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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
第四生贄ゲーム 再開
225/319

【幼馴染と隠しナイフ<序>】

 私達の街を囲う霊樹の森。

 それはまるで張り巡らされた鉄格子の様に私達を閉じ込めている。それは牢獄でありまた……私達を守る結界でもあった。あれほど空高く登っていた陽はいつの間にか元気を無くし、山脈の向こう側へと静かに身を潜めようとしている。木々の合間から鮮烈な夕陽の煌めきが街を紅く照らし出していた。


 その日、2001年11月8日。

 八ツ森市北部の山林から少女が一人、その麓から姿を現した。


 朱い夕陽が沈みかけた空に闇と共に現れた少女の白い衣服は乾いた血の色に染まり、何色の服を着ているか判別がつかない程だった。陽の沈みかけた時間帯であった為かその事に気付く者は誰も居なかった。ただ草臥れている幼い少女が街を徘徊している程度の印象だったのだろう。

「私は……じゃない。私は違う……」

 何かに怯えた様に震える唇から漏れる声は繁華街を行き交う人々の喧騒に搔き消える。

「私は、私は!私は生贄なんかじゃない!」

 その悲痛な叫びが初めて周囲の人間の耳に届いた時にはもう手遅れだった。迫り来る夜の帳と共に駆け出した彼女はその右手に握って居た刃先の欠けたナイフで次々と通行人を斬りつけていった。二十分という短い恐慌騒ぎの中、三十二人が軽傷を負い、八人が失血死する事態となる。9歳の女の子が起こした事件としては異例の傷害事件は「小三女児無差別殺傷事件」と冠され、その少女、天野樹理あまの じゅりは「深淵の少女」として世間を震撼させた。


 2003年3月19日。

 その日、授業の一環で来ていた北方の森で「川村 仁美」と「矢口 智子」がその姿を消し、消息不明となった。一部では野犬に食い殺されたとの意見も。


 2003年10月2日。

 家族と一緒に訪れた森で「日嗣命ひつぎ めい」と「日嗣尊ひつぎ みこと」の二人が行方不明になるが、その日の午後、日嗣尊は車道に近い所で気を失っているところを発見される。外傷は無かったがその髪は白く様変わりしていた。森で発見された彼女は衰弱し、昏睡状態が三日続いたが、眼を覚ました直後にも関わらず、しっかりとした足取りで自ら警察へと赴き、自らが被害に遭った事件のあらましを事細かに警察に説明し、その場で倒れて気を失ってしまう。


 彼女の口から得た証言を元に犯人像を作成。

 捜査は広大な森の所有者達が何かしらの関連を持つとして進むが、警察上層部へとかけられた地主の名主達の圧がかかり捜査は難航。


 そこから更に一年が過ぎ、捜査が行き詰まりを見せると一人の少女が立ち上がる。白髪の被害者少女がマスメディアを通して世間にある可能性を打ち出したのだ。

 彼女が被害に遭った事件は、同一犯により複数行なわれている可能性が高いというもので、同じ様に森で行方不明になった少女がいないかの情報収集を呼びかけた。


 そこで浮かび上がった少女が三人。

 里宮翔子、川村仁美、矢口智子である。


 テレビを介して語る聡明な白髪の美少女に世間は注目し、日常を脅かす異常に好奇の目は向けられた。


 彼女は自分の遭遇した事件の傾向から、里宮翔子さんと一緒に被験者として選ばれた少女がもう一人居る可能性を示唆。そんな中、市内の大学に通うとある女子大生から自分の知る人物がそのもう一人である可能性が高いという問い合わせがあり、日嗣尊はその人物をもう一人の被験者と断定する。


 マスメディアを通して告げられた人物の名を聞いた世間は戦慄する。それは深淵の少女として名を馳せた別事件の加害者、当時13歳の天野樹理であったからだ。人々の記憶から薄れ始めていた四年前の事件が浮上し、忌み嫌ったその少女が事件被害者であった事に驚くと共に、天野樹理とその関係者を徹底的に糾弾した記憶が、人々に罪悪感を呼び起こさせる。世間はその事実をまるで包み隠す様に事件解決を世間に呼び掛ける聡明な12歳の白髪の美少女に傾倒し、事件被害者にも関わらずその知名度は人気芸能人を超え、一躍時の人となった。


 警察では正式にこの一連の少女誘拐事件を「八ツ森市連続少女監禁殺害事件」として捜査本部を新たに設置。


 捜査の進展が期待される中、12歳の白髪美少女効果もあり、事件に寄せられる情報も膨大な数に上った。しかし、必ずしもそれが良い結果に繋がる事にはならない。寄せられた情報の九割以上が事件と関連性の無いものだった。捌き切れない膨大な情報量の中、その一割に当たる情報が記載された手紙が日嗣尊宛に直接届くが、彼女がそれに目を通す頃には全てに決着がついた後だった。


 その差出人の名前は佐藤浅緋さとう あわひ。この一連の事件、最後の被害者となる9歳の少女だった。


 そして2005年5月8日。終止符は打たれた。


【八ッ森市連続少女殺害事件の終結】


 2005年5月8日、東京都八ツ森市西岡町に住む当時36歳無職の「北白直哉きたしろなおや」は、同市内の雑木林にて少女「佐藤浅緋さとうあわひ」(9歳)を殺害、現場近くに居たとされる少年「石竹緑青いしたけろくしょう」(10歳)にも軽傷を負わせたとして警察に逮捕される。身柄の引き渡しについては、一般の男性会社員から警察に引き渡される。その場の状況証拠、本人の自供等から日本警察では彼が一連の少女殺害事件の犯人と断定。法廷では、一連の事件の被害者、少女4人に対する殺人罪から無期懲役の判決が一度下されるが、重度の精神障害が明らかになり、その身を更生施設に移送される。


 人間は愚かな過ちを繰り返す。何も学ばない。

 何年、何十年、何百年、世代を重ねようともその罪から眼を逸らす限り時計の針は進まないのだ。


 人々よ、刮目せよ。

 これより語られるはその罪と向き合い、血を流しながらも前に進む事を強く望んだ少年少女達の物語である。

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