表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
決着の文化祭
219/319

黄昏の断片

それは血に染まった優しい記憶

薄暗い場所、僕は男の声を聞いた。

「仕切り直しだよ、ゲームをしようか」

その声の主は恐らく北白直哉だ。


少女の声が聞こえる。

「緑青君、私を殺して?」

暗がりの中、朧げに浮かぶ少女の輪郭。

きっとそれは佐藤深緋の妹、浅緋あわひさんだ。

僕は何故彼女を殺さないといけなかったんだろうか。

「ごめんね!私の所為で緑青君が!」

君に何の罪があると言うのだろうか。

監禁したのは目の前の男で、君を絞殺したのはこの僕なのに。


「僕が合図をしたら、ゲームの始ま……」


ノイズ混じりの男の声。


「この男の手口は、小さい女の子を誘拐して殺し合わせるの」


顔も思い出せない女の子の声。

ジャラジャラと金属の鎖が擦れる音。

左手を繋がれておの場所から逃れる事が出来ない。それを僕は自分の首に巻き付けていく。


この記憶の断片は僕が遭遇した第四生贄ゲームのものだというのだろうか。

僕はこの時、第三ゲームで日嗣尊さんのお姉さん、日嗣命さんが自分の左手を切り落とした様に死のうとした?


「君が死ぬ必要なんてない!」


少女が僕の首に巻き付いた鎖を解いてくれる。


男が近付き、少女を殴り飛ばし、僕の腹にその大きな足が減り込む。

気が遠のきそうになる僕。


静まりかえった山小屋、僅かな息遣いを外に感じた。

誰かが外に居る?小さな僕が助けを求めて声を上げる。


「そこに居るんだろ?お願いだから大人の人に連絡してくれよ」


暫く間があった後、少年の様な声が壁越しに聞こえてくる。


「緑青君が死んじゃえ……」


僕に対する殺意。この声の主がもう一人の共犯者?僕の名を知ると言う事は顔見知りだったのか?立ち上がった男が大振りのナイフを振りかざして襲ってくる。不思議と恐怖心は無かった。倒れる少女に駆け寄り、その声を聞く。

「最後だと思うから聞いてほしいの、あのね」

その少女のか細い声を聞くために顔を近付けようとして、僕の唇が何か柔らかいものに触れる。女の子の唇から優しい感触と痺れる様な何かが全身に注ぎ込まれていく感覚になる。キスをされた?


「大好きだったよ、ごめんね?」


泣きながらキスをする女の子。その姿が今の杉村蜂蜜と重なって見えた。


「あなたは……生きて?」


佐藤の妹は死ぬ事を予見していた?


「これは報いだよ」


男の声が聞こえ、振り向くと左目目掛けてナイフが突き出される。

その一閃を反射的に顔を逸らして避けるけど、その刃先が僕の額を傷付ける。

あの傷跡はこの時に出来たらしい。下手をしたら左目を失っていたのかも知れ無い。


大量に吹き出血が僕の視界の半分を紅く染めていく。少女の叫び声が辺りに響き渡る。


「私を殺して!どうせ私は生き残れ無いの!」


浅緋さんはこの生贄ゲームの特性を誰よりも理解していた?僕の右眼から透明な涙が流れ落ちていく。必死に女の子が僕の額を抑えて出血を止めようとしている。


「やめろ!あわひちゃん!君が危ないよ!」


外からこちらの様子を伺っていた先ほどの少年の声が室内に響く。

額に汗を掻きながら少女が微かに微笑む。


「本当は君は私を生かしたかったんだよね、けどそれは君の誤算……」


じわじわと頭痛が大きくなり、脳を圧迫していく。脳裏に浮かぶ記憶の断片、ひどくなっていくノイズ混じりの情景と言葉。それ一つ拾うのにも一苦労だ。


「お願い、私を殺して?緑青君……愛する人の手で死にたいの」


愛?愛ってなんだ?そのフレーズに僕はまるで催眠術にかかったように虚ろになる。父と母の凄惨な記憶が脳裏に浮かぶ。次に気付いた時には僕の手は彼女の細い首に伸ばされていた。止めろ、やめてくれ!誰も殺したくなんかない!


「お姉ちゃんに伝えて?……誰も……ない……。真っ直ぐ……で?そして、君は……あの金髪の女の子の下に……」


途切れ途切れの言葉。

彼女は佐藤深緋に何を伝えようとした?

肝心な部分にノイズが掛かり、聞き取れ無い。


蜂蜜の様な淡い黄金色の髪と、僕の名前と同じ色をした緑青色の瞳を思い出す。


「帰らなきゃ、生きて、彼女の下に」


それは幼い僕の口から発せられた言葉だった。

その言葉を聞いた彼女は事切れる寸前、僅かに微笑んだ様な気がした。


叫び声を上げる僕。男が僕を黙らせる為に思いっきり僕を殴りつける。僅かに意識が飛び、床に突っ伏した僕はその光景を目にする。床に夥しい量の血溜まりが広がり、その血を受けて体を真っ赤に染めた北白直哉がその少女に暖をとる様に体を合わせていた。幼い彼女の回りには男を受け止め切れずに零れ落ちた臓器が切り裂かれた腹部から零れ落ちていた。段々と視界が狭まっていく。脳震盪を起こし、体を動かせない僕が額から流れる血に溺れながら叫び声をあげる。誰か!誰でもいい!そいつを今すぐ捻じり殺してくれ!


その声が通じたのか山小屋の扉が大きな炸裂音と共に誰かに蹴り破られた。血の匂いに混じり漂うその蜂蜜の様に甘い香りは僕の幼馴染のものだ。


夕陽を背に受け、黄金の光を纏った僕の最初の友達が床で突っ伏す僕を静かに見つめている。僕の心の中の壊死した部分が僅かに反応したみたいだったけど、それも僅かに震えてそれっきり動かなくなった。


幼馴染のハニー=レヴィアン。

その見下ろした瞳が現状を捉えると怯えた様に尻餅をつく。北白直哉が天使様と呟き、事切れた少女から体を離してハニーに近付いていく。


怯える彼女が態勢を立て直し、こちらに駆け寄ろうとして僕を見つめている。


これは今の光景?それとも昔のハニーちゃん?


そして何かを呟くと何かを覚悟した様に此方を見た後、体の向きを変えて山小屋から離れて行った。それを追い、山小屋を飛び出す北白直哉。扉は開け放たれ、血の匂いで噎せ返った室内の匂いに森林の風がそれらを吹き飛ばす様に流れ込んでくる。


杉村は多分、男を僕から引き離す為に自分を囮に使ったんだと思う。逃げた訳じゃない、全ては僕を助ける為に。


その覚悟を決めた瞳と僕を心配そうに覗く瞳が重なる。その瞳は今のハニーと同じものだった。


そうか……やっぱりそうだったんだな。

杉村蜂蜜、いや、ハニー=レヴィアン。

本当の彼女は目の前にいる殺人蜂さん。

彼女こそが本来の僕の幼馴染の在るべき姿だったんだ……。


脳裏に誰もいなくなった小屋に僕と同じぐらいの小さな男の子のシルエットが浮かび上がる。


そいつがきっと……もう1人の共犯者だ。

昔と今の杉村蜂蜜が交差する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ