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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
256/319

女神&魔女

× 隠者(9)HP [ 10 / 150 ] 気絶 !


 蜜蜂:月(18) HP [ 210 / 250 ]

 MP[ 30 / 90 ] 激怒!


太陽(19): HP [ 60 / 63 ]

審判(20):HP [ 79 / 79 ]

▷星(17):HP [ 55 / 70 ]

 × 死(13):HP [ 1 / 110 ] ねむり

  吊るされた男(12):HP [ 83 / 83 ]

  恋人(6):HP [ 70 / 74 ] 空腹

 × 女教皇(2):HP [ 1 / 69 ] ねむり

 × 硬貨の女王:HP [ 1/74 ] ねむり

 棒の1(Ace):HP [ 300 / 300 ]


 

<白滝 苗>


 認識が状況についていけない。


 十字架の仮面を付けた少女が答えた回答に、隠者がそれを正解だと判断した。けど、それに異議を唱えたのは太陽の少女だった。


 そこまではいいとして……その問題の答えに対する判断が出来ないとし、隠者側は無効としようとした。


 そして今度、それに異議を唱えたのは星の仮面を付けた少女だった。


 その後、女教皇の隠者への攻撃が認められると……色々やりとりがあって、蜜蜂の少女が怒って隠者と女教皇を瞬殺してしまった。


 私のイヤーマイクに局のチーフマネージャーから状況説明を求められるけど、私にも何が何だか分からない。星の仮面を付けた少女が鎖を引き摺りながら此方にやってくる。カメラマンの須藤君は順応力が高いのか、その場その場に合わせてクローズアップされている人物への照明切り替えを卒なくこなしている。私だけだ。私だけがその役目を果たせていない。その事に焦りと罪悪感を覚えながら、その星のマークが私を見つめている。これ、どうやって外を見ているんだろう?先程の女教皇の褐色美少女は星の仮面の女の子に合図を送る為にその素顔を晒したけど。此処に並ぶ娘達は本当に綺麗でスタイルの良い子ばかりで、一応キャスターを務める私が本当に一般人の様に霞んでしまっているのも少し悲しい。多分、私の顔は青冷めていて、見れたものではないけど。


「此処までありがとう……白滝さん……此処からはその責、私が背負います」


 もう私自身、こんな状況下でまともな回答なんて出来るとは思っていない。スタジオから得られる情報も不確かで頼りなく、何一つ、役に立つ情報なんて流してくれない。此処にいる子供達の方が余程この事件を理解している……。やっとこの責から解放されるという安堵感に私は涙を流す。そっと仮面を外した少女がまるで本当の星の女神様の様に私には思えた。切り揃えられた黒い前髪の下から覗く、綺麗な瞳が真っ直ぐと私を捉え、離してくれない。羽織ったブレザーの下のブラウスは切り裂かれ、その合間からは黒い下着が見え隠れしている。

「ご、ごめんなさい、私、全然役に立たなくて……問題、間違えてばっかりで、皆、その所為で……」

 その黒く艶やかな短めの髪を揺らしながら、その猫の様な黒目が優しく微笑みかけてくれる。私にとってその姿は本当に星の女神様の様だった。

「……いいえ、貴女は回答者として間違えてはいなかったわ」

「えっ、でも……」

 どういう意味だろう?私は殆ど、全ての問題に間違えた。最悪の回答者なのに。

「貴女のこの事件に対する認識度は、事件に殆ど関わりを持たない大衆の代表者として充分な役割を果たしたわ」

「それはつまり……?」

「貴女は恐らく、彼等の思惑通り、間違えるべくして間違えた。言わばその認識を世界が改める為に捧げられた……贄だったのよ」

 確かに、私の認識度は県外、もしくは市内の一般的な市民の認識度と大差ない。この人選は意図的なものがあったというのだろうか。いや、でも、それなら……ずっと八ツ森で仕事をしているキャスターが抜擢されるべきだと思う。その方がまだ、マシな回答が出来たはずだ。私と三つ違いの姉の方が詳しいのに、何故、私に白羽の矢がたったのだろう。

「私が……私も生贄だった……のね」

 ……私はチーフマネージャーから言われた通り、誘拐犯の所までカメラマンと共にやって来た。という事は、八ツ森テレビのチーフも犯人の男の子とグルなのだろうか?いや、独占取材を餌にあの少年が局に持ちかけた可能性もある。しかし、視聴者参加の仕組みやテロップ等、急拵えとは思えなかった。前々から……少なくとも前日にはこの生贄ゲームは想定されていた事に?

「貴女の役目は終わったの。中継はそのままして貰うけどね?もし、スタジオから私達に何か連絡があったら教えてね?」

「は、はい……」

 確かに違和感はあった。視聴者への生贄ゲームの形式投票、視聴者からの情報収集、全てが滞りなくスムーズに行われた。最初から、こうなる事を想定した可能性が高い。だとしたら、この誘拐事件を私達テレビ局側が全面的に幇助した事になる。つまり、私も共犯者に?私は、誰を、何を信じたらいいのだろうか。ふと、私の前に星の女の子から差し出された仮面を受け取る。その事で急に肩の力が抜け、床に手を着いてしまう。もう、私の所為で少年少女が傷付く姿を見なくて済む……それだけは救いだ。いや、でも、ゲームは隠者が倒れても続行される。その責務が……星の彼女に移行しただけだ。彼女は私に背中を向けると、蜜蜂少女と対極となる位置へと歩き出す。凄い、カメラの撮影視野も完璧に踏まえた位置取りだ。バミの目印も指示も無いのに。スタジオでは逃亡犯であり、指名手配中でもある星の少女、日嗣尊の台頭に誰もが戸惑い慌ただしい声が聞こえてくる。そんな世間の混乱なんて御構い無しに、緑眼の金髪少女はなんの戸惑いも無く、椅子に深く腰掛けていた。それはまるで女王としての風格を漂わせている。そんな彼女に対抗する黒髪の少女もまた、毅然とした態度で向き合い、人差し指を彼女に突きつけ、今後の生贄ゲームをどうするか、その事について交渉を始めたのです。その対比的な構図は、女神と魔女を彷彿とさせました。どちらが私にとって女神になるかは分からないけど。私はそっとマネージャーに繋がっているマイクに囁きかける。

「マネージャー……あの、局側は今回の件、何処まで関与しているんですか?単に、犯人の少年にレポーターとカメラマンをよこすように言われただけですよね?」

 暫くの沈黙の後、上司であるマネージャーが静かに否定する。

「君が知る事ではないよ」

 私の質問自体を否定するという事は何かしらの関与を肯定していると同義だった。そういえば……マネージャーの娘さんは、今回の一連の事件で娘さんが通り魔被害に遭ったと噂で聞いた。その事がもしかしたら関係しているのかも知れない。脅迫されているのだとしたら、きっと警察にも相談出来なかったはずだ。私はひとまず状況を見守る事にする。逃げるにも扉は硬く閉ざされ、逃げ出せないけど、山小屋と一緒に爆発するのは嫌だ。帰りたいよ……本当に。助けて!お姉ちゃん!


<月の女神>


 ……面倒ね……女王蜂に変わろうかしら。


 ……駄目だわ。彼女じゃ働き蜂の動向全てを認識してた訳じゃない。此処はやっぱり私が受けて立つしかないのね……日嗣尊。


 あら?


 そういえば……彼女、私が主人格である事に気付いてないのかしら?

 それもそうね……その事を知るのは緑青だけ。彼が他の人間に話していれば別だけど……文化祭からまだ三日しか経ってはいない。彼女が把握していない情報とは何だろうか。そこを攻めない限り私はクイズには勝てない。まぁ……私に反撃を禁ずるルールは無いから、返り討ちにすればいいだけなのだけど。


 緑青が目覚めるまでの時間稼ぎぐらいは……出来そうかしら?でも……あの女を調子に乗らせておくのは少し嫌ね。どうしようかしら?やっぱり消しておいた方が良さそうね……フフフ。相手は指名手配犯。同じ高校の生徒を刺し殺そうとした凶悪犯。始末屋として消すのは当然の道理よね?


 貴女もそう思わない?


 働き蜂?


 あっ、ダメ?

 違う?少しぐらいは……良いのね?


<星の魔女>


 隠者不在の今、何とな〜く不信感を持たれない様に、私は八ツ森側の代表者としての回答権を得た。彼女の背後にはテレビ局と警察が居る。けど、警察があの事件を公式に捜査していたのは第四件目の北白事件が行われるまで。つまり、私が関わっていた古い捜査記録しか残されていない。北白事件に恐らく、最初は被験者二人は捜査線上に浮かび上がってはいなかった。


 私が共犯説に疑いを持ったのは夏休み、あの事件現場を訪れてからの事だった。そして、決定的な確信を得たのは交換条件を引き換えに会った天野樹理さんの証言を得てからだ。彼女の発言で少なくとも二人の子供が何かしらの事情を知っている可能性が出て来た。そして、私は選ばれた被害者同士の関係性も洗い出し、いくつかの法則性を導き出した。


 天野樹理さんはその後、石竹君と退行した杉村さんとも面会を行なった。あの事件に少なくとも二人の少年が何らかの形で関与していると彼女からの証言で得た可能性は高い。しかし、その人物の特定までは出来ていなかったはずだ。あの時点では。


「ねぇ?さっさと始めましょうよ?回答者が貴女で、先程まで贄として捧げられていた女教皇はさっき私が潰した。次の贄を選びなさい」


「その前に」


「で、さっき言ってた提案は何なのよ?どうしたいのかしら?」


 やや苛立つ殺人蜂がなかなか提案を明示しない私を急かせる。勿体ぶっている間に倒されかねないのでさっさとその条件を提示する。


「そうね……私からの提案は、◯✖︎ゲームをもっとシンプルにしたいというものよ」


「シンプルに?」


「理由を答えなければいけないとはいえ、◯✖︎ゲームでは、正解であった場合、その事実を質問の時に述べなければいけなかった」


「そうね。質問が正か非か、そこから推測をある程度立てる事も出来る」


「本来進行役の一人であるお主は、殺人蜂の人格になってからはその役目を放置しておった」


「面倒だもの。……恥ずかしいし」


「そこでじゃ!只のクイズゲームといこうではないかのぉ。質問を出して、それに答える。それだけじゃ。もし、回答の是非に異議があるなら、そこのキャスターを通して連絡があるだろうし、この贄の中から異議があれば出題者は検討し、それを受け入れる。どうかしら?」


 殺人蜂がコートの下から、◯✖︎棒を床に投げ捨てる。あれも妾が最終的には作ったのに。最初は、割り箸とセロテープと厚紙を合わせたものにマーカーで、◯✖︎と書かれた手作り感満載のものを使おうとしてたけど、クオリティが気になって私が材料を用意させて作った。結構、頑丈に出来ているので壊れてはいないようね。


「そうしましょう。あんなジャッジ方法、喜ぶのは……視聴者ぐらいよ」


 次は順番的に八ツ森側の出題となる。何とかして、彼女が答えられない問題を用意しなければならない。彼女は殺人蜂。彼女の存在が表に現れたのは……夏休み。森で野犬達を皆殺しにしたタイミングである可能性が高い。そして、第五ゲーム時、石竹君と共に授業を抜け出した時も供述では殺人蜂であった可能性が高い。


 その後、退行した彼女がどれだけ殺人蜂に影響を与えていたかは分からない。しかし、私を匿ってくれていた若草青磁の話をお菓子屋で住み込みで働いていた音谷眩から間接的に聞いた話では、若草青磁には協力者が居た。その姿と言動が杉村蜂蜜を指していた事から、退行していない別の人格が彼に協力していた可能性が高い。つまり、軍事研究部部員の失踪と、二川亮の関連性に関して、此方が質問した場合、五割の確率で答えられる可能性がある。相手が正解してしまった場合への予防策は既に打ったが、極力、相手に正解されない方が良いに決まっている。


「さ、えーっと、次は八ツ森側の番よね?さっさと出題しなさい?視聴者も退屈してるわよ?」


 よく言う。こっちは不正解なら即死のサドンデスじゃ。蜂蜜が正解すれば、20秒間の攻撃権が認められる。サシでやり合えば、妾を倒すのに3秒も要らぬ。しかし、此処で大事なのは設問の回転数だ。今までの宣言と熟考を含むやり方では陽がくれてしまう。その前に設問の回転数を上げ、彼等の成そうとしている事の真意へと辿り着かねばならない。恐らく、彼等は順を追って真実を視聴者に伝えようとしていた。けど、それでは遅い。長引く番組は視聴者の体力や私達の体力も削られていく。故に、回答権を事件を最も知りうる人物を得て、かつ、一方的に杉村さんに倒されない贄を選ばなければならない。その二つは何とかこれで解決出来そう。あとは……私が問題を間違わなければ何とかなりそうなのだけど……私が倒れた場合、その次に此方側で事件を知っているのは、恐らく天野樹理だった。けど、彼女は早々に予行演習で脱落。その次に知るのは私の連絡係として務めたアウラだ。彼女も脱落。東雲さんは論外。彼女は正真正銘、事件と全く関係無い。江ノ木さんと鳩羽君は第五ゲームの被験者として選ばれた。この二人は実際の被害者であり、もし、彼女達が残された場合、辛いでしょうけど、被害に遭った内容を問題として提議すれば相手に答えさせない事はまだ可能だ。答えられるかは別だけど。江ノ木さんに関しては文化祭用に用意した映像作品を作り時、一緒に携わっていたから、ある程度の事件に対する知識も有している。北白との面識もある。そして全くの未知数なのが若草青磁だ。彼の事は後で考えるとして、少なくとも、逃亡犯である私の事を匿い、警察にも通報せずにいてくれた。そして、恐らく、彼から洩れたのだと思うけど、私の居場所を知った杉村さんが先日、私を誘拐しに現れた。私と失踪した軍部の人達の場所を知るのは彼以外に居ない。どのタイミングで聞いたかによるけど、恐らく、彼が此処に連れて来られた時に聞いた可能性が高い。もしかしたら、私抜きでもゲームは始まったのかも知れない。その意図は分からないけど、私の存在はこのゲームの存続を危うくさせるものだと危惧した上で、私を誘拐する事を決意した可能性が高い。変に手の届かない所で自由にされていては、そのものを破壊される危険があったに違いない。彼等の望まない展開とは何だろうか?それとも何かを待っているのだろうか?


 此方側からの回答に初めて隠者側が戸惑いを見せたのは、佐藤深緋さんによる回答への異議が唱えられたからだ。


 深緋さんの見解は検死を元にの判断。それまで、憶測や、それに近しい人物の証言を得て正解としていた。


 だけど、今回は違う。検死結果を元に得た物的証拠を以って、断定出来ないとした。私があの事件で関わったのは私の推測が及ぶ範囲までだ。そして、私は現場に直接行く事を恐れ、七年間、事件をずっと解決したものとして考えない様にしてきた。けど、深緋さんは違う。八ツ森にルールが設けられた後も彼女はずっとあの事件を調べ続けていた。恐らく、彼女が知る事件の手掛かりの殆どは物的証拠を伴うものばかりだ。此処から先の踏み込んだ設問に対して、物的証拠が見つけられている件に関しては容赦無く、彼女からの訂正が入るだろう。彼女は恐らく中立。此方に不利になる証言をする可能性もある。杉村さんが八ツ森側から差し出す生贄の選択に対する質問に先ずは答える。この思考している僅かな間でも私はなるべく感情を表に出さない様に務める。その点、多重人格というのは便利なのかも知れない。手の内の読み合いが本当にしにくい。


「それでは……八ツ森側からの生贄をまずは提示するわね?Serect the 棍棒のAce!!」


 スポットライトが、俯き、三角座りをする彼女へと当てられる。ゆっくりと戸惑う様にその顔が不思議そうに此方に向けられる。どう考えても、この面子で杉村さんに拮抗出来るのはハッキリ言って彼女だけだ。杉村さんが順当な選択ね、と言った様に小さく頷く。回答権を半ば強引に移す為に石竹君に一時的に退いて貰ったのは、この部分が大きい。あのキャスターは局の言いなりだった。この面子の素性を知る訳もない。それに、どうも……局側と隠者側が繋がりを持っている気がする。勘だけど。そこをまず、絶たねばならなかった。

「さぁ、壇上へと上がりなさい。棍棒のAceさん!」

 杉村さんが東雲さんを呼ぶと、両腕を垂らしたまま、元気の無い彼女が杉村さんと対極の位置に立つ私の前へと出る。彼女が心配そうに周りを見渡し、私へ振り返るとその仮面を私へと向ける。(||)←こんな感じの仮面なので、絵面的にも凄くシュールで、余計に哀愁が漂っている。仮面越しに彼女の戸惑う声が聞こえてくる。

「私は……あの状態の彼女には勝てない……それでも私を選ぶのか?」

「うむ。妾は、お主の強さを認めている」

「確かに、他の生徒よりは打たれ強い自身はあるのだが……ナイフを手にした彼奴には勝てな……い。しかも私は丸腰だ」

「その為のこれじゃ!」

 私はそっと彼女の手にアウラから託されたものを渡す。

「これは……?!」

「極めてこの戦いをフェアにするものじゃ。覚えているの?石竹君の言葉を」

 コクリとその仮面が上下に動く。ちょっと可愛い。これであとは彼女次第。彼女が上手く立ち回れば、問題だった三つ目の条件もクリアー出来る。私は念の為にもう一つ、杉村さんに提案をしておく。石竹君が居たなら多分、聞いて貰えないと思うけど。

「そうそう、蜜蜂よ。贄達の解錠はお主の役目であろう?」

「受け取りなさい」

 私の意図を即座に察した杉村さんがそれを私に投げる。

「流石、察しがいいのぉ。殺人蜂ホーネットよ」

「そんな枷、私にとっては何の意味もなさ無い。例え、束になって貴女達が私に襲いかかってきたとしてもね?」

「躊躇なく殺す……つもりね」

「えぇ。私が生贄達を殺さなかったのは緑青に嫌われたくなかったからよ。気を失っている今なら心置き無く殺せるわ」

「残念じゃの。随時、全国放送で記録中じゃ。後で彼ぴっぴにバレたら嫌われてしまうぞい?」

「あら、それは残念。まぁ、例え鎖に繋がれて居なくても、扉には此方側からもロックが掛かっているわ。どうせ出られないわよ」

「そのようじゃの。逃げるつもりもないわよ」

「安心した」

「その好意に甘えて、私と贄となった彼女の手錠は外させて貰うわね?」

「お好きに」

 蜜蜂が組んで居た腕を解き、前屈みになって肘をかけて此方の方を挑発的に見つめてくる。いつでも掛かっていらっしゃい、と言った態度に私はたじろぎそうになる。帰りたい。もう二週間ぐらい逃亡犯として生活が続いてて家に帰りたい。あっ、その前に独房行きかも知れない。どちらにしろ、二川亮の犯行を世間や警察に認めさせなければ、証拠テープが見つかっていない以上、石竹君は射殺犯で、私は逃亡犯だ。

「さぁ、早く出題しなさい。次は八ツ森側の出題でしょ?」

 私は東雲さんの手錠を外しながら杉村さんに問いかける。

「作麼生!(そもさん)」

 その掛け声に考えを巡らせた後、少し、頬を赤くした杉村さんがそれに答えてくれる。

「せ、説破せっぱ……」

 この掛け声は、禅の師と弟子による問答の掛け声なのだけど、きっと彼女の頭の中では一休さんのアニメ映像が流れているのかも知れない。それ故の羞恥心なのだ。多分。「作麼生」は疑問を示す言葉「説破」は論破を指す言葉だ。


 <八ツ森側>

「問13.夏休み、街で行方不明となった八ツ森高校一年の生徒、新田透君の死因は?」


 問い掛けを聞いた杉村蜂蜜の冷ややかな表情が、その時、僅かに変化したのを私は見逃さなかった。私は敢えて公言はしていなかったけど、この生贄ゲームの本質は、誠実さの他にもう一つ、問われているものがある。


 それは、自らの犯した罪が何処にあるのかという事だ……。

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