風 神
犯罪者の集い〜レコレッタ・ディ・クリミナーレ〜に東京に呼び出された暗殺者三人。(暗殺者と依頼人を繋ぐ組織としてhttp://ncode.syosetu.com/n3321ct/「トミーガンが火を吹く前に」)(著:伊勢崎シンヤさん)より時間軸は違いますが、幼馴染と隠しナイフの世界に出張頂いています。(ヤオ、ロバート、サム、そしてシューの四人がゲストキャラです))
短い金髪に茶色の目をした青年、戦車と呼ばれる傭兵が処刑人サムとのやりとりで散乱した部屋を律儀に片づけた後、ワタシを含めた三人の暗殺者への説明が再開される。
ちなみに戦車は表向き紛争地域の傭兵として活動しているらしいが、率先して要人暗殺等を引き受けている変わり者ネ。表でも裏でも殺しをゲーム感覚で楽しむ。ワタシは生きる為に殺す。そこに快楽も怠惰も存在しない。
机を律儀に元の位置に戻した戦車がワタシや烏と同じように大人しく椅子に腰掛ける。素行自体悪く無いのはどこかの軍隊に所属しているからだろうか。灰色のアーミーメットはドイツ製のようだ。そんな事を考えていると、全く話を聞く気になっていないワタシに感づいてヤオに注意される。
「死神、退屈なのは分かるが少しだけ私の話を聞いてほしい。確かに三合会の幹部だった私は昔から君の事をこちら側に引き入れようと躍起になっていて迷惑をかけた事は謝るよ」
「面倒臭い事は嫌いネ。さっさと用件を話せ。お前は殺せと依頼するだけでいいネ」
ヤオが目を瞑り、頭を掻く。
「そうだな。面倒な事は抜きだ。それにお前を今組織に雇ったとしても飼い慣らすことすら出来ないだろうしな。飯も食えなくなる」
苦虫を潰した様な顔でいぶかしむ顔をするヤオ。隣で私達に暗殺者リストを配る英国人の痩せた眼鏡の男が首を傾げる。
「ヤオ、なんでだい?シューの料理は最高じゃないか。毎日でも食べたいぐらいだよ」
事情を知るヤオがため息をつきながら額に手を乗せる。
「シューは何も刃物類だけに毒を塗っている訳ではない。無論、その取り扱いは多岐に渡り人知れず食事に毒を盛って小隊や大隊部隊、組織丸々自分の痕跡を残さずに壊滅させる事が出来る。いや、そうしてきた男だ」
英国人のロバートがさっき食べたワタシの炒飯を思い出したのか、青ざめた顔で口を押さえる。その同じリアクションで戦車も口を押さえだす。
「ヤオ!ひどいじゃないかっ!先にそれを言ってくれっ!」
慌ててトイレに駆け込もうとするロバートと戦車をワタシは慌てて引き留める。
「大丈夫ね。ワタシ、自分の料理にはちょっとしか毒を入れないね」
「「入れてるじゃないかっ!」」
「毒を制する為の鍛錬ネ。時々病院に運ばれてるけどネ」
嘘ネ。少量ずつ使用する毒は体力を奪うだけで耐性とか関係無い。取り扱いに注意し、経口接種しない事に越した事は無い。戦車とロバートが二人で廃工場の地下アジトに一つしか無いトイレを奪い合う。表情を変えない左隣に座る烏を一瞥すると、呆れたようにため息をつく。
「君は最初から気付いていたのか?」
「同業者から振る舞われる料理を口にするなんて私達の常識からは考えられない。あなたもそれを警戒してわざわざ新品のペットボトルのお茶を選んだんでしょ?」
ワタシは手元にある日本製の烏龍茶を見つめる。
「単に茶器が無かっただけね。あったらきちんと茶葉から淹れるネ」
「よくそんなので今まで生きて来れたわね。最悪、組織から不要と判断されてこの場で目の前の大男に皆殺しにされるかも知れないのに。この中で単純な力で言えば彼が一番よね?」
烏はサングラスを少しずらしてエメラルドの瞳を威圧的に立っている処刑人の男に目を向ける。
「大丈夫ネ。レコレッタはそんな馬鹿じゃない。私達の怖さを知っている。だからこそ、騙し無しで金で雇う。フェアを意識して頭数も揃えているしね。殺し合いになった場合、恐らく私達3対3になるけど、あっちの中国人と英国人は役に立たない。処刑人サム一人で対処出来なくも無いが、奴も組織にとっては必要な人間。そんな馬鹿な真似はしないね」
「私はこの組織の事はよく知らないの。信用しろって方が無茶よ」
寡黙かと思っていたら烏は結構おしゃべりネ。
「大丈夫。ワタシはこの組織とそれなりに付き合い長い。そこは信頼していい」
「そう。分かったわ。貴方の言葉なら一割ぐらいは信じられそうね」
「謝謝。暗殺者としては十分すぎる信頼度」
「貴方にこの大男が襲いかかったら、加勢してあげる。多分、二人なら勝率は9割。戦車は見捨てるけど」
「アリガトネ」
しばらくしてトイレから2人が戻ってくると、ヤオは腕時計を叩きながら二人を睨みつける。少し気まずそうに席に着く二人。烏とは対照的に、この二人は本質的に善人で暗殺者らしく無い。この場で敵対して厄介なのは処刑人サムと隣に座る女ぐらいだろうか。ヤオの説明が再開する。
「で、だ。今配った暗殺依頼リストは日本を対象としたものだ。さっきロバートから配らせた電子端末にもそのデータは入っている。報酬額や依頼対象の除外などの情報はそちらの端末からアクセスしてくれて構わない。電話もメールも使える。ただし、痕跡を残さない為、間違っても正規の携帯やPCを経由して私達に連絡をとらない事」
ロバートが「もしそうなってもある程度情報操作は出来るけど、報酬額からは差し引かせてもらうよ」と付け加える。
戦車が首を傾げながら手元に配られた資料に目を通しながら質問する。
「そういえばさっき、八ツ森の少年を今回の暗殺対象にするって言ったよな?八ツ森だけは暗殺者でも避ける地域だろ?なんで今なんだ?」
同郷のヤオが困り顔でそれに答える。
「それだよ、それ。君らも知っているとは思うが……」
戦車が机に放置していたアーミーメットを深く被り直す。
「俺、もう八ツ森には行きたくねぇな。あの人には借りもあるし」
ワタシもそれに同意するように頷く。
「ヤオ、あの八ツ森は奴の縄張りね。侵入したら間違いなく嗅ぎつけられる。ターゲットが青年でも骨の折れる仕事、最悪、こちらの命が危険に晒される。そんな危険な橋は渡るつもりはないネ」
ヤオがワタシの言葉に得意げに鼻を鳴らす。
「フン、安心したまえ。君らの恐れる傭兵は今、檻の中だ」
戦車とワタシが驚き、席から立ち上がる。
「おじさん、組織に捕まったのか?」
ワタシは戦車の質問にヤオが答えるのを待つ。烏はと言うと興味なさげにずっと手元の電子端末の方を指先で操作しながら眺めている。いや、よく見ると只でさえ白い彼女の顔色が更に青白くなっている。それほどまでに奴の存在は暗殺者にとって驚異たりうるのだ。奴は完全無償で悪人を暗殺実行前に始末してきた断罪人。始末人よりも質が悪い。
「奴はレコレッタの手に負えるもんじゃないが、自ら警察に自首したそうだ」
戦車がヤオに食いかかるように机から身を乗り出す。
「俺達暗殺者を殺し続けてきた事に罪を感じて自首したのか?」
ヤオが一呼吸間を置き、それに答える。
「我々犯罪者に散々目を光らせ、その動向をずっと監視してきたアイツは昔の事件加害者の一人を殺した罪で出頭したそうだ」
戦車が更に突っかかる。
「あの人ならやろうと思えば誰にも悟られずに殺せるだろ?なんで自首なんか」
「いや、それがどうやら、奴はそいつを殺して自ら命を絶つつもりだったらしい。その場に居合わせた少女の言葉を受けて思い止まったそうだが……」
ガタリと椅子がコンクリートの床に倒れる音がする。烏がそのサングラスの下にあるエメラルド色の瞳を大きく見開いていた。どうしたんだ?
「……今回の依頼、ターゲットは何人なの?」
ヤオが烏の鬼気迫る気迫に押されて一歩後退る。辺りの空気がピリピリと凍り付く錯覚を覚える。
「先ほども言ったが一人だよ。大丈夫だ。何も伝説の傭兵を殺せと言うような無茶は言わないよ。どうせほっといても奴は身動きはとれないだろうしな。こちらで何かしらの手はうたせてもらうけどね」
「そう、それなら安心ね。分かったわ。私が引き受けましょう」
ヤオがノートパソコンのキーボードを叩き、暗殺リストの中から一人の少年のデータを拾い上げてそれをプロジェクターに映し出す。次々と並んでいく少年の情報。懸けられた額はもはや一般人では払えない額だ。彼を殺そうとしているのはどこかの組織だろうか。
「いや、今回は君達凄腕の暗殺者3人全員にお願いしたい。なんとも不思議でねぇ。この少年の命を狙って関東に幅を効かす木曽組の何人かがヒットマンとして彼を狙ったんだが、ことごとく失敗してね。もちろん銃や刀剣類を携えて向かったんだけど、全員失踪している。多分、殺されたんじゃないかな?で、レコレッタに泣きついてきたって訳。別に無視しても良かったんだけど、後々、木曽組に恩を売っといた方が都合がいいし、こうして君達に接触させてもらった」
「やっぱり!あの人が妨害しているんじゃ!?」
戦車の言葉に首を振るヤオ。
「私の部下の一人を八ツ森市にある刑務所に送り込んでいるんだが、大人しいものだったよ。彼の娘や知人の女性との面会を繰り返すくらいだったらしい。特に奴に動きは無かった。別の誰かがその少年の暗殺を妨害している。もしくは、この少年自身がヒットマンを退けるだけの実力の持ち主なのかは分からない。その性でどんどん依頼額は膨れ上がってくるし、木曽組の連中も仲間を返り討ちにしたと思われるこの少年を逆恨みする始末で。私怨で動いている始末だよ。恐らく、彼が死ぬか、組が全滅するまで決着はつかないだろうね」
戦車がモニターに映し出された少年の顔を見上げて笑い声をあげる。
「そんなパッとしない少年が、本物のヤクザ相手に返り討ちに出来る訳ないでしょ?冗談やめろよな、おっさん」
ヤオがおっさん呼ばわりされ、少しムッとした瞬間、烏が戦車の背後からクナイを投げつける。背後に背負ったアタッシュケースに何本ものクナイがケースの蓋に突き刺さっていた。なんなんだ?そんなにヤオの事を馬鹿にされたのが気に障ったか?烏の方を振り向くと、配られた端末の内蔵カメラ機能を使用し、モニターに大きく映し出された少年の写真を撮っている。
「……烏さん?俺、なんか失礼な事言ったっスか?」
戦車が涙目で背負っていたアタッシュケースを下ろすと、蓋に突き刺さったクナイを恐る恐る引き抜いていく。
「このアタッシュケース、弾丸さえ通さないはずなんだけどなぁ……収納してた自動小銃にちょっと刺さってるし」
「ごめん、ちょっと手元が狂った。そのメットを本当は狙うつもりだったのだけど」
「余計にダメっすよ!!」
興味無さげに再び烏が席に着くと、ヤオがため息をつきながら説明を再開する。
「この少年、名前を「石竹緑青」というそうだが、意外と八ツ森では有名人らしく、あの傭兵王とも深く関わりのある少年だったらしい」
ワタシを含める全員に緊張が走る。
杉村誠一。傭兵王や、サムライ、風神と呼ばれた奴の関係者ならそれもあり得る。そう思わせるものが奴にはあった。ワタシが生涯で唯一殺し損ねたターゲットでもある。
正面から対峙して、初めて情けを掛けられた相手でもある。8年も前になるか。自分の力に自惚れていた頃、風の様に現れたあいつにワタシは傷一つつけられ無かった。傷一つさえつけられればワタシの勝ちだったのにも関わらず。
「(君のそのナイフは余程切れ味がいいか、強力な毒でも塗っているのかい?君の敗因はその余裕が生んだ隙だ。今日はちょっと急いでてね。その怪我、三日ぐらいは動けないだろうけど、大人しくワタシの前を去るなら見逃してやる))」
脳裏にあの男とのやりとりが思い出される。奢り、強さを自負していた訳では決して無かったはずだ。何故、奴に負けたのかが分かったのはその一年後、傭兵稼業を辞め、タクシーの運転手に転職してからだった。
少し若かった23歳のワタシは引退した杉村誠一なら勝てると見込み、正面から再度斬り合った。しかし、それでもワタシは勝てなかった。その時、ワタシは感じ取った。奴は今も尚、傭兵で在り続けているのだと。
娘と少年をある事件から守りきれ無かった自分の未熟さを呪いながら、自ら進んで八ツ森の傭兵と化したのだ。
ワタシは勝てないと思った。
精々ワタシが抱えている命は自身の命一つ。だがあいつは、そこに住む人間全員の命を抱え込んでいた。ワタシとでは重さが違う。それはかつて、戦争孤児達の命を救えなかった自分自身への贖罪の為なのかも知れない。もう同じ過ちは起こさない為に。そして奴はその時が来るのを待っていた。それが恐らく杉村誠一が殺害した人間。その為だけに奴はこの数年間を生きてきたのかも知れない。だから奴はそいつを殺して自分も死ぬつもりだった。それは間違い無いだろう。
烏が再び名乗りを上げる。
「そんな少年一人、私一人で大丈夫」
それに首を振るヤオ。
「いや、今回は3人だ。多少分け前は前後するが、この中の誰が殺しても三人分の報奨金は出す」
烏が舌打ちをしながら椅子に乱暴に腰かける。何をそんなに苛立っているのだろうか。確かに少年一人に一千万という金額は魅力的だが、烏は暗殺者専門の始末屋。相場は対して変わらないと思うのだが。戦車が暗殺依頼リストに目を通しながら声をあげる。
「八ツ森の暗殺リストにあの深淵の少女も載ってるじゃん」
深淵の少女?誰だそれは?横に座る烏が慌てて端末を操作してその情報を引き出す。
「本当だ。何故?しかもこの更新日、十年前で止まっている」
烏が戸惑いの表情を浮かべているとヤオが丁寧に説明してくれる。
「そりゃそうだよ。その依頼は被害者遺族から出されているとは言え、彼女自身は「小三女児無差別殺傷事件」を起こして以来、精神病棟暮らしだからね。逆に手が出せずにいたんだろ。写真も当時のままだ。それに、一般人からの依頼で20万程度の端金で人を殺して人生を棒に振る奴なんてよっぽどお金に困っているか、ただの快楽殺人鬼だよ」
「あとは幼児性愛者ネ。この子、この依頼が消えていないって事は今も生きてるって事でいいね?」
ヤオがワタシの言葉を肯定すると戦車が安堵の溜息をつく。
「よかった。病院暮らしでも生きててくれて。俺、昔、この子をテレビで見て痺れましたもん。シューさん、9歳ですよ?9歳の女の子が四十人の大人相手に欠けたナイフで切りつけていったんですよ?しかも20分という短時間で8人も殺してる多重殺人者。同業者でもなかなか居ないんじゃないかな?」
「ワタシはちょうどこの子と同じ年齢の頃、妹を養う為だけに何人もの人間を殺めていたネ。ドイツは知らないが、日本もそういう国なだけじゃないのか?」
「シューさん半端ないっすね。日本は紛争や宗教戦争とは無縁の平和な国っすよ。あ、あと面白い情報がここにありました。知ってるっすか?この天野樹理先輩って実は「八ツ森市連続少女殺害事件」の被害者で、その真相を世間的に公表したのがこっちの同じ事件被害者の「日嗣尊」って女の子ッス」
戦車が手元の端末をこちらに向けると、その画面に銀色の髪をした10歳前後の少女の顔が映し出されていた。彼女もまた、20万前後で賞金がかけられている。恐らく一般人からの公募だろう。
「この女の子すごいんですよ?事件被害者にも関わらず、当時の警察が見逃していた状況証拠を次々と上げて森で失踪している少女達とその事件を関連付けて世間に犯人逮捕を訴え続けたカリスマ少女なんですよ。可愛いかったなぁ。当時、子供心に俺も憧れてましたもん」
日嗣尊の依頼内容を見ていると、最終更新日が最近になっており、暗殺依頼というよりは捜索願いのようだった。
「殺しでは無く捜索願い?」
「あれ?シューさんテレビ見てないんですか?この子、今、別の事件で報道されてて有名ですよ?何でも同級生をホテルで刺して逃亡したとかで。「事件が与えた少女への闇」とか特集組まれて、正義を訴えた被害者少女が今度は加害者へ変貌したって日本中で話題っすよ。ほら、これ」
戦車が手にしていた端末を駆使して、テレビ番組を映し出す。烏やワタシとは違い、電子機器には強いようでもう扱いこなしているらしい。
そこには当時10歳だった銀髪の少女が画面に向かって必死に事件の凶悪性を訴えかけている映像が流れ、そして現在20歳を迎えた彼女の写真が映し出されていた。銀色の髪は健在のようで猫の様な瞳が印象的な少女だ。報道キャスターが、少女の変貌を専門家を交えて討論を起こしている。引きこもりがちで、留年を続けていた学校生活に、他にも複数の男子生徒との関係も疑われているらしく、素行の問題性が少女の心へ与えた事件の傷跡を物語っている。
「ホント、世間ってこういう話題が好きっすよね。被害者が加害者にとか、少年犯罪とか。大した事件性も俺達からしたら無いのに人権を無視した様な報道の仕方はどうも好きになれないっす。いいじゃねえかよ、男の一人ぐらい刺したって。きちんと、救急車も呼んでいたらしくて、刺された男子生徒も無事だった訳だし。女の子も傷害罪とは言え、何も逃亡する事無いのにな。俺に依頼してくれたら証拠すら残さずに少年一人ぐらい消すのに。しかも無償で引き受けるっすよ。逃亡する前にサインの一つでもほしかったなぁ」
「話を戻すがいいか?私、時間ないね。少年殺しの依頼受けないのなら、別の人間に頼むだけ」
ヤオが再び呆れたように声をあげる。
「あと補足すると、この対象の少年「石竹緑青」は今もヤクザからは狙われている状態ね。こっちとしては誰がこの少年を始末したとしても構わないね。ただ、こちらから送り込んだ下っ端の暗殺者も返り討ちにあってる。その真相を知りたいだけね、いい?やり方は各自に任せる。何人巻き添えにしても構わない。ただし、12月23日までという期限付きだ。それを過ぎたら私達は彼から身を引く。君らでも殺せない相手だったとしたら、レコレッタは八ツ森への組織介入を諦めるね」
ワタシが疑問を口にする。
「元々の依頼期日がその日までなのは分かるが、何も組織自体が手を引く理由が分からないネ」
今度は英国人ロバートが代わりに説明する。
「あまり長期間騒ぐと気付かれる危険性があるんだよ」
「檻の中に居る杉村誠一にか?」
「それもあるが、彼と八ツ森との繋がりは強く、檻の中からでも彼の協力者は恐らく何人も居る。あそこには24時間無料タクシーが巡回していてね。彼が傭兵を辞めてタクシーの運転手を始めたのは24時間市内を監視できる情報網を持つ事を狙っての可能性が高い」
ワタシは七年前に対峙した奴との戦いを思い出す。
「そして、八ツ森に独自に存在する警察とは別組織である特殊部隊「Nephilim」だ。この組織にだけは嗅ぎつけられたくない」
「Nephilim?」
「あぁ。存在そのものが謎だが、不可解事件解決の専門家さ。厄介なのは警察に縛られない彼らは大きな事件から小さな事件まで分け隔て無く介入できる独自の権限を持っている。軍隊でも自衛隊でも警察でも無いからね。武装は違法な私達に匹敵するほどだし、合法的に私達への介入も可能な自由部隊だ」
「それは厄介ネ。国の後ろ盾を得ながら合法的に力を行使されたら我々の立場なんて紙屑当然ネ」
「だから、二十万から始まって壱千万まで膨れ上がったこの少年暗殺は、当初の暗殺期日12月23日を以て以降一切我々は関与しない。こんなところで他の組織に目をつけられる危険性も犯したく無いしね」
ヤオが手を叩いて、依頼内容の説明に区切りをつけ、解散を私達に言い渡す。
「今日は足をお運び頂き感謝する。諸君等の健闘を願っているよ」
私達三人を追い払う様にこの廃工場を追い出されたワタシ達三人は出口で互いの姿を見合う。
寒空の下、真っ昼間に異形な出で立ちをしたワタシ達は逆に目立ってしまうタンクトップのニッカポッカにゲードルを装着し、腰に大刀とリボルバーを提げたワタシ。ドイツ製アーミーメットに雪山迷彩の軍服青年。黒コートに丸いサングラスを付けた全身真っ黒の女。
「……3人集まると、なんだか目立つネ」
「そ、そうね」
「姉さん、普段もその格好なんすか?」
「違うわよ。あんたと一緒にしないで?今日は仕事で呼ばれたからよ」
「やっぱりそうっすよね。俺はこのままだけど、なんかコスプレ集団っぽいっすね。シューさん寒くないですか?それに腰にかけたマチェットとククリナイフが外から見えてるっすけどいいんすか?」
「大丈夫ネ。日本のみんな大抵、コスプレと思うから騒がないね。それより、私の働いている中華料理屋でご馳走するよヨ?私の奢りね」
烏と戦車はお互いに顔を見合わせ、顔をひきつらせながらワタシに断りをいれる。
「「お断りします」」
残念、ワタシの料理は天下一品、天にも昇る味なのにネ?
べっくしょんっ!
……風邪でもひいたかな?(杉村誠一)
「はっくしょんっ!」
寒空の下、剣術修行なんかしてるからだ……。(石竹緑青)
ヘクチッ!
「誰かが噂してるのかしら……」
(天野樹理)
ぶぅえっくしょんッ!
「ふむ、日本中が噂しておるの」
(???)