表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
最後の生贄ゲーム
244/319

ハチモリッ!(12月27日14:44中継)

 その異様な光景を報道ヘリはただ無言で世界へと配信していた。山小屋を囲む警察隊が、一人の男子高校生とメスゴリラの様な人質の女子高生に全滅させられ、作戦失敗の報道を流したそのすぐ後、金髪の婦警が突如として姿を現した。


 瞬く間に、石竹緑青を拘束したかと思われた次の瞬間、山小屋を包囲する様に青い光を放つ翼の生えた甲冑軍団が姿を現し、婦警がまるで魔法少女の様に変身する。


 唖然とする報道陣を他所に、更に事態は展開し、数瞬遅れて、山小屋の上に突如として現れたデニムワンピース姿の銀髪少女の出現に眼を丸くする。


「こちら……報道ヘリです……これは現実でしょうか?映像処理では無いかと疑う程の現実味の無さです……あっ、歌が……歌が聞こえてきました……あっ!あんな所に銀髪の女の子が居ます!いつの間に現れたのでしょうか!」


 中継先であるハチモリッ!のスタジオは、流れてくる報道ヘリからの情報に、何の反応を示す事が出来なかった。それ程までに、信じ難い映像であったのだ。


「この歌は……レクイエム……でしょうか?あっ、何だか聞いた事があります……この歌はSORAの唄です!ローカルな人気を誇る、八ツ森市出身シンガーソングライターのJ-POP歌手、SORAさんの千年草というマイナーな曲です!私も好きです!」


 スタジオ出演者のSORAファンの芸能人が私も好きです、といった反応しか示す事が出来なかった。


「えっ!?銀髪の少女を中心に、黒い霧……がみるみると拡がって辺りを侵食していきます!一体何が起きるのでしょうか!我々は黒煙に阻まれ脱出する事が出来ません!ああっ!黒い泥の様な沼から……次々と泥人形の様な怪物が現れました!そして、天使の様な鎧姿の騎士達がその怪物達と戦い始めました!」


 戦いが始まると同時に光が忙しなく瞬き、黒い体の怪物達を寸断していく。レポーターは森の中での戦争をただ実況せざるを得なかった。


「数で勝ると思われた大きな黒い泥人形達。しかし、その半数近くの軍団ながら、聖騎士軍団の力は圧倒的です!その光が敵の身体を微塵に搔き消していきます!その呆気なさに、誘拐犯の少年に加担する悪側の黒い泥人形達を応援したくなってしまいます!おっと!?誘拐犯を泥人形達が抱え上げた?!あっ!でも!魔法少女な婦警さんの弾丸が最も簡単に泥人形達を吹き飛ばしていきます!」


 光と闇、白と黒が混じり合い、畝りとなってぶつかり合う。


「強い!あの婦警さん強いです!対して、あの銀髪の目隠し少女は指揮棒を振っているだけです!あそこで一体何をしているんでしょうか?あっ!今!魔法少女な婦警さんが放った輝く弾丸を目隠し少女に向けて放ちま……あれ?弾けました!何度も目隠し少女に銃弾を撃ち込みますが、その寸前で掻き消えてしまいます!目隠し少女なんか強い!しかし、あれで見えているのでしょうか!戦いにくくは無いのでしょうか!それともそういうプレイなのでしょうか!」


 スタジオにカメラから流れてくる目隠し少女のズーム映像にゲストの精神科医藤森修が驚いた様に眼を丸くする。


「あれは……芽依さん……?あんな危ないところで指揮棒なんて振って危ないですよっ!?レポーターの方!早く彼女に避難指示を!」


 その横で特殊捜査班第5係、ネフィリムと陽守芽依の事情を知る刑事課特別顧問の柳本明が沈痛な面持ちで頭を抱えて深い溜息を吐く。困惑する司会の鳳賢治が、柳本に事情を聞こうとするが、私は何も知らない、の一点張りだった。そしてこれが本当に現実の映像なのかと問われ、一言柳本が付け加える。


「現実……だと言いたい所だが……目の前で起きている現象がカメラを通して編集無しで流れてきているとしても……あそこで起きている現象を恐らく科学的には解明出来ないだろう……な。(全く……あの金髪の女子高生さんめ……どう言い逃れするつもりだ?いや、これが狙いなのか?)」


 藤森が何かを知っていそうな柳本に事情を聞こうとした瞬間、カメラから映し出された画面一杯に銀髪の目隠し少女が此方にバッテンの合図を何度も送る。


「何でしょうか?手旗信号……とは少し違うようです……カメラさん、口元にズーム出来ますか?えっーと……き、が、え、る、あ、ら、だ、め?どういう意味でしょうか?あら?少女の手に握られていた指揮棒がいつの間にか幾何学的な錫杖へと変化してます!いつの間に?あ?何か……光っ?!」


 一瞬、画面にノイズが走り、カメラが捉える映像が大きく揺れ、ヘリ自体が流されていく。黒煙に穿たれた大きな穴は目隠し少女から放たれた閃光によるものだと認識した瞬間、遠くから伝わってきた衝撃の余波がヘリをコントロール不能に陥れていった。操作の効かなくなったヘリが黒煙の壁を越えて流れていく間際、レポーターがヘリの傾いた瞬間に変化した状況を伝える為、指先を天上に何度も向ける。


 カメラもそれを捉えていた。


 遥か上空、段ボール箱を被った翼の生えた男が……その手に抱えた一人の黒装束の少女を目隠し少女へ向けて落としたのだ。身体を丸めていた黒髪でツインテールの低身長な少女が身体を伸ばすと、その手には短刀の一本が握られていた。その裾や丈の短い装束はくノ一を彷彿とさせた。唖然とする世間を置いてけぼりに、その少女は落下と同時に目隠し少女の胸部に勢いに任せて突き立てた。


「く、黒髪のツインテ少女が飛来した瞬間、目隠し少女を刀で貫きました!そして……あっ!?その首が、15歳ぐらいのツインテ少女によって斬り落とされました!一瞬の出来事です!空中に目隠し少女の頭が回転しながら落下運動を始めています!これはちょっと!放送出来ません!黒髪ツインテ少女が目隠し銀髪少女の首を刎ねました!あら?先程までは無かったのですが!山小屋が!山小屋が黒い球状のドームに覆われています!一体!何があったのでしょうか!あぁ、ダメです!衝撃で黒煙の包囲網から脱出する事は出来ましたが、今度はその煙が邪魔をして!映像を撮る事が出来ません!助かりましたが、これではどうなったかが分かりません!今後は、地上の別のレポーターからの中継でお送りしまぁすーっ!!ありがとう!銀髪の目隠し少女さん!貴女の事は忘れません!あぁ、パイロットさん!安全運転でっ!!」


 映像がプツリとそこで途絶する。唖然とするハチモリッ!のスタジオを静寂が包み込む。最初に声をあげたのは精神科医の藤森修だった。


「芽依さん……あの子は昔、幼少期に事件に巻き込まれ、兄を失い、そして自身も両目の眼球を失った女の子なんです。眼の移植手術には成功した様なのですが……そんな彼女が何故殺されないといけないんですか?おかしいですよね?」


 頭を抑えながら刑事課特別顧問の柳本が答える。


「……安心しろ、あれぐらいでは彼女は死なんよ。むしろどうやれば死ぬのかを知りたいぐらい……いや、儂は何も知らんぞ?藤森さん、人違いじゃないですか?」


「いや、でも、あの銀色の髪といつものデニムワンピースに、目隠し姿……見間違う訳は無いですよ」


「まぁいいさ……それに関して私からとやかく言える権限はもう持たされていない。とにかく、此処で問題になっているのは……警察がみすみす少年を取り逃がした事にある」


 そのあまりの現実離れした光景に誘拐犯の立て篭り事件である事を思い出した司会の鳳が取り繕う様に番組を進行させる。丁度、現場との中継が繋がったと連絡もあったからだ。


「そ、そうでした!今の映像が偽物だったとしても、射殺犯の少年が同じ高校の生徒達を誘拐した事実に変わりはありません。テレビをご覧になっている皆さん!先程、連絡が入りましたが、地上の別のリポーターからの中継が繋がったようです。引き続き、ハチモリッ!ではこの事件を独占して生中継したいと思います。尚、他の局も現場に出向いた様ですが……爆煙と地雷原が予想されるエリアに阻まれ、侵入する事自体が不可能とされている様です。警察側も恐らく、新たな体制の立て直しが必要な状況となっています……映像、切り替わります!」


 〆


 2012年12月27日14:57


 それはメディアジャックに近かった。

 山小屋内へと映像が切り替わった瞬間、各局がその事件の異様性を目の当たりにし、放送している番組を中断し、ハチモリッ!で放送されている石竹緑青による最終生贄ゲームの映像へと繋げられていく。


 画面の中で白いコート姿に不気味なガスマスクを着けた少年が視聴者へと呼びかける。


「皆さん、お久し振りですね……僕は石竹緑青……かつて北白事件、その四件目に巻き込まれた少年の一人です」


 薄暗い部屋の中、裸電球の光を背に受け、椅子に腰掛ける少年がカメラを見下ろしていた。カメラが徐々に引いていくとその傍らには黒コートの女性が寄り添う様に立っている。彼女もまた鳥を模したガスマスクを着用していた。


「まぁ……今更説明しなくてもご存知ですよね。七年前、記憶の一部を失った僕の為に父は八ツ森市民の皆さんに頭を下げた。僕自身に僕が遭遇した事件の事を話さない様にと。因みに……私の横に立っている彼女も僕を助ける為にその事件に介入し……長くその精神疾患に苦しんでいました。私が被害に遭った事件を簡単に説明しておきましょうか……」


 ■2005年5月8日、東京都八ツ森市に住む当時36歳無職の「北白直哉」は同市内の雑木林にて少女「佐藤浅緋」(9歳)を殺害、現場近くに居たとされる少年「石竹緑青」(10歳)にも軽傷を負わせたとして警察に逮捕される。その場の状況証拠、本人の自供等から日本警察では彼が一連の少女殺害事件の犯人と断定。法廷では一連の事件の被害者、少女4人に対する殺人罪から無期懲役の判決が一度下されるが重度の精神障害が明らかになり、その身を更生施設に移送される。


「僕は自身がこの事件の被害者である事を知りませんでした……僕がその事実を知ったのは約二ヶ月前の11月です。先日、署内で自殺を図った父に直接的聞きました……。今となっては分かりませんが……父は僕にその事を伝える為だけに生きていたんだと思います。だから刑期満了後、僕の母を殺した罪を贖う為に自ら死を選びました。本当に……どこまでも勝手な父なんでしょうね……」


 そっと少年の震える肩に横に立つ少女の手が添えられる。落ち着きを取り戻した少年はそっとマスクに手を掛けてその素顔を二人は全国に晒す。その素顔を目の当たりにした視聴者は驚きを隠せないでいた。警察相手にあれだけの立ち回りをした誘拐犯が、本当に何処にでもいる様な17歳の男子高校生だったからだ。そしてその隣に立つ少女は暗がりの中に於いても金色に輝き、何処までも透き通る緑青色の瞳が視聴者をじっと見据えていた。誘拐犯が素顔を晒した事、そして横に佇む金髪の美少女の存在が一役買い、情報は見る間に拡散されていく。テレビだけでは無く、次々とネットを介して拡がり続ける情報。若者達も過去起きた事件に対し、その情報を掬い上げようとするが北白事件の四件目とされるその情報は何処にも残っていない。それがデマなのでは無いかと囁かれる中、少年が再び口を開く。


「今、私が話した事件の内容は……恐らく何処にも情報は残っていません。その事件で生き残った僕の心を助ける為に全てが消されています。その情報も……そして僕と一緒に被害の遭った一人の女の子……佐藤浅緋さんの一切の記録と共に」


 苦しそうにしていた少年の表情が一変し、八ツ森全ての人間を憎む様にその鋭い視線が視聴者を射抜く。


「それで誰かを……救ったつもりで居たんですか?八ツ森の皆さん。僕がこの事実を知った時抱いた感情は感謝等ではありませんでした……一人の幼い少女を絞め殺した罪悪感に絶望し、そして……憤怒です。何故、頼んでもいない事を勝手にするのかと。一人の少女の存在を消して置いて、何故、一人の少年を救った気でいたのかと」


 淡々と語られる少年の胸の内。視聴者である八ツ森市民はその事には向き合わないでいた事に気付かされる。そしてカメラが引いていくとその異様な光景に再び画面に釘付けになる。


 其処には八ツ森高校の制服姿の九人の少年少女達が、奇怪な仮面を被せられたうえでその片腕を鎖に繋がれていたからだった。


 その中の一人、星の模様が描かれたマスクを取り、ある少女の素顔が映し出される。その行動に誘拐犯の少年と少女が僅かに驚いた顔になる。


「そしてもう一つ……我々は罪を犯しています。七年前の四件目の事件……私は進展しない警察の捜査に痺れを切らし、被害者の一人である私自らメディアを通じて世間に訴えかけました……しかし、それは、物珍しさが生む好奇の目が世間を騒がしただけに過ぎませんでした。確かに、既に犯行の行われた一件目、二件目、の真相解明には繋がりましたが……氾濫する情報の中、私は……佐藤浅緋さんの有力な情報を見逃してしまいました。メディアがこぞって騒ぎ立てる中……もうこれで安心だと解決した気になっていた世間を嘲笑うかの様に……四件目の第四生贄ゲームによる贄が捧げられたのです……それは私の罪であり……また、皆さんの罪です。そして、一人の少年の為だからと託けてその事からは目を逸らした。小さな罪悪感を隠す為の大きな善意……彼等はその所為で今も苦しみ、前に進めずに居ます。だから……私達も前に進みませんか?彼等と一緒に……」


 画面に映し出された八年前、メディアを賑わせた白髪の美少女、日嗣尊がその変わらぬ容貌で世間へと訴え掛ける。彼女に関しては少年を刺したとして指名手配されていたが、取り戻した艶やかな黒髪と美貌が有無を言わせぬ説得力となって視聴者に訴え掛ける。それにより、話題性は更に高まり、八ツ森を含める日本そして世界が彼等に注目する。


「彼が私達を誘拐し、こうして画面の前に現れたのもきっと、一人の幼い少女の弔いの為……に?」


 日嗣尊の言葉を遮る様に石竹緑青はいつの間にか手にしていた拳銃を一発、放つ。そして徐ろに立ち上がると彼女の脳天にそれを突きつける。


「緑青君?」


 石竹緑青の笑い声が部屋に反響する。


「勝手に人の気持ちを語らないでくれませんか?それに、此処からが視聴者お待ちかねのお楽しみタイムですよね?」


「へっ?」


 石竹緑青は突きつける銃を彼女から離すと、左手で彼女の頬を払い、床へと引き倒し、口の端から血を流す日嗣尊の顔を持ち上げ、カメラへと向けさせる。


「皆さん、隠したって無駄ですよ……あなた達がこうして事件の中継を見守るのは……悪への憤りでも無く、死んだ少女達の弔いの為でも無い……ただの好奇心です。日常を何の有り難味も無く過ごす貴方達はどこか非日常的な刺激を無意識に求めている。こういったバイオレンスなシーンや……」


 石竹緑青がコートの下から折り畳みナイフを展開し、日嗣尊のブレザーを乱暴に脱がせると、ブラウスとスカートを斬り裂いていく。


「美少女が嬲られていくシーンがあると尚更いい……そういうものでしょ?貴方達は……」


 彼女の露わになる白い肌には幾つかの傷跡や癒え切れていない斬り傷が白昼の下に晒される。抵抗しようとする彼女の髪を掴み、言葉を吐きかける。


「弔い?そんなのはどうでもいいんですよ……僕はただ……殺し合いを近くでみたいだけなんですよ。視聴者と同じでね?」


 日嗣尊が唖然とした顔で呟く。


「君も……まさ……か?」


 愕然とする日嗣尊を石竹緑青が放すと、ナイフと銃を手にモニター前まで歩いてくる。その背後では仮面を付けた生徒達がじっと様子を見守っていた。


「さぁ……生贄ゲームの始まりです。被験者はこの九人の生徒達。そして……八ツ森市民全員です。そうですね……ゲームマスターである僕の事は……隠者(ハーミット)とでもお呼びください」


留咲アウラ「みこっちゃん、大丈夫…ですか?私のブレザーを羽織って下さい……」


日嗣尊「(ドキドキ…なんだろう…この気持ちは…)」


天野「(尊……目覚めてしまったのね……)」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ