ニヤニヤとする梨果と花と母に溜息を吐く私。彼はもう居ないのに。彼は石竹君に胴体と頭を銃弾で撃ち抜かれ、即死した。その映像は何百人もの観衆の前、リアルタイムで中継された。

「二川先輩さ、私もワンチャンスあるかなぁと思ったんだけどなぁ……」

 梨果が口を尖らせながら画面から目を逸らす。私達の中では二川亮は面倒見の良い先輩のままだった。彼が殺したとされる生徒とも関わりは無かった。だから、中華料理屋から電話をかけてきた軍事研究部の先輩の殺意も、画面の向こうで贄に捧げられている心理部のメンバーの憤りも私にはピンときていない。それはここに居る二人のクラスメイトもそうだった。でも、二川先輩は確かに殆ど毎日私達のクラス、二年A組に顔は出してたけど、それは杉村蜂蜜さん見たさで、私達みたいなモブ顔女子など単なる一生徒。眼中になど無かったはずだ。あっ、でも、梨果も花も私より鼻筋が通って胸も少し私より大きいので問題無いかも知れない。

「私見たんだよね……二川先輩とコッキーが二人で歩いてるところ……」

 深緋ちゃんが?

「いや、偶々じゃない?……あっ、ほら、文化祭の件とかあったし、それで……」

「確かにまぁ……そうだったんだけどね」

 梨果が含みを持たせたように微笑む。どうしたんだろ?

「どうしたの?リカちゃん?」

(ちなみに梨果ちゃんと花ちゃんは、杉村(働き蜂)さんからは名前そのまま、リカちゃんハナチャンって呼ばれている。多分、名前で呼ばれているってよりは、リカちゃん人形のリカちゃんに、マ○オの敵キャラで芋虫みたいなキャラから来てる。私は、タクシー運転手の娘と杉村誠一さん経由で知られていた為か、タクシー娘と呼ばれていた)

「コッキー、二川先輩の家に上がってたんだよね」

「へ、へぇ……」

「暫く、出てくるのを待ってたんだけど」

「う、うん」

「一時間近く出て来なくて……」

「……えっ?」

「出てきたと思ったら、一人で慌てた様に泣きながら駆けていって……」

「え?えぇ?」

 ちょ、母親が居る前でそんな話、やめてほしいんだけど。

「で、私が困った顔して後から出てきた二川先輩に声かけたら……」

「勇気あるな、リカちゃん!」

「最初は凄く殺気だってたけど、私に気付いたら……いつもの生徒会長に戻って、微笑かけてくれて……今度は私が先輩の部屋に……」

「おいぃ!やめて!リカちゃん大胆不敵すぎ!」

「コッキーの事、聞いたら文化祭で実家の喫茶店の商品を販売する為の算段をつけてきただとか……言ってたよ?」

「そっか……安心した……って、その後は!?」

「あっ、うん、ベッドに押し倒された」

「!?」

 花ちゃんがジュースを噴出し、母が眉を顰めている。

「あっ、変な意味じゃないよ!私が勝手に寝室のドアを開けたら、怒られて、その時の弾みで倒れたの。ま、半分誘ってたんだけど、溜息を吐いて断られちゃった。君もかって」

「リカちゃん……なかなかやるね」

 ん?も?ってなんだろ。

「でもさ、それより驚いたのは……」

「……うん……」

「二川先輩の部屋に、杉村さんの写真が一杯飾ってあったんだよね」

「ま、まぁ……ラブレター渡そうとしてるぐらいだもんね。でも隠し撮りはよくないよね」

「あっ、大丈夫だよ。全部、杉村蜂蜜愛好会の細馬将さんから回ってきたって言ってた」

「あのくそゴリラ先輩!!ろくでもねぇな!」

「でも杉村さん、本当に綺麗だよね。小さい頃の写真とか本当にお人形さんみたいで可愛いかった」

「そりゃあ……あれだけ美少女だったら小さい頃も大体想像つくよ」

「あっ、でもその中に……小さい頃の二川先輩と一緒に写ってた痣だらけの少年は誰だったんだろ?そっちも森で撮られたみたいだったけど……顔を逸らしててよく分かんなかったけど、誰ですか?って聞いたら、親友だよって。多分、唯一の。そして、恩人でもあるって言ってた」

「……その男の子って、もしかして……テレビで日嗣さんが言ってた共犯者の男の子じゃ?」

 あれ?結構、それ事件の重要証拠じゃ?

「なのかな?でも、線の細い子だったから女の子かも知れないよ?白いレインコート被ってたから体型は分かんなかったけど。名前聞いても……聞かなかったんだって言ってたし」

「梨果ちゃん……よく殺されなかったね?」

「……大丈夫だよ、私、防犯ブザー鞄に提げてるし」

「……そ、そう……」

 うーん、そういう話聞くと、本当に二川先輩が殺人鬼だったのか疑念を抱いてしまう。最も、彼の殺害現場を見たら最後、彼に消されていたと思うけど。って、二川亮の事はもういいの、それよりも私は同じモブ属性だった石竹君が変わってしまった事に焦りを覚えている。確か、二年に上がってから最初に近付いたのは……若草青磁君だった様な?石竹君は元々、特に仲間外れにはされてなかったけど、幼い頃からの悲しき習性の為か、よく話す佐藤深緋コッキーちゃんと話すぐらいで他の人との交流は少なかった。若草君、各地を転々としてきた所為か独特のニュアンスの喋り方でトークも面白くて意外とクラス外にも顔も広くてそこそこ人気者だった気がする。深緋ちゃんは少し性格はきついけど、小さくて可愛いし、意外としっかりとしてる性格だから友達も少なく無かった。小学生時代は荒んでたみたいだけど……それは、仕方ないよね。妹を殺されてすぐだったから。彼女から医薬品の匂いがきつくて、一時的にそれを指摘する子供達も居たけど、彼女は全くそれらに動じる様な事は無かった。そして、彼女に変な噂がたったのもこの頃だった。


 妹を失い、気が触れた彼女はこう呼ばれて居た、妹の失った肉体を取り戻す為に夜な夜な墓から死人を掘り起こす、墓暴きの深緋と。


 画面の奥で太陽の紋が描かれた仮面を着け、鎖に繋がれた彼女はただじっと項垂れている。そして時折、自らが暴いた墓に関する事に対し、見解を持っていればそれを我々に示すのだ。彼女はもしかしたら、本当に、妹が死んでからずっと墓暴きを続けていたのかも知れない。誰よりも彼女は死者の側に居て、その声無き声に耳を傾け続けてきたのかも知れない。


「ハナちゃん、リカちゃん、コッキーの小学生の頃の噂覚えてる?」


 母と談笑していた二人が此方に向き直る。


「えっと、確か……墓守?」

「違うって、リカ、墓荒らしだっけ?」

「あぁ、それね」

 私はコッキーの名誉の為に訂正しておく。

「墓暴き……だよ」

 花ちゃんがジュースを一口飲んだ後、きょとんとした顔で答える。

「荒らしとどう違うの?」

「えっと、墓荒らしは……なんかこう……お墓を汚く荒らす感じで、墓暴きは……亡くなった人を掘り起こすみたいな?」

「一緒じゃん」

「ちが……あっ、一緒か。お墓を掘り起こしてる時点で……一緒なのか」

 花が手元の端末で検索した言葉を見せてくれる。あっ、本当だ。どっちも意味は一緒なのか。でも、墓暴きの方が少し上品な気がする。

「ね?金品や死体等を目当てに墓を掘り返したり、そこに侵入する事、だよ?」

「ムム、確かにそうだけど」

 梨果がクッキーを頬張りながら会話を続ける。

「で、それがどうしたの?」

「もしさ、あの噂が本当なら……彼女、小学生の頃からずっと死者と向き合い続けて来た事になるよね?そんなの私、耐えられないなって……」

 その言葉の途中で母が私と梨果の肩に手を回す。

「私だって耐えられないわ……八ツ森のルールの一つよ。佐藤さんのところの娘さんは……妹さんを失ったあの日から、死者とずっと向き合ってきたの」

「え?お母さん?」

「そんな、ママさん、幾ら何でも冗談きついですよ。だって、その噂が出たのって、小学生の頃……」

「えぇ。その頃からよ。彼女はね……妹がこの世から生きた痕跡を完全に消されたその日から……一人、妹に残された最後の声を聞く為に……監察医をずっと目指しているのよ。正規の監察医さんの元でずっと死者の体にメスを入れ続けてきた……それしか、彼女には残されてなかったのよ。当時の事件の事、浅緋ちゃんの事を聞こうにも、緑青君のルールが存在していたし、本人に聞いても記憶を失っていた。犯人の北白からも浅緋ちゃんの事に関して有力な情報を得られなかった。だから彼女は……緑青君の記憶が戻るのを待ち続ける傍、妹さん声を聞く為に最大限の努力をしてきたの。普通、大の大人でも真似できないわよ?死んですぐなら兎も角、死後数日経てば死体はバクテリアの関係でガスが発生して膨らんだり、所々腐り落ちて皮膚の下が剥き出しになってる場合も、蛆虫が湧いたり、獣に食い荒らされてる場合だってある。白骨化だって。それらの死体を前にして怯えず目を背けず触れて、解体する事なんて出来るかしら?相手は獣では無く同じ人間よ?残された遺体から凡ゆる情報を、声を聞くの。死者のお医者さんってところね。……だから、緑青君の記憶が戻った今、彼女はやっとその重荷を肩から降ろせるはずなの……」

 梨果が食欲を無くしたのか、食べようと掴んでいたクッキーをそっとお皿に戻す。もし私が、深緋さんと同じ境遇に立たされたとして、彼女と同じ行動を取れるだろうか。それは決まっている。否だ。モブな私は悲しみや怒りを一通り訴え続けた後、意気消沈してそのまま戦う事をやめてしまうだろう。


 ふと母が見つめる視線の先を追うと、テレビ画面の奥、小さく佇む佐藤深緋ちゃんを見ている気がした。回答の準備が整ったのか、画面が切り替わり、ハートの仮面を着けたクラスメイトの江ノ木カナちゃんがクローズアップされて、東雲さんの前に立ったまま首を傾げながら、杉村さんの質問に答える。


【回答18:確か……二川先輩、何回も杉村さんにラブレターを渡そうとしてたから……単純に杉村さんに好意を抱いてたから?じゃないかな?】(恋人の贄)


【解答18:正解】(蜜蜂)


 あれ?難なく八ツ森側であるカナちゃんが正解してしまった。この番組の裏でΣterをチェックすると、カナちゃんのアカウントのフォロワー数とモモレンジャっぽいアイコンに変えた時のコメントが凄い勢いで拡散されてて、お前メッチャ有名人じゃん状態になっていた。って、あれ?何かおかしい。

「あれ?!おかしくない?回答権を得ているのは黒衣の亡霊さんなのに、なんでカナちゃんが答えてるの?」

 クラスメイトの二人が口を揃える。

「「何がいけないの?」」

 皆んなは特にルールとか気にしてないのかな?私だけ?

「だってさ、カナちゃんに答える権利は無いんだよ?石竹君……隠者の最初のルール説明であったじゃん。選ばれていない生贄には原則的に回答権は無いって。今は星の贄が白滝さんに変わって回答者で、生贄は棍棒のAce、東雲さんが生贄でカナちゃん、しれっと答えてるけど、ルール違反だよ?」

 梨果と花、二人が溜息を吐きながら向き合う。

「詩織は真面目だねぇ」

「だね。誰もそんなルール覚えて無いし、杉村さんだって特に気にして無いよ。それに今はその石竹君が気を失って回答出来ない状況だしね」

 皆んなそんなもんなのかな?確かに、Σterを覗いても、パンツだとかおっぱいだとか、美少女だとかしか騒がれてないし、ルールを大真面目に覚えている人間なんていないのか。それもそうだよね、あれだけのルール、誰も覚えきれない……それはクイズを始めた石竹君も想定はしているはず。生贄ゲームの参加者にさえ分かればいいのだ。分かられて無いし、相方の杉村さんはルールを気にしなさすぎだけど。

「じゃあ、何の為にあんなルールを石竹君は定めたの?」

「さぁ……自分に有利に物事を進める為じゃない?そしてそれを阻止する為にあの毎年留年の亡霊さんはルール変更を申し立てたんじゃない?」

 梨果ちゃんの言葉に半分納得してそれに頷く。

「それもそうだよね……」

 私はどうもルールそのものに石竹君の真意が潜んでいる気がしてならないんだよね。同じモブ枠として、彼と近い位置に居た私とては強くそう感じてしまう。そのままゲームが進行されようとした時、慌てた様にラッパのマークの青磁君が贄の場所から立ち上がる。彼は過去に関西にも在住していたのでツッコミも上手い。彼も仮面を外していたけど、仮面を着用し直したようだ。


【補足18:おいおい、それだけかよ?それもあるかも知れないが、夏休みのキャンプ場での件、日嗣尊と石竹緑青を殺し損ねたはずの二人が生かされてた理由を考えてみろよ?単純に証言の信憑性が低いからだろ?もし、杉村蜂蜜が一足早く二川に辿り着いたとして……相手はなんちゃってメンヘラでも無く、ガチの多重人格障害者だ。誰が信じる?品行方正な生徒会長の方が信じられて当然だろ?まぁ、石竹と日嗣は過去の事件から有名人でもある。周りの目もあったと思うが、下手に手は出せないっていうのはあったはずだ。それに……杉村は二川に近付く課程で退行していた。そんな奴の発言に信憑性は皆無だろ。……戻って良かったな、蜂蜜。一部の人間にはウケが良かったらしいが。】(審判の贄)


 ここでふと気付く。


 仮に二川亮が軍事研究部の人達を証拠隠滅の為に殺し回っていたとして、警察は何故そんな彼を放置していたのだろうか。深緋さんの発言から彼が犯人足りえる証拠も現場から見つかっていたのに、なんで彼は石竹君に射殺されるその日まで放置され続けていたのだろう。


 二週間前、日嗣尊さんは生徒会長のお腹をホテルで刺して逃亡した。


 その時も彼は単なる被害者であり、傷害罪として犯人に祭り上げられたのは彼女の方だった。刺された彼の方は人を殺していたのにお咎め無し?いや違う、殺害の容疑すらきっと掛かっていなかった。深緋ちゃんの発言に本当に信憑性はあるのだろうか。話では監察医による正式な司法解剖が行なわれたと言っていたけど……容疑も掛かっていない人間のDNA型判定の為のサンプルを事前に入手し、法医学者の下に届けた人物が居るはずだ。二川亮の関係者?いや、違う、正式にそれが公的機関に渡っていれば流石に警察は動く。もしかしたら、日嗣尊さんが二週間前のあの夜の日に、二川先輩の血液か……その、精液?をこっそり持ち出して届けていたとしたら辻褄が……いや、無理だ。冒頭、石竹君が彼女の衣服を切り裂いた時、何箇所か包帯を巻いていた。きっと彼を刺した時に抵抗され、命からがら逃げ出したんだと思う。それに彼女は逃亡犯だった。人目につく行動は迂闊に出来ないはず。そして何体もの遺体と現場に残された遺留物と彼との関連を精査するのに二週間で果たして可能だろうか。DNAの判定ですら出来ていない状況で。


「佐藤深緋ちゃん……君は……」


 もしかして……日嗣尊さんが二川亮を刺したあの夜よりもずっと前から、貴女は気付いていたの?

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