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白き救世主

霊樹の森

その奥深くで行われる

浄化の儀

 深い森の奥に佇む山小屋。


その内部で僕の知る女の子が殺されている。


小屋の主でもある男、北白直哉きたしろなおやは不服を感じているようにも見えた。絞殺後の少女の身体に穿たれた穴から流れ出る出血量が少なかったからだろうか。


「まだ足りないかも知れない」


そう彼が呟くと動かない彼女の胸部から下腹部へナイフを滑らせる。


大きく開く体表の傷口から少女の小さな内包物が崩れ落ちていく。北白はその臓物には目もくれず少女と自らの体を重ね合わせた。男の衣服は少女の血を吸う様に赤く染まっていく。


「あぁ、暖かい」と男が呟いた。


 これは男にとって自らの魂を浄化する為に必要な儀式であった。少女の死と血を以て彼の穢れは祓われる。


 そう僕が吹き込んだ。


 全ては嘘から始まった。僕等が助かる為の嘘。でも、こうなってしまった以上はもう何もかも手遅れだ。予想外だった。誰もこの結末を予測していなかった。


 僕等の歯車はどこから狂い出したのだろうか。


 この森で、この笛吹き男と遭遇した事が僕等の罪なのだろうか。僕は力無くその場に項垂れる。


 小屋の外から聞こえた短い悲鳴に僕は顔をあげる。


 何か非常事態が起きたらしい。


 そして、小屋の扉が何者かに蹴破られた。


 扉が破壊されると同時に外気が流れ込み、夕陽が薄暗い小屋の内部を鮮烈に照らし出した。


 まるで時間が止まったかのように思えた。


背に陽を浴び、黄色いレインコートを羽織る黄金に輝く少女が此方を、いや、少女に身体を重ねる北白を見つめていた。


 この第四ゲームの生贄になった佐藤浅緋とは同世代ぐらいだろうか。少々大人びて見えるその容姿は淡く優した色をした黄金の髪と、深く澄んだ緑の瞳を持っていた。


 彼女の事は何度かこの森で見かけた事がある。


 なんだそうか……倒れている彼の事を追ってここを嗅ぎつけたのか。こんな深い森の奥、しかも私有地だ。大人でさえ

やってこないのに。


かわいそうに。


君まで死ぬ事無いのに。


もう遅いんだ。


 結局、君と僕は何も取り戻せない。


 北白直哉は一言呟いた。


「て……天使様」


 その言葉に我に返った少女の顔が変化する。彼女の叫び声が小屋内で反響し、背後で広がる木々を騒めつかせた。


 その場から逃げ出そうとする少女だが、恐怖で体が動かず、無様に尻餅をつく。


諦めなよ、僕等の運命はもう変えられない。北白はその血塗れた体のまま、天使に歩み寄ろうとする。


 少女がこちらを覗きこむように視線を向け直すと、遠目でその場に倒れている少年の様態を確認しているようだった。彼女の震えが急に止まる。緑の瞳に宿す光が輝きを増していく。


 この絶望の中、君は何に希望を見出したんだ?


何かを覚悟したように高身長の北白を見上げると彼女は震える足に無理矢理力を入れて立ちあがる。そして間髪入れず外の森へと駆け出した。


 北白は他のものには目もくれず、天使と呼んだ少女を追い駆けた。


 深い森の中、木々の騒めきを残し、両者の姿が消えていく。


 その場に残されたのは生贄になった幼い少女と、額から血を流し続ける一人の少年だった。


 死を経験した彼女の瞳はそれでも尚、目の前で気を失っている少年を捉えているようにも見えた。


 彼女は死の間際、何に思いを巡らせたのだろうか。


 直に外の森を覆う闇は濃く深く、辺りを侵食し始めるだろう。多分あの子も助からない。


僕は最後にやりのこした事があった。


 側で眠る彼に止めを刺す事だ。


 この生贄ゲームの勝者は一人で充分。これは僕とあいつが始めたただのお遊び……そう、これはゲームなんだ……そう思い込む事で僕は自分を納得させた。


こうなってしまった以上何も未練など無い。


 ただ小屋内で倒れているこいつの命だけは奪っていく。全部お前が悪いのだから、石竹緑青。


 死ねばいい……そうする事でしかお前の罪は裁かれないのだから。

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