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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
蜜蜂と接合藻類
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杉村と石竹の接触

怖がらないで大丈夫。君達ならまた仲良くなれる。だって心の繋がりは今もそこにあるから。

杉村蜂蜜への生徒達の関心が、僅かではあるが薄らぎ始めた頃、杉村の表情も和やかなものへと変化しつつあった。


 時折、僕と目が合う事はあっても会話は2人の間には主だって無かった。存在感の無い僕の事だからもしかしたら覚えられて無いのかも知れない。それに他人の空似ってやつもあるしな。


 加えて、彼女が髪を結っている左右のリボンは、本来なら彼女が嫌う青色だ。それを好んで付けているのは少し腑に落ちないのもある。

 でもまぁそんな事より、杉村の取り巻きが少なくなってくれれば、話すのに順番待ちしなくて済みそうだ。


 ちなみに彼女の教室での席は、彼女の目の良さも幸いして、廊下側2列目の最後尾の席だ。


 4月19日、その日の放課後も僕は佐藤の喫茶店でくつろぐ事にした。あわよくば佐藤家の夕飯を御馳走になろうという魂胆だ。若草もついて来るかな?人の気配がして横を見ると、さっさと身支度を済ませた佐藤が急かす様に足踏みをしている。僕は特に慌てる素振りも見せずに鞄に荷物を詰め込む。そこに不意に後ろから大きな声がした。


「あの!!!石竹君?」


 何故疑問形?と思いながら不意に誰かから大きな声をかけられた為、驚きつつ振り返る僕。


 そこには、誰にも周りを囲まれていない杉村蜂蜜の姿があった。ソロデビューしましたか?いや、なんか神々しい。視線を僕から佐藤に移す杉村。


「あ、そだ。確か……佐藤さん……?も今日何か用事ある?」


僕は無意識にも彼女の懐かしい声色に耳を傾けていた。話の内容など聞いてない。


「ろっ……石竹緑青くん?」とまたもや疑問形の杉村、目を大きくして顔を不思議そうに覗きこまれる。眩しい。佐藤からは、何呆けてるの?と突っ込まれる。そうだ、確か用事がどうのこうの聞いてきた事にまず答えよう。


「僕は佐藤の喫茶店に帰りに寄る位で、特にこれと言って用事はないけど?」


「あのね、あなた達を呼んでるの。都合が付く時でいいから、ゼノヴィア……スクールカウンセラーの人が話をしたいって。あとワカクサって男子も」


 スクールカウンセラーがなんの用事だろ?しかも僕ら仲良し3人組みに?


「わかったよ、ありがとう杉村。若草には僕から伝えておくし、今日早速顔を出してみる。佐藤の喫茶店に寄るのは大した用事ではないし……」佐藤に脇腹を小突かれた。返事を一時停止状態で待っていた杉村蜂蜜は僕の返事と供に活動を再開する。


「うん、わかった。用件は伝えたからね?それじゃあ……私は帰るから。またね、ろっ……緑青君!えへへ」うお!眩しい、何だか彼女がデレて笑っているように見えた。


 って、何やってんだ僕は!折角の会話チャンスだったのに!


 いや、ハニー=レヴィアン本人には間違い無いと思うが、問題なのは

7年経った現在、僕の事をどう覚えているかだ。


 ん?あれ?確かクラスメイトの自己紹介の時って、僕は居なかったよね?自己紹介してないのに……さっきフルネームで呼ばれた気がする。咄嗟に彼女の方を見ると、既に教室から出ようとしていて、なんだか彼女は終始笑顔でご機嫌な様子だった。いつもはどこか怯えている様な表情をしているのに。


 どうやら彼女は、友達とダラダラと寄り道をする習慣は無いみたいだ。帰り道で出会う生徒に一緒に帰らない?という誘いをやんわりと全部撥ね退けているようだった。特に男子生徒に声をかけられた時なんかはろくに返事もせず、慌てて逃げるように帰っていく。


 人気者は辛いなぁ。僕なんて声をかけられるのは、佐藤か若草くらいだ。しかも、この2人は、違う友達からの誘いも時々ある訳だが、何故かそれらの誘いを断り、僕の方をチョイスしてくる。不思議だ。


 あ、思い出した、僕のフルネームを覚えていたのはきっと田宮がクラスメイトの名簿を作成して彼女に渡すって言っていたし、それのおかげだ。1人納得した様に頷く。


 杉村の姿が見えなくなったタイミングでいつの間にかクラスの窓に群がっていた男子生徒が僕に流れ込んで来る。その1人に胸倉を掴まれた。えっ何?隣に居る佐藤も怪訝な顔をしている。


「おい!今、俺達の女神、杉村様に何を話された!彼女、笑顔だったぞ!しかもとびきりのデレ顔だ!万死に値するぞ!」


 僕はとりあえず、先輩の男子生徒の手を払うと、僕もよく解りませんと答える。なんて羨ましい!!と回りの男子から呻きの様な悲しみの声が聞こえて来る。


「笑顔ひとつで何をそんな……」


「俺なんて、俺なんて!!話しかけても何だか、怯えられ逃げられてしまうんだぞ!彼女から話しかけられた事と言えば……チャック全開でするよ?だぞ!」


 嘆いている割には何だか嬉しそうな表情をしている先輩。窓の外に居た男子生徒達は互いに何か作戦を練っているような、愚痴りあっているような。ハッキリしない感じで2年A組を占拠している。


 正直邪魔だな。あのスクールカウンセラーの所に行かないといけないのだけど。丁重に彼らの横を通り抜けようとした時、その状況が耐え切れなくなったのか後ろの方から田宮の激が飛ぶ。


「ここは2年A組の教室です!扉の前でたむろしないで下さい!紛いなりにも先輩ともあろう方々が、不躾です!!」


……教室を支配していた喧噪が、田宮の一言により雲散し、場は田宮の支配下に晒される。僕への詰問を諦め、しょんぼりとして2年A組を退去していく大勢の男子生徒達。


「全く、何が杉村蜂蜜同好会よ。彼女は見世物じゃないのよ?男はみんな金髪碧眼に弱いのかしら?」とすごいイライラしている学年代表。「ありがとう、田宮、助かった」その言葉に何故か戸惑う田宮。

「え、あぁ、いいのよ。ああいう連中は虫が好かないだけだから」


 そんな中、全く状況を気にしていない若草が帰宅の準備を終え、教室の奥の席からこちらにやってくる。さぁ帰ろうかと呑気に声をかけられる。僕は先刻の杉村の用件を若草にも話す。用件を了承した若草は僕達と供にスクールカウンセラーが在室するカウンセリング室へと足を運ぶ事となった。それでもって、その日僕等は正式に“非公式”な深層心理研究に入部させられる運びとなった。


 先生の話を聞いている時に出されたケーキを食べた責務を取りなさいという因縁をつけられて強制的に入部させられた訳でもある。


 佐藤も初めは面倒そうだったが、犯罪心理学も学べると聞いてからは楽しみしているみたいだった。そして過去の刑事事件を調べて独自の資料を作成したりしている。何故か僕には見せて貰えないけど。


 

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