生贄ルール
軽快なPOP音楽と共にハチモリッ!のスタジオ全体が映し出される。
普段はニュースを報道するスタジオであるが故の簡素なセットとは裏腹にスタジオのモニターには、デフォルメされた杉村蜂蜜(蜜蜂のコスプレ)と石竹緑青(白いコートにガスマスク姿)がちょこまかと動き回り、しきりに手元のOXパネルを交互に掲げている。他局のバラエティクイズ番組の司会も勤める鳳賢治が、そのノリに合わせて進行を始める。
「……さぁ!やって参りました!生贄クイズゲームのお時間です!司会の鳳です。そしてスタジオには中継に引き続き同じゲストの方をお迎えしております。そして、なんと、目隠し少女が口ずさんでいた歌が、日本で人気のシンガーソングライターSORAさんの曲だったという事で、共犯者の容疑……ではなく、何か手掛かりを掴めるのでは無いかと、SORAさん本人を急遽お呼び致しました。SORAさん、初めまして、司会の鳳です。どうですか?スタジオに招かれて」
モニターがSORAのトレードマークである空色のセミロングヘアーと、温和そうな顔付きの彼女を捉える。
「こんにちわー。シンガーのSORAです。えぇっと、ホントに戸惑いしかないですね。ですが、あの目隠し少女は何回かライブにも着て頂いている純粋なファンの一人で、特にこれといって私と悪巧みを考えている様な関係性は無いですね。ただ、一度だけ、別件でお電話を頂いた事があります。なんでも自主制作映画の主題歌に私の歌を使いたいとか……それぐらいですかねぇ。彼女、私以上に見たら忘れないビジュアルじゃないですか?だからまぁ……存在は認識していたというか……」
SORAが地毛である珍しい空色の髪に触れると青い粒子が舞う様な輝きを帯びる。その童女の様な顔付きに反して落ち着いたコメントは30歳に差し掛かる相応しい振る舞いだった。此処から遠い北方の森。番組内容を天ノ宮サリアの膝の上で一緒になって端末で視聴する生首少女のエールは残念ながらレポーターが退避した関係で届かない……。
「ですよねぇ……さて、このハチモリッ!では当初から事件を追い続けてきた訳ですが、状況を簡単にフリップで説明するとこうなります」
①市内の高校の文化祭で少年による射殺事件発生。三日後に北白事件の再現を宣言。
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②射殺犯少年の逃亡。その際、二名の女子生徒も誘拐。
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③市内で他、八名の生徒が彼に誘拐される。
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④第四生贄ゲーム事件現場に少年が十名の人質をとり、立て籠もる。
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⑤レポーターとの接触を合図に、警察隊の突入。
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⑦山小屋の周囲に爆薬が仕掛けられ、爆炎が辺りを包む。警察隊の全滅。作戦失敗?
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⑧一人の魔法少女な婦警さんが現れ、翼の生えた甲冑部隊で誘拐犯の少年を包囲する。
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⑨目隠し少女が山小屋の屋根に登り、SORAの曲、千年草を歌う。
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⑩甲冑天使に対抗するかの様に倍の規模を誇る泥人形悪魔が出現し、乱戦へ。
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⑪火中の中、少年は山小屋へと退避する。
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⑫中継の切替え、山小屋の内部が映し出される。
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⑬八ツ森視聴者投票により、最後の生贄ゲーム事件はクイズ形式に。
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⑲そして、今、急遽内容を変更してクイズ番組へ。
「ホント、何を考えているんでしょうか。誘拐犯の少年は……ただ、警察の準備が整うまでの時間稼ぎにはなるかも知れません。それは此方にとって好都合とも言えます。しかし、依然として山小屋の周りには、黒い幽霊と甲冑天使と思われる白スーツ姿の男達が周りを囲んでいます。もし、警察の応援が到着したとしても、果たして、彼らに何が出来るかは定かではありません。もはや、人の理解、人知を越えた事件へと発展しています!」
〆
モニター一杯にガスマスクを着け直した白コートの少年が映し出され、投票後、初めて口を開く。
「私は隠者……さぁ、改めてゲーム(クイズ)をしましょうか?八ツ森の皆さん」
カメラが引くと共に椅子の横には黄色いレインコートに着替えた蜂蜜色の髪の少女がOとXの札を掲げている。そして心成しか表情が一転し、幼さを助長させていた。
「彼女は蜜蜂。私の助手です」
金髪の少女が柔らかく微笑みながらカメラの前の視聴者に手を振る。
「そして、今回の最終生贄クイズゲームに捧げられた贄は彼らです」
カメラの上からのアングルで鎖で繋がれた九人の床に座った少年少女を映し出す。その仮面には大アルカナを示す数字とシンボルが刻まれていた。
太陽(19):(中学生?)
審判(20):(正露◎)
星(17):(ペンタゴン)
死(13):(小学生?)
吊るされた男(12):(キノコカット)
恋人(6):(ももレンジャ)
女教皇(2):(十字架巨乳)
硬貨の女王(Queen):(女王様)
棒の1(Ace):(| |)(ゆる可愛い)
「彼らは謂わば八ツ森に住む人達の身代わりとしてここに居ます。貴方達の采配で彼らの生き死には決まるのです。そして、代表としてスタジオと連携をとるそこの女性レポーターさんに回答して頂きます。レポーターさん、此方へ」
「へっ?私ですか?」という声と共にカメラの後ろで待機していた女性レポーターがその姿を現す。ワンレンのセミロングな髪形をした20代前半の女性がマイクを片手に軽く会釈をする。
「こんにちわ。八ツ森テレビ専属のレポーター、白滝苗です。僭越ながら私が回答者代表として選ばれてしまいました。さて、隠者さん。クイズとは言っても何に関するクイズなんですか?」
カメラが再び隠者と蜜蜂を映す。
「それはもちろん、私が七年前に遭遇した事件、始まりは更にその4年前、北白事件、通称生贄ゲーム事件と呼ばれる少女誘拐監禁事件に関するクイズです。貴方達が忘れかけ、私達被害者が忘れられない事件についてです。まぁ……私に関してはつい最近まで記憶を失っていたんですけどね。ハハハ」
ガスマスク越しにそう嘯く少年の冗談がより不気味さを際立たせていた。
「簡単に説明すると、これは私と八ツ森の皆さんで行なう生贄ゲームです。お互いに質問を出し合い、答えられた段階で反撃のチャンスを得るんです。まぁ、間違えたらそれなりのペナルティはあるんですけどね?もちろん、このゲームは私が死ぬか、彼ら生贄の最後の一人まで勝負は続きます」
画面越しに息を飲む視聴者はその一言に眉を顰める。それは間接的な殺し合いを示唆していたからだ。恐らく、事前にとったアンケートのどれをとっても殺し合いをする流れになっていたのだと。直接的な殺し合いの末の
決着。最後まで耐えに耐え、我慢をし続けられた者だけが生き残る。間にクイズを挟もうが、殺し合う事に変わりは無い。そして脱衣ルールだったとしても、脱ぐものが無ければ殺されるルールが適応されていたのかも知れない。その思考は少年の外観上からは分からない残忍性が垣間見えていた。
「安心して下さい、いきなりゲームが始まっても皆さん困惑するだけでしょうし、ルール説明の後 、予行演習を一度だけ行ないますので流れを掴んで下さい。それに視聴者の方々にお願いするのはアンケートぐらいですしね。ただ……選択は間違わない方がいいですよ?」
ルール:
Ⅰ 最初に生贄を選ぶ。「serect!」宣言後、仮面に書かれているアルカナの呼称「the ◯◯◯」と宣言を行なう。(これは回答者代表であるレポーターの役割)
Ⅱ お互いに交互の質問を出し合い正解なら一分間、隠者を攻撃する時間を選択した贄が与えられる。
Ⅲ 正解不正解のジャッジ(◯✖️)は蜜蜂が基本的に行なうが、その回答を最も知り得る可能性が高い人物が行ない、その判定理由に疑いの余地が無ければ採用され「judge」宣言後、蜜蜂により判定が採用される。
Ⅳ 不正解であった場合、蜜蜂から10秒間だけ贄が代わりに攻撃される。
Ⅴ 出題者は「question」宣言後に質問を開始する。
Ⅵ 質問内容の決定権は隠者側は隠者側のみだが、八ツ森市民側の人間は代表者が他者に質問を募っても良い。回答についても然り。
Ⅶ 回答者は「anser」宣言後、出題者に「accept」宣言して貰い、回答権を得る。二択後、その理由も答える。
Ⅷ 贄が行動不可だと判断された場合、贄としての資格を失う。生死は問わない。
Ⅸ 贄から外された人間は一切の発言権を失う。
Ⅹ 正解の是非は隠者が行ない、回答を月が行なう。
Ⅺ 勝敗は隠者の行動不能により決する。
Ⅻ 北白事件と著しく関係無い質問は却下される。
「さて、早速、練習問題へと移りましょうか……あっ、あと一つ、言い忘れてましたが……これらのルールが破られた場合、山小屋に仕掛けた爆弾を爆破させます。規模的には山小屋を囲む爆炎と同等規模はありますので……死体すら残らないでしょうね……フフフ」
そして僕等の駒は次へと進められた。




