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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
258/319

(|×|)

 <棍棒のAce>


 私はその一歩を踏み出す事が出来なかった。


 手には私より強い方の杉村蜂蜜に対抗しうる鍵となるものを渡されてはいるが、それを使う事を私は躊躇している。


「し、東雲……さん?」


 手に繋がれた鎖はとっくに外されている。問題に正解した八ツ森側は隠者側の人間に1分間の攻撃の猶予が与えられる。体感的に25秒が過ぎたとこだと思う。それでも私は彼女に近づく事さえ出来なかった。


「此方の攻撃の番よ?早くしないと……時間が……」


 私に呼び掛けてくるこの綺麗な人を私はよく知らない。物腰から凄く賢い人で正しい事を言っているのは分かる。けど、それでも、私は彼女の言葉を鵜呑みにして行動に移す事を心が拒否してしまう。


「確かに今の貴女では彼女に勝てないかも知れない。けど、その為のものでしょ?それは」


 此処までの問題を顧みて見えてきた事がある。鼻血君(石竹緑青)や杉村蜂蜜、そして日嗣尊という人達が巻き込まれた北白事件。それには共犯者が居て、その共犯者は私の尊敬して居た二川先輩である可能性が高い事だ。だからこそ、鼻血君は彼を撃った。


「あっ、あの……東雲さ……じゃなくて、棍棒のAceさん?」


 そろそろ1分が経過する。


 当初から私は部外者である意識は強くあった。彼等の事件と私が関わった事と言えば……どういう経緯かは知らないが、鼻血君と杉村蜂蜜が七年の時を経て、その距離を縮めるヒントを私と杉村蜂蜜との決闘の中で見出したらしい。


 その後、私が夏の部が剣道の大会で優勝したその裏で、日嗣尊と鼻血君が森で行方不明になり、杉村蜂蜜の命が危ないとメールが入ってきた。


 杉村蜂蜜愛好会が集まる中、そこに二川先輩の姿もあった。


 夜の森は危険だという事で殆どのメンバーがキャンプ場での待機を言い渡される中、私と二川先輩は杉村蜂蜜を助ける為に森へと足を踏み入れたのだが、私が野犬への対処にまごつている中、二川部長が姿を消した。


 右も左も分からなくなる中、私は野犬を手にした木刀で薙ぎ倒していった。助けにいけないなら、せめて野犬の総数を減らそうと考えたからだ。

 夜が明ける頃、私はいつの間にか下山していたみたいで何とか帰宅する事が出来た。その後、分かった事だが、杉村蜂蜜と日嗣尊さん、鼻血君、全員無事だったと聞いた。怪我は負ったみたいだったけど。そしてその次の日、二川部長が部活を休んだ。次に現れた時は体と手に包帯を巻いて出て来た時にはその姿に驚いた。


 きっとその傷は鼻血君と日嗣さんを殺そうとした時に傷だったんだと今なら思う。その後、夏休みが明け、特に何も気にせず、勉学と剣道に励んでいた。


 暫くして、二年B組の女子生徒が通り魔に襲われたと聞いた。


 その頃からもう一人の杉村蜂蜜とはあまり会えなくなって寂しい思いをしていた気がする。そして、街で二年A組の江ノ木さんが不良大学生に絡まれているのを助けた。その後、江ノ木さんと鳩羽竜胆は北白に誘拐され、殺されかけた。その大学生達は北白に殺されたらしい。


 この時も、二川部長は関わっていたのだろうか。


 江ノ木さんを助けたのは二川部長なのに。その彼女を北白に贄として捧げたのだとしたら……その意図が分からない。その可能性を私は否定したい。


 そして気づけば、杉村蜂蜜は子供っぽくなったり、天野樹理さんという小学生みたいな年上の女性が一時的に八ツ森高校の生徒になったりした。彼女は鼻血君の事を応援しているみたいで、私と彼が剣道の稽古をつけている時も心配そうに見つめていた。


 そして文化祭が近付くにつれ、私は剣道とメイド喫茶の特訓で日々を費やしていった。慣れない接客と料理をこなしていく中、鼻血君と稲穂がヤクザに拐われた。


 私は駆けつけた警官と一緒にその根城に殴り込みにいくと、銃弾が飛び交う中、何とか稲穂と鼻血君を助け出す事に成功する。その時、やっと大切なものを救い出せた気がした。


 そして……あ、あと、あれだ。若草青磁にボディガードを任せられた気がする。あの金髪のドイツ人との決着はまだついていない。あいつ、絶対私に対して手加減をしている。殺意が感じられないからだ。


 それから、ええっと、文化祭が始まって……メイドとして懸命に働いていると、復讐に来たヤクザに店が荒らされ、私が殴り倒したヤクザに初めてを奪われそうになった。特に大切にしている訳でも無いが、やはり恐ろしくて泣きそうになった。その時は確か……助けて貰ったんだった。


【問14:森川賢もりかわ けんを殺したのは誰?】

(隠者側→八ツ森側)

【解14:杉村蜂蜜で無い事は確かだけど、まだ犯人は特定されていない】

【補足:死因は振り向きざまに振り下ろされた棒状の凶器により、頚椎を砕かれそれが原因となり死亡しています。被害者についた傷跡から新田透さんへ使用された凶器と同様の物が使用されているとの見方が検死の結果有力です。付着した木片から凶器は木刀である可能性が高いとされています。射殺された二川亮の自宅に保管されているか、死体処理場として選ばれていた北方の山林へ破棄された可能性が高いでしょう。凶器がまだ見つかっていないので、断定は出来ない状態ですので、答えとして、犯人は特定されていないとする事が妥当だと思われます】(太陽の少女)


【問15:浜田知也はまだ ともや笹原暁ささはら あきら殺害時に使われた凶器は何? 】(八ツ森側→隠者側)

【解15:木刀かしら?】

【補足:違います。彼等の死因は心臓をナイフで一突きされた事による即死です。】(太陽の少女)


【問16:私が殺した人間は一人である】(隠者側→八ツ森側)

【解16:……はい。山林で杉村蜂蜜さんの所有物である簪と制服と一緒に市外に住む四十代男性の遺体が発見されました。この件に関して警察では、石竹緑青君の命を守る為に行われた正当防衛として扱われています。しかし設問の一人かという事に関しては該当していると思われます。】

【補足:……詳しくは言えないけど、私は少なくとも二十人以上の人間は確実に殺してるわ。あの子達の記憶の中にも石竹緑青を狙った一般人やヤクザの男達。そして掃除人としても九人の殺人鬼を殺している。だから貴女の回答は間違っているわ】(蜜蜂)


 どこか遠くに日嗣尊と杉村蜂蜜の問答を聞きつつ、私を助けてくれた彼の方を見る。彼は私や江ノ木さんをレイプ犯から命がけで守ってくれた。その手を血に染めてまで。元々、センスはあったものの、強くなったなぁとしみじみ思う。


 そして文化祭、午後の部が始まり、剣道部部長、二川亮は石竹緑青に射殺された。その光景を思い出し、私の目に復讐の炎が僅かにその勢いを増す。


 なぁ……教えてくれ、杉村蜂蜜よ。


「私達の知っている……二川亮は……偽りの姿だったのか?」


 連勝を続けていた八ツ森側。杉村蜂蜜の出した問題に、日嗣尊が答えられず、私の眼前に彼女が迫っていた。


 沈黙を貫いてきた私の言葉に、僅かに初動が遅れ、僅かに態勢をずらすとその目に見えない一撃が私の背中を突く。痛ささえ感じる前の刹那の時間、私の体重を乗せた重い蹴りを相手の腹部に叩き込むと、その衝撃で相手が一瞬よろける。


 痛みを脳が知覚する前に私は相手に足払いを掛けて立たせない様にする。時間稼ぎをするなら相手の重心を崩してやればいい。


 睨みつける彼女の白く綺麗な額に私の着けた仮面ごと頭突きを炸裂させると、白い面が砕け落ちた。


 涙目になる彼女の姿を視認する前に、そのコートの裾を掴み、体格差で勝る私が彼女を宙に浮かせる。足場を失った両足がジタバタと空を掻く中、彼女の掌底打ちが私の鳩尾に叩き込まれる前に、慌ただしく日嗣尊さんが時間切れを叫ぶ。


 二十秒稼ぐぐらいならなんて事は無い。


 やりようはいくらでもある。

 ただ、私は……復讐を糧に彼女達に刃を向ける事が出来ないでいた。彼女達もまた被害者達なのだから。頭突きした私の額から一筋の血が流れ落ちていく。


「教えてくれ……私の記憶の中にある、尊敬すべきあの二川亮という男は!死に値する人間だったというのか!答えろ!杉村蜂蜜!!」


 その言葉に顔を伏せ、彼女は何も答えてはくれない。それでもこの生贄ゲームは続いていく。日嗣尊さんの声が室内に響く。


【問17:宍戸友華ししど ともかを殺したのは誰?】(八ツ森側→隠者側)

【解17:同じく……二川じゃないのかしら?】

【補足①:いいえ。現場の遺留物から彼女の殺害に関しては二川亮と関連付け出来る物証は何も発見されていません。この件に関しては彼の犯行とは言えません】(星の少女)


 再び私の出番が回ってくる。

 この一連の被害者を殺した犯人が二川亮であると言われ続け、此処で初めてその回答が否定された。日嗣尊は二川亮が犯人である事を知らしめたかったのではなかったのだろうか。二川部長他に殺害に加わった人間が他にも居るという事実は不躾ながらも私に僅かな希望を与えた。私は震える声で佐藤深緋に確認をとる。


「佐藤深緋よ……二川部長が一連の殺人事件の犯人では無い可能性は無いのか……?」


 彼女の冷たい声が私を突き離す。


【補足②:宍戸友華さんに関しては遺体の残留物からDNA型鑑定を科捜研で行なった結果、二川亮とのDNA型の不一致は確認されています。彼女の殺害の件に関してはこの遺伝子の持ち主である別の人間が直接的な犯人ではあります。しかしながら、宍戸友華さんが殺されたと想定される7月の初旬、二川亮の口座からこの犯人へと二十万が振り込まれていました。つまり、二川亮はそのもう一人の犯人に殺害を依頼していた可能性が高いという事です。よって、二川亮は間接的とはいえ、彼女を殺した犯人であると言って差し支えないでしょう。故に、蜜蜂の回答は正解です」】(太陽の少女)

 ※科捜研…科学捜査研究所の事を指す。日本の警視庁、道府県警察本部刑事課に設置されている研究機関


 僅かな希望さえも失った私は再び床に膝をつく。


「そんな……なんだったのだ……私の知っている部長は一体……」


 落胆する私の耳に、女性レポーターの白滝苗さんから慌ただしい声が挙がる。


「ちょっと待ってください!今、局を通じて一般の方から電話が通じています!先程の太陽の女の子の補足事項について異議があるとの事です!」


 二川部長が殺人鬼であったその事実を、視聴者の声一つで到底変えられるとは思えなかった。しかし、それでも私は藁にも縋る思いでその電話主の声へと耳を向けた……。


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