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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
終わりの始まり
238/319

ハチモリッ!(12月27日放送分)

 今朝のニュースをお伝えします。

 先日の12月26日、八ツ森高校に通う生徒、江ノ木カナさん、鳩羽竜胆さん、留咲アウラさん、東雲雀さん、田宮稲穂さん、そして、市内の病院への道中、天野樹理さんの行方が分からなくなったとの情報が警察に寄せられました。これら一連の誘拐については八ツ森高校男子生徒射殺事件との関連性を警察では調べています。又、午後の放送内容につきまして、一部内容を変更してお送りする予定です。


 *


「皆さん!私の声に少しでも耳を傾けて下さるなら、どうか児童達を森へ遊びに行かせてはいけません!恐らく犯人はまだ八ツ森を囲む霊樹の森で犯行を重ねるつもりです!犯人が特定されるまでどうか森には近付かないで下さい!私の様な被害者をこれ以上増やさない為にも!」


 画面に映し出されているのは北白事件の全貌が明らかになる前、当時12歳の日嗣尊が世間にその危険性を訴える為にメディアに顔を出した映像だった。その事件で双子の姉である命さんを失った事件被害者である日嗣尊は事件の連続性を誰よりも危惧していた。これ以上、自分達の様な被害者を生まない為、発生から二年以上も捜査の進展が見られない警察を見兼ね、メディアの伝手を使い、世界へと訴えかけた。


「私と姉を誘拐し、山小屋へと監禁した男は私達を殺し合わせようとしました。しかし、怯える私を余所に……私の姉は鎖で柱に繋がれていた片手を……自ら切り落として犯人に立ち向かいました。恐らく、私達の事件から一年以上も犯人による再犯の情報が無いという事は、姉が刺した傷を癒している時間だと見ています。犯人を特定し、次の少女誘拐監禁事件を未然に防ぐ為の最後のチャンスが今なのです!どうか!過去に森で行方不明になった小学生以下の少女達の情報を警察や私達にお寄せください!」


 事件後のショックで白髪となった髪と綺麗に整った顔立ちに世間は否応無くその少女に注目する事となる。そして彼女によってもたらされた一つの真実が世間を驚かせると同時に罪の意識を世間に芽生えさせるには十分だった。


「犯人が私達に向けた言葉の中に過去の誘拐された少女に向けたと思われる発言があったのです。その手掛かりを元に私はここ五年の間に森で行方不明となり、捜索届けが出されている少女達全員の素性を調べました。その中で捜索願いが取り消された少女が存在する事が判明しました。その少女の名は天野樹理。そう……私達が畏怖を込め、深淵の少女と呼ぶ八ツ森小三女児無差別殺傷事件の加害者です」


 八ツ森の人間はその時初めて、自分達の認識が間違っていた事に気付くのである。


「現在、精神病棟で入院されている彼女は、虚ろな瞳でいくつかの単語を呟いていたと伺いました。山小屋、男の影、一つのナイフ、繋がれた鎖、手首、生贄、ゲーム、そして殺し合い。これらの単語は……」


 画面に映る12歳の少女は自らが体験した出来事を想起させるその言葉に苦しみの表情を浮かべながら会見台に一度手をつき、心臓を苦しそうに抑える。彼女もまた事件被害者であり、その事件から二年しか経過していない。愛する姉を失った喪失感と姉に助けられ、自分だけが助かってしまった事に対する罪悪感が混在していた。しばらく呼吸を整えた後、彼女がその決意を湛えた黒目がちな瞳で視聴者を、まだ見ぬ犯人を睨みつける。


「私の遭遇した事件の状況とほぼ一致します。深淵の少女と呼ばれた彼女は私と同じ事件の被害者である可能性が限り無く高いのです。そして、同時期に森で行方不明となったもう一人の少女。里宮翔子さん。彼女もまた同じ事件の被害者であり、恐らく、天野樹理さんと同じ山小屋に監禁されたもう一人の少女だと考えられます。これらの事実は事件の関連性と連続性を強く予見させるものであり、そして、天野さんと里宮さんの接点の無さから、姉妹や双子を狙った犯行では無く、対象者は無作為である可能性が非常に高いと言えます」


 無作為に選出される10歳前後の少女が事件の対象となると八ツ森市民はその危険性はもはや他人事では無くなっていた。


「だから、どうか、私達にどんな些細な情報でも構いません。情報提供にお力添えを頂く様宜しくお願い致します!」


 深々と頭を下げる白髪の美少女に世間は心打たれ、様々な情報が彼女と警察に集められた。モニター越しに映る12歳の少女が目に涙を溜めて訴えかける少女の映像はその年、二〇〇五年の五月の初旬、危惧されていた生贄ゲームの四件目は発生し、それに伴い、彼女の名と姿はそれ以降、各報道機関により封印され、メディアからその姿を消した。それは追いやられたのでは無く、生還した一人の少年の為だけに自らがその姿を消したのである。一時的ではあるが12歳の白髪の美少女の知名度は並みの芸能人を超えた程で、未だに当時の彼女を知る者で構成されたファンクラブが存在している。噂ではそれを星の教会と呼ぶのだとか。


 七年前の日嗣尊にクローズアップした映像からスタジオへとモニターが返される。

 先日に引き続き、ニュースキャスターの鳳賢治が司会を担当する「ハチモリッ!」内では北白事件に関する特集が組まれていた。


 ……スタジオには引き続き、八ツ森警察特別顧問 柳本明 さんと、市内のフリーの精神科医である 藤森修 さんをゲストにお迎えしてお送りしております。こんにちわ。


 柳本「……こんにちわ」

 藤森「ども」


 こちらの映像ですが、七年前の当時、何度か報道されていたものですが……。


 藤森「……直接的ではありませんが、この映像も八ツ森のルールを破り兼ねません。今、放送すべきでは無いでしょう?」


 確かにそうかも知れませんが、今回の八ツ森高校男子生徒射殺事件に於いて、この白髪の少女は撃たれた少年を二週間ほど前に刺した後、姿を消しました。先日の深淵の少女こと、天野樹理さんの話によれば彼女は既に死んだという事実を電話を通じて私達に突きつけました。彼女の犯行の真意と動機がどこにあるのか。そして、同じく、彼を射殺した。彼の動機に彼女との関連性を見出す事が事件解決に繋がる糸口になるとは思わないんですか?


 藤森「それはそうですが……私達がしようとしている事は、八ツ森の皆さんがこの七年間培ってきたものを覆そうとしている行為に近いんですよ?鳳さんはそれでも構わないと?」


 私として……というよりも、世論としては拳銃片手に女子高生二人を誘拐し、立て籠もっている凶悪犯罪者ですよ?まだ彼の肩を持つ気ですか?私達がもう……彼の都合に付き合う必要性は無いんですよ?


 藤森「しかしだね……彼が射殺した男子生徒同様、誘拐した少女達を撃ち殺すとは思えないだよ。先日の件で明らかになったが、彼と共に行方をくらました少女は病院でマグナム銃をぶっ放す娘だよ?そんな彼女があの少年に易々を撃ち殺されるような事は無いと思うよ。もっと別の何かがあると見た方が……」


 柳本「しつこいよ、藤森先生。彼はもう列記とした犯罪者だ。殺人も犯している。しかも目撃者の話によれば私達に八ツ森市民に復讐をしようとしているそうじゃないか。そんな彼の肩を持つ理由が君には無いはずだ」


 藤森「だが、彼は私達に復讐しようとする様な子では無い印象を受けた。それに復讐するなら無関係の者を狙うはずだ。何故、同じ被害者側に居る人間を誘拐するんだ?説明がつかないじゃないか」


 柳本「それは彼が健常者である場合に通用する言い訳だ。彼の内側にはどんな悪意が潜んで居るかも私達には見えないだろ?それに彼は目撃者の証言によると当時の記憶が戻ったそうじゃないか……同じ年頃の少女を殺した頃の殺人者としての記憶がね」


 柳本がその眼鏡の位置を修正した後、カメラに向かって宣言する。


 柳本「皆さん、これは私の推測ですが……もし、彼の失われていた記憶が彼の性格を形成する上で重要なファクターとなっていた場合……殺人の味を覚えた少年の記憶が戻って次にする事は何かと考えて頂きたい」


 藤森「やめて下さい!意図的に視聴者に一方的な印象を与えるのは!彼はまだ17歳の男の子ですよ?」


 柳本「十歳で同年代の女の子を絞殺した少年。それが世間の印象だよ。それでも君は彼に殺された被害者遺族の気持ちを無視して、殺人鬼の少年の肩を持つのかね?話によれば……彼の父親は妻を殺し、息子である彼すら殺そうとした。しかも刑期も終えないうちに獄中で自殺したと報告があってね。罪すら償えない父から生まれた子供だぞ?血は争えないよ、殺人鬼の息子はどう足掻いても殺人鬼なんだよ」


 藤森「……違う。彼はそんな男の子じゃない。彼は絶望の淵にいた同じ事件被害者の女の子を愚かな我々達から救い出したんだ。そんな彼が殺人鬼の訳がないだろ?」


 刑事課、特別顧問である柳本から吐き捨てる様な笑い声が聞こえる。


 柳本「銃を片手に脅して病院から連れ出したんだろ?それに……こうは考えられないかね?記憶が戻った彼には現行の人格の他に、凶悪性を伴う殺人鬼の人格が記憶と共に蘇った」


 藤森「つまり、彼の失っていた記憶には別の残忍性を伴う人格が眠りについていた。逆に言えば彼自身がその人格を否定し、深い深い意識下に当時の記憶と共に追いやったと?」


 柳本「あぁ。所謂精神が解離した状態だ。所謂二重人格という奴さ。彼の衝撃的な体験はそれを起こしうるだけのインパクトはあったはずだ」


 藤森「完全な 二重人格……正確には症例はあるものの、解離性多重人格障害と呼ばれる人格障害は極稀です。それに彼の場合は過去の問診票を見る限り、解離性系統的健忘です。それが蘇ったからと言って殺人衝動に襲われるのは考え難いと私は思っています」


 柳本「彼の残忍性がその記憶と共に蘇ったとは考えられないか?」


 藤森「彼の失った記憶とは一人の少女の記憶です。それに殺人衝動が抑えられない状態を伴うとしたら必ず人格や性格、性質に如実に現れてきます。彼の過去を知る人物から話を複数お伺いしましたが、とても素直で真面目な良い子だと聞いています」


 柳本「精神的病質サイコパシーは彼には見られないとでも?」


 藤森「確かに、少々無茶な事をしでかすきらいはある。しかし、それは同じ被害者達の痛みを知るからでもあります。彼は誰より、同じ被害者に対する仲間意識が強いだけです」


 柳本「ハッ、その仲間意識が強い彼が同じ事件の被害者達を誘拐するかね?しかも、話によると最後の生贄ゲーム事件を行うと大々的に多くの聴衆の前で宣言したんだ。この生贄ゲームが指し示す暗示は君も分かるだろ?先生?」


 藤森「はい……北白直哉が行おうとした生贄ゲームを模倣するとすれば……それは生贄に選ばれた者達による殺し合いです。気になるのはそれが最後という事です」


 柳本「最後という事は全員殺すつもりでは無いのかね?」


 藤森「私は貴方の様な犯罪の専門家では無いので分かりませんが、少なくとも全員では無いはずです。あの生贄ゲームには二件目以外、生き残りが居た」


 柳本「そうだね。二件目は血の流し過ぎで両者死亡という結果だったが、片方の少女の遺体はきっちりと現場となった山小屋近くに埋葬されていた。片方は遺体の一部しか発見されてないままだ。大方、野犬にでも食われたのだろうが」


 藤森「少し待って下さい?……えっとですね、彼は生贄ゲーム事件の審判者であると共に、記憶を失ったとは言えあの生贄ゲームの勝者です。もし、その決着をつけるつもりなら……彼と最後に生き残る者との殺し合いが設けられているかも知れません。最後の生贄ゲーム……その最後とはもしかしたら……彼自身にとっての最後?」


 柳本「そんな事は些細な事だろ。今は彼の凶行をなんとしてでも止め、誘拐された人間を救い出す事が優先だ。警察としては銃保持者の彼に対して強行な手段に出る事も厭わないつもりだがな」


 藤森「それはつまり……」


 柳本「あぁ。人質の命を優先すべく、射殺をも厭わないという事だ」


 藤森「そんな……」


 柳本「日本は甘いのだよ。海外でも未成年による銃乱射事件で何人もの尊い人命が失われているんだ。その中に君は警察側の命も含まれないと?」


 藤森「それは……ですが、待って下さい!もう少し慎重な捜査を」


 柳本「先生、分かってますか?彼の言葉では今日、その最後の生贄ゲームが行われると宣言されているんですよ?もう時間が無いんです」


 藤森「し、しかし」


 柳本「犯罪者とそうで無い者の命、貴方はどちらを優先してお考えですか?」


 藤森「しかし、彼は純粋な加害者では無い!被害者でもあ……」


 討論をする二人の元、画面上に番組スタッフの一人が現れて、端末を司会の鳳キャスターに渡す。


「なんですか?えっ?本当ですか?」


 司会の顔色が変わり、驚いた様に目を見開くとカメラに目線を送る。


「えぇ……ご視聴の皆さん。ただいまスタジオに、日嗣尊を名乗る人物から電話が繋がっております」


 鳳が恐る恐る通話相手に話しかける。


「あの……白髪の美少女、日嗣尊さんですか?」


 電話相手の声を聞き取る為にスタジオがしんと静まり返り、それと同じ様に視聴者の間でも緊張感が走る。


『コホン。そうじゃ!八年前、メディアに颯爽と現れ、北白事件を解決に導いた元白髪の美少女!日嗣尊、その本人じゃ!』


 ブチッ。


 その第一声と共に司会の鳳が通話を慌てて切って話を中断させる。


「し、失礼しました。どうやら新手のイタズラ電話のようです。引き続き、スタジオでは専門家の先生方と共に事件の成行を見守って……」


 再び、端末が鳴り響き、スタッフと視線でやり取りを行なった後、渋々その電話をとる。


『ひ〜ん、し、信じて下さいぃ〜!本当に日嗣尊本人なのじゃ〜っ』


「そう言われましても……私達が知っている震えながらも世間に事件の危険性を訴え続けた白髪の美少女、日嗣尊とのイメージが掛け離れ過ぎていまして……先日も深淵の少女こと、天野樹理さんから貴女の死亡報告をお受けしましたし」


『むむぅ……そう言われても妾は妾じゃ!まぁ良い!この通話を通して聴くのじゃ!』


「(これ、いいんですか?このまま流して?あっ、いいんだ……)」


『世間よ!お主らは一つ、勘違いしておる!報道で取り上げられた一幕だけの情報を信じてはならぬ!一連の報道で、私と逃亡した石竹緑青は一人の少年を殺した罪で取り上げられておるが、この射殺された少年は先日の樹理たんからの通報通り、北白直哉の共犯者であり、あの生贄ゲーム事件を始めた少年でもあるのじゃ』


「射殺された少年は……年齢的に当時7歳程と思われますが、北白事件とどういった関わりを持つ考えているんですか?それに、七年前、貴方の口からそんな情報が語られませんでしたよね?なんで今更そんな事を?」


『確かに共犯者とは言っても直接手は下しておらぬ。しかし、あの生贄ゲーム事件を行なう様に仕向けたのは恐らくその少年じゃ』


「幼い子供が大人を唆したと?」


『助かる為にの』


「どういう意味ですか?」


『この生贄ゲーム事件、36歳の男が考えたにしては幼稚性を伴うとは思わぬか?言わば穴だらけじゃ。しかも証拠隠滅の工作後もほぼされておらん。現場を押さえられれば即座に犯人は特定される。いや、そうなった時の為、彼がきちんと犯人として捕まる算段をしていたのかも知れぬ』


「……確かに幼稚性は感じられますが、それは彼が精神疾患を伴うからで……」


「幼稚性と精神疾患は直接的に結び付く事は無い。の?藤森先生?」


 藤森「やぁ。お久しぶりだね。尊ちゃん。その話し方、本人で間違いなさそうだ。生きてて良かったよ」


『いえ、こちらこそまたこうして話せるとは思いませんでした。この事件、彼の衝撃的な性格の他に裏を返せば緻密に計算された明確な悪意の様なものは感じませんか?北白直哉の動機はあくまで自らの穢れた魂の浄化。そして彼自身が最も危惧していたのは古い習わしにある四方関する森の監視者達による贄の儀式。弱まる霊樹の結界を彼は再び強めようとした。それだけなのです』


 藤森「確かに、当時違和感は感じて」


 柳本「横から失礼するよ。彼は元からひどい妄想癖があった。それがあの凶行に」


『お主には聴いておらぬ。引っ込んでるのじゃ!このくそ眼鏡たぬき!』


 柳本「た、たぬ?!」


 藤森「えっと、たぬきが失礼しました。そうですね……八ツ森の廃れた習わしの一つ、古い文献の一つに八ツ森の霊樹、別名「陰陽樹」の性質と言い伝えは確かにありました。それは公には発表されておらず、四方の地主達の日蔵書として扱われておりました。その書物を彼が幼少期に読んで影響を受けていたのなら確かに説明はつきますね。しかし、その書物には……」


『そうじゃ。何処にも天使による浄化や、少女二人を殺し合わせる記述など無いのじゃ。そして彼の口から、あの犯行は儀式と口にしておったが、生贄ゲームの犯行中、彼自身の言葉から被験者達に発せられた表現は“ゲーム”じゃ』


 柳本「まさか……私達のプロファイリングが甘かったの……か?」


『うむ。眼鏡たぬきよ!妾達は当時、大きな過ちを犯しておったのじゃ。犯行を阻止すべく、実行犯の確保を急ぐあまり、他の可能性を潰しておった。しかも、作られた八ツ森のルールに気取られるあまり、あの事件は既に解決したものと思い込んでしまっておった。その底、深淵に沈む幼い悪意に気付かぬまま』


 藤森「まさか……あの事件はその幼い悪意が彼を導き、何人もの幼い少女の命が屠られたと」


『うむ。其奴、射殺された二川亮はその悪意を持って北白直哉を導いたのじゃ。陰陽樹や霊樹の森が作り出す結界について文献に書かれていないオリジナルの部分、恐らく、天使による浄化と二人の贄となる少女の選定、その部分が捏造された可能性が限り無く高いのじゃ!』


 藤森「もし、それが事実なら……その射殺された男の子はどれだけの悪意を世間に持っていたのでしょうか。しかし、私が日嗣尊さんを擁護する為、二川亮君のご家庭の話を伺った際に虐待などの話は聞かなかったですよ」


『奴は、恐らく生まれながらにしての病質者なのかも知れぬ。事実、彼はこの半年間に八ツ森生徒9人、いや、北白直哉の再犯を促し、北白の弟も野犬に襲わせた。そして3人の一般人も第五ゲーム時には巻き込んでおるから14人の人間を直接的又は間接的に殺しておる。未遂事件も合わせれば立派な凶悪連続殺人鬼シリアルキラーじゃ』


 鳳「(少年犯罪に実名出してるけど、いいんですかね……)」


 柳本「待ってくれたまえ。そんなに人を殺しておいて話題にならないはずが……」


『あぁ。殺された人間は北白兄弟以外、自主的に行方を眩ました人間じゃ。最初の被害者、新田透君以外の』


 柳本「その子は確か、夏、森で行方不明になって野犬に食い殺されたと。しかし、目撃情報では金髪の女の子が関連していると」


『うむ。繁華街での目撃情報は確かにその金髪の女の子で少年を拉致したのは、ハニー=レヴィアンで間違い無いわ』


 柳本「ハニー=レヴィアンだと?あの英国の国防省に関わりのあるゾフィー=レヴィアンの娘だと?」


『うむっ。彼女は4月の初旬に起きたクラスの襲撃事件で幼馴染である彼の身の危険を感じ取り、一人で北白事件の共犯者、始まりの少年を追っていた』


 柳本「それが事実なら、少しまずいことになるな……」


 藤森「柳本さん?」


 柳本「日嗣さん、一つ聴いていいかい?」


『なんじゃ?』


 柳本「射殺容疑をかけられている少年が誘拐したもう一人の少女についてだ」


『あぁ。それは恐らく、偽名を使っていたハニー=レヴィアンだと思うわ』


 柳本「……」


「どうしたんですか?柳本先生?」


 柳本「今回の件、日本だけじゃなく、テロ対策として英国軍が八ツ森に乗り込んでくる可能性が否めない。七年前の様にね。私は知らされてないが、警察内部でそういった動きも出ているかも知れない……」


「英国側が関与した場合、どうなると?」


 柳本「人質の価値が等価では無くなるのだよ」


「まさか……」


 柳本「他の人質の命の優先度が下げられる可能性は十分ある。そして物量で拠点を制圧されれば……それに巻き込まれ、多くの命が奪われるかも知れない。警察側の特殊部隊捜査班もそれに巻き込まれる可能性が……」


 藤森「ちょっと待って下さい?特殊捜査班って……」


 柳本「あぁ。世間ではSITという呼び名の方が知れてるだろうね……」


 藤森「既に手配されていると……少年の潜伏先場所に検討はついていると?」


『なんじゃ?まだ警察では見つけられておらぬのか?それなら恐らく、彼が事件にあった場所。因縁深い北方の森、その山小屋で彼は最後の生贄ゲームをするつもりよ?』


 騒然とするスタジオに突如として中継映像が流れ込んでくる。

 北方の森、上空を旋回する報道ヘリからの中継で鬱蒼と生い茂る森に佇む大きい山小屋を映し出していた。そして画面が切り替わると女性レポーターがカメラを前に、山小屋の近くから中継を始めだす。慌ただしく動き回るプロテクターを付けた警察の部隊が着実に山小屋を包囲していく姿が映し出され、森がこれから始まる惨劇を予見する様に騒ついていた。


 鳳「今、現場から入った情報ですが、どうやら二時間ほど前、立て篭もり犯の少年から小屋内を中継する為、女性レポーターとカメラマンが単独で現場の中へ向かう様に指示されたようです。どうやらこれから立て篭もった少年による最後の生贄ゲームが始まる模様です。おっと、今、山小屋の扉が開かれ、何者かが姿を現しました!」


 山小屋の扉を開け、出て来たのはネズミを模したガスマスクに白い法衣を纏った人物とまるで鳥の様なガスマスクを付けた黒いコート姿の女性だった。


 恐る恐る、女性レポーターとカメラマンが近付いていくと、徐々にその人物の姿を鮮明に映し出していく。彼女を手招きし、呼び寄せ、カメラに向かって変声器によって変えられた奇妙な声がマスクの下から溢れる。


「……よく来て下さいました。さぁ……始めましょうか。世間の皆さん。今から最後の生贄ゲームの始まりです……フフフ……」


こうして最後の生贄ゲームは始まりを告げたのです。



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