ハチモリッ!(12月26日放送分)
12月26日、今日は快晴で気温も午後から暖かくなりそうですね。
こんにちわ、司会の鳳賢治です。
早速ですが今日の「ハチモリッ!」は先日の八ツ森高校男子生徒による射殺、誘拐事件について一部の番組の内容を変更してお送りします。
今回、スタジオにお招きしているのは八ツ森警察であらゆる刑事事件の特別顧問として活躍されている柳本明先生と、市内でフリーの精神科医を務める藤森修さんにお越し頂いております。本日はどうぞ宜しくお願い致します。
柳本「はい、お願いします」
藤森「お手柔らかにお願いしますよ」
まず始めに今回、同じ高校の生徒を射殺し、クラスメイトの少女二人を誘拐した罪で手配されている少年「I」の人物像についてですが、実はこの少年、市内ではある事で非常に有名なんですよね?柳本先生。
柳本「はい、実名こそ挙げられてはいませんが、私どもが説明するまでも無く、皆さんはこの少年Iについてよくご存知かとは思います」
というと?
柳本「この少年は七年前のとある事件で有名になりましたからね」
七年前の事件とは?
柳本「1人の精神異常者が起こした児童誘拐監禁事件、皆さんには生贄ゲーム事件、もしくは北白事件とお呼びした方がしっくりくるでしょうが」
はい、確か七年前に起きた事件で誘拐した児童を殺し合わせた非道極まりない事件ですよね。
藤森「ちょっと待って下さい。事前にその事に対しては触れない約束では無かったのですか?ちょっと話が違いますよ?それは八ツ森のルールを一つ破る事に自覚はありますか?本件は男子生徒が同じ高校の生徒を射殺した上にクラスメイトの少女2人を連れ去った事に焦点をあてるべきじゃないんですか?射殺された少年は何故撃たれる事になったのか。そして、その少年Iは何故その犯行現場を大勢の観客に見せつける必要があったのか。そこに焦点を当てるべきです」
柳本「まぁまぁ……落ち着いて下さいよ。彼の動機を探る為にも彼の半生を振り返る事は必要です。精神科医の貴方ならそれをよく理解しておられるはずだ」
藤森「しかし、彼は……彼の存在は我々の希望でもあり」
柳本「罪の象徴でもあった。しかし、彼は我々八ツ森市民の心遣いを無下にし、あろう事か犯罪者にまで成り下がってしまった。犯罪者としての彼を護る義務も義理も我々には無いでしょう?隠されていた真実を全て明るみにし、その罪を裁くべき時が来ているのですよ。あの事件で確か一人の女の子が犠牲になってましたよね?この少年Iに殺されて」
藤森「柳本さん!それは違います!裁かれるべきは我々で、あの少年では無い!きっとあの子にも相応の犯行動機があるはずです!」
柳本「・・・・・・随分と彼の事を擁護しますね。あぁ、そうか。確か貴方は一度病院で彼とお会いして居るんですよね?」
藤森「はい。私が言葉を交わした時、きちんと問診した訳ではありませんが、彼に異常性は感じられませんでした……?なぜその事をご存知で?」
柳本「鳳さん、例の映像出せますか?」
は、はい!今その映像に繋ぎます!
画面が切り替わり、霧島大学附属病院の外景が映し出される。
これは12月10日に監視カメラに映し出されたものなのですが、見て下さい!
少年Iと思わしき少年が黒髪の少女を背負いながら院内をかけていきます。おっと、アタッシュケースで警備員に乱暴を働いているのが分かるでしょうか?おっと、今、何か光りました!少年の仲間でしょうか?大勢の人混みを掻き分けながら金髪の少女が銃を発砲しました。院内はまさに阿鼻叫喚。病院関係者と入院患者でごった返しております。どうやらこの少年はこの時も騒ぎを起こしていたみたいですが……同病院に勤務する関係者によるとこの件に関しては銃で脅され、口を紡ぐ様に脅されていたそうです。そして彼はあろう事か閉鎖病棟の入院患者を強引に連れ去ったのです。
藤森「(海原め……あいつ、この騒動に乗じて責任を棚あげにするつもりだな……)」
柳本「ほらね、彼は立派な犯罪者予備群、もとい、列記とした犯罪者なのだよ。銃刀法違反に器物破損。この混乱で怪我人も出している。これは紛れも無い事実だ」
藤森さん、これをどう説明するつもりですか?
藤森「彼は無能な私達に失望して、同じ境遇に置かれた少女を救い出してあげただけだ。騒ぎを起こしたくて暴れたのでは無い。きっと彼女を救いたかったからですよ!それに怪我人や精神的にショックを受けた人間に対しては私達がきっちりとアフターケアを行なった。問題はありません」
柳本「だが、違法だ」
藤森「それは……そうですが、彼が強引に彼女を連れ出さなければ一生彼女は閉鎖病棟に閉じ込められたままだった」
その連れ出された少女についてなんですが、実は12年前に北白事件に巻き込まれた被害者であると同時に、小三女児無差別殺傷事件の加害者でもあるんです。最近、その事件の被害者達が彼女を取り囲んで暴行事件を起こした事が記憶に新しいと思います。藤森先生、彼女を病院から連れ出した結果、彼女は死に掛けた。それに彼女はまだ精神的疾患を抱えたまま社会に放り出されたのでは無いですか?貴方は彼女の状態を至って健康だと診断したそうですね。この結果をどう受け止めていらっしゃいますか?視聴者からも疑問の声が多数上がっております。精神異常者を野放しにする気かと。映像が切り替わり、小三女児無差別殺傷事件の監視カメラの映像が映し出される。
藤森「それは……確かに、あのまま病棟で暮らしていれば危険な目にも遭わなかったのかも知れない。ですが、ですがその状態で果たして彼女は生きていると呼べたでしょうか?狭い部屋に彼女はずっと十一年間も閉じ込められていたんです。我々の所為で。どちらが不幸だったか、それは誰が見ても明らかでしょう」
柳本「愚問だな。彼女はつい最近、40人近くの大人達に囲まれ、リンチされ、あげく包丁で身体を刺されたんだ。一歩間違えれば死んでいた。その事がなぜ幸せだと言えるんだ?周囲の不安もある。20分間に40人もの死傷者を出した精神異常者はあのまま閉じ込めておくべきだったんですよ。彼女自身の為にもね?それにもし、彼女が再犯を犯せば、これは退院を許可した病院側、もとい藤森大先生の責任をですよ?それを十分理解しておりますか?」
藤森「それは……っと電話?ちょっとすいません。仕事用の携帯からです。少し席を外しても宜しいかな?」
柳本「生放送中ぐらい切っておきたまえよ」
藤森「すいませんね。私はこんな茶番よりも患者の方を優先していますので。私はこれでも医者です。対応の遅れが命に関わると重々理解しているつもりですので」
柳本「フンッ……」
藤森「(はい、藤森です。どちらさまかな?えっ……あっ、久しぶりだね。しかし、本当にいいのかい?)」
番組用に用意された少年Iと金髪の少女が映る映像に差し替えられる。
藤森「えっ?けど本当にいいのかい?……分かりました。聞いてみるからね」
精神科医の藤森が携帯に耳を傾けながら司会である鳳賢治を呼び寄せ、相談をする。
えぇ、ただいまですね、先程の映像にも流れておりました小三女児無差別殺傷事件、その事件を起こした少女本人から電話が掛かってきているようです。スタジオの音声と繋ぎましたのでお聞き下さい。騒然とするスタジオを他所に凛とした少女の大きな声が私達の耳をつんざく。
『ふざけないでちょうだいっ!』
耳を押さえるスタッフ達に構わず電話口の少女が一方的に話し続ける。
『私は北白事件の被害者であり、無差別殺傷事件の被害者、天野樹理よ。藤森さんは良いとして、そこの小太りの偉そうなおっさん!よく聞きなさいよ!』
その少女の歯にもの着せない言い方に目を丸くする柳本。
『本人抜きで勝手に人との幸せうんぬんを語ってんじゃないわよ!面識も無いくせに憶測で人の事を語らないでくれるかしら?』
柳本「何だね?君は?失礼な女の子だ」
『何様よ?現場を退いた老害が外野からごちゃごちゃ口出してんじゃないわよ?!』
柳本「ろ、ろうが……い?この私が?!」
『耳もボケてきたのかしら?私は貴方達警察の落ち度を一生忘れないわよ?』
柳本「落ち度なんて警察に無いさ」
『あ・る・わ・よ!貴方達警察は私や私の下に通ってくれていた教師の声や森で行方不明になった子達の再捜索する署名を完全に無視していた』
柳本「それは……森での行方不明者とあの事件が関わりある物的証拠が何も無かったからで」
『寄せられた一般市民からの情報を蔑ろにし、八ツ森の霊樹の森、四方を冠する資産家達への疑いを晴らす事に躍起となっていた。違うかしら?』
柳本「そ、それは……そうだが」
『結果、どうなったか私が説明してあげましょうか?』
柳本「言われなくても分かっている。捜査の進展は遅れ、結果、犯人に犯行を許させてしまった」
『それが幻とされている第四生贄ゲーム。つまり、貴方達警察が資産家達の顔色を伺わずに市民の声に耳を傾けていたら防げたかも知れない事件なの』
柳本「……」
『挙句、貴方達は誰に頼ったか私の口から言わせる気?』
刑事課、特別顧問の柳本が苦虫を潰した様な表情で重々しく答える。
柳本「三件目の生贄ゲーム事件で被験者になった双子の妹……に警察の尻拭いを任せてしまった……」
『自覚はあるようね?警察が利害や力関係で足踏みしてる間にあの子が立ち上がった。犠牲者自ら、震える体で12歳の女の子がメディアを通じて呼びかけたのよ。そしてその彼女の推測が私と事件とを結び付け、森で行方不明となった少女達を浮かび上がらせた』
柳本「その件に関しては実に申し訳ない事をしたと警察でも思ってる」
『警察なんて知らないわ。貴方自身はどう感じたの?』
柳本『面目丸潰れだと思っている』
『そして……その少女への恩も忘れて……彼女を逃亡者扱い』
柳本「それは別の件で……」
通話相手である天野樹理が一呼吸間を置いた後、覚悟した様にその言葉を私達に投げかける。
『……事件を解決に導いた白髪の少女、日嗣尊。彼女はね……行方不明になったその日、射殺された二川亮に復讐する為、刺し違い、その傷がもとで失血死したの。だからもう……彼女を探す必要は無いわ』
メディアへと顔を出し、北白事件を解決へと導いた白髪の美少女の告げられた死。その事実がスタジオとその放送を見ていた茶の間を凍りつかせ、電話口で話すかつて深淵の少女と呼ばれていた少女の声に誰もが耳を傾けていた。八ツ森が、そして、日本中の人々が。
「そしてあまり触れられていないけど……八ツ森高校で行方不明になっている生徒達を殺したのも射殺された二川亮による犯行……少年Iの動機?そんなの決まってるじゃない……廃部したとはいえ、かつての部活仲間を殺され、大好きだった女性を殺され、幼馴染の友達の人生を滅茶苦茶にしたあいつが……ただ、憎かっただけじゃない」
電話口で嗚咽を殺しながら啜り泣く少女の声に誰もが深淵の少女と呼ばれた彼女への認識を改めずにはいられなかった。そこにあるのは逃亡した男の子を心配するただの一人の少女にすぎなかったからだ。
「私達の中であの生贄ゲーム事件は何一つ終わってないのよ……貴方達がいくら口を噤み、隠そう、忘れようとしてもね……私達被害者は無かった事になんて出来ないの……だからその苦しみを……どうか少しでも貴方達には分かってほしいの……それが私の唯一の願い。そして、私が傷付けた四十人の人達に心からの謝罪を致します。ごめんなさい……」
誰もが息を飲み、静まり返るスタジオにおいて司会を務める鳳が代表して疑問をなげかける。
「代表して一つ伺いたいんですが……この少年Iに射殺された青年は一体何者だったんです?」
次の言葉にその放送を見ていた誰しもが驚愕の事実を突き付けられる。
「あいつは……北白直哉が始めた生贄ゲーム事件の共犯者にして首謀者。北城直哉を傀儡とし、世間を憎しみと恐怖の連鎖で黒く塗り潰そうとした……奴こそが真の悪魔だったのよ!」




