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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
職業 暗殺者。
183/319

専属SPは義姉さん?

 2012年12月19日火曜日正午過ぎ。

 僕は八ツ森市内の木漏日町にあるシティホテル「Pyjama」のダブルルームに杉村蜂蜜ハニーの義姉さんである「サリア=レヴィアン」さんと同じ部屋に泊まっている。身辺警護という名目で。


 暗殺者とヤクザ達に命を狙われている僕の身の安全を考えてのサリアさんの提案だが、これ、二つの意味で大丈夫かな?間違っても僕が杉村の義姉さんに手を出したりはしないし、出されたりも無いと思うけど……この状況は杉村蜂蜜の方に殺されかねない。シャワーの流れる音が止み、上下紺色のシックな下着姿の義姉さんが出てくる。小さなリボンがブラの谷間とパンティーの中央部にさり気なく大人っぽさの中に隠れた可愛さを演出している。義妹のハニー=レヴィアンはブラは付けない派だったけど、下着姿も趣があって……。


 「ってオイィッ!!服着て下さいよ!せめて隠して!」


 義姉さんのサリア=レヴィアンさんが首を傾げながら頬を人差し指で掻いている。その胴体にはヤクザに撃たれた箇所に包帯が痛々しく巻かれている。身長は僕と同じぐらいだが体はモデルの様に細くくびれた腰が太股まで綺麗なアーチを描いている。細いながらも胸部の膨らみは英国人であるからして……相応のボリュームを……。それに白く透き通る様な肌は陶器の様に美しい。

 「下着姿のお姉さんは嫌いか?」

 「素敵です」

 「なら問題ない」

 「そ、そうですね。いや、そういう問題じゃ無いでしょ?!」

 「うむ。いいではないか。後々義理の弟になるんだし」

 「そうですね……って!ハニーとはまだ婚約した覚えは無いですよ!」

 常に厳しい表情をしている杉村の義姉さん、サリアさんが口元だけを少しほころばさせて微笑む。

 「そうか、一応婚約を想定してはくれているんだな。愚妹も喜ぶよ」

 仕事中の厳しい顔をしたサリアさんしか知らなかったが、少しおどけた様なところもあるようだ。そのサリアさんが右肩にかけていたバスタオルを洋室内のソファーにかける。タオルで隠れていた右腕にも包帯が巻かれ、その射創付近が赤く滲んで痛々しい。それは僕を助ける為にヤクザと撃ち合った時に出来た銃創だ。謝ろうとしたら先に謝られた。

 「ところですまない。包帯を変えるのにバスルームを汚してしまった。掃除は後でするが、浴槽は血塗れだ。次、入るか?」

 「遠慮しときます!」

 サリアさんの申し出を丁重にお断りすると、特に悪びれもなくダブルベッドの淵に腰掛ける僕のその横に腰を降ろす。ちなみに昨晩は一つのベッドを二人で共有していたりするのでなんだか少し慣れてしまった。ハニーの蜂蜜の様な甘い匂いとは違い、義姉さんの方は何かの華の様な香りがした。

 そっと僕の顔色を伺うようにサファイアの様な煌めきを持つ青い瞳が僕を見つめてくる。特に感情は読みとれないがその切れ長な目元や少しツンとした顎先など妹のハニーと似ているところは少ない。黄金の髪もハニーの蜂蜜の様な色合いとも違っていて、銀色に近い金髪だったプラチナブランドというやつだ。

 「妹の男よ」

 「ろ、緑青です」

 「義弟よ」

 「なんですか、義姉さん」

 もう突っ込むのも面倒なのでそのままいくことにした。

 「化粧台の近くに置いてある私の鞄の中から水色のポーチをとってもらってもいいかい?」

 僕はぎこちなく鞄の中を漁ると空色のポーチを見つけてそれを差し出す。鞄の中には銃と弾薬、下着類がきっちりと分けられて整頓されていた。物騒だけど。

 「すまないね」

 「いや、いいですよ。これぐらい」

 ポーチからマニキュアのセットと爪のお手入れ用具を取り出すと膝をベッドの上に立て、丁寧に足の爪をお手入れ始める義姉さん。下着姿で足を広げるのは高校生の僕には目の毒だ。しかも相手は幼馴染のお姉さんだし。

 「そうじゃないんだ。君を助けるのが一歩遅れてしまった。もっと私が早く駆けつけていれば、そんなに怪我を負うことも無かっただろうに。それは私の落ち度だ。お前が失踪してからの足取りが全く掴めず、結局、愚妹頼りという体たらく。八ツ森の平和を守る特殊刑事課が呆れるな」

義姉さんは八ツ森特殊部隊Nephilimという部隊で隊長を務めている。

 「いえ、義姉さんが来てくれなければずっと僕は監禁されていて殺されていましたから。夏休みの時に比べたら」

 サリアさんが爪の手入れ作業をしながら、僕との会話を続ける。

 「それもそうだな。全身の打撲と片目が少し腫れているぐらい訳ないか。お前は満身創痍でそのまま病院に運ばれて覚えていないと思うが、それなりに大変だったんだぞ?」

 「その節はご迷惑おかけしました。後から友達から顛末を聞いて特殊部隊の方々に助けて頂いたと。僕と日嗣尊さんが助かったのはヘリを手配してくれた警察の方々のおかげですから」

 「いいさ。だが、一歩間違えれば死んでいたぞ?」

 「はい。満身創痍な上に変な男が現れて刺されそうに」

 「よく頑張ったな。うちの妹も結構頑張ったんだ。覚えておいてくれ」

 「もちろんですよ。僕は何度も彼女に助けられています。だから今度は僕が返す番なんです」

 サリアさんが塗り終わった足のマニキュアに息を吹きかけて乾かしている。その水色の塗料はサリアさんの容姿にぴったりと馴染んでいた。

 「その、手の方には塗らないんですか?」

 サリアさんが生返事でこちらを向くと、自嘲する様にやんわりと微笑む。その柔らかい表情が綺麗で少しドキリとしてしまう。

 「指はいいんだよ。職務中にそんな浮ついた部分は見せれないし、それに反動の強い銃を連発しているとすぐにダメになるだろうしな」

 もしかしたらこの人も何かの為に自分を犠牲にしているのかも知れない。

 「サリア義姉さんは、もっと自由に生きていいと思います。僕らみたいに高校生活も満喫しても」

 きょとんとした顔でこちらを向くサリアさん。

 「えっと、そう見えているのなら光栄だが、私が制服を着用しているのは八ツ森を巡回するのに警戒されない為だ」

 「えっ?」

 「もうとっくに二十歳は超えている。年齢は敢えて言わないが」

 「えぇっ?」

 英国人という事で多少大人びてはいるが、十分高校生でも通用する義姉さんの容姿に目を丸くしてしまう。義姉さんがホテルの部屋の梟があしらわれた据え置き時計で時刻を確認する。

 「もうすぐだな。義弟おとうとよ、見苦しいとは思うがもう少しこのままで居させてくれ」

 「はい?」

 下着姿のままベッドの淵に腰掛ける義姉さん。

 「この姿でいればそのうち君が私を襲って、それをゆすりのネタにして妹と結婚させようと考えている」

 「妹想いすぎっ!!って!そんな事しないです!」

 義姉さんが目を細めて微笑みながら立ち上がり、化粧台に置かれていた白い花のヘアピンを前髪に装着する。それは百合の様な形をしているけど、小振りなその形は違う花の様にも見えた。白い花の髪飾りが付いただけでぐっとサリアさんの可愛さが上がった様な気がする。

 「可愛いですね」

 顔を赤くして短く礼を言うサリアさん。

 「こ、これはオシャレとかでしているんじゃない」

 「でも可愛いですよ?」

 「可愛い五月蠅い。これは私のお守りの様なものだ」

 「百合の花ですか?」

 「そうとも言えるし、そうでないとも言える。私の父上からのプレゼントだ。まぁ……造花と似た様なものかな」

 「すごく似合っています」

 「フン、お世辞はいい。私がそういうのに向いてない事は自覚している」

 そういえば元が良すぎる性か気にしてなかったけど、ハニーも身なりにあまりこだわりは無かったような気がする。ただ、お金は持っているので僕らからしたら高級な衣服に身を包んでいる訳だけど。そんな事を考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。来客者の様だ。

 「少し出てくれるか?知り合いの医者と部下だ。私は下着姿なので恥ずかしくて出れないよぉ」

 僕は冗談で可愛娘ぶる義姉さんが不服だが本当に可愛く見えたので、顔を赤くさせながらぶっきらぼうに返事してホテルのドアを開く。扉の前には白いスーツ姿でサングラスをかけた男性二人に両脇を守られる様に白衣を羽織った30代の女性が人なつっこい笑顔で立っていた。

 「やっ!思いの外元気そうで良かったね。少年。その傷の具合なら大丈夫そうだ。部屋に君の警護人はいるかい?」

 初めて見るその女性は僕の事を知っているみたいで、事情も察しているらしい。でも、どこかで見た様な気がする。

 「僕の専属SPさんなら部屋の中で下着姿で待機中です」

 「おや、愛の語らいのお邪魔だったかな?」

 「いいから入って下さい!」

 呆れた僕はその医師の腕を掴んで部屋の中に通す。白いスーツ姿の男性達にも声をかけるが、それに首を振って否定し、部屋を守るように扉に背を向けて立つ。サリアさんの部下らしい。

 「入らないんですか?」

 サングラスの男達が互いに顔を見合わせ溜息をつく。

 「サリアお嬢さんは君の事を守っているが、私達は君と隊長の身の安全も上層部から任されている。暗殺者やヤクザ達の襲撃に備えてここで待たせてもらうよ」

 僕は申しなさげに頭を下げるとそのまま扉を閉めて白衣の女性を中に通す。その既視感めいた姿に僕は白衣を来て丸メガネをかけた女医に声をかける。

 「気のせいならすいません、どこかで会いました?」

 通路の先でサリアさんに挨拶を交わした後、振り返って僕の質問に答えてくれる。

 「あぁ。君の事は北白直哉のお通夜の時にみかけたからね」

 「え?あの北白直哉の関係者の方ですか?」

 ベッドに腰かけていたサリアさんが立ち上がり、白衣の女性の肩に手をおくと僕にその人の事を紹介してくれる。

 「あぁ。生贄ゲーム事件の犯人、北白直哉の担当医でもあった、特殊部隊Nephilimの専属医師の高野美帆たかの みほさんだ」

 長い黒髪を後ろで纏め、丸メガネをかけた女性が腰に手をあてながらニッカリと笑顔になる。

 「そういう訳だよ。宜しくね。少年よ。大丈夫そうだど、君の傷の具合も私が確かめるから脱ぎなさい」

 「え、えぇっ?!」

 また変な人が出てきた。というより学校方は大丈夫なのだろうか。ヤクザから救出された田宮の事も心配だし、僕と近い距離に居る佐藤や若草の事も心配だ。東雲に関しては心配していないけど。そして、僕の幼馴染はどこに消えたんだろう。義姉さんとは時々連絡をとっているみたいだけど。

やっぱり今日も石竹君はお休みね。私も休んだほうが良かったかしら。(田宮)


月曜日に何があった?!(若草)


え?杉村さんのお姉さんと愛の逃避行?!(佐藤)


あの軍服のドイツ人暗殺者め。今度会ったら決着をつけねば……。(東雲)

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