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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
職業 暗殺者。
201/319

隠し味

私は暗殺者鈍猫(にびねこ)

前回までの幼イフのおさらいにゃ。

本編では語られてにゃいけど、標的の少年を拐った暗殺者烏(レイヴン)は一度私達の前から行方をくらます。しかし、うちの暗殺者死神の旦那もだまっちゃ〜いない!華麗な推理でその潜伏先を言い当てた旦那は私に鍵開け侵入を強制。一流暗殺者烏に怯えながらもその姿を少年とともに発見するにゃ。烏は変装しているみたいだったけど、訳もなく私はそれを看破したにゃ。慌てて旦那を呼び寄せ、私達暗殺者は殺し合うにゃ。因みに私は超一流暗殺者にゃ♡銃は扱えないし……時々同業者の上前をはねるけど……。


さてさて、決着も近い暗殺者編。はっじまるよー。もうなんか嫌な予感しかしないにゃ……。

乾いた銃声が室内に響き、短い女性の悲鳴の後何かが床を擦る様な音がする。

「おっと、危ないネ。鈍猫の鉄爪(てっそう)苦無(くない)で裁きながら銃で牽制をかけられるとはさすがネ」

 「その減らず口、この猫女を殺したらすぐに搔っ捌いてやる」

床を靴が擦る音と共に金属と金属がぶつかり合う不快音が背中をざわつかせる。

 「死神の旦那!早く少年を殺すにゃ!こっちが掃除人のレイヴンに殺されそうでちびりそうにゃ!」

 何とかしないとこのままじゃ烏さんがやられてしまう。いや、同士打ちしてくれた方がいいはずなのだが、先程の暗殺者同士の口振りからどうやら烏が裏切って僕を助けようとしてくれているらしい。

 合点はいかないが、少しでも僕は生き延びられる選択をしなければならない。目だけはベルトと布で固定され、目隠し状態にある為、一先ず食事をとってた椅子から立ち上がる。そして、背後をとられない為に壁際へと後退する。一度壁に背中をつけると、そのまま背中を擦りつけながら部屋の隅へと移動する。追い詰められれば逃げられないが、警戒しなければいけない視野がこれで四分の一にまで減少する。

「少年は目隠しされてて、部屋の隅に逃げ込んだにゃ!扉や窓からは遠い!袋のネズミにゃ!」

 何度もお互いの間合いが変化しているのか、足音が忙しなく床を蹴る音がする。足音は二つだが、音が大きい方が恐らく烏さんでほとんど着地音が聞こえないのが鈍猫にびねことよばれる暗殺者だろう。

 「そうネ……。烏が次に弾を装填し始めたら殺しにいくネ」

 「頼んだに……ゃがっ!?」

 ゴイィィンッ!という鈍い音が聞こえてくる。

 「頭!?烏、頭に銃をぶつけてきたにゃ!地味に痛いにゃ」

 空を切る音がして、烏さんの舌打ちが聞こえてくる。

 「くそっ!打撃や、蹴りは全て飛び跳ねて避けられるか」

 「これが私の生存戦略にゃ!」

 「きゃっ!」

 打撃音の後、烏さんが床に倒れる音がする。咄嗟の烏さんの悲鳴はなんだか可愛い。本人に言ったら殺されそうだけど。

 「助かったにゃ!死神のお兄さん!」

 「ワタシがしばらく時間を稼ぐ。その隙に少年を殺すネ。ここは民家の地下。逃走経路は極端に少ない。長居はするつもり無いネ。部隊が出ている特殊部隊ネフィリムの動向も気になる。ところで烏、君は暗殺者として優秀ね。こちら側に来ないネ?」

 咳き込む烏さんが苦しそうに死神と呼ばれている暗殺者に返事をする。

 「誰がお前らなんかと手を組むか」

 「断るか。仕方ないネ。航行の憂いを断つ為にここで君を殺すネ。どちらにしろ裏切り者だとレコレッタに報告した場合、お前は組織全体から追われる身になる」

 「覚悟の上だ。死ぬ時は死ぬさ」

 「なら……それは今だ。タダ働きは普段しないのだがな」

 床を勢いよく靴底が滑る音がして鈍い大きな衝撃が走り、部屋全体が揺れる。

 「させ……ない……そいつは、その少年は大事な」

 近くに気配を感じて身構える。

 「大事なら金庫にでも入れて閉じ込めておくにゃ」

 その声の距離はすぐ近くから聞こえてきた。恐らく遠くて半径2M以内だ。

 それに合わせて背中を付けていたコンクリートの壁を蹴りつけ、その反動で勢い良く前に飛び出す。

 「にゃ?!」

 自分の頭の中に自分の今の体勢をイメージしながら、両手もしくは片手に刃の付いた手甲を装着している相手を思い浮かべる。

左利きであるよりも右利きである可能性の方が高い。そして僕があえてがら空きにしている体の左側面に向かって鉄爪は振り下ろされるはず。その時、相手の左手は動いていないはず。急な僕の動きに反応したとしても僕を殺し切れるだけの予備動作さえ与えなければ殺傷力は減退する。こんなところでハニーと誠一おじさんと遊んできた事が役に立つとは。目が使えないなら相手の姿と自分の姿、音、情報、呼吸、間合いを想像する。引き延ばした右腕に僅かに鉄の刃らしきものが触れ、引っ掛かるように僕の腕に痛みを与える。それも貴重な情報だ。右腕を捨てる覚悟でそのまま手を伸ばし、手の平を切り替えして相手の腕の内側を掴む。ここでこの最初の一手をヘマした時点で僕は詰む。けど、何もせず殺られるよりはマシだ。

 数瞬遅れて反応した鈍猫は恐らく振り降ろした刃の進路を変えて、こちらの首元を狙ってくるだろう。この暗殺者、相手をいなすタイプでは無く、自分から避けるタイプだ。腕を掴まれたのが素人だろうがプロだろうが嫌がるはず。必ずその腕を引き剥がそうとするはずだ。間に合うといいけど。その刃が首筋に届く前に、ありったけの力を込める。敢て誘い込んだ壁際。そのコンクリートの壁そのものに相手の体を遠心力でぶつける。声からして女性。烏さんの攻撃を寸前で避けているとしたら身軽さを重視し、体重的にも極限まで削り落されているはず。右手に込めた力がそのまま作用して壁に鈍猫を叩きつける事に成功したようだ。大きな震動が部屋全体に大きく響き渡る。

 「にゃぶっ!!」

 恐らく背中全体を壁に打ち付けられたはず。左手にも刃物は装備されていた。傷を負った右腕に構う事無く相手の左腕を掴んだまま地面に今度はうつ伏せにして叩きつける。武器は使わせない。恐らく先程のダメージと遠心力で両手は使えず、ノーガードで顔面か胸部を叩きつけられたはず。

 「ふぎゃ!」

 短く発せられる悲鳴に構う事無く一旦左腕を離して素早く背中側に回り込み馬乗りになる。両手に武具を装着しているなら、背中側にしか安全圏は無いからだ。

 「ふごごーっ!」

 相手が怒りの声を上げる。恐らく顎を痛めたか外れているだろう。

 相手の首筋を左手で抑えながら、相手の右腕を何度も踏み付け、ダメージを与えて使えなくする。もう片方の左手も同様に。本来なら肩の関節を両方外すか、手を砕くのが手っとり早いが相手が女性なので少しは気を使う。男ならそのまま首に腕を回して頸椎を折るか、窒息させている。なるべくは殺したくは無い。

 「ごめん、にゃしゃい……」

 戦意の喪失した小さな声が鈍猫から発せられる。顎は外れていないようだ。恐らく両手もしばらく使えないだろう。

 もう一人の暗殺者の方を牽制する様に顔を上げる。息を飲む音の後、死神と呼ばれている男が口を開く。

 「見えているのか?」

 それには答え無い。警戒して少し動きを止めていられるはず。奴は烏さんの事も警戒している為、やたらと動けないのだ。

 「この猫女の首をへし折る」

 特に感情を込めずにその男が返答する。

 「特に問題は無いネ」

 僕に馬乗りにされている鈍猫が僅かに動いて嘆き声をあげる。

 「あっそ」

 そのまま躊躇無く下敷きにされている女の首に手を回し、力を込め始める。背中から乗られた状態で首を絞められるのは相当苦しいはず。為す術無くジタバタと暴れる鈍猫。

 次の瞬間、壁に叩きつけられているのは僕だった。しかもご丁寧な事に腕を解いてから壁に投げ付けられたらしい。咳き込む声が少し離れたところから聞こえてくる。死神が鈍猫を僕から引き離したらしい。

 「な、一体あいつは何者にゃ?本当にただの高校生かにゃ?油断していたとはいえ、私が」

 「恐らくその油断すら少年は折り込み済みネ。相手を油断させた上でピンポイントで攻撃をしかけてきた。さすが杉村誠一の関係者……と言ったところか」

 「あいつ、一切殴る事に躊躇無かったにゃ。一応私も女にゃりよ?」

 「本来特殊な訓練を受けていない限り、一般人は理性が働いて一瞬攻撃の手が緩まるはずだ。ましてや相手が女性なら尚更。その少年には一切それが無かった」

 「優しい顔して鬼にゃ」

 「いや、そういう風に訓練されたのかも知れない」

 「訓練?」

 「兵士が良心の呵責が邪魔して任務時に相手を殺す際に迷いが生じない様に、心理的に調整される、もしくは調整する方法がある。二重思考とも言われるそれをその少年も無自覚に施されている場合がある」

 「もう一人の自分にゃ?」

 「そんな感じネ。戦闘時にのみ自分の心を切り離して動けるようにする。それより、鈍猫、烏と少年から離れたところで見ているネ。ここからは1人でいく」

 「面目無いにゃ」

 そこで再び銃声が鳴り響く。

 「お前らの相手は私だろう」

 「烏もボロボロネ。体もさっきの私の一撃で全身の痛みでまともに動けないはず」

 「黙れ!」

 叫ぶ烏さんに僕は目を覆うベルトの鍵の在り処を聞く。

 「鍵はここだが、君は手を出さなくていい!君が手を汚してしまったら、何の為に私が戦っているか分からないだろう!」

こんな時に何を拘っているんだ?

「烏さん……ごちゃごちゃ五月蝿い」

「えっ」

「鍵を」

「ハイッ!」

烏さんが素直にその鍵をこちらに投げてくれたようだ。

「させないにゃ。よっと。パクリ」

何時まで経ってもこちらに鍵が来ないので鈍猫に奪われたみたいだ。

「す、すまない少年。少し手が滑った」

溜息を深く吐きながら僕は壁に打ち付けられた背中のダメージを感じながら立ち上がる。

「あっ、少年よ。君のナイフは元に戻しておいた」

烏さんに拘束された段階でそういうものも没収されていると思っていたけど、律儀に返してくれていたようだ。素早く脛に固定されている蜜蜂印の特性隠しナイフをホルダーから引き抜く。

「ナイフ一本で何が変わるというネ?」

「わからない」

「痛みで身動きの取れない裏切り者の暗殺者に不意打ちが得意な男子高校生。対峙するのは百戦錬磨の一流暗殺者。とにゃーにゃー五月蝿い二流暗殺者。勝てる要素があるとでも思っているのか?」

「さぁ」

そっけなく僕は答えて、そのナイフを目を覆っている布とベルトに挿し入れ、切り裂こうとする。その前に暗殺者の烏が一言付け加える。

「ちなみに私は変装している。間違っても誤認して攻撃するなよ?あと君の目が光に慣れるまで、銃と苦無で援護させてもらう」

「ありがとう」

 バサリとコートが搔き上げられる音がして、この部屋のあちこちから金属音と銃声が等間隔に聞こえてくる。それを避ける様に死神と鈍猫の気配が分散するように遠退く。

視界が開け、部屋に差し込む陽光が眼球に届く。目に映し出された光景、それは血塗れに戦う優しい黄金色、蜂蜜の様な色合いをした黒コート姿の女性が必死に暗殺者2人と戦う姿だった。

僕は合点がいった様に笑い声をあげる。

烏さんの攻撃を避けながら、戸惑う様にこちらに目をやる暗殺者二人。中華料理店のお兄さんに、デパートへの道を教えてくれた猫耳お姉さん。

「そうだよな……このタイミング、僕が暗殺者に殺されようとしている状況下、あいつが大人しく黙っているはずが無かったんだ。本当、いつもお前は……無茶ばっかりして。あの時も、あの時も、いつもお前はボロボロになって僕の傍に駆けつけてくれる」

右手に握ったナイフを構え直す。

「お帰り、僕の幼馴染(ハニー)

烏さんが顔を赤くしながら慌てて首を振る。

「ば、バカを言うなアオミドロ。私はお前の言うハニーでは無い!」

退行した杉村では恐らく暗殺者として裏の世界で暗躍する事など出来なかったはずだ。それが出来たのは、それを可能にした杉村のもう一つの人格。トラウマに関与されない別個体。この軍人の様なお堅い話し方に、僕の事をアオミドロと呼ぶ彼女は。

「一緒にこいつらを追い払おう。(レイヴン)さん。いや、働き(ウォーカー)さん」

僕の言葉を聞いて少し嬉しそうに微笑む働き蜂さん。

「久し振りみたいだな……一緒にこうして戦えるのは。私の中にいるあの子達も喜んでいるようだ。背中を守る者よ」

久し振りに僕の前に現れた働き蜂さんとの会話に僕は嬉しくなる。彼女の中でその存在は忘れられていたけど、消えてはいなかったんだ。

「あまり期待しないで下さいよ?」

「君が傍に立っているだけで、私はこうして何度でも立ち上がれる」

「では行きますか」

「あぁ。暗殺者を始末する簡単なお仕事。掃除人「烏」の役目を果たす時だ」

僕等は近付き合い、部屋の中央付近でお互いの背中を合わせ合う。

「ところでアオミドロ。さ、さっきのカレーは口に合ったか?」

「うん。すごく懐かしい味がして美味しかったよ」

「うむ。それは良かった。隠し味は……」

「君だろ?」

「そうだ。(ハニー)だ」

お互いに微笑み合う僕等。背中越しでも分かる。そして僕の中では彼女も隠し味に変わりない。

「行くよ、ハニー」

「あぁ。ロクショウ」





こ、こいつら知合いだったにゃりか。しかもなんだか仲良くて羨ましいにゃ!(鈍猫)


いや……幼馴染という事は……烏も高校生という事か?杉村誠一の娘、その本人がまさかお前とは……やられたネ。24歳といってサバ読んでたのか。(死神)


死神のお兄さん、当たり前にゃ!あんなすべすべでピチピチの白肌!10代以外考えられないにゃ!絶対特に何も手入れしてなくてあれにゃ!(鈍猫)


……女子高生暗殺者か……聞いた事無いな。いや、最年少は確か小学生だったから不思議は無いか。益々こっち側にスカウトしたいネ。そして仕事をお手伝いしてほしいネ。間違いなく一流になれる。(死神)


そうそう、私なんか二流止まりの冴えない暗殺者……にゃ涙(鈍猫)

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