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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
蜜蜂と接合藻類
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佐藤珈琲

少年達は彼の地で絆と約束を交わす。そこに私が居ないのは少し寂しいな。

 「西岡」の駅から少し離れた所に佐藤の実家、「喫茶“佐藤珈琲”(さとうこーひー)」はあった。


 ひっそりと、それでいてそこはかとない存在感を放つこの喫茶店は、佐藤そのものとも言える。


 外観的には暗めの茶色を基調とした木造造りのプレハブ小屋のようなデザインで、建物の構造的には住宅スペースを含む為、結構大きめである。後で聞いた話だが、石竹も中学ぐらいまでは佐藤家と一緒に暮らしていたらしい。だからこいつらあんなに仲がいいのか。


 店のドアを佐藤が開くと、来客を知らせるベルが音を立てる。

 店内を見渡すと、洋風の家具や小物で統一された内装で、入り口近くには旧式の会計レジ。


 窓側にはテーブル席が立ち並んでいる。

 今では分煙化が進んでいるが、テーブル一つ一つには当たり前の様に綺麗な陶器の灰皿が置かれている。奥にはカウンターが設置され、店内を区切る仕切りは程良く、最低限の区別化が行われている。


 店内の隅には観葉植物。

 天上には大きなプロペラが3つ、ゆっくりと回転している。


 店内の照明は、天上からぶら下がっている球状の白熱灯の間接照明が使われ、暖かみのある明るさを演出している。


 俺が店内を見渡していると、服の袖を佐藤に引っ張られてカウンター席に案内される。既に石竹はそこに着席済みだ。さすが馴染みの客。


「えと、カウンター席だと、両親の眼が気になるから……あっちに座ってて?」佐藤が店内のテーブル席を指さす。


 立ち上がった石竹はその席を俺と目指す。

 佐藤は準備の為、一旦店の奥に姿を消す。


 石竹とはテーブル席で向かい合わせに座る。


 石竹がカウンターの方を眺めている。奥から出てきた佐藤の父親らしき人物が常連客と世間話をしていた。年は40代後半といったところだろうか。お店のロゴが入ったエプロンを胸からかけている。


「えと、若草くん?」


 石竹がこちらに視線を向ける。

 そこに佐藤の母親らしき人物が水を持ってやって来る。


 佐藤に「うつくし草」をたくさん食べさせて、数倍大人らしくし、メガ進化させた様な姿をイメージして貰うと解りやすい。服装は執事服に近い感じの服装をしている。


 このまま佐藤が歳を重ねてもこうはならない気がする。


 佐藤の場合は、この先ずっと神様にBボタンを連打され、進化キャンセルさせられ続けそうな気がする。


「いらっしゃい、緑青くんに……こちらのニヒルな男の子は?」


 少し、困った様な表情をする石竹。

 

「佐藤のママさん、えっと、こちらは……友達というか、ただのクラスメイトの男子。若草青磁せいじ君だよ」


 へぇーと品定めをする様に俺の事を眺める佐藤の母親。


 いや、お姉さんでもいいんじゃないか?という感想はともかく、俺も負けじと佐藤の母親を品定めし返す。それを中断するように石竹が間に割り込んでくる。


 「ほらほら、店内で見つめ合わないの。他のお客さんも少ないながらいるんだから迷惑だよ」余計なお世話よ!と石竹を肘で軽く小突く佐藤母。


「君もなかなか男前だけどコッキー(深緋)の好みは……やっぱり石竹君の方かしら?」


ぶはっ!と飲みかけていたお冷を吐きだす石竹。


「それは残念ですね……ハハっ」と軽く流す俺。


 石竹はおしぼりを渡されて机を拭かされている。

 何と言うセルフ。


 にやにやしながらカウンターに戻っていく佐藤母。


 厨房で仕込みがあるらしい。

 メニュー表に眼を通す俺に石竹は確信的な質問を投げかけてくる。


「僕と佐藤……どちらが目的だ?」


 佐藤に俺が危害を加えないかどうか、無意識に警戒しているのだろうか。


「そうだな……折角2年生にもなったし、あまり関わりの無かったお2人と仲良くなれたらいいなぁと思っただけさ」


「嘘だ。佐藤が目的なんだろ?なら回りくどい真似は辞めろ、僕はただの友達だから」


 嘘だってばれたか。俺が嘘をつく理由を普通に推測するなら佐藤が目的と捉えられても可笑しく無いもんな。


 実際の所、俺の趣向を話せる友達がほしかったのと、あの事件について少し聞きたかっただけなのだが……どう切り返したものか。


 無駄に怪しまれない為にもここは正直に答えるか。


「誤解させたのなら謝るよ、俺の目的は佐藤では無く君だよ」


 ガラスのコップが割れる音が店内に響く。

 石竹の表情は固まったままでその手にはグラスが固く握られている。


 割れたグラスは……喫茶店の店員が持ってきたグラスの方だ。


「あれ?もうグラスは出てたか……ハハ、母さんが出してくれたのかな?あ、大丈夫、さっきの会話聞いてないから!」


 慌ててグラスを拾い集める佐藤。


 石竹は、佐藤を静止して大きな破片を佐藤の持ってきたトレイに丁寧に集め、佐藤に掃除用具と雑巾を持ってくるように指示する。


 佐藤の耳は赤い。

 そして喫茶店用の制服を着ている。


 ……落ち着いた感じの正統派メイド服の装いで、頭にはヘッドドレスが装着され、髪は解かれ、毛先が軽くウェーブしている。


 佐藤は俺と眼を合わせようとせず、何かを呟いている。


「え、えぇ、本当にあるんだ、こんな事。しかもこんな近くで……カナちゃんに見せて貰った本みたいな事。あれ本当にあるんだ、わわわ……」


 完全に誤解されたようだ。

 俺は男色家では無い。


 事態収拾の為、約15分程有する。


 石竹の隣に座るメイド服姿の佐藤。


「いいか、俺は断じてノーマルだ。女の子が好きだ。それは理解出来たか?」

「それは…解ったわ」


「けど、僕が目的って言うのはまだ解らない。なんで今なんだ?」


「俺がこの1年、クラスメイトを1人1人観察して思ったのが、クラスの中でお前が一番寛容力が高そうだったからだ。一見、押しの弱そうな感じだが、見方によってはそれは器の大きさの現れ、人の意見をまず受け入れ、認めてからお前は話をする。無自覚だと思うが」


 佐藤と石竹が視線を交わす、2人ともそうなのかなぁ?と言った表情だ。


「僕が寛容……?多分、何事にも執着心が無いだけだと思うけど……」


「いや、そこがいい。最近の奴は、学校内での評判がどうだとか、成績がどうだとか、彼氏が彼女がどうだとかばっかりだ。その点お前はそれが無い」終始困り顔の石竹。


 佐藤が変わりに答える。「無個性……キャラが薄い、いや存在感が無い?没個性キャラだから?」その言葉に普通に元気を無くす石竹。


 「あのなぁ、若草は誉めてくれてるのに、親友のお前はなんで俺に批判的なんだよ」と突っ込む石竹。


  「ごめんごめん、本当の事言っちゃ不味かった?」と自分の頭を叩く佐藤。親友と呼ばれた佐藤の表情は少し曇り気味だ。

 

 石竹が改めてこちらの眼を見て話す。


「それで……僕が仮に寛容だったとして、若草に何の得があるんだ?」


 そうだな、そこを答えないとやはりいけないか。佐藤が邪魔だが仕方ない。どうせ石竹経由でバレるのだから仕方無い。


「理由は2つある。」


 うんうん、と頷く2人。

 あまり大きな声で言えないので、手招きして顔をこちらに近付けさせて、小声でその事を伝える。石竹は怪訝そうな顔で、佐藤は何やら顔が青ざめているようにも見える。


「……どうやら俺は、重度のロリコンらしい」


 その言葉を聞いて固まる石竹。と対照的に佐藤は、上げていた腰を椅子に下ろし、なんだ、そっちか……と安心した様に座りなおしている。そっちってなんだ?


 石竹が左手の拳を握り、右腕を佐藤を庇うように突き出す。佐藤は困惑している。


「お前!やっぱり佐藤が目当てなんじゃないか!!」


 店内に響き渡る石竹の声。ん?何その過剰リアクション。さっき俺は佐藤が目的で無いと話したはず……佐藤を改めて見てみると……くりくりとよく回る大きな瞳に、ぺったんこな鼻と胸、薄い色素の唇に小さな顔。外見的には中学生、もしくは小学生でも通りそうな容姿は……まさにロリータ系?


「そういう事か!お前が俺に近付いたのは、同じロリ趣味の男子だと思ったからだな!確かに佐藤は童顔で、背も低くてガリガリで、胸もまな板だけど……辞めとけ!中身は結構きつい……ぞ、ぐはゅ!」


 佐藤の装備していたシルバープレート(おぼん)が唸りを上げて石竹の顔面にクリーンヒットする。


「誰がロリよ!!」


 鼻を押さえながら石竹が答える。


「え、お前ロリじゃないの?」

「え、そ、そりゃ……クラスメイトと比べて確かに色んなとこ貧層だけどって何言わすんじゃーい!!」本日ニ発目入りました。


 意識が朦朧とする石竹は、客席を見渡し同意を求める。


「佐藤は……この子はロリータ系ですよね?」と佐藤を指差す。


 ほとんどの客が常連なのか、微笑ましく笑いながら全員が強く頷いた。


「そんな……この私が世間からそんな目で見られていたなんて……」

愕然と机に突っ伏す佐藤。


 おっと、奥の方から顔を出したご両親も強く頷いている。


「そんな、最悪だわ。私はてっきり自分の事をお姉さんキャラだと思っていたわ。近所のおばさんには最近深緋ちゃんはすっかりお姉さんだねぇ、って言われたのに。ごめんね、浅緋あわひ……お姉ちゃん、お姉ちゃん失格だわ……」


 浅緋あわひ?佐藤に妹がいるのか?


 石竹は、練撃で受けた衝撃で鼻血が出て来たので机にある紙ナフキンを痛そうに鼻に詰めている。紙が固いらしい。


 妹がいるのか……今佐藤は高校2年生、最低でも高校1年生……最高は小学生……。これは、もしやその子とお近づきになるチャンスではないのか!?


「なぁ、佐藤!今、お前の妹さんって何歳なんだ?」俺は少し興奮気味に佐藤に詰め寄る。


 何故か口元を押さえてハッとした表情をする佐藤。なんでだ?


「あれ?お前……妹……?」と石竹が佐藤の顔を覗きこむ。


「居ないわよ!!」


 言葉と共に渾身の力を込めたシルバープレートが石竹の頭を叩きのめす。そしてすぐさま此方を睨むと、つま先で脛を思いっきり蹴られた。真剣な表情でこちらに囁きかける。


「私達……元い、石竹くんと仲良くなりたいんだったら、私の妹の事は絶対に話さないで!いい?絶対によ?うちの家族の前でも絶対に駄目」佐藤の表情は真剣でありながら、どこか切迫した雰囲気を感じたので俺はそれを了承する。


 事情は近くに石竹が居ない時に話してくれるそうだ。


 よし、まだチャンスはあるぞ。と俺はその時、馬鹿な事を期待していた。彼女はもう既にこの世には居ないのに。


 意識が朦朧とする石竹をメイド姿の佐藤が献身的に支える。

 傍から見ると、献身的なメイドだが、実際はその本人が加害者だ。


 「例えばの話だけど、私がロリ系だとしてよ?」不服そうに顔を赤らめながら話す佐藤。「私には興味無いって事よね?」頷く俺。


「佐藤は、興味範囲外だ」


「じゃあロリコンって言わないんじゃ…?」

 

 と、そこに窓際の席に位置する俺達の横を下校中の小学生の集団が横切る。窓が邪魔だ、今すぐ外に出て彼女達と仲良くしたい。


 外を見て、眼を輝かせる俺を不思議そうに見つめてくる2人。

 

「それはね……」


 いつの間にか佐藤の綺麗なお母さんが2人の間に割り込むように座っている。


「ちょ、お母さん、重い!」


「ちょ、僕の太股の上にお尻を置かないで下さい!」迷惑そうな2人を尻目に、真っ直ぐとこちらを見て来る。


「若草くんだっけ?」

 

 はい、と答える俺。


「それはね、ロリコンって言わないの。それに……キュートな子が好きな男の子ならクラスに一杯いるでしょ?」


 確かクラスの何人かの男子は佐藤に好意を抱いていた気がする。


「一般的に大人達からロリータと呼ばれている世代は、あなた達からしたら同世代なんだから、恋心を抱くのはさして問題じゃないのだけど……さすがに小学生が好きな男の子って、君のクラスにはいないでしょ?」


 この理解され難い苦しみを貴方は解ってくれるというのか?


「それね、幼児愛者……“ぺド”っていうのよ」


 俺達はその日、新しい言葉を覚えた。


 後に部活の顧問となるランカスター先生に聞いた所、ロリコンとぺドの明確な線引きは存在せず、ロリコンを名乗っても問題は無いそうだが、正確にはぺドフィル(児童性愛者)の方がしっくりくるらしい。


 ただ、俺のぺド度は病的なものでは無いらしく、そんなに気するものでは無いらしい。


 慈しみを持って接している分には問題無い、つまり、性的欲望の対象とはしていないらしいので大丈夫だそうだ。

 その感情は多分父親が子供に抱く親心に似ているらしい。過去の出来事が何らかの形で影響を与えているそうなのだが、俺の精神力はタフなようでランカスター先生も心配していない。


 むしろその冷静な洞察力から心理士を進められている位だ。


 まぁ俺の事はもういい。

 その日、俺はこいつらと正式に友達になったのだ。


 佐藤の妹に関する話題には一切触れないという変な条件付きでだが。


 俺が聞きたかったのは、石竹の両親についてなんだがな。


 彼の昔を知るクラスメイトに聞いた所、過去に父親から虐待を受けていたらしい。実は俺も家庭内暴力(DV)経験者だから石竹自身の事を聞きたかったのだが、まぁいいか。


 俺に暴力を振るう奴はもう近くに居ないし、石竹も平和そうだ。


 これ以上日常を波立たせる理由も無いしな。

 時が来れば自然と話してくれるだろうし、俺はその日から気にしない事にした。


 あ。


 結局この日は、佐藤のメイド服姿のお披露目だけで、特に接客の練習はしなかった。後から聞いた話では、お客さん(石竹)をトレイで殴り倒した事で、両親の佐藤に対する接客力は-5の数値を弾き出していたそうな。


 そしてこの日から程なくして、歩く凶器が英国から飛来する。


 殺人兵器、「杉村蜂蜜」が英国から送り込まれるのである。


 この危機を乗り切る為、日本側からは男子高校生「石竹緑青」をぶつける事となるのだった(笑)


そんな事もあったなぁ。


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