灰猫配管 ㈱ 求人募集中!
雇用形態:正社員
就業形態:フルタイム
賃金:歩合制~500万円
通勤手当:なし
健康保険:なし
休日:仕事が無ければ休み
学歴:不問
仕事内容:人を殺す簡単なお仕事
配管工事の車を奪い、石竹緑青の潜伏するホテルへと鈍猫と乗り込むとホテルのフロントへと裏から回る。人当たりの良い笑顔を顔に張り付け番をしていた女性に声をかける。
「連絡頂いた灰猫配管です。そちらで配管の水漏れが発生しているとお伺いしたのですが?」
工具箱を片手にヘルメットと灰色のツナギを来た私と背後に控える鈍猫の姿を確認するときょとんと眼を丸くして固まっている。
「えっと、こちらで配管トラブルの電話をかけた覚えは無いはずですが?」
フロントの女性の顔がひきつり、その手が近くの受話器に伸びようとするタイミングでワタシはその手を掴み受話器を握らせない。
戸惑う女性に灰猫が背後から迫り、その口元を塞ぐと棒手裏剣をその女性の眼前に突きつける。
「騒ぐにゃ。言うとおりにすれば殺さない」
怯えながら鈍猫に素直に頷く女性。賢い選択ネ。握る手を離し、自由にしてやる。この距離なら逃げ出そうとした瞬間にしとめられる距離ネ。ワタシはこの少年の居場所を確かめる為に女性に質問する。
「警察関係者が泊まる部屋を教えるネ」
女性は必死に首を振ってその質問への返答を拒否する。
「ご利用のお客様がどの部屋をご利用されているかはこちらでも分かりません!確かに警察の方がこられましたが、どこに泊まられているかまでは……」
ワタシが睨みつけると女性が息を飲み言葉を中断させる。
「利用中の宿泊履歴は調べられるか?」
腰からオートマチックリボルバーのウェブリー=フォスベリーの銃を引き抜くとその撃鉄を起こす。独特な形状のデザインをしたホイールが可動し、次弾発射の準備を整える。一般人を脅すには刃物より銃が効果的ネ。
すぐに女性の手が目の前のパソコンのキーボードに伸びて、ホテルの宿泊履歴が記録された画面が表示される。全部で80部屋ある内のどれかに奴らが宿泊しているはずだ。鈍猫の情報が間違いで無ければだが。鈍猫がモニターと睨めっこしているが、その手がかりを掴めずに眉間に皺を寄せている。
「鈍猫、20日から今日の21日まで一度もチェックアウトする事無く利用されている部屋はあるか?」
画面に並べられた数字を追う鈍猫が難しい顔をしながら首を振る。
「死神のお兄さん、ダメにゃ。半数近くが泊まりで見分けがつかないにゃ」
襲撃を警戒して相手の心理を考えると地上と上空からの襲撃に備えるはず。最上階、最下層の部屋に泊まることはまず無いだろう。2階から7階の部屋を利用している可能性が高い。有事の際に備えて一部屋だけを貸し切っているとも考え辛い。
「女、このホテル、男女二人以上泊まる場合は許可が必要ネ?」
怯える女性が慌ててそれに頷く。
「は、はい!基本的に犯罪などを未然に防ぐ為に一部屋に宿泊可能なお客様の人数は3人までとしています。それも男2人は許可していません。男性様一人に対して女性二名までとなっております!宿泊料金も別途必要になります!」
その事を踏まえ、改めて鈍猫に指示を出す。
「2階から7階までの部屋で同時刻に料金の更新がされている二部屋はあるか?」
鈍猫が難しい顔をしながらチェックインとチェックアウトの時刻を確認していく。侵入してから可能な限り迅速な行動が必須となる。先にこちらの動きを悟られた場合、みすみす逃してしまう可能性が高いからだ。暗殺期限は23日まで。最悪まだ2日ある。今回の作戦が失敗した場合は、先にこの件を降りた戦車とわざと別行動をさせた烏の協力を得られると有り難い。信用しすぎるのは危険だが。鈍猫とワタシと烏と戦車。4人居れば何とかなるだろう。接近戦に特化したワタシと鈍猫、そこに中距離で力を発揮する烏と戦車が居れば心強い。
「あったにゃ!505号室と504号室が同時刻で更新されているにゃす!」
5階。私達が空と地、どちらから攻め込まれても対応出来る位置だ。もしかしたら自分達を犠牲に少年だけを逃がすことも想定されているのかも知れない。場所は特定出来た。素早く縄で事務椅子に女性を括り付けると口を布で塞ぐ。鈍猫の鋭い眼差しに怯えて身動きが取れないでいたようだ。
「鈍猫、マイクの前で準備しろ。そして出来る限り業務的な言葉使いで緊急放送を流せ。火元は505号室。どちらかに恐らく少年は潜伏している」
「にゃーっす!」
鈍猫が手持ちのトートバッグから暗殺衣装を取り出すと、マスクを残して素早くそれに着替える。一度ワタシに脱がされている為か、全裸に対する抵抗感は無くなったようだ。白く細い体に、幾つもの傷跡が薄っすらとそのこれでの人生の壮絶さを物語っている。私にも傷は幾つか刻まれているが、怪我を負う事自体はそれほど無くなった。私が鈍猫の着替えを眺めていると、私の視線に気付いた彼女が慌ててこちらに背中を向ける。「あ、あとでにゃ」ん?どういう意味だ?鈍猫が着替えを終えた合図をこちらに送った後、私は手にしたウェブリー=フォスベリーの銃を近くの火災報知器に向けて一発弾丸を放つ。乾いた発砲音と共に火災を知らせる大音量の警報がホテル内に響きわたる。今回はホイールの中の六発とローダーに一二発。これで恐らく事足りる。鈍猫の武器は棒手裏剣一二本に、グローブ型の肉球付き仕込みナイフ。彼女は銃という選択肢を無くす事により、自分を近接戦闘に特化させているようだ。
鈍猫がコホンと咳払いした後、声の質とトーンを変えてマイクに声を当てる。
「ご宿泊のお客様にお伝えします。只今、当ホテル五階505号室で火災が発生し、館内に燃え広がっております。直ちにこのホテルからの避難をお願い致します。繰り返します、ご宿泊の……」
上出来だ。手にした銃を放送マイク近くに置かれたソファーに向けて放つ。銃声をマイクが拾った事を確認した鈍猫がそれに合わせて叫び声を上げる。
「ひぇっ!助けて!撃たにゃいで下さ!」
もう一発おまけで放つ。これだけやれば十分だろう。今度はワタシが喋る番ネ。銃を仕舞い、マイクに顔を近づけて普段の調子で話す。変に怖い声で脅すよりもこっちのほうが彼らには不気味に映るはずだ。
「えーっとコホン。聞こえますか?こちらホテル襲撃犯です。火事で焼け死ぬか、ワタシに撃ち殺されるか。選ぶのは貴方達次第ネ?」
響きわたる警報の中、鈍猫に合図を送ると暗殺道具を装着しながら素速くホテルの受付部屋から出て行く。505号室。恐らくホテル内の通路に人が溢れかえっている。宿泊状況も確認済みだ。ほぼ満室状態。動くに動けない状況下で真っ先にターゲットの少年に鈍猫を外から送り込む。
もちろん、後からワタシも外壁から五階へと飛び移り、エレベーターに近い方の部屋から侵入し通路から奴らを攻める。ワタシは陽動であり、少年殺しを確実にする為の詰め役でもある。
目の前で怯えながら震えているフロント係の女性の額に優しく指先をコツリとぶつけるとそのまま眠るように気を失う。
「迷惑料はここに置いておくネ」
さてと人騒がせな一千万の少年を始末しに行くとしますか。そこにレコレッタから支給された端末に着信が入る。相手は烏だ。意外と気付くのが早かったネ。
「何のつもりだ?」
「何の事を言ってるネ?」
「人のことをコケにするのも大概にしろ。犬狼なんて殺し屋、存在しなかったぞ。情報が無さすぎて一般人に聞いたらDVDレンタルショップに連れていかれた」
「あぁ、ワタシの手違いね!本命はこっち……紅眼鏡……」
「高くつくと思え」
「烏、怖いネ。ワタシ達トモダチね?」
「大凡、暗殺計画の実行日は今日なのだろ?」
さすが烏お見通しという訳か。あまり君とは戦いたく無いけど仕方無いか。
「嘘はつけないネ。君の言う通り今日がその実行日ネ」
「既に始まっているのだろ?」
「それも正解ネ」
「少年はまだ殺すな。不可解な点はまだ解決されていない」
「今日、殺すネ」
「やめろ」
「やめないネ」
「死ね」
「死ぬのはあの少年の方ネ」
ワタシは不毛なやりとりを中断させる為に通話を切る。特殊部隊の天使自体の戦力をワタシは過大に見積もってはいない。
八ツ森の特殊部隊は兵力でどんな事件にでも介入する厄介な組織だが、個々の能力は大した事は無い。むしろ厄介なのは、そこに所属する表の殺し屋を生業にしてきた元米国軍の男と英国軍の紅い悪魔の方ネ。少年に関しても不可解な点はあるにしてもどう足掻いてもワタシに勝てる要素など無い。
ワタシが一番警戒しているのは、八ツ森を裏から監視していた杉村誠一の存在だ。ワタシが唯一斬り結んで情けをかけられた男。そして、行方知れずとなったその男の娘、杉村蜂蜜という少女。裏の組織の監視網を巧みに潜り抜け、その所在を全く追えない謎の女子高生。こいつは何者だ?少年のガールフレンドらしいが、情報も全く拾えない。痕跡を残さないというよりも、消しているのかも知れない。
そして、彼女は特殊部隊の天使の異父妹でもある。恐らくワタシがそいつを消しにかかれば必ず姿を現すはず。もし、杉村誠一が生きているのなら、娘を殺されそうになる状況を放ってはおかないはずだ。エサになって貰うよ、二人の天使様。その状況下で現れないのなら奴は二度とワタシの前に現れないだろう。航行の憂いを絶てるのならそれに越した事は無い。堅実な生き方が暗殺者として長生きする秘訣ネ。
明るく元気な職場を目指すニャ。
まずはバイトからでもOKにゃり。
今ならキュートで美人な猫耳先輩が優しく指導しちゃうよ?
ヨジヨジ……外壁を簡単に登れるなら尚良しにゃ。(鈍猫)
経験者優遇ネ。警察お断り。(死神)