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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
決着の文化祭
213/319

占拠されたメイド喫茶

心理部のブースに流れ込んできた極道の人間達。

不味い事になってしまった。


玄関ホールに設営された心理部のメイド喫茶ブース。

そこにヤクザ達が乗り込んできてリーダー格と思わしき紅いシャツに黒い背広とウェスタンハットを被った男がその中央の席に一人で座り、机の上に両足を乗せ、片手に銃床を収納させた短機銃H&K社製のMP5SD3を僕達を脅す様にヒラヒラと構えている。その上の天井には発砲した痕跡が生々しく残っている。その発砲行為は来場者を脅すには充分すぎる効力があった。ブース内には入口を別の仲間に抑えられている為、逃げ遅れた客が壁際に追いやられて人垣を作っている。こんな雑多な中でそれを発砲されればあっという間に死傷者が大勢出てしまう。


「どうしたっ?!こっちは男の餓鬼一人差し出せって言ってるだけだぞ?!そいつのたま一つで数十人が助かるなら文句は無いだろ?ここに居るって聞いたぜ?石竹緑青を早く出せ!」


がなり声を上げる紅シャツの男をよく見れば、2週間ぐらい前に僕と田宮に背後から襲いかかってきた三人組の一人だった。その近くに構える包帯だらけの男が辺りを見渡して紅シャツの男に告げる。

「ここには居ないようですね。待ちますか?校門前には仲間を二十人配置して警察が来ても暫くは持ちこたえられます。このブースには10人。しばらく時間は稼げます。その間に俺達の無念を晴らしましょう」

「居ないなら連れてきて貰えばいい」

紅シャツの男が顎を引いて合図をすると近くに居た灰色の背広のスキンヘッドの男が近くで震えて居た来客者の一人を引きずり出して床に引き倒すと、足で背中を踏みつけて背広から取り出した拳銃を上から頭に狙いをつけている。安全装置はまだかかったままだ。銃保持者は少なくともあと数人はいそうだ。心理部のメンバーもヤクザの来客と同時にレジを担当していた小室が人質に取られてからはあっという間だった。厨房に入っていた東雲が即座に対応して木刀と手に駆け出し、その背後から援護する様にランカスター先生が銃を構えるものの、流入してきた多くのヤクザ達と紅シャツの威嚇射撃が場を混乱させ、相手にとって都合のいい状況を作り出した。包帯を巻いたヤクザは僕も見覚えがある。ビルに監禁されていた時に助けに来てくれた東雲とサリアさんに怪我をさせられた男だった。あの銃撃戦の中で生き残りがいたらしい。

東雲に銃が突き付けられ、木刀を離す東雲が相手に拘束され、包帯を巻いた男に痛めつけられ、ランカスター先生に至っては銃を奪われた上で三人の男に囲まれ、殴る蹴るされた後に、メイド服を切り裂かれた状態にまでされてしまう。男二人に肩を持たれ、まるで見せしめの様に手の空いた男がランカスター先生に暴行を加え続けている。その暴行に体中に青痣と口の端から血を流すランカスター先生。先日、僕を助けてくれる時に出来た怪我が完治して無いのもあり、動きも鈍くなっていた。実力的にはここに居るヤクザよりも誰よりも強いはずだ。杉村は不在。


厨房側にメンバーが固まっていた事もあり、僕を含め、佐藤、江ノ木、留咲、鳩羽、荒川先生は難を免れた。


僕は唇を噛み締めながら必死に耐えていた。奴等の目的がハッキリした時、名乗りを上げようとした僕の口を押さえて抱き留めたのは近くにいた荒川静夢先生だった。


「(出るな。奴等は自分達がどういった立場かを分かった上で流れ込んで来た。お前と刺し違える気だ。出れば確実に殺される。幸いな事に女装のおかげで相手は気付いていない。今は耐えろ)」


「けど!僕の所為で!」


厨房の前でコソコソ話す僕等に気付いた紅シャツの男が僕等に呼びかける。


「そこの二人、メイドの女と着物の女!状況が分かって無いようだな。こっちに来い、お前らもあの赤髪の女みたいに痛め付けてやる」


機銃でこちらに来いと合図をすると、荒川先生が近くに居た留咲さんに僕を引き渡すと、一人前に進みでる。


「あ”っ?!お前もだ!そっちのメイドも来い!」


荒川先生が頭を下げながらそれを拒否する。


「すまない。うちの生徒には手を出さないでほしい」


紅シャツの男が怒りを込めて叫ぶ。


「こっちの要求さえ飲めば手を出すつもりはねぇよ!石竹緑青を出せっつってんだろ!」


舎弟の一人が荒川先生を紅シャツの男に側に引き倒すと床に倒れた荒川先生の体に蹴りを入れる。呻き声を上げながらそれでも紅シャツの男を睨みつける先生。


「その男の子もうちの生徒だ。手を出さないでやってほしい……頼む。私なら幾ら痛め付けられても構わない」


溜息を吐きながら紅シャツの男が荒川先生の割烹着を引っ張って立ち上がらせると、そのままその頬を銃底で打ち抜くと、その口から血が溢れ出す。周りから悲鳴が巻き起こる。


「そいつはなぁ!俺達の組のもんを何人も何人も殺してんだよ!命を取らせにいった仲間全員がだ!もう許されねぇ」


事情を知るランカスター先生が悪態をつく。


「少年一人殺せないあんた達の逆恨みじゃない。自業自得よ」


「うっせぇぞ!女っ!」


機銃から放たれた弾丸がランカスター先生の近くに転がって居る座席を瓦解させていく。その光景に厳しい表情になる先生。


「んな事は分かってんだよ。だがな、奴の賞金は取り消され、組全体の意向としてこれ以上はそいつに介入出来ない事になった。けどよぉ、お前らに一方的に殺されたあいつらに面目が、ケジメがつけれねぇじゃねえか。なぁ、おいっ!」


包帯だらけの男が銃を突き付けられている東雲雀を指差し、提案する。


「次に憎いのはあのメイドの女です。奴は俺達の組に乗り込んで、散散暴れた挙句、お咎め無しだ。それだけは許せねぇ」


紅シャツの男が口を歪める。僕は嫌な予感がして僕の事を背後から抑え付けている留咲さんに話しかける。


「ごめんなさい。もう無理です。僕のせいでこれ以上は」


その腕を軽く解こうとするがビクともしない。更に締め付けられる体に背後からの柔らかく弾力に富んだ感触に戸惑いながら振り向くと、留咲さんもこの状況を心を鬼にして見守っているのが分かった。


「(気持ちは痛いほど分かります。けど、ここで今君が出ていって死んでしまう状況だけは避けなければいけません)」


「留咲さん?」


「(あいつらなんかに邪魔させない。無駄にさせない。でないと……何の為に今まで尊ちゃんが頑張って来たか分からない。お願いです!石竹さん!ここは耐えて下さい!きっと活路はあります!)」


尊さん?日嗣姉さんがどうしたというのだろうか。彼女はもうこの世に居ない。この文化祭に何かを仕掛けると言い残したが、それに留咲さんも関わっているのだろうか?


「(お願いです、少しでも、彼女を思うのなら今は……)」


彼女の水色の瞳から堪えきれずに涙が溢れ出す。その涙が僕の思考を冷静にさせていく。紅シャツの男が低い声で仲間の男に指示すると、東雲雀が壁に押さえつけられる。普段の彼女なら相手を捩じ伏せる剣力の持ち主だが、人質を取られている為、抵抗が出来ないようだ。荒川先生とランカスター先生が何かを察してそれを止めさせようとする。


「ババァ相手にしてもつまらないだろ?これは復讐だ。遊んでやれ」


壁に乱暴に押さえつけられている東雲に包帯だらけの男が席の間を抜けて近付いていく。僕の背後から留咲さんの歯軋りする音が聞こえてくる。


「(ごめんなさい、東雲さん……私達の我儘のせいで)」


どういう事だ?いや、待て、女子高生相手にそんな事は流石に……?壁際に抑え付けてられている東雲のメイド服のスカートが包帯男によって捲られ、耐えられなくなった東雲の泣き叫ぶ声がフロアに響く。


「やめろ!畜生が!極道としての気概すら失くしたのか……あっ!?」


その叫び声と共に、血を撒き散らしながら包帯の男が宙を舞い、客席机に叩きつけられて絶命する。その顎は砕かれた様に赤く染まって居た。


何が起きたかを認識する前に、東雲を拘束していた大男二人が短い悲鳴を上げて足を掬われた様に転がる。数秒後、机の陰から鈍い音が響いて二人の男の声が止む。その机の影から姿を現したのは、東雲雀の落とした木刀を握る血塗れの執事服に身を包んだ鳩羽竜胆だった。


いつもの様に微笑むと、へたれこむ東雲雀の衣服を直し、立ち上がらせる鳩羽。そういえばこいつも剣道部だった。剣道部ってこんな強いの?


紅シャツの男が銃を鳩羽に向けるが、それに全く動じない鳩羽は東雲に優しく語りかける。


「お怪我はありませんか?先輩?」


それに無言で頷く東雲。彼女も呆気にとられているようだ。

「それより、お前、剣を振るえるのか?もう大丈夫なのか?」

「恩義がある東雲先輩の貞操が危ない時にじっとなんかしていられませんよ」

厨房で控えていた江ノ木が声をあげる。

「竜胆君!私の時も君は助けてくれた!そのままやっちゃえー!!」

周囲の観客までもが手を上げて彼を応援し始める。その空気に圧倒されたヤクザ達がたじろぐ中、紅シャツのおとこが天井に機銃で穴を開けながら叫ぶ!その銃声に観客の歓声は一気になりを潜め、銃撃が終わると共に辺りは再び静寂を取り戻す。

「テメェ、何してくれてんだよ!おいっ!」

鳩羽は木刀をスッと中段の構えをとり、東雲を守る様に前に立つ。

「三人ばかり撲殺させて貰いました。何か問題でも?」

「この!?」

紅シャツの男が銃の狙いを鳩羽の脳天に定めた瞬間、何かに怯えた様に体を竦ませる。鳩羽がいつものように微笑みを絶やさない顔付きのまま、その目が相手を射抜く。その得体の知れない圧に紅シャツの男が僅かに怯む。

「これで僕も貴方達の仇となりました。この先、痛めつけるのなら僕で事足ります。ですよね?それともまだ足りませんか?あと二人ぐらい、何なら、あと五人ぐらい殺せば満足ですか?」

そういえばこいつも出所した北白に江ノ木と共に第五生贄ゲームという修羅場を生き残った被験者だった。彼にも何かが宿っているのかも知れない。かつて深淵の少女と呼ばれた天野樹理さんの様に。僕には何も宿っていないけど。紅いシャツの男がその目に見えない深淵を覗いた者が放つ独特の狂気に圧されながらも、必死にトリガーをその手にかける。


一色即発の空気の中、場違いな声が入口から聞こえてくる。


「こんちわー。生徒会です。イベント中にすいませんねぇ。心理部の皆さんの食材が心許ないの聞いて、うちのクレープ屋で余った食材を搬入しに来ましたー」


機材を大きな台車に乗せた生徒会長の二川亮を先頭に両脇に大量の食材を抱えた生徒会の面々、四方田卑弥呼、不二家ツトム、藤堂汀の四人がマイペースに入口から現れたのだった。空気、読まな過ぎっ!イベントじゃないしっ!!呆気にとられる僕等を他所に、食材と機材が運び込まれ、二川会長と生徒会の面々が倒れた座席を起こすと席につく。そして呑気にこう僕等に注文を促す。


「可愛いメイドさん達、御主人様達のお帰りだよ?極上の珈琲でおもてなししてくれるかな?」


沈黙を破る様にメニュー表を持った佐藤深緋がトテテとその席に歩いていくと、注文を取り始める。


「佐藤スペシャルブレンド珈琲4つですね、かしこまりました。御主人様っ!」


飛び切りの笑顔で応対する佐藤深緋。完全に営業スマイルである。さすが喫茶店の娘。どんな非常時であろうと席に着いた客は優先する。流石です。

生徒会の面々は今日もマイペースな様だ。

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