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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
職業 暗殺者。
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託される手紙

うーん……大体長さはこんな感じかな?

 十二月二十四日。


 街はすっかりクリスマス一色だよ、木田沙彩きだ さあや。これぐらいの長さだっかな?すまないね、私は絵以外はどうも苦手で。病室の一角で植物状態に陥る彼女を椅子に座らせ、その伸びた髪を切り揃えている。癖が強い木田の頭頂部の髪の一部がアホ毛となってくるんと癖を帯びる。人の髪を切る前に自分のを何とかしろと言われれば反論は出来ないだろう。私はすっかりと伸びてしまった自分の肩にかかる髪を片手で掬う。小机に立てかけた姿鏡で自分の容姿を確認すると、そこに映るのは連日の作業で疲れ切った顔をしている小柄で分厚い眼鏡を掛けた私だ。

 多少無理したとしても私はこの文化祭の日を待ちわびていた。今日の私の行ないがどういった結果を齎すかは分からない。


 しかし、私は未だ意識の戻る気配の見せない親友に託された願いをただ叶える為だけに動くつもりだ。部屋の時計を見ると時刻は午前9時30分を差している。そろそろ文化祭が開幕を告げる。


 「沙彩の思いは私が必ず届けるよ。だからお前も早く還って来い」


 目を薄く開けている木田沙彩の目の前に黒い大容量USBメモリーを掲げる。

 陽の光を反射させ、鈍く輝きを照り返すそれに木田沙彩の口元がどこか微笑んだような気がした。


 これはそうであってほしいと願う私の願望。この先恐らく彼女は植物状態のまま恐らく一生を終えるだろう。

 彼女は2ヶ月ほど前の学校からの帰り道、杉村蜂蜜と別れた後、通り魔に頭を鉄パイプで複数回殴殴打され、意識不明の重体で病院に運ばれてきた。頭に巻かれていた包帯は外され、伸びた髪がその傷後を隠している。

 

 床に置いた鞄をとろうとして病室の入口を見ると背の高い1人の青年がこちらを見つめている。同じ熊谷病院に入院している八ツ森高校の生徒会長「二川 亮」だ。私はこいつの事が本能的に嫌いらしい。嫌悪する感情がついつい顔に出てしまう。服装も病院服から学校の制服へと着替えを済ませている。

 「やぁ。小室亜記こむろ あきさん。君も文化祭に出るのかい?」

 「だから?」

 「いや、私も生徒会として出席するつもりだからご一緒しようかと思って」

 「あら、勝手に行けば?例え出席するつもりだったとしても貴方と一緒に登校なんてお断りよ」

 「随分な嫌われようだね」

 「お互い様にね」

 病室で乾いた笑い声を上げる男女二人の様子を周りの患者が顔を引きつらせて眺めてくる。

 「まっ、私の事は気にせず、もし文化祭に参加するのなら楽しんでくれたまえ。我々三年最後の大イベント。君の青春の一ページに刻んでくれたまえ」

 手で軽くこちらに振ると二川亮はそのまま病室から退出する。私は軽く震える足を叱りつける様に強く足踏みをする。あの男は微笑む傍ら、私達に向けてその殺気を潜ましていた。自分では隠せているつもりなのだろうか。あまり絵描きを舐めないで貰いたいものだ。

 私は提げた鞄のサイドポケットにUSBメモリーを入れる。鞄の中にはほとんど何も入って居ない。手紙の書かれた封筒が幾つか入っているだけだ。その中の一枚は、木田沙彩が通り魔に襲われ、しばらく経った後日嗣尊ひつぎ みことという留年女に手渡された。そして、もしも日嗣尊が失踪、もしくは死亡した際にはこれらの手紙を開封する様に言われていた。その手紙を渡した本人が失踪してから二週間。


 開封した手紙にはこう書かれていた。


『 小室 亜記 様


  この手紙を開封されているという事は既に私はこの世にはいません。


  もしくは二度と貴女達の前に姿を現す事は無いでしょう。本来ならそれらを私が行なうのが筋ではありますが私が言葉を託したい方々と接触するには命の危険を伴う為、身勝手ではありますがこの手紙を託す事としました。12月24日、正午までに下記に記載された者達へ宛名が書かれた同封する封筒をお渡し願えないでしょうか。


 ・石竹緑青


 ・佐藤深緋


 ・天野樹理


 ・鳩羽竜胆


 ・留咲アウラ


 ・若草青磁


 ・杉村蜂蜜


 通り魔に親友の木田沙彩さんが襲われた件に関しましてはこちらにも非があります。

 彼女は言わば私達の身代わりになって下さいました。そのお陰で私達は憎むべき怨敵に一矢を報いる事が出来るはずです。もし手紙を渡せなかった場合であってもバックアップは用意していますがそれでは恐らく私達の望むべき結果を齎す事は不可能に近いと考えております。


 そして何より木田さんが残した映像が私の恩人達に少なからず良い結果を齎すと私は信じています。

 午後の部で繰り返し上映されるアニメ研究部の映像作品「キュートなハニーちゃん」に代わりその作品を上映して頂く事を切に願っております。


 しかし、恐らく生徒会からの妨害が強く為されると思います。

 その際は2年D組のメンバーを頼って下さい。


 文化祭当日、彼等は全員青いフード姿で校内の文化祭を楽しんでいるはずです。

 彼等がきっと貴女の道を切り開いてくれるでしょう。


 2012.12.08 日嗣 尊 』


 厄介な用事を頼まれたと感じながらも木田沙彩の創り上げようとした作品を全校生徒の前で上映出来るのは私が彼女にしてやれる唯一の弔いである。さぁ一丁やってやろうじゃないか。それが親友を通り魔に襲われ傷付いた私が一歩前に進む為の戦いでもある。今日で引きこもりニート生活を送る登校拒否少女を卒業だよ。


 私は熊谷病院から八ツ森高校へと歩み出す。


 風の噂で軍事研究部のメンバーは全滅。

 例外の石竹緑青に至っては暗殺者に命を狙われ、杉村蜂蜜は石竹緑青に迫った刺客を殺しまくって失踪。天野樹理に至っては昔事件を起こした被害者遺族達に囲まれて集団暴行を受けたと聞いている。渡す相手が居なくなっていない事を願って。そうだ、事前に心理研究部員に強制的に入部させられた同じアニメ研究部の「江ノ木 カナ」に連絡を入れておくとするか。


はーい、江ノ木カナだよ?

御用の方はピーッという発信音の後に熱いメッセージを込めて下さいね?


今日は文化祭。


心理部主催のメイド喫茶の開店準備で大忙し!特に石竹君と若草君の女装に手間取ってるよ?日嗣さんの代わりに田宮稲穂ちゃんが手伝ってくれて大助かり!


東雲さんも料理得意だし、佐藤さんは本物の喫茶店員みたい。樹理たんとランカスター先生は本調子じゃ無いみたいだけど。


あっ、私?


私は右手に風穴が空いてるからオーダーしか取れないんだ。しかも覚えきれないから全然お客さん捌けなさそう。大丈夫カナ?(>_>)あははっ*\(^o^)/*みんなとにかく楽しもうね〜。


さっ!


文化祭の始まりだよ〜!

あとメリークリスマスだね!


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