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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
決着の文化祭
214/319

生徒会は侮れない

心理部メイド喫茶ブースにサイフォンビーカーで抽出された珈琲の何とも言えない芳醇な香りが店内に漂う。そんな中、カントリー風メイド服に身を包んだ佐藤深緋がゆったりとした動作で生徒会四人が座る中央からやや離れた席にそれを運ぶ。

「佐藤スペシャルブレンド珈琲、お待たせしました」

メイド服姿の四方田副会長がその姿を目を輝かせながら見つめる中、生徒会長に佐藤が何かを囁いて、それを受け取った生徒会長の二川亮が何かを囁き返す。ここからでは聞き取れない。

「次は何なんだよ!お前らは何もんだよ?!あぁっ!?」

二川亮に突き付けられる短機銃。他のメンバーはその光景を見ても驚いた表情一つ見せていない。普通の高校生がそんな状況下で平常心を保つ事など不可能なはずだけど、流石は生徒会と言ったところか?

「本当に心理部にはいつも驚かされますよ……まさかこんなイベントまで用意されているとは。エキストラさん、ご苦労様です」

静まりかえった店内に響く会長の声に周りの観客が顔を見合わせてどよめいている。いや、ちょっと無理があるだろ。流血しているし、床に転がっているヤクザ達の遺体も演技とは映らないはずだ。

「お前、撃ち殺されたいのか?」

珈琲を啜る会長の脳天に突き付けられる機銃。それでも生徒会達のメンバーの様子は変わらない。銀縁眼鏡をかけた不二家先輩も珈琲を口にしながら日常会話を続ける。

「亮、いっそそのまま演技では無く撃ち殺されてくれないか?書記に甘んじてた私が会長に返り咲くいい機会だ」

四方田先輩までも悪ノリし始める。

「だな。二川が入院中の間、どれほど私達が苦労させられたか身をもって償うべきだ 」

二川会長がカップをおくとやれやれと言ったジェスチャーを交えながら腹を抑える。

「その件はすまなかったよ。だが、こっちも色々大変だったんだよ。お腹刺されたり」

藤堂君までもその会話に参加し始め、本気で喫茶店を満喫している様だった。

「綺麗なお姉さんをホテルに連れ込んだ天罰が当たったんすよ。羨ましいです」

「おいおい、腹をナイフで刺されてみろ?死ぬ程痛いからな?下手すりゃ死んでたからな?」

「自業自得ッス!リア充はみんな腹を刺されて刺殺されればいいっす!」

藤堂君の怨念、何だか怖い。

「ハハハッ、すまないね。藤堂君。君はまだ一年だし、きっと素敵な人が現れるよ」

「僕にも……この心理部の美少女達の様な人が現れてくれるといいっすけど」

「気をつけろ?彼女達はなかなか手強いぞ?」

藤堂君が辺りを見渡し、心理部の面々に視線を送る。

「やっぱりレベル高いッスね……」

「おい、私のレベルが低いと言いたいようだな!」

隣の席に座る四方田副会長がコツリと藤堂君の頭を叩く。

「いや、先輩も先輩で中性的な魅力で溢れてて、そんな先輩のプライベートでしか見せない女性らしい部分とか見せられたらきっとイチコロっすよ」

「バカッ!そこは具体的に返すとこじゃないだろぅ!」

顔を赤くしながらそっぽをむいてしまう四方田副会長。彼女はあれでいて結構気が付いたり、分け隔て無く親切にしてくれるので、その辺が人望の厚さを作り出しているのだと思う。この非常時に於いて嗜まれる日常会話に少数だった周囲の「もしかしたらイベントなのかも知れない」という可能性が大きくなってきている雰囲気が漂う。

「人の話を聞け!このくそガキどもっ!」

機銃を天井に向けて発砲し、辺りに薬莢が散らばる。その熱せられた銃口を二川亮のこめかみに突き付けると、肉が焼ける音がする。流石の生徒会の面々もこの行為には顔色を変えざるを得ないが、騒ぐような真似はしなかった。こめかみに火傷を負いながらも平静を保つ二川亮。こいつ、ラヴレターばっかり渡そうとしているただの変態じゃない?

「邪魔をしないで貰いたい。私達はここに喫茶しにきているのだ。可愛いメイドさんに淹れて貰った極上珈琲が貴様の行ないで台無しになる……」

終始下手に出ていた二川亮が銃口を押し返す様に立ち上がる。

「そして何より、この数ヶ月間、汗水垂らして準備を重ねて来た生徒達の努力を貴様の横暴な行ないにより無にしたくは無い」

二川亮の圧が重みを持って相手の肩に圧し掛かる。それはこの学校の生徒達全員の重みだった。

「その顔が潰れた仲間を連れてここから出て行け。ここは神聖な場所だ。本来ならこんな凄惨な場面では無く、輝かしい青春の一ページが参加者に刻まれるはずだった。その罪、軽く見ては困る」

その言葉に反応する様に二川亮の横に生徒会の三人も並ぶ。

「「「全ては生徒達の青春が為に!」」」

その生徒会達の強い目に押され、後ずさる紅シャツの男。そこに入口を塞がれていたはずのメイド喫茶ブースに、息を切らしたメイド服姿の田宮が膝に手を置いて息を整えながら姿を現す。

「ざ、残念ね!あなた達!私も生徒会よ!私を誘拐し、この文化祭を台無しにしようとした代償は高くつくわよ!」

包帯だらけの男と紅シャツの男が驚いた様に田宮の方を見る。

「「お、お前は!」」

「お久しぶりね、クズども。そしてチェックメイトよ!」

その真意が分からずに辺りを見渡すヤクザ達。良く見るとヤクザの1人に人質として掴まっていたはずの小室亜記が厨房側に避難してきて、その人質の代わりに、金髪の軍服姿をした青年がヤクザの男の一人に逆に脅す様に銃を突き付けて来た。

「あんたは!戦車チャリオットさん!なんで俺達の敵に!?あんたはこっち側の人間だったはずだ」

「勘違いしてほしくないッスね。俺達ゃ傭兵、もとい暗殺者。金をつまれりゃなんでもやる」

その手には田宮が渡したのか、メイド喫茶で配れる優待券が掲げられていた。あれであいつ等を雇ったのか?って!金ですら無いし!この場面でも田宮のちゃっかりとした性格が伺い知れる。確かに、ヤクザに叶う相手といえば警察かその上位の存在、特殊部隊か暗殺者だけど。たった1人でこの人数を相手に出来るとは思えない。これ以上の話合いは不要と紅シャツが機銃を向けようとした瞬間、戦車が通告する。

 「あんた素人っすね。その銃の残弾はもう無いはず。無駄撃ちすぎっす。残弾数は命のストック。それを把握すらしていないあんたはここで死ぬ。あんたのその銃声、遠くから聞いてたっスけど、あと一発ってところっすね」

「そんなの分かる訳無いだろ!」

お互いの銃声がフロアーに響き渡る。暗殺者戦車の言う通り、紅シャツの機銃の残弾は一発で、戦車が握るデザートイーグルから放たれた銃声も一発だった。一発の弾の威力で言えば口径の大きいデザートイーグルに分がある。カチカチと紅シャツの機銃から残弾補充を知らせる虚しい音が聞こえ、その場に膝をつく紅シャツ。左腕が撃ち抜かれていた。大口径の銃弾なのでそうとう痛みを伴うが、あの戦車なら頭を撃ち抜けていたはずだ。あっ、殺しは仕事。金にならない殺しはしないのか?紅シャツから撃たれた弾は戦車が目の前に居たヤクザを盾とし、本人は無傷の状態で助かっていた。一発で仕留める自信と相手の残弾数を把握していないと出来ない動きで、やはり殺しのプロだと言ったところだ。

「まだやるっすか?」

紅シャツの男が痛みに呻き声をあげながら部下達に命令する。

「くそっ、もういい、お前ら!全員撃ち殺せ!どうせ捕まるなら死ぬまで盛大に暴れてやれ!」

その合図と共にブース内に居た8人のヤクザ達が大声を上げて、叫びながら銃を引き抜いていく。戦車や生徒会の面々、荒川先生やランカスター先生を射殺しようと。

「銃はこう使うっすよ」

それはまるで西部劇の早撃ちを見ているようだった。先に銃を出していた三人の男の手を撃ち抜き、後続して銃を引き抜いた男達四人を手を正確に吹き飛ばしていく。彼が扱っているのは反動の大きい大口径のオートマチック。その衝撃をうまく殺しながら標的の順番を間違える事無く撃ち抜いていく。このフロアーに居る全員の銃口をまるで把握しているかのように。銃を取り出したばかりのヤクザは当然の如く、安全装置を解除し、しっかりと構える。その刹那の時間を頭で計算しながら感覚反応で対応している。これが……暗殺者?戦車を仕留めようと最後の銃保持者がお互いの銃口を向け合う。

「こっちはあと一発っす。外すの怖いんで脳天狙うっすよ?」

「この!こっちは12発だ!確実に仕留めて……あっ?」

何処からか飛んできたトングがその男の手から銃を弾き飛ばす。その痛みに呻く男。戦車が笑いながらその白い歯を見せる。

「誰が一人って言ったっすか?俺は唯の囮っすよ」

大男二人の首根っこを掴んだまま、細目のコックコート姿の男が現れ、引き摺ってきた男達をその場に引き倒す。床で呻き声が上がる。紅シャツの男が驚いたように声をあげる。

「お前!何者だっ!舎弟達はどうした?!ここ以外に通路に12人、校門前に20人も配置してたはずだぞっ!?」

その男の後ろを追い掛けて更に三人の男が細目の男に飛びかかるが、目視する事無く、裏拳と当て身、強力な蹴りでその場に昏倒させる。あっという間の出来事だ。片手に怪我を負ったヤクザ達も細目のお兄さんに飛びかかるけど、コックコートを脱いで、それを撹乱に使用したり、相手を巻き込んだりして倒していく。す、すごい。椅子とか机も器用に利用して、完全に一対多の多勢に無勢の状況をものともしていない。銃を完全に無効化した戦車の功績も大きいが、こうも怯まずに動けるものなのか?こんな人達を僕らは相手にしていた?紅シャツヤクザは突然現れた謎の中華料理人、カンフーお兄さんに呆気にとられている。尚も立ち上がろうとするヤクザ達にまたもや何処からか棒手裏剣が飛んできて肩や背中、腿に次々と突き立てられていく。致命傷になる部分は意図的に外しているようだ。入口の方からどなり声が聞こえ、そっちの方を見ると回転しながら転がり混んできた女性を捕まえようと躍起になっていた。動きがちょこまかと猫の様に忙しない。チャイナドレスの切り込みから伸びたしなやかな白く長い足が、鮮やかなカンフーキックを決めて、相手を昏倒させていく。軽い身のこなしで机を足掛かりに空中に舞い上がると、クルクルとまるで曲芸師の様に回転しながら細目のお兄さんの背後に着地し、その背中を守る様に構える。赤いチャイナ服姿の猫耳お姉さん。彼女もまた暗殺者だ。二流らしいけど。

「お兄さん、怪我は無いにゃ?あの一千万の男の子も無事で良かったにゃ」

細目の男が呆れた様にわずかにこちらに目配せすると微笑みかけてくれる。

「当たり前ネ。ワタシが逃した獲物、雑魚共に殺されたと知れたら一流名乗れないネ。それにキミがここまで出てくるまでも無いネ」

「弱いにゃれど、銃持ちたくさんでちょっと心配だったにゃ。それに私もあの可愛いメイドさんに優待券貰ったニャ。珈琲飲んでみたいにゃり。暗殺者としてその分は働くにゃ」

「全く…-あのメイドの娘。戦車のついでにワタシ達にも券を配るとは……ラッキーだったネ。ワタシとキミの事、暗殺者として見て無かったネ。ついでとは言え、報酬分は働くネ。こいつらは優待券1枚ほどの価値しか無いので事足りるネ」

ニャーニャーネェネェ煩い会話の中、軍服姿の金髪青年が嬉しそうに声をあげる。

「もしかして!俺を助けに来てくれたんすね!」

溜息を吐く細目のお兄さん。爽やかそうな顔に似つかわしく無い堅牢な筋肉がタンクトップの下から覗いている。彼等は数日前に僕の命を狙って犯罪組織から送り込まれた暗殺者の三人「死神」「鈍猫」「戦車」だ。僕の暗殺依頼が取り消されてから、いや、杉村誠一さんの姿を確認した段階で僕を殺す事を諦め、組織からの追随をやめさせるように掛け合ってくれた。彼等は無関係な人間は巻き込まない古いタイプの暗殺者でもある。確か、校門前の道路で西森軒の店長と唐揚げを売ってた気がするけど?

「なんなんだ!お前らは!?あれだけ居た舎弟はどうしたんだよっ!?」

この紅シャツはタイミング的に暗殺者死神と鈍猫の事は知らない。彼等を追ってやって来たヤクザ六人を死神と鈍猫の二人がジャッ◯ー・チェンの映画さながらのジ◯ッキーアクションで相手を倒してしまう。多分、肉弾戦で彼等に敵う人間はこの場には少なくとも居ない。生徒会の人達や周りの観客もいつの間にか凄まじい拍手で彼等のアクションを見守っている。

「……これはマズイネ。ここまで目立つのは生まれて初めてネ。鈍猫、イベントとして誤魔化すね。なるべく派手にアクション決めるね!校門のとこに居た邪魔な奴等は痺れて暫くは動けないネ。金無い殺しはしない。命拾いしたネ」

会話、丸聞こえなんですけど。その会話を皮切りに、鈍猫と死神のアクションがに白熱し、ブース全体を巻き込んだカンフーアクションが繰り広げられていく。紅シャツを残し、殆どの組員を戦闘不能にしたところで、今度は中華鍋とお玉で武装した西森軒の店長が慌てて付け加える。

「あの怖いお兄さん達、うちの店の唐揚食べたら急に苦しみだして……うちの店の悪評とかごめんだからね?他のお客様への被害は無いし、大丈夫かなって。それより、緑青君!大丈夫かい?!おじさんも助けに来たよ?!唐揚げ食べて君はお腹壊して無いよね?」

多分、店長はそっちの方が心配で駆けつけたんですよね?



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