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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
職業 暗殺者。
189/319

異父姉妹

天野樹理さんの意識が戻り、一安心した僕らは再び根城を移す。

 12月19日その夜。


 命を狙われている僕は今夜も八ツ森特殊部隊Nephilim部隊長の義姉さんとベッドを共にする。宿泊先も暗殺者来訪の件を受けて変えている。


 「妹婿よ、私は嫌われているのか?なぜこっちを向いて寝ないんだ?」


 杉村蜂蜜(ハニー)と幼馴染の僕の呼び方が「義弟」から進化して「妹婿」になってしまっている。今日立ち寄った木漏日病院での僕と天野樹理さんとのやりとりを見ていて危険を感じたのか、異父妹である杉村蜂蜜ハニーの事を早くくっつけたがっているように見受けられる。

 僕がなぜサリアさんにこっちを向くように言われているのかというと、シティホテルのダブルルームに設置された大きなベッドに外側を向いて僕が横になっているからだ。ちなみに極力サリアさんから離れているのは恥ずかしいからで、嫌いだと言うわけではない。


 「向かないというか、向けません嫁異父姉さん」


 上布団の擦れる音が背後から聞こえて専属SPのサリアさんが近づく気配がする。


 「おぉ。ついに認めてくれたか。しかも正確な位置づけまで把握してくれているとはな」


 小さな声で「あの小さい眠り姫に君は渡さないからな」と釘を刺してくる。僕は樹理さんの事を思い出す度にあの優しい眼差しととびきりの笑顔、そして小さな唇の感触を思い出してしまう。僕は何とか頭を振ってその情景を頭から追い出す。

それにしても、集団暴行の目に遭ったとはいえ、生きてくれてて良かった。だが、僕が病院から樹理さんを連れ出していたらこんな事にはならなかったかも知れない。


 「サリアさん、聞いていいですか?」


 なんだ?と少し嬉しそうに距離を詰めてくる嫁異父姉サリアさん。


 「僕とハニーが、樹理さんの事を連れ出していなければあんな目に合うことは無かったんですよね?」


 樹理さんは脇腹をペディナイフで刺されて一歩間違えれば死んでいた。そうであったかも知れない未来を想像して胸が苦しくなる。そんな僕をそっと背中から抱きしめてくれるサリアさん。

 細く白い腕が僕の背中から回され、背中に柔らかな温もりを強く感じる。


 「バカな事を言うな。君は背負い過ぎなんだよ。もし、例えそうであったとしてもあの子は君に誰よりも感謝している。見ていれば判るよ」


 僕はその返事の代わりに泣きそうになる心を抑えながら伸ばされた手をギュッと握り返す。拳銃二丁を取り回しながら乱射する戦闘スタイルからは想像つかないほど細く繊細な腕だった。自分の大事な人が自分の性でひどい目に合うのはとても耐えられそうにない。


 「そして、私も君には感謝している」


 「サリアさん?」


 どう考えても僕の方がサリアさんに助けて貰っている。僕が疑問に思い、くるりと体を回転させるとかなり近い位置に顔があって慌てて元に戻ろうとするのを止められた。これでは抱き合っている様に見えてしまうので不味い。しかも同じベッドの中で。僕があたふたしているとその腕に力が込められ、身動きをとれなくされる。さすが異父姉妹。腕力の強さもそっくりだ。僕は観念して、嫁姉さんの力に逆らわずに身を委ねる。その腕の中で小さく頷く。ふわりと微笑んだ杉村の異父姉さんの目元には普段の厳しさは無く、年相応の少女の様な笑顔になる。(実年齢は知らないが)金髪碧眼の煌めきとその可憐な表情が僕の顔を赤くさせる。


 「だからこれは私からのお礼だ」


 唇をムニムニさせたサリアさんが、僕の額に軽くキスをする。


 「安心しろ、私が君を暗殺者から絶対に守る。約束だ」


 こんな事を金髪碧眼美女にしかも橙色の下着姿で言われたらキュンとこない男子は居ないだろう。額にキスをされた時、否応無くその露わな胸元に目がいってしまう。素敵って!おいっ!


 「なんでまた下着姿なんですか!?」


 サリアさんが杉村蜂蜜ハニーとよく似たしぐさで首を傾げる。


 「紺色の下着は洗濯中だ。ちょっと派手だったかな?」


 「そういう問題じゃねぇですよ!」


 「安心しろ。愚妹には秘密にしておく。だから、私の事はハニーと思って抱いてくれていいぞ?愛する愚妹の婿が他の女に手を出すぐらいなら私がハニーの代わりを務めるのが姉としての責務……ちょっとスリムボディだが我慢しろ」


 「妹想いすぎだよっお姉ちゃん!もっと自分を大切に!」


 どんどん加速する妹思いのお姉ちゃんに僕はストップをかける。


 「そ、そうか?だが男は抱かせてくれない女はすぐに捨てられてしまうとゼノヴィアが言っていたぞ?それに君の方も体の準備も整っている様に私からは見えるのだが……殿方は性的興奮を覚えると体の一部が硬質化すると」


 「それ以上は言わないで下さいっ!」


 あの心理士め。嫁異父姉さんになんて事を吹き込んでるんだっ!僕は慌ててサリアさんの体を見ない様に僕に回された腕を優しくほどいて元の位置にその体を押し返す。


 「サリアさん、恋愛経験は?」


 「愛と勇気だけが友達で、銃が恋人だ」


 「……とにかくあの赤髪の心理士のアドバイスは健全な高校生には当てはまりません。それに僕とハニーは幼馴染ですってば!恋人でも無いのに、その、所謂……不純異性交友?とかも一切無いですからっ!」


 「え?そうなのか?」


 「あ、額にキスは頑張ってした事がありますけど」


……あれ?


今思えば僕は日嗣尊さんや天野樹理さんにキスをされても体調がおかしくならない。杉村の時だけなんであんなに身体に拒否反応が出るんだ?今まで女性との関わりが無くて気付かなかったが……なんで杉村蜂蜜だけにそんな反応を示すのだろうか。


 「私は君と出会って2日で額にキス出来たぞ?君らはこの8ヶ月もかけて何をやっているんだ。むしろ何で何もしてないんだ?一般的な目線で君を言い表すと、なんて言えばいいのかな……その、なんだ」


 「このチェリーボーイが!でしょ?」


 「そうだ、それだ。この童貞野郎!だ」


 心にサリアさんの矢がグサリと突き刺さって抜けそうに無い。がくりと布団の中に顔をうずくめる僕。立ち直れそうに無い。掛け布団の向こう側からクスクスとサリアさんの笑い声が聞こえてきて、手が僕を探る様に伸びてきて頭を優しく撫でられる。


 「冗談だよ、緑青君。すまなかった。妹婿むこ殿、嫁異父姉おねえさんを嫌わないでくれたまえ」


 布団の中でサリアさんの首から下、下着姿の胸部が眼前に現れたので僕は慌てて布団から顔を出す。


 「お。おかえり。異父妹婿殿」


 「だ、ただいま戻りました。嫁異父姉様」


 咳払いをしたサリアさんが、改めて僕の目を覗く。僕は努めて呼吸の乱れを落ち着かせていく。


 「ところで、こんな仕事している私だ。明日死んでもおかしく無いからな。話せる時に話しておきたい事がある。妹は迷惑がるかも知れないが、私から見た妹の事を君に少しでも伝えておきたいんだ。私が生きた証を少しでも残しておきたい」


 僕は首を振ってその可能性を否定する。


 「僕を守る為に死ぬのはやめて下さい。ハニーのお姉さんを盾にしてまで生きたくありません。僕の方が先に暗殺者に殺されるかも知れませんし」


 「だから絶対守ると言ったろ?それに妹の大事な人を守れて死ねるなら本望だ。婿……いや、名前は緑青ろくしょうだったな。実は私はこれでも異父妹いもうとのハニーの事は大事に思っている」


 少し照れながら話すサリアさんの頬が少し赤くなる。言われなくても判る。愚妹と普段から言っている割には杉村蜂蜜ハニーの事を心配した言動が多いからだ。


 「だが、ハニーは10歳の時、あの事件を境に豹変してしまった」


 その事件とは僕と佐藤の妹が北白直哉によって拉致監禁され、殺し合わされた事件。その当時の記憶を僕は失っているし、世間的には僕自身はその事実を知らないとされている。僕の事を気遣ってかその事を言いあぐねているのか口元を開いたり閉じたりを繰り返している。僕は助け船を出すように一言添える。


 「そうですね、森で北白直哉に追いかけられて殺されそうになり僕の前から姿を消した」


 自分自身が事件そのものの被害に遭っていない(てい)で僕は話を合わす。 


 「私の中で本当の妹は当時10歳のままなんだ。事件後のハニーはまるで別人の様になっていて手がつけられ無かったんだ。その辺はハニー自身やセノヴィアから聞いているか?」


 僕は首を横に振る。そういえばいつも側にいてくれた彼女の事を僕はまだよく知らない事が多いことに驚く。


 「いえ、本人やランカスター先生からその事は一言も聞いていません。僕の前から姿を消した7年間の事も」


 「そうか。本人ももしかしたら話したくないのかも知れないな。なら私の方からは口は挟まない様にするよ。まぁ掻い摘んで話すと、ずっと何かに怯えたように震えながら他者との接触をほとんど絶っていた状態だった。精神状態も不安定で私が英国に出向いて妹の様子を見に行った時も……まるで別人の様だったよ。私の事を慕い、将来は私の様になりたいとまで言ってくれた彼女の面影はどこにも無かった」


 別人の様に。


 事件に巻き込まれた直後に彼女は既に解離状態にあったようだ。

 それは恐らく、主人格である女王蜂クイーンの他に殺人蜂ホーネットという人格が生まれたのだと思う。


 それなら働きウォーカーさんは正確にはいつ生まれたんだ?殺人蜂さんの言動から後に生まれた可能性は高いけど。


 「ゼノヴィアの事は知っているよな?」


 僕はあの赤髪の調子のいい臨床心理士カウンセラーの姿を思い浮かべてため息をつく。


 「はい。よく知っています。学校内では僕ら心理部の顧問ですし」


 「ハハッ、ゼノヴィアは昔から調子がいいというか相手に合わせて自分を柔軟に変えているからな。未だに掴み所の無い女性だよ。だが……」


 「他の教師と比べても、誰よりも僕ら生徒の目線に立って考えてくれます。ハニーもランカスター先生のおかげで退学処分になりそうなところを防いでくれました。おかげで僕は久しぶりに再会した幼馴染とすぐにお別れしなくて済んだんです。杉村が留年しそうになった時も助けてくれて」


 「そうか。あのゼノヴィアの事だから愚妹を追って来日した後すぐに英国に連れ戻すと思っていたのだがな。それは意外だよ」


 4月下旬に杉村が転校してきてからの約8ヶ月間を振り返ってみる。


 「ランカスター先生は僕と杉村との接点に賭けていたみたいで」


 サリアさんが寝ころびながら僕に肩パンチする。少し痛い。


 「ゼノヴィアの見込みは間違っていなかったということだ。君が居てくれたから愚妹は落ち着きを取り戻した。愚妹がパラノイアの症状を再発させた原因は、自分のクラスが誰かに荒らされたからなのだろ?」


 僕は春に起きた自分のクラスの襲撃事件を思い出す。幸いな事に無人であった為怪我人は居なかったが。


 「はい。その時期を境にハニーの様子が変わってきました」


 「確か、教室の黒板に……」


 「はい。天使様、何故私を浄化して下さらなかったのですか?って赤い文字で書かれていました。その教室を荒らした連中っていうのは自校の生徒だったんですけどね」


 杉村蜂蜜には、僕がかつて所属していた「軍事研究部」という部活メンバーの失踪に関わっているという噂が立っている。もう一人の杉村蜂蜜が所有する手帳にも軍部の連中の名簿リストが記載されていたので何かしらの秘密を握っていると思われる。


 もう一人の杉村蜂蜜。「働きウォーカー」さんは夏休みを境にその存在を主人格「女王蜂クイーン」の中から記憶と共にその存在が居なかった事になっている。そして、僕が父から7年前の事件のあらましを聞いたタイミングで、退行している杉村蜂蜜とあの紫陽花公園で再会した。 


 退行している杉村の年齢は8歳。

 退行している殺人蜂の年齢は10歳。

 そして働き蜂さんは杉村が退行して以来僕らの前に姿を現してはいない。


 サリアさんが少し困ったような顔をしながら自分の癖のないストレートのプラチナブロンドをいじり出す。


 「天使か……それは恐らく事件当時の北白直哉が、ハニーに対して使った言葉だ。あの事件は英国側により情報規制は引かれたが、地元住人にもその事は漏れていたらしいな」


 「天使……あの言葉はやっぱりハニー対して向けられた言葉だったんですか?」


 「そうだと私は思っている。それともう一つ……私と北白直哉は一度あの北の森で顔を合わせている。その時、私の事を見て天使だと奴が膝を折りながら祈りを捧げられたのを覚えているよ」


 「サリアさん、天使みたいに綺麗ですもんね」


 今度はサリアさんが僕の言葉に掛け布団に顔を半分沈めて顔を赤くする。


 「違う、そういう意味であいつは言ったんじゃない」


 「別の意味があるんですか?」


 「あぁ。だがここからは非科学的な話になるので深く掘り下げ無いが北白直哉は私の纏うオーラを敏感に感じ取って天使が降臨したと感じた様だ」


 「オーラ?気の事ですか?」


 「まぁ、そんなとこだ。見える人間には見えるし、見えない人間には見えない。見えなくても問題無い。ちなみに私はある条件を満たせば見える」


 「そのオーラとハニーとの関係は?」


 「私のオーラと愚妹のオーラは似ていたという事だ」


 「そうか、だから北白直哉はハニーの事を追いかけたんですね。あれ?だとすると北白直哉に殺意は無かった?」


 「あぁ。逮捕後、本人の口からもそう聞いている。だからもし私とさえ会って居なければ愚妹は追いかけられ無かったのかも知れない」

 「北白直哉と初めて会った時って何年前ぐらいですか?」

 「丁度、8年前かな?あの事件が世間的に明るみになった切っ掛けを君は知っているか?」

 「切っ掛け……ですか?北白直哉が、ハニーの父親杉村誠一さんの手によって警察に突き出されたから……だと思っていましたが、違うんですか?」

 サリアさんが目を深く瞑り、首を横に振る。

 「君はあの生贄ゲームの三件目の被害者の生き残りの女の子と仲が良かったよな?」

 「日嗣姉さん……の事ですか?」

 「そうだ。その日嗣尊だ。ん?姉さん?」

 「あ、いや、気にしないで下さい。僕が勝手にそう呼んでいるだけなので血の繋がりはありません」

 「そうか。その日嗣尊が三件目の生贄ゲーム直後に北方の森の山道で発見されたんだ。そして事件被害者の生き証人として自分自身をメディアにさらけ出し、世間の注目を浴び、世相をその事件への関心へと向けさせた。失踪したあいつのすごいところは、その事件のPTSDの症状に苦しみながらも独自の推測により警察の捜査をバックアップしながらも、過去の二つの事件を結びつけた点にある。あの(憎き)眠り姫も日嗣尊のおかげでこの事件の被害者である事が判明した」


 独特なカリスマ性を日嗣姉さんに感じていたけど、もしかしたらそうした経験が彼女の持つ独特な雰囲気を作り出したのかも知れない。お茶目で美人だし、10歳当時もその美貌をいかんなく発揮していた事だろう。ある意味、芸能人とも呼べるのかも知れない。サリアさんが続けて当時の事を話してくれる。警察関係者である為か、当時の事情をよく知るようだ。


 「警察は当時、市内で有数の資産家である北白家との軋轢を恐れて日嗣尊の示唆を受け入れながらもなかなか捜査に踏み切れずにいた。そこで警察関係者がらも自由に身動きのとれる特殊警察課のNephilimが先だって北白家に送られた」


 「そこで北白直哉に会ったんですね」


 「そうだ。奴は当時生きていた両親の影に隠れ、遠巻きに私たちを見つめていたのを覚えている。印象は薄かったが、常に何かに怯えていた様な虚ろな目つきだった事は覚えているよ。私と目が合うなり、その両親を突き飛ばしてまで私にひざまづいてきた」


 「サリアさんはどういう対応を?」


 「銃を脳天に突きつけた」


 「やっぱり」


 「あいつはそんな私に怯む事無く、祈りを捧げ続けた。自分の汚れた魂と弱まる森の結界を憂いて」


 僕の中に怒りが沸々と沸いてくる。北白直哉はそんな自分の妄想の為に何人もの少女を死に追いやった。

 

 最初の被害者の天野樹理さんは、同じ被験者の女の子を刺し殺した罪悪感から自らの狂気に飲まれ、下山したその足で何人もの人間をナイフで斬りつける事件を起こす事となる。そして11年間もの間、閉鎖病棟で暮らす事になった。


 その事件で日嗣姉さんは姉を失い、そしてその罪悪感と劣等感に苛まれながらずっと苦しんでいた。その髪が白くなる程に。あの事件さえ起きなければ日嗣姉さんは幸せで平穏な人生を送れていたはずだ。


 僕の幼馴染、杉村蜂蜜もあんな事件に遭遇さえしなければ心のバランスを崩して精神疾患を患う事は無かっただろう。


 ふと考える。


 もし、あの時、僕が遭遇した第四生贄ゲーム。その事件現場に居合わせ無かったとしたらどうなっていたのだろうか。


 「サリアさん、もし、ハニーが森で北白直哉に追いかけられなければどうなっていたと思いますか?」


 サリアさんが切れ長な目を大きく見開いて僕の顔を見つめてくる。少し戸惑ったあとこう答えてくれた。


 「……意地悪な質問をするな。あの愚妹の事だ。自分自身への後悔を募らせ、恐らく死を選んでいたかも知れない。あれはあれで私は良かったと思っている。あのまま放置していれば同じ様な事件被害者がこのあと何人も現れていたと思うとゾッとする」


 悲しそうな青い瞳が泣きそうに揺らいで僕の額の傷に優しく触れる。もし、あの時、杉村蜂蜜が僕を助けに山小屋に現れなかったら?


 僕が被害にあった第四生贄ゲームの勝者は僕だ。北白直哉が従来のルールに従うとするなら、僕は命だけは助かっていたはずだ。僕は佐藤の妹、浅緋あわひを殺して生き残った。


 どちらにしろ佐藤の妹は殺されていた。


 なら、杉村の犠牲はなんだったんだ?


 母が父に殺された日、あの紫陽花公園で杉村は自分に言い聞かせる様に血塗れの僕を抱きしめながら囁いた。


 「貴方は私が守るから」と。


 僕があの事件に巻き込まれ、生きて帰ったとしても杉村は僕を守れなかった自責の念にかられて後悔を・・・・・・いや?


 脳裏に一瞬、小さなナイフを手にした白い法衣姿の少年が映り込む。

 その目元には殴られた様な青痣がくっきりと浮かび、その目には僕に対する殺意が沸き上がっていた。


 少年の声が耳に届く。


 「全部お前の性だ!お前の性で浅緋あわひちゃんは死んだんだ!」


 その声と共に動悸が激しくなり、目の前が白んでチカチカと点滅を繰り返すように目の前が狭まっていく。


 「僕の、僕の性だ・・・・・・」


 杉村があの時、第四生贄ゲームに介入しなければ僕は北白直哉の共犯者に・・・・・・殺されていた?杉村蜂蜜ハニーは僕の運命に介入し、僕が生存する人生の道を斬り開いてくれた事になる?


 僕の中に潜む何かが、警告を放ち、僕が過去の記憶の断片に触れる直前でまるでそれを阻害する様に僕の意識を暗転させる。


 遠くに僕の事を呼び続けるサリアさんの声を聞きながら。


 あの事件には共犯者となる二人の少年が居た。


 天野樹理さんの話からその一人は「二川亮ふたがわ りょう」。


 もう一人はあの白い法衣を纏って日嗣姉さんを襲おうとした人物。


 そいつが僕に止めを刺そうとしたもう一人の犯人だ。

……刺激が強過ぎた……のか?(サリア)

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