【 特典映像 】
出演
石竹緑青(幼少期) : 久瀬 浩樹
石竹緑青 : 本人
杉村蜂蜜(幼少期) : 佐島 奏
杉村蜂蜜 : 本人
北白直哉 : 斉藤一
白フードの少年 : 瀬島 智樹
黒フードの少年 : 長島 薫
天野樹理 : 本人
日嗣 尊 : 陽守芽依(友情出演)
佐藤深緋(幼少期) : 神谷ルウ
佐藤深緋 : 本人
佐藤浅緋(幼少期) : 真鍋舞
佐藤浅緋 : 匿名希望
エキストラ : 元・星の教会の皆さん
*
制作協力 : 八ツ森高校映画研究部の皆さん
撮影協力 : 西岡商店街
主題歌 : 「royal jelly」
作詞\作曲\唄 : SORA
監督 : 木田 沙彩
助監督 : 日嗣 尊
編集:小室 亜記
江ノ木 カナ
映画研究部の皆さん
木田 智明
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(木田監督からのコメント)
やぁ、どうもどうも。
監督の木田沙彩と言います。
馴染みの方も初めての方もこんにちわ。
さて、この映像が流れているという事は無事、編集作業も終わり本編が上映された後だと思います。今回、皆さんにご視聴頂いたのは本編とは別に日嗣尊さんを助監督に迎え、出演スタッフも含めて彼女を教祖とする星の教会の皆さんと木漏日小学校の児童達の協力を得て成功したものです。因みに天野樹理さんはまさかの本人出演で、七年後の石竹君や杉村さんは映像を貼り付け、音声を別撮りした上で佐藤さん本人にも無理言って出演して貰いました。あの七年後の佐藤さんの妹さんだけは本人の強い希望により、今回、名前を伏せさせて頂きました。陽守芽依さんのお知り合いだそうですが……佐藤深緋ちゃんにも若干似ていたし、まさにベストキャスティング!皆さんの迫力ある演技にとても助けられました。
さて、ここに収録されている作品は、文化祭用に撮影している映像とは別に日嗣尊さんから細かい注文を受けて別撮りで作成したものです。日嗣さんの意図は私も分かります。あんなひどい事件、起きなければきっと何人かの被害者や被害者遺族は普通に生活を送れていたはずなんだよね。それが一人の男の犯行により何の罪も無い小さな命達が犠牲になった。
実のところ、この私のコメントを撮っているのは映像を撮り終えた段階で、編集作業まだで完成形は知らないんだよね。きっといいものに仕上がってると思うよ。私はさ、日嗣さんみたいな統率力もカリスマ性も無い裏方の人間だからさ、私だけじゃこんな作品は撮れなかったよ。これがいつ上映されるかも分からないし、数年後、私は全く別の道を進んでいるかも知れない。けどさ、あの八ツ森を襲った悲劇にももう一つの結末があっても良かったんじゃないかって思うんだ。
この映像を公開するタイミングは日嗣さんの話では彼の記憶が戻ってかららしいけどさ、この映像に込められら思いは悲惨な事件を忘れない為なんかじゃなくてさ、八ツ森の人間全員が抱く願い、祈りの様なものなんじゃないかなって思うんだ。素人映画で何を語ってるんだって思うかもだけど、この映像には色々な気持ちが込められているんだよ。でも現実は変えられない。目を背けてはいけない。でもこんなの部外者だから言える事で、私は彼の記憶が一生戻らなくてこの映像もお蔵入りになってしまっても別に構わないと思っているんだ。
面と向かっては恥ずかしくて言えないけどさ、君は没個性君なんかじゃないよ。君はね……どんな状況下でも苦しむ人に手を差し伸ばせる事が出来る強くて優しい男の子だよ。だってさ、考えてもみなよ、二年A組が何者かに滅茶苦茶にされてさ、それが原因で杉村さんの精神状態が不安定になっていく最中、とっくに諦めて見捨ててた私達と違って彼だけは逃げずに正面から立ち向かったんだよ。それってさ、普通は真似出来ないとっても特別で個性的な事なんじゃないかなって思うんだ。あとは夏休み、日嗣さんが変な男や野犬に襲われた時、君は自分の身の危険を顧みず彼女を助けようとした。天野樹理さんから聞いたけど、杉村さんと協力して病院から連れ出したそうじゃないか。普通、そんな真似なんか出来ないからね。
あっ、これを君が見ているって事はさ、記憶戻ったって事が前提でいいのかな?
君の眠っている記憶はきっとそんなにいいもんじゃない。きっと思い出したくない、思い出さない方がきっと幸せなんだと思う。けどさ、分かってるよ、君なら絶対そんな真似はしない。
私はそう考えている。
きっと君は周りが止めても記憶を取り戻そうのするんだろうね……まぁ……君が其処に辿り着けるかが問題だけどね。
普段、私達は何食わぬ顔して君と接してるけどさ、君は謂わばこの八ツ森の希望の象徴。あの凄惨な事件で唯一見出された光であり、また、八ツ森の人間が事前に防げたかも知れない事件そのものの闇、罪の象徴みたいなものなんだ。だからちょっと他の人と同じ様に君を扱えなかった私達を許してほしい。
光と闇を同時に有する、日嗣さん曰く、隠者のアルカナカードを持つ選ばれし少年よ……君には色々期待しているよ。なんだかんだで君達とも仲良くなれて良かったよ。
杉村さんの事はまだ少しさ、ちょっぴり怖いけど……きっといつかは仲良くなれそうな気がするんだ。私もちょっと普通じゃない女の子だからなんか気持ちが分かるっていうかさ……通ずるものがあるというか……まぁ、いいや。
長くなったけど、監督たる私からの言葉はこれでおしまい……んん?あれ?
助監督の日嗣さんからも何かあるの?
えっ?恥ずかしいから別撮り?
またまた……八年前、世間を賑わして散々メディアにも顔を出したあの白髪の美少女、日嗣尊様ともあろうお方が……え?あっ、取り敢えず監督からの挨拶はこれぐらいで区切れって?はいはい、分かったって。
コホン、まぁ別撮りの短編映画というかノンフィクションにちょっとしたフィクションを織り交ぜたドキュメント映画、如何だったでしょうか?
タイトルとかもまだ仮決め状態なんだけど……あの事件はさ、杉村さんと石竹君が介入してなかったらきっと第五、第六と続いていたと思うんだよ。深い森の奥、膨大な私有地の中で起きた事件、なかなか警察も踏み込めずに大人達が手間取ってる間に君達はそれに介入して起こるはずだった生贄ゲーム事件を防いだんだ。
この生贄ゲーム事件、被験者は二人の女の子。
きっともっと憎しみと不幸の連鎖は続いたんだと思う。何よりそれに君達は終止符を打ったんだ。これは誇るべき事だよ。もっとそれを君達は自覚するべきだし、周りの人間も考慮すべきだと私は思うよ。
まぁ……二人とも全く無事って訳じゃ無いけど、微笑ましい二人の姿を見てるとさ、なんだか人間の持つ本質的な強さ?みたいなのを感じるよ。
そんな訳で、私はこの作品にこういうタイトルを付けようと思うんだ。
「幼馴染と隠しナイフ」
ってね。
杉村さん、君のそのナイフでこの八ツ森の呪われた運命を斬り裂いてくれ!……なんてね。
君はさ……その、ずっと一人の女の子を見殺しにした事に罪悪の念を抱いているって尊さんから聞いたよ。
けど、違うんだ。
日嗣尊さんがメディアに台頭し、事件が明るみになるに連れ、私達はなるべく考えない様にしていただけなんだよ。八ツ森の人間はあの事件の最初の被害者を傷害事件の加害者と見なし、深淵の少女と蔑み、精神病棟へと隔離した。そして森で行方不明になった二人の少女の捜索を遺族以外は蔑ろにし、別世界の出来事として蔑ろにした。そして挙句、その罪悪感を紛らわせる為に日嗣尊という事件被害者の象徴を祭り上げ、事件の持つ本質から遠ざけた。そして、実は未然に防げた可能性の高い四件目の犯行を私達は見過ごしたんだ。挙句、1人の記憶を失った少年を救う事で全てを帳消しにしようとしたんだ。一人の女の子の存在を完全にこの世から消す事によってね。だからね、あの事件で君達を見殺しにしたのは私達の方なんだよ。
だから、本当にすまない、石竹君に杉村さん、私なんかが頭を下げて許されるとは到底思わないけど、紛いなりにもこの事件を撮るにあたって、正面から向き合った人間として謝罪させて貰うよ。
ホントさ、理不尽だよね世界は。
誰を憎み、何に怒りをぶつけていいかも分からないよ。
そして憎んだところで何も返ってこないし、誰も癒されないんだ。傷付いてばかりだよね……けどさ、そんな世界でも君達みたいな少年少女が居ると思うと少しでも希望が持ててくるんだ。
だから、二人とも……本当に有難う。
こ、こんな感じでいいかな?
きちんと撮れてるかいー?
あっ、芽依さん、カメラ持って何処に行くんですか?
撮影?それ、初心者には扱い難しいやつなんで、私のを貸しますって!
*
佐藤喫茶店を背景に佐藤浅緋を演じた女の子がこちらを眺め、カメラが回っている事を確認すると笑顔で小さく手を振る。八ツ森高校一年の冬服姿の少女が少しはにかみながら口を開く。
「あのさ、もしあんな事件が無かったらこんな風にみんなとも高校に通えてたのかなって。カッコ良くなった緑青君や美人さんになった杉村さん。お姉ちゃんはあんまり変わってなかったけどね。あっ、この部分はカットしてね?芽依さんっ!コホン。お姉ちゃんも相変わらず頑固で意地っ張りだけど、やっぱり面倒見が良くてちょっぴり優しい。身長と胸のサイズ、追い抜いてゴメンね?きっとさ事件の真相を暴こうとして無理して大事な成長期を消耗してしまったんだね。全部私の性だね」
終始笑顔だった彼女の目に次々と涙が溢れだしていく。
「私さ、ずっとみんなに言いたかった事があったんだ……」
笑顔は崩れ、嗚咽を殺しながら声を絞り出す少女。
「私がこうなったのも自業自得な部分もあるんだよ……詳しくは決まり事があるから話せないんだけどさ、だからね、八ツ森の人達には抱えてほしく無い、みんな笑っててほしいの」
苦しそうに胸を抑えながら泣き叫ぶ少女。
「一人の男の子の幸せを願い、私の記録をこの世界から消した事、私、恨んで無いからねっ!むしろすごく感謝しているの!」
泣きながら飛びっきりの笑顔を画面一杯に見せる少女。
「だって、こんな私でも、いなくなる事で……一番大好きだった男の子の人生を守れるんだよっ!こんなに……こんなに嬉しい事って……ないよ」
暫くその場に蹲り、呼吸が辛そうにする少女。
「あぁ、ダメ。もう時間みたい。行かなくちゃ……」
その体から光の粒子が少しずつ舞い上がり、彼女の体が徐々に光の粒へと変換されていく。
「お父さん、お母さん、まだちょっと若いんだから、私の事なんか気にせずお姉ちゃんに妹や弟、プレゼントしてあげてもいいんだよ?」
段々と消えていく少女の体。
「緑青君!あの約束覚えてるからね!全部、取り戻したら会いに来てよね!いつまでも待ってるから!」
手が画面に向けて伸ばされる。
「お姉ちゃん!少しは素直になって緑青君とぶつかってよね!ハニーちゃんが相手だと勝ち目ほとんど無いけど、星空から見守ってるからね!だから、過去に囚われないできっちり前に進むんだよ!」
姿が朧げになっていく佐藤浅緋。
「あーあ、やっぱり寂しいよ。みんなとお別れするのは凄く辛い」
その光の粒子が一筋の光となって緩やかに天に昇っていく。
「記録は消しても……私の事、忘れ……ないで、ほしい……な」
本当はみんなともっと……生きたかった……な……。
続く




