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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
劇場特別版
231/319

其処に転がる遺体、二つ?

 山小屋のセットが組まれ、撮影が行われた場所視聴覚室へと足を運ぶ。その扉の前まで駆けてきた私はその呼吸を整える。外からは文化祭の為に放送部から流されるクラッシックの音楽が静かに流されて居る。ろっくんは画面越しに二川亮と若草青磁の二人を殺した。それは日嗣さんの残したメッセージから観るものが察するとその二人が上映された「幼馴染と隠しナイフ 特別篇」の北白の共犯者とも取れなくない。しかし、留咲アウラさんは当初のシナリオと相違点があると発言していた事から、この現状は望むべき形では無いという事になる。私はこの扉の向こうに拡がる恐怖を想像しながらその扉の手をかける。その扉は何の抵抗感も無く開く。鍵がされていないという事はもうここにろっくんの姿は無いかも知れない。

 中の血生臭い空気を受け、口を塞ぐ。その光景はかつて見た山小屋の凄惨な光景を嫌でも思い起こさせる。後退りそうになる私の心をそっと支えてくれる二人の気持ちが嬉しかった。

 私を守る為に生まれた働き蜂こと「レイヴン」。本来の私自身の性格である殺人蜂こと「ハニー=レヴィアン」。私がまだ存在しているという事は主人格である彼女がそれを許してくれているという事。捨てられた筈の私は私の理想するハニー=レヴィアン、杉村蜂蜜だ。この名を託されたという事はこの学校に転校してきてからの約9ヶ月のけじめを私自身でつけろという事。いや、私がそう願っているからだ。捨てられた偽物の私でも、転校してきてからの数ヶ月は確かに存在していた。だから、私は………この結末と向き合いたい。

 壁際には頭を撃ち抜かれて体を横たえる長身の二川亮の血塗れの姿が目に入った。他にも体中に傷を負っている。ろっくんと争ったのだろうか。こいつは恐らく、あの山小屋で見張り役をしていた少年の方だろう。北白直哉が側頭部を棒状のもので殴られていたのもきっとこいつが木刀で留めを刺した。あの場にこいつはきっと居た。でももう一人は……?二川の死亡確認をした後、覚悟を決めてもう一人の床で横たわっている青年に目を向ける。

「若草君……」

 彼もまた血塗れで床に拡がる血溜まりの中に体を横たえていた。彼との学校やプライベートで過ごした記憶が目まぐるしく脳裏に蘇える。

「貴方が本当に……。キャンプ場では元気付けてくれて有難う。佐藤さんと一緒に山小屋まで乗り込んでくれて有難う。それから……それから……」

 若草君が色々と気を回してくれたり退行した私をサポートしてくれた事、忘れない。でも貴方は二川とグルになって私達を陰ながら陥れたその片割れ。日嗣さんやろっくんを殺そうとし、木田さんを通り魔に襲わせ、そして、鳩羽君や江ノ木さんを誘拐し、北白の生贄に捧げ、そして行方不明になった軍部の人達をその手にかけた。働き蜂の記憶の中に軍部に関する記憶は追いかけた程度で殺害する記憶も無かった。むしろ此方が手痛い反撃を喰らってしまっていた。一番最初に被害者として名前が挙がった新田透君。彼を殺した記憶も私の中には存在しなかった。でも彼は殺され、野犬の餌にされてしまった。そして二年A組襲撃事件で関わった軍部の人達をグルになって殺して回った。けど、これが本当に私達の望んだ結末だったのだろうか。

「若草君……キミの事、嫌いになれないよ……」

 辺りを見渡してもそこに緑青は居なかった。ここで二人を殺した彼の目的は一体何なのだろう。八ツ森の人に復讐?確かにこの町の人達はずっと彼に嘘をついていた。自分を助けるために浅緋さんを抹消したこと?確かに彼は彼女を死に追いやったことに負い目を感じていた。けど、まだ動機としては弱い。それに彼は記臆が戻ったと言っていた。その記臆自体が彼をそれに至らせる理由になるのかも知れない。そして私の事は絶対に来るなと念を押していた。それはきっと私がその場所に行けば彼にとって不都合な事が起きる?なんなのだろうか。

 私は素早く駆ける為にトンファーを背中のホルダーに収納すると、目が開かれたままの二川の遺体に近付き、瞼を閉じさせ、手を合わせる。この状態で放置するのは共犯者だったとしても流石に忍びない。ふとあの時の映像を思い出す。ろっくんは若草君をわざわざ画面外にフェードアウトさせてから銃弾を放った。けど、若草君の体には銃で撃たれた後は全く無かった。なぜ、ろっくんは若草君を殴りつけてから発砲を?それに引き換え、何故二川を殺す場面をわざわざ画面に映し出したのだろうか。私がろっくんなら、上映からこちらにカメラが切り替わる前に二川と若草君を撃ち殺して佐藤さんと逃亡するはず……いや、そうする必要があったと言う事?

「んっ、くそ、イテテ。あいつ、マジで殴りつけやがっ……あれ?杉村?」

 その声に驚いて振り向くと銃底で側頭部を殴打された若草君が頭を押さえながら体を起こしていた。私は犯人でもあるに関わらず、嬉しくなって声を上げてしまう。

「若草君!よかった!無事で!」

 辺りを見渡した後、眉を潜めながら状況を私に尋ねてくる。

「あいつと佐藤は?」

「佐藤さんを人質に二川を射殺して此処を出て行ったわ」

「そうか。それがあいつの答えか」

「若草君?何があったの?」

「あぁ、何があったかはそこの物置に仕掛けてあるカメラに多分、全部録画されてると思うぜ?録画しながらいつでも中継出来るようにしてたしな。留咲の話じゃ、撮影時に木田の父親から借りてる高性能なやつらしいから撮れてるだろ」

 私はそっと立ち上がり、カメラの方に近付こうとするけど、殺人蜂が私に警告を促す。そうだった。頭を押さえ、立ち上がる若草君にそっとスカートの下から取り出したネックナイフを突きつける。

「イテテ、ん?あぁ、そうか。そうなるよな」

「私は若草君の事は嫌いになれない、けど、その罪は裁かれないといけないと思う。だからこの場にじっとしてて?多分、後から別の人が来たら大人しく捕まっててほしいの」

「あぁ、そうだな。俺は誰も殺すつもりは無いし、無害だがな」

「佐藤さんには浅緋さんの事は話した?」

「そこのテープに全部記録されてるよ。それより、あいつの事、追いかけなくていいのか?」

「向かう先は分かってるよ。今は少しでも彼の真意を知る手掛かりがほしいの」

「聞いた方が早いんじゃないか?」

「私は一番ろっくんに対して甘い人間。だからきっと、どんな言葉でも信じちゃう。だから疑う為の材料がほしいの」

「ふーん……ん?お前さ、今、何歳?」

「えっ?今更何?私は16歳……じゃなくて一昨日、誕生日だったから17歳になったの」

「おぉ、良かったな。元に戻ってるじゃないか」

「……うん。全部、木田さんや日嗣さんのお陰」

「あいつさ、お前にはすごく感謝してたよ。キャンプ場では助けて貰ったし、何より、緑青の事を救ってくれた事に」

 私は若草君に逃げる気配が無いのを感じ、ナイフを仕舞うと物置にカモフラージュされて置かれたカメラの前に立つ。

「私も日嗣さんには感謝してる。でも、彼女は……二川を刺した日、彼女も刺されてそのまま出血死したとろっくんから聞いたわ……って!貴方にそんな事を言われる筋合いは無いわ。貴方が全部仕向けたんでしょ?」

 カメラのスイッチを入れてテープを取り出そうとするが、それがどこにも見当たらない。

「どうした?杉村?」

「無いの!カメラからテープだけが抜かれて……」

「それは……残念だったな」

 ふとした殺気に気付いて振り返ろうとした瞬間、目の前に火花が飛び散る。

「騙した……のね?」

「テープが無いんじゃ、証拠にはならねぇよな?この場の出来事を知るのは……あいつと俺と佐藤だけだ……お前は少し、寝てろ」

 突き付けられたスタンガンから電流が流れ、体の自由が効かなくなる。

「マジかよ…-まだ意識があるのか?」

 ガクガクと震える身体を無理矢理動かして若草君の身体に手を伸ばす。

「んあっ?!」

 私の身体に流れる電流がそのまま若草君にも流れて体を硬直させ、気を失う彼。スタンガンの端子がズレて電流が止まる。あと少し遅かったら私も気を失ってた。

「ひとまず彼が逃亡する心配は無くなった。あとはろっくんを追いかけないと」

 私は震える足にムチを打って彼を追いかける事にする。ここから一番近い西門からきっと出て行ったに違いない。一人ならともかく、嫌がり、抵抗する佐藤さんを連れて移動するとなると徒歩かタクシーか。徒歩ならまだ追付けるはず。必ず私がろっくんを止めて見せる。

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