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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
259/319

死の真相


【補足②:宍戸友華さんに関しては遺体の残留物からDNA型鑑定を科捜研で行なった結果、二川亮とのDNA型の不一致は確認されています。彼女の殺害の件に関してはこの遺伝子の持ち主である別の人間が直接的な犯人ではあります。しかしながら、宍戸友華さんが殺されたと想定される7月の初旬、二川亮の口座からこの犯人へと二十万が振り込まれていました。つまり、二川亮はそのもう一人の犯人に殺害を依頼していた可能性が高いという事です。よって、二川亮は間接的とはいえ、彼女を殺した犯人であると言って差し支えないでしょう。故に、蜜蜂の回答は正解です」】(太陽の少女)


 <白滝苗:元八ツ森側回答者>


 星の少女が回答を間違え、再び蜜蜂が相手を仕留めようと構えを取ったタイミングでテレビ局経由で私に連絡が入る。慌ててその電話主の音声をカメラマンにお願いしてその場に居る全員と視聴者に聞こえる様にスピーカー通話へと切り替えて貰った。でも何故、このタイミングなんだろう。解答に対する意義なら、補足がされる前に電話が掛かってくるはず。補足がされた後に掛かってくるという事は、回答では無く、補足に対する意義という事になると思う。


 ここまで、あの太陽の仮面を着けた少女への反論は殆ど無かった。何方かと言うと回答に対し、補足する役目を彼女は補ってきた。体型的には中学生ぐらいだけど、制服的にはやはり彼女も高校生なのだと思う。というより……あの可愛い仮面を着けていた背の高い女の子、強い。これ迄一方的だった蜜蜂の攻撃を耐え、しかも反撃へと転じたのは今回が初めてだ。砕けた仮面の下から露わになった棍棒のACEの少女もまた苛烈なものを湛えてはいるが、和風美人で、額から流れる血もまた逞しい美しさを感じさせた。私も……何方かと言うと美人局アナとして通ってるはずなのだけど、完全に霞んでしまってる感はある。若さ強い。


 それにあの太陽の少女は何者なのだろうか。……私の代わりに新たに回答権を得て、此方に有利な条件へと誘導していった星の少女も凄いけど、検死を踏まえた見解を何の寸分狂いも無くスラスラと答えられるあの小さな少女も異質だった。それは凡そ、普通の女子高生が知る得る情報の範囲をとっくに超えている。司法解剖の細かい検死結果等は一般的に無闇矢鱈には開示されないはず。それを知り、尚且つ、その発言を許されてる彼女は本当に何者なのだろうか。被害者少女の姉だと言っていたけど……。


 マイクを通して、電話の主の声がスピーカーから聞こえてくる。


『こ、こんにちは。皆さん。いや、違うね……お久しぶり……かな?私は皆さんと同じ八ツ森高校の生徒……です。今はどうなってるか分からないけどね?』


 その声の主は良く通る少女の声だった。本来なら私が視聴者の方を誘導する義務はあるけど、私はこの生贄ゲームに於いて主導権を剥奪されたので、その流れを見守る事に徹する。……ここに居る少年少女達は八ツ森高校の生徒だったんだ。八ツ森高校の生徒はこの生贄ゲームをどう見ているのだろうか。


「先程の……太陽の女の子の補足についてなんですが……テレビを見ていて違和感を感じたのでこうして電話をさせて頂きました。佐藤さん?私の声、聞こえる?」


 佐藤さんと呼ばれた太陽の少女が脚を崩したそのままの体勢で仮面だけがカメラの方へと向く。なんかもう……この辺、個人情報ガバガバで、折角の隠者君の配慮が台無し感ある。


「はい。聞こえてますが……貴女は?」


「私は……八ツ森高校の三年……君達の一個上の先輩。ちょっと色々あって、姿を消してた……殺された宍戸友華さんのお友達……ってとこかな?」


「という事は……軍事研究部の方ですね」


「はい。その生き残りといったとこでしょうか……それはそうと……石竹っち大丈夫?きちんと生きてる?全く動く気配無いんだけど?」


 生き残りと聞いた室内の生徒の何人かが、顔を見合わせ、僅かに動揺している様に感じた。太陽の少女が部屋の側面の壁に貼り付けられている少年の様子を遠目で確認した後、電話主の質問に答える。


「はい。身体が僅かに上下しているので……息はしていますね」


「良かった……それなら一先ず安心ね。他の気を失った女の子達も大丈夫?」


「はい。もし、命の危険がある場合は……私の方である程度の対処は出来ますし、多分……蜜蜂は命まで奪おうとはしていない……はずです」


「良かった……でもさ、確かに石竹っちはあの生徒会長を射殺したかもだけど、私はあいつは死んで当然だと思ってる。それだけの事を……あいつはした。私の仲間を……殺し回った外道……機会があったなら私達が殺してた」


「それは……」


 その言葉を聞いた、やたらと強い棍棒の少女の顔が曇り、俯いてしまう。額から流れる血がポタリと床に落ちる。それを見た私はそっとハンカチを取り出して、カメラの邪魔にならない角度から彼女に近付いて、そっとその血を拭きとってあげる。


「んあっ?!す、すまない……だが綺麗なハンカチを汚してしまうのは……忍びない……です」


「いいわよ。お姉さん、こんな事しか出来ないから」


 照れながら視線を逸らし、私に顔を預けるその顔は本当にまだ子供だった。化粧気の無い顔でもその整った顔立ちはそれで十分だった。この子達のやってる事は理解が追い付かないけど、協力してあげたい。そう思える子達だ。この中に本当は……悪い子なんていない。なんで争い合う必要があるのだろうか。


「って!おいっ!その声、あんただろ?今、出てくんなって!」


 その声にピンときたのか、ラッパのマークの仮面を着けた少年が立ち上がり、慌てた様にカメラを体で遮り、画面越しにその電話の主に訴えかける。


「えっ?でも、青磁君、もう安全だから君の家の外に出て良いって……」


「あぁ……もう……確かに言ったが、邪魔はするな。白滝さん、通話を切ってくれ」


「えっ?」


「こいつの発言は話をややこしくするだけだ。だから、気にしなくていい。それにまだ、そのタイミングじゃねぇんだよ」


 戸惑う私にその電話の主から抗議の声が上がる。


「ちょっと青磁君!分かってるって!余計な事は言わないから!友華の事に関してだけ、どうしても見過ごせない部分があるの!」


「あのなぁ……緑青が何の為に俺達に仮面を被せたのか分かってないのか?メディアから自分達以外の人間を守る為だよ。それを、思いっきり名前で呼ぶんじゃねぇ……特に、俺は……俺だけの問題じゃ無いんだ。俺の居場所が分かれば、あいつは紅母さんのとこに乗り込んでくる」


「あっ!そっか!ゴメン……私ったら……また余計な事を……」


 溜息を吐くラッパのマークの青磁君?が頭を掻いて溜息を吐くと、徐に仮面を外し、投げ捨てる。あら、ちょっとカッコ良い。隠者の男の子は優しい感じだったけど、この男の子はどこか鋭さを持っていた。口調は飄々としているけど。


「まぁ……いいか。全国放送だもんな……一応、釘を刺しとくか。おい。見てるか?くそ親父。いや、もう親父とすら思ってないが……次、俺と母さんの前に現れてみろ?撃ち殺すからな?こんな感じにな?」


 少年が淡々と言い放つその言葉の中には深い憎しみが込められていた。その手には黒く、ゴツい拳銃が握られていた。偽物よね?そんな思いを嗜める様に銃口が誰も居ない背後に向けられると耳を劈く破裂音が部屋に反響しながら炸裂する。


 私はその音に驚いて、手にしたハンカチを落とし、両耳を塞いで体勢を崩した私は床に尻餅をついてしまう。多分、一人、叫び声まであげていたと思う。皆んな、なんでこんな冷静なの?高校生でしょ?それともそんな異常性に彼等は慣れてしまっているのかも知れない。薄っすらと閉じた目を開けると、背面の照明が吹き飛ばされ、ぼんやりとついていた照明も消えてしまった。


「こんなもんでいいか……さぁ……眩先輩?あんたの違和感を話してくれ。強ちそれは……間違っていないかもな」


 怯える生徒達を余所に少年が安全装置を掛けて背中に仕舞う。それに伴い、尻餅をついている私に向かい、何かの合図を出すカメラマン。呆れ顔で私に対して下を見る様に指示をしている。それに誘導される様に下を向くと、脚を広げた私のスカートが広がり、その間から……多分、カメラ視点では下着が丸見えになってしまっている。私は奇声を上げながら慌てて正座をして乱れたスカートを直すと、カメラマンが呆れた様に溜息を吐く。あっ、カメラマンが咄嗟にレンズを手で覆い、隠してくれていたみたい。助かった。でも、多分、私のパンツが全国放映されてしまった気もする。これ、絶対、不埒な週刊誌とかに女子アナとパンチラ特集として載せられる未来を予想して、深い溜息を吐く。あっ、電話、どうなったんだろ?


「ちょ、画面真っ暗になったけど、停電したの?今の銃声?え?どうしたの?景子?若草君が銃を撃ったって?え?パンツ?誰の?あっ、画面戻ったのね?……景子、エィラ、友華の事を話していいよね?」


 どうやら電話の傍に何人か居るらしい。女の子同士の会話が僅かに聞こえてくる。


「佐藤さん、青磁君……さっきの補足②で気になる点があったんだけど……いい?」


「はい、どうぞ気にせずおっしゃって下さい」


「いいぜ?俺はまだ生贄じゃないから大人しくしておくがな」


 一呼吸おいた後、(くるめ)と呼ばれた少女が少しずつ話し始める。


【疑問点:私達、元軍事研究部の一部のメンバーは確かに何者かの指示により、二年A組の教室を荒らしました。それに直接関わった私達の友人、宍戸友華は口封じの為に森で殺されたと聞きました。しかし、佐藤さんの補足では……7月初旬とありました。ですが、私達が身の危険を感じ、姿を眩まし始めたのは9月以降です。同じ部員の新田君の死を知ったのは夏休み明けの報道を通してですし。それが報道よりも二ヶ月も前、下手したら最初に殺された新田君よりも先に殺された事になります。少なくとも私達は連絡の取れなくなった10月までは生存していた事になると思うのですが?】(音谷眩より通話)


 太陽の少女が首を傾げて困惑する。


「それは無いでしょう。少なくとも、此方で彼女の遺体を確認したのは……北白家が森の所有権を国へ売却した9月以降です。新田君の遺体に関しては損傷は激しかったものの、腐敗具合から見ても宍戸友華さんと同等か、それよりも腐敗の進行速度は遅かった様に思います。遺体が埋められていたのであれば、土中の温度により確かに腐敗の速度は変わってきますが、どちらも土表の人目のつかないところにバラバラにされて放置されていました。ただ、解体に使った工具類や手口に差は見受けられましたが」


「そんな……でも、私達は……7月、彼女とも何回か話してるし……メールだって9月に何度もやりとりしてた。定期連絡やお互いの居場所の確認まで……だって、私達は同じ部員以外、頼れる人は居なかった。石竹っちも同じ部員だけど、私達を追う杉村蜂蜜と近い位置に居たから連絡は取れない……って、そもそも石竹っちは携帯持ってなかったし」


「……遺体は嘘をつきません。そして、私の知る尊敬する監察医の先生方も……虚偽や、曖昧な検死報告はしません。死亡時刻に曖昧な点があればそれを明記します」


 その言葉に無言になる電話主。そこに「眩、変わって?」という別の女の子の声が聞こえてきた。電話の相手が変わったようだった。


「じゃあ……私達と連絡を取っていたのは誰だって言うのよ!?声も聞いたし、メールだって……」


 言葉に詰まり、返答できない太陽の少女に代わり、星の少女が口元に指を添えながら一つの可能性を私達に示唆する。


「前提として、検死が間違っておらぬとした場合……誰かと成り代わっておる可能性があるの……何か、違和感は無かったかしら?」


「そんなもの……無かったに決まっ……て……いや、でも、そんな……まさか……あの時、既に……誰かに捕まって……嘘よ……」


 無言になり、電話主の女の子からの返事が途絶える。受話器の向こう側で彼女を慰める声が微かに聞こえてくる。暫くして出てきたのは違う女の子だった。


「こんにちわ。黒谷景子です。三年の。えっと、黒衣の亡霊さん?……友華がその時、既に犯人に捕まっていたとしたら……起こりうる全ての可能性を包み隠さず、教えてほしい……何か思い当たる節があるかも知れない」


 黒衣の亡霊とは誰の事だろう?ここに居る少年少女達は全員緑の制服姿だ。その質問に何故か星の少女が答える。この件に関しては誰も真相を知らないのかも知れない。


「……7月初旬に電話をしたと言ってたわね?最後の電話はいつ?」


「眩の端末に掛かってきたのが最後……あとは杉村蜂蜜さんを警戒してメールだけのやりとりしかして無かった……」


「恐らく、その日を最後に殺されたと見てよさそうね……。恐らく、彼女を脅して携帯を奪い、端末に掛けられたパスワードも連絡先も聞き出したはず」


「……友華は……仲間を売るような子じゃない……」


「やりようはいくらでもあるわ。言わなければ友達の貴女達を同じ目に合わす……と脅せばね?その証拠に貴女達は殺されてない。もしくは、拷問に近い何かを受け、無理矢理話させた……体の一部を破壊されたりして……」


「友……華……あの子なら、私達に危害が及ぶ事を恐れて話してしまうかも知れない。彼女の死因は?」


「それは……太陽の少女の方が詳しかろう」


 星の少女が背後を向くと、太陽の少女がそれに頷き返す。


「損傷が激しく、四肢を切断されてはいましたが……こちらは新田君とは違い、野犬たちにより食い荒らされた痕跡は殆んどありませんでした。殆んど野鳥によるものでしたが……。拷問の可能性も今となれば確かにあります。右手が砕かれ、左手は大きな鉈で切り落とされた形跡がありました。腕にも縄で縛られた跡が見受けられましたし……それに」


「……二川亮!……あいつ、よくも……友華を……。確かに最後に話した時、声、元気な割に震えてた……時折、辛そうな呼吸の仕方もしてたし……そして、電話を切る時、さよなら……ありがとう……って。おかしいよそんなの……こっちがありがとうなのに……。不思議だったんだ……八ツ森市内をメンバー間以外には一切連絡を取らずに逃げ回ってたのに……短い期間で次々と行方不明になっていってた。まるで行き先や潜伏先が分かってたかの様に……そして、私達に杉村蜂蜜さんを警戒する様に情報や噂を流したのとあいつ……成り代わってる自分から注意を逸らす為に……」


 悔しそうに淡々と当時の違和感を話す電話主に星の少女が優しく推測を話す。


「十中八九そうじゃろな……犯人は仲間の振りをして常にお主達を見張っておった……全員殺す為に。最初の友華さん殺害に関しては君達の情報を把握する為に犠牲となったと見ていいじゃろう……新田君もその包囲網に引っかかり、杉村さんと別れた後に殺された」


「そんな……確かに私達は、教室を荒らしました。直接的、間接的、問わず。けど、それだけで死ぬ必要があるんですか?!」


 電話主の怒りを噛み締める歯軋りの音が私達の胸を締め付ける。射殺された青年への恨みは凄まじいものがあった。その声を聞いている棍棒の少女の顔も優れないものへと再び変化していく。状況はよく分からないけど、新田君という男の子が殺される前に、一人の女の子が殺されていて、成り変わられていたという事らしい。あら?でも、設問の回答では彼女の殺害に射殺された少年は関わっていないと言っていた。つまり?もう一人、犯行に関わった人間が居る事に?猟奇的殺人鬼が今もまだ生きている事になる。


「(ねぇ?ちょっと電話変わってくれるかしら?)」


「え?エィラ?」


 再び、電話の声が変わる。女の子らしいというか芯の通った気の強そうな声がそこから聞こえてくる。


「太陽の生贄さん……貴女と星の生贄さんは友華の身体に二川亮の痕跡は無かったと言った」


「はい。彼女の身体の付着した体液の鑑定結果は二川亮と別人であると出ました」


「体液?」


「分かりやすく言うと、精液です」

「ふぁ!?」

「彼女の身体の穿たれた穴と女性器内に一人の男性の精液が検出されました」

「嘘……よね?拷問して、殺された上に、死体を弄ばれ、獣に体を貪られたっていうの?」

「はい。そうですね……残念ですが……」

「……ふざけないで!そんなの!そんなの何かの間違いに決まってる!なんでそこまでされないといけないの?情報を得たんなら十分じゃない!そんなのまるで……」

「はい。明らかに彼女を殺した犯人は、殺しを楽しんでいました。彼女の苦しむ声とその死体を快楽目的に陵辱したのです」

「は……あ、あれ?力が……」

 ドサリと言う音と共に電話主の声が途絶える。気を失ったようだった。これらの事実を只の高校生が受け止められる訳ない。私ですら気分が悪くなっている。電話の向こうで若い男の心配する声が流れてくる。暫くの沈黙の後、別の男の人が代わりに電話口に立ったようだ。

「エィラさん、倒れたネ。このまま電話を切ってもいいけど、少し聞きたい事あるネ?」

 やや片言気味の言葉がスピーカーから聞こえてくる。その声を聞いて太陽の少女が首を傾げる。ん?気の所為か、表情の乏しい蜜蜂の顔が驚いた様に目を丸くしている。

「失礼ですが、誰方ですか?」

 ステレオタイプな中国人の様な話し方で飄々とそれに答える。

「ワタシ、商店街の中華料理屋でバイトしてるお兄さんネ」

「は、はい……そのお兄さんが何か?」

「気を失ったエィラさんの代わりに確認しておくネ。友華さんの遺体遺棄の状況については聞いたけど、死因についてまだ語られてないネ」

「はい。拷問が直接的死因になった訳ではありません。彼女の死因は心臓破裂による即死です」

「使われた凶器は?」

 あれ?少し口調が変わった気がする。電話越しに発生した妙な圧力が私の肩に圧しかかる。それを感じたのは私だけでは無かった様で、部屋に居る他の人間も落ち着かない様子だった。

「体内を銃弾が貫通した痕跡がありましたので……銃です」

「銃の種類は?」

「私は銃に関しては疎いのですが、7.62×51 のNATO弾を長銃で撃ち出したものと鑑識の結果から出た気がします」

「その弾なら……犯人は猟銃として常に携帯していた可能性があるネ」

「はい……」

「犯人の目星は立ってるね?」

「いえ、私は何も……ただ、二川亮が直接的な犯人で無いという事しか」

「……その犯人、死んでる可能性があるネ」

「?どういう事ですか?犯人が特定されてるのに明らかにされないのはおかしいですよ!」

「多分、お嬢ちゃんを守る為でもあるネ」

「私を?」

「これは……ある人から聞いた警告ネ。世界の裏側に不用意に触れてはいけない。そこで待ち構えるは法の光すら届かない漆黒の闇ネ」

「……法が適応されない……世界の裏側?」

「覚えが無いネ?そこに貼り付けにされている少年は、最近、ある人間達に追われ、殺されかけたネ」

「はい、ヤクザに命を狙われてると思ったら、今度は暗殺者に命を狙われて、死にかけたって……。あっ、あれだけの逃走劇を繰り広げたのに、全く報道されて……ない?まさか、二川亮は暗殺者に依頼を?」

 何の事だろう?局のレポーターである私にもピンと来ない話だ。

「猟犬に死体処理をさせていると言ってたネ?」

「はい」

「そして凶器は猟銃である可能性が高い」

「はい」

「犯行現場は?」

「八ツ森の北方、北白の森です」

「この情報は人伝で聞いたネ……とある猟銃使いの暗殺者……いや、快楽殺人鬼に堕ちた男が、ある時期を境に消息が絶たれている」

「……もしかして、蜜蜂が言っていた殺害人数の中に、九人の暗殺者?」

「いや、それはここ一ヶ月以内、下手したらもっと最近の話ネ。その殺人鬼に堕ちた暗殺者の消息が絶たれたのは……約5ヶ月前」

「……夏休みぐらい?」

「その時期、何か変わった事は無かったネ?」

「……夏休み……確か、私達、キャンプ場に行って……日嗣さんが北白の森に石竹君と一緒に……?猟犬を従える猟銃を持った殺人鬼……まさか……」

「ワタシからはこれ以上言えないネ。もう一つ言うと、その堕ちた暗殺者の通り名は……<狩人>と呼ばれていたネ」

「わ、私は……その男の遺体を検死した事があります」

「そう……多分、その男がエィラさんのお友達を殺した可能性が高いネ……それを恐らく、警察でも掴んでいたはず。けど、それは世界の裏側。一般人には伏せられる」

「……あいつが……あいつが!」

「……恐らく、その男が死んだ後の犯行は彼へと依頼を出した人間の犯行ネ。快楽殺人鬼すら翻弄する人間ネ……深入りするとお嬢ちゃんも殺されるネ」

「どうして?私を心配してくれるんですか?他人なのに……」

「……それは……ヒミツ、ネ?」

「あの、ありがとう、ございます……」

「いいネ。ほんの気まぐれネ……ほんのね?それに……その金髪の女の父親には恩を売っとくに越した事はないネ?」

「あはは……よく、言っておきます」

「よろしくネ。あと、もう一つ、一千万の少年に言伝ネ。ワタシもそろそろ姿を消すつもりだが、英国側に不審な動きがあるネとだけ」

「は、はい……ありがとうございます?」

「あっ、エィラさん、気が付いたみたいネ?エィラさん、一言あるネ?」

 やや間があり、再び先程の少女の声が聞こえてくる。

「犯人が例え死んでいたとしても……私は許さない……あいつらはどうしようもない奴らだったけど、私にとってはかけがえの無い部活仲間だった。何人かの部員はそこにいるラッパ少年のおかげで助かったけど……遺体が見つかった仲間を殺した奴が、もし、まだ生きているのなら……私は絶対に許さない。……殺し屋でも……掃除屋でも、何でも雇って、絶対に殺してやる。だから、もし、生徒会長が軍部復活の甘い言葉とお金に私達を弄んだのだとしたら……私は石竹っちの肩を持つ。あんな奴は、死んで当然……二年の剣道部の女の子には申し訳無いけど。あと生徒会長として彼を慕っていた人達にも。石竹っちが彼を殺さなければ私があいつを殺していた……それだけは確かよ」

 その言葉にがくり項垂れ、と膝を付く棍棒の少女の姿がそこに在った。彼女の零れ落ちる涙と共に放たれた言葉が私達に訴えかける。


「私は……私は、それでも、二川部長の事を尊敬していた!この気持ちの行方を、私は一体どうしたらいいのだ?誰か教えて……くれ……」


 彼女の悲痛な心の叫びに誰もが言葉を失った。

 通話の切れた電子音だけが寂しく室内に反響し、誰もがその言葉を飲み込んだ。


 その沈黙を破ったのは、突然立ち上がったハートマークの仮面を着けた少女だった。その構えは……既視感がある。


 ……と思ったら、モモレンジャーだ。

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