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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
亡霊の再来
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募る疑惑

僕は留咲アウラさんに日嗣尊姉さんの住まいと帰宅するルートについて聞くが、いくら探し回っても見当たらない。そう遠くへは行っていないはずなのに……一体どこに姿を消したんだ?何か嫌な予感がする僕は諦めずにその足を進める。

<私>


留咲アウラを道路に突き飛ばし、先を急ぐ日嗣尊。夜風にはためく黒い喪服のワンピースと共に、長く黒い髪が闇夜に溶け込むように揺らいで靡く。最寄りのバス停はとっくに過ぎている。市内に3つしか存在しない駅方面へと向かっているようだ。八ツ森市で電車を使う人間はよほど駅近くに住んでいるか、バスや車に弱い人間ぐらいである。バスの停留所も多く、乗車料金も安い。タクシーを拾う事が出来れば無料で利用も出来る。電車でいける所はバスでも辿り着く事が出来る。この女にはもしかしたら別に目的があるのかも知れない。例の噂も信憑性も気になるところだ……私はあの女が一筋縄ではいかない事をよく知っている。私達三年の間に流れる日嗣尊の噂、それは、上級生の複数の男と同時に肉体関係を結んでいるというものだ。飽きた男は捨て、二度と関係は持たず、次から次へと男を変えているらしい。日嗣尊という人物はそういった行為が許されるほどの容姿と肉体を有している。しかしそれらの行動は、私の知る日嗣尊の像とはかけ離れすぎている。何かをまだ企んでいるのかも知れない。知名度と共にカリスマ性も有する彼女は、星の教会の教祖たらしめた。本人は気付いていないのか、星の教会とはつまり、日嗣尊の非公式なファンクラブのメンバーから成り立っている。9年前に事件被害者としてマスコミに表舞台に立たされた彼女は、その悲劇性と共に薄幸の銀髪美少女として取り立たされ、彼女自身の隠れたカリスマ性が人々を惹きつけ、魅了していった。そして、その大きなうねりが生贄ゲームを行なう隙を作らせた。石竹緑青の記憶の喪失と共に、日嗣尊のファン達は身を潜めざるを得なかった。それが星の教会だ。彼女を無条件に受け入れ、全力でサポートしてくれる協会員達の原動力に、あの事件への罪悪感が潜んでいるのだろう。日嗣尊は何故、そんな都合のいい組織を手放したのだ?しかも、なぜ、あのタイミングなのだ?


なぜ、自分の死を予見しつつも、それを佐藤深緋(さとうこきひ)に託そうとしたのだ?


あんな、ただの、どこにでも居るような普通の高校生の少女に一体何を託せるというのだ?佐藤の妹の情報を今更調べて何になるというのか。無駄な足掻きはやめろ。


そして今日、杉村蜂蜜に間接的に軍部連中が行方不明になった原因が「もう一人の彼女」にあると宣言し、自らの存在も訂正した。自分が本来の「日嗣尊(いもうと)」である事を。なぜこのタイミングなのだ?

自らを姉と名乗ったのは、誰かに監視されている事を見込んでの事だったのだと考えていたが、それを他の生徒の前で宣言するという事は、見られているであろう人物に宣言した事にもなる。自分はきちんと自己認識が出来る人間だと。日嗣尊はどこまで真相を掴んでいるのだろか。第五ゲーム時には私に警告する様に釘を刺してきた。その段階で私は容疑者の一人と疑われていたはずだ。あの日嗣尊の事だ……私や他の怪しい人物のアリバイを探っていたに違いない。杉村蜂蜜が退行したのを切っ掛けに他の者への疑いを改めたようで、奴の中で一連の事件の犯人が彼女の仕業であると踏んだのだろう。


しかし、捨て置けない事がある。日嗣尊が考えを改めたのはあくまで……失踪していく軍部の連中に関わるのが杉村蜂蜜だという事だ。夏休み、かつて姉が死んだ山小屋で、私に襲われた際の犯人が誰であるかを言及はしていない。石竹緑青の失われたはずの聴力も回復しつつある。両者を絶えず監視はしてきたが、石竹緑青の方は日嗣尊が本当に姉と化してしまったと思い込んでおり、主だった接触も全く無かった。記憶を失い壊れた少年の日常は姿を変えずにそこにあるままだ。日嗣尊は事件の真相に最も近い場所に居る。山小屋で気を失っていた石竹に語りかけていた推測はまだ彼女の中で息衝いているはずだ。彼女もあの事件を代表する被害者の一人。石竹緑青の手前、その知名度は抑えられてはいるが、天野樹里同様に世間的にその名を知らしめている。

 何故ならあいつが生贄ゲームから解放された後、その足で警察に出向き、被害に合った内容をそのまま警察に伝えたからだ。私の最初の想定外の出来事だった。最初の被害者、天野樹理同様に心が壊れてしまうものとばかり思っていたが、髪を全て白くさせながらも当時10歳の黒衣の亡霊はマスコミと掛け合い、一連の事件の関係性を訴え続けていた。事件被害者という悲劇のヒロインという肩書を得た日嗣尊のマスコミの関心は高く、日嗣尊を中心にその事件が大きくとり立たされる事となる。


 あいつさえ居なければ、あの事件は未だに謎のまま終わるところだった。第一の生贄ゲームもそうだ。あいつがテレビにさえ出なければ「小3女児無差別殺傷事件」は「連続少女殺害事件」として迷宮入りするはずだった。大人しく無様に壊れていればいいものを、無力なお前らがなぜ、私達に逆らおうとするのだ?


 第四の生贄ゲームの時もそうだ。


 杉村蜂蜜、もとい、ハニー=レヴィアンを介入させた原因を作ったのは他でも無い、石竹緑青だ。あいつがあの場に選ばれた事自体が私達の大きな過ちだったのだ。だからこうして、11年以上経った今でも当時の不始末の尻拭いに躍起になっている。それも全部、あいつの……あの女の性だ!佐藤浅緋さとうあわひ!殺す、全員殺す。関係者全員始末して私は綺麗さっぱり先に進まなければいけない。こんなところで私の栄えある人生を棒に振る訳にはいかないのだ。まずはお前だ、日嗣尊。だが、その前に聞きだしておかなければいけない事がある……。



そして、私は彼女に声をかける。何を企んでいる?黒き魔女よ……審判を下してやる。

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