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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
亡霊の再来
157/319

心理部存続の危機


再び黒衣の亡霊こと、日嗣尊じゃり


 樹理たんの歓迎会から一転、コスプレパーティーと化したカウンセリング室。完全に文化祭用衣装に着替えた妾達の前に生徒会が査察に来てしまった。どうなる心理部、どうなるのじゃ!妾の安住の地よ!


 カウンセリング室の扉を開け、笑顔を携えながら生徒会の面々が入ってくる。文化祭の内容についての最終確認らしいが、独特のピリピリとした空気を肌に感じながら生徒会査察メンバー五人を受け入れる心理部。


 生徒会会長「二川亮ふたがわ りょう」を筆頭に、同じクラスの二年学年代表「田宮稲穂たみや いなほ」と他3人の男女が僕らの衣装替えした姿に眼を丸くしながら横一列に並ぶ。


 気遣いの出来るアウラさんが、手前のソファにお客さんを座らせる為に僕と杉村、両端のパイプ椅子に座る日嗣姉さんと鳩羽、佐藤、江ノ木の分のパイプ椅子を新しく部屋の中央に用意してくれる。


 空席となったソファーとパイプ椅子に生徒会面々が恐る恐る腰掛ける。


 3人掛けソファーに各学年の代表が座り、一列に並ぶ異装な僕らから遠ざかる様に生徒会長と副会長が反対側のパイプ椅子に腰掛け、上座に座るランカスター先生と天野さん、荒川先生と同じ席に着く。天野さんが部外者の僕らが並んで座る席の方に移りたそうに困った顔でこちらを見てくるが、逃げ遅れたようで、ため息をついて退席を諦めてしまう。生徒会との話し合いが始まってしまったからだ。大丈夫、膝の上に大人しく座る熊の着ぐるみを着せられてヨハンが守ってくれるはずです。


 異形なコスチュームに身を包む僕らの異様な雰囲気と生徒会のピリピリとした空気が微妙に混ざり合い、混沌とした不思議な空間を演出している。右手に脱臼用の装具を着用している杉村が怯える様に僕の右手の上に手を置く。


 「ろっくん……あの人の視線が怖い」


 相変わらず生徒会長の二川先輩は杉村をお気に入りの様で、その視線が熱い。ニコニコと生徒会でただ一人、この変な雰囲気に飲まれる事無く自分のペースを崩さない。


 「おぉ!我ら”杉村蜂蜜愛好会”の女神がいつにも増して輝いている!目に焼き付けねば!」


 僕の手の上に重ねられた杉村の左手が更にきつく握りしめられる。


 「ろっくん、これから何が始まるの?」


 僕は話し合いの邪魔にならないように杉村にそっと耳打ちする。


 「多分、文化祭でやる出し物についての最終確認だと思う」


 「そっか。私も出たかったな」


 「すまない。僕の性で」


 首を振る杉村。


 「ううん、ろっくんは悪くない」


 こそこそ話をする僕達を見かねたのか、二川先輩の横に座る副会長の「四方田よもだ 卑弥呼ひみこ」(♀)が立ち上がる。


 「そこの二人!!女同士でイチャつくのは止めなさい!さもないと……」


 茶髪でゆるめのウルフカットの副会長、四方田先輩が横で杉村の事を眺めている会長に迫る。


 「会長、私、この部に入ります」


 二川先輩が驚いた様に四方田先輩の方に振り向く。


 「本気かい?」


 「はいっ!私も可愛い女の子とイチャイチャしたい!」


 ガクリと体勢を崩す二川先輩。


 「いや、入部動機不純で多分許可されないし、副会長という立場もあるから私達がまず許可しないよ」


 「くっそーっ!ならば死ねっ!」


 四方田先輩が大振りチョップを繰り出すが、それをヒラリと体勢を変えて避ける。さすが剣道部部長である。


 「私だってあんな可愛い金髪の女の子や、儚げな美人さんと手を繋ぎたい!心理部がこんな美少女揃いって聞いて無いわよ!」


 更に二川先輩に追撃をかけようとするが、そのどれもが簡単に避けられてしまっている。四方田先輩、本気で生徒会長を潰す気らしい。


 「お、落ち着きたまえ!心理部は成り立ちが元々他の部とは違う。個人情報関連も生徒会ですら入手出来ないんだ。分かってくれたまえ。それにそれを言うなら私だって心理部に入りたいぞ!我らの女神とラブラブしたい!」


 「男がこの神聖な心理部に入って来るな!」


 「君は!相変わらず女尊男卑な価値観だな!それを言うならうちの剣道部のエース、鳩羽も男だぞ!」


 四方田副会長が、連続チョップを繰り出すのを一時停止させ、並ぶ僕らの面子を確認する。執事服を着用している鳩羽をみつけると、上から下を見定めた後、二川先輩に向き直る。


 「ショタは許す!」


 「君はよくそんな偏った価値観で生徒会に入れたな!」


 「生徒会は実力重視です。私がこの学校でもたらした功績に私の歪んだ価値観など些細な事よ!」


 ランカスター先生が会長と副会長のやりとりを気に留めすらせず、江ノ木の淹れ直してくれた紅茶を啜っている。


 呆れた様にソファ側に座る三年の学年代表「不二家ふじや つとむ」が机に両手を置きながら叱咤する。


 「お二人とも、生徒会の仕事をして下さい!奇抜な格好をしていない私達の方が浮かれてどうするんですか!」


 四方田先輩が標的を不二家先輩に変える。


 「あんたは引っ込んでなさい!私の理想郷は誰にも渡さない!」


 ため息をつき、迷惑そうな顔をする僕らに謝罪の意味を込めた一礼する。


 「見苦しいところをお見せしてすいません。卑弥呼ひみこも、りょうも我が強いもので」


 心中お察しします。他の生徒から不二家先輩の生徒会としての冷徹な判断は恐れられているが、それは詰めの甘い会長、副会長のダメな部分を補っているからかも知れない。基本的に良識人で苦労人のようだ。銀色の眼鏡に長い前髪にキリっと結ばれた口元が彼の几帳面さを物語っている。こちらがなんか申し訳ないです。


 「あと不二家!いくら同学年とは言え、私の名前は下の名で呼ぶなと言ってるだろ!」


 四方田先輩の下の名前は「卑弥呼ひみこ」。キラキラネーム以上に歴史の重みを感じる。


 「あぁ、すまない。口が滑った。それより早く本題に……」


 卑弥呼先輩が顔を赤くしながら不二家先輩に突っかかる。


 「予定変更!軍部の様なふざけた部活なら潰すつもりだったけど、私はこの部を守る!冷酷なイカなんかにこの部は潰させないわ!少し部費の使い道が不透明なところはあるけど」


 「卑弥呼!貴様こそ俺をイカと呼ぶな!!」


 「何よ!イカはイカでしょ?!大人しく鯨にでも食べられてれば?それか家で大人しくペッコちゃんのほっぺでもつくってなさい!」


 「イカじゃねえ!ツトム!つとむだ!気にしてんだよ!あと名字でもイジるな!うちは菓子屋じゃねぇ!一年の頃からお前は名前でイジりやがって!」


 あ、漢字で書くと確かにイカだ。


 「五月蠅やかましい!私が名前でイジレるのはあんたぐらいなのよ!」


 副会長と三年学年代表のやりとりにクスクスと笑い出す心理部メンバー。まるで夫婦漫才を見ているようだ。あ、やばい。田宮の方を見ると額に血管が浮き出ている。こういう無駄なやりとりを非常に田宮は嫌う。僕は咄嗟に杉村の両耳を塞いでやる。杉村は何を勘違いしているのか静かに眼を閉じて唇を突きだしている。僕も噴火に備えて舌を噛まないように口を硬く引き結ぶ。


 「ごちゃごちゃうるさいっ!!」


 手前のソファー中央に座っていた田宮が立ち上がりながら大声を室内に轟かせる。眼を丸くして固まる生徒会と心理部のメンバー。僕は耳が聞こえにくいのが幸いして無事だ。杉村も訪れる事は無い僕との口づけに唇をムニムニさせたまま幸せそうにしている。


 「我々生徒会代表は、数多の生徒達の模範となるべき身の振る舞いを求められています!3年の方々は来年四月で任期を終えるとはいえ、気が緩んでいるのでは無いですか?今後、生徒会を引き継ぐ我々の汚点にならないようにくれぐれ気をつけて下さい!!」


 心理部のメンバー全員が、腰に手をあてる田宮に小さな拍手を送る。注意された3年の生徒会達がしょんぼりとした顔でガクリと首を落とす。二川先輩が代表して謝罪する。


 「落ち着きたまえ、稲穂ちゃん。彼らもこうして反省している事だし」


 「同級生のあんたが注意しろ!あと、名前で呼ぶな!」


 二川先輩が微笑みながら田宮をいなし、ランカスター先生に改めて謝罪する。


 「ゼノヴィア先生、大変申し訳ありませんでした。本来、このような漫才をする為に今日ここに足を運ばせて頂いた訳ではありません。24日、来る文化祭に向けての準備進行確認の為に参りました」


 それまで無表情だったランカスター先生が急に眉を潜め、乱暴にティーカップを受け皿に置くと、机の上に置かれていたお菓子を少しずらしてスペースを確保する。深々とソファーに腰かけると、腕を組み、足は先ほど机の上にスペースを作った場所に投げ出し、足を組み直す。ガラ悪い、というか性格変わってない?


 「おぉ”っ?!」


 啖呵を切った田宮までもがランカスター先生の「お」の凄みに負けてストンとソファに腰を落とす。


 「おまんら、人の島(部室)で好き勝手放題さらしてタダで帰れると思うとるんか?!」

 え?何これ?ランカスター先生って英国のマフィア?赤髪の間から鋭く青い瞳が生徒会の面々を射抜く歪めた口の端から「吸血女」コスプレの鋭い牙が覗く。その牙にたじろく生徒会面々。二川先輩は特に怯えた様子は無いけど。


 「やっぱり!ほ、本物の吸血女ドラキュリーナだったんだ!やばいですよ!会長!」


 一年学年代表の純粋な男の子「藤堂とうどう なぎさ」が腰を抜かす。


 ランカスター先生が生徒会の反応を確かめたあと、合図する様に右手をかざす。その合図と共に鳩羽が剣道で鍛えた足裁きで素早くランカスター先生の背後にまわると、銀色の銃を素早く差し出す。


 ちゃかの上部をスライドさせた後、拳銃を二川先輩の眉間につきつける。


 「どう落とし前つけてくれるんじゃ、ワレッ!」


 マフィアというか、完全に日本のアレだよね?さすがに腰が引ける二川会長。


 「お、おい!鳩羽!剣道部のよしみだろ?助け……」


 「はて?何の事やら?私はあくまで執事ですから」


 「いや、明らかにゼノヴィア心理士も同じ階級のメイドさんだろ!止める権限はあるはずだ」


 鳩羽は首を傾げるばかりで二川先輩を助けようとしない。剣道部における彼の今後が心配になったが、よくやった鳩羽!


 近くに座っていた佐藤が何かを思いついたように立ち上がると、二川先輩にタックルをかます。


 「えっ?」


 しかし、完全に体格負けしている佐藤は当たり前だが逆に二川先輩に弾かれて床に倒れてしまう。まさか……。


 「イタッ!イタタッ!!」


 倒れた佐藤を心配して、女尊男卑の四方田卑弥呼よもだ ひみこ副会長が優しく佐藤を抱き抱える。

 

 「姉さん、あきまへんわ。完全に折れてしまいましたわぁっ!」


 イントネーションが標準語のエセ関西弁を駆使しつつ、佐藤が小芝居をうつ。


 「おうおう!うちの若いもんに何してけつかんねん!えぇっ!」


 「えぇ?!」


 本当にえぇっ!だよ。二川先輩、ごめんなさい。


 苦しむ佐藤が虫の息になりながら四方田先輩の手を握りしめる。


 「卑弥呼さんは悪くない。悪いのは全部、あの会長なんや。私達はあんさんを責める気はありまへん。ただ、私達の邪魔をするというなら……あんさんも敵や」


 手を握られた四方田先輩から「キュンッ❤︎」という様な擬音が聞こえてきた様な気がした。


 「会長……よくも私の可愛いメイドさんを辱めましたね」


 「卑弥呼ちゃん?」


 「私は貴方の敵です。貴方は私の敵です。そしてこの可愛いカントリー風メイドさんは私のモノです!渡しません!」


 「へっ?!」


 一人、陥落。


 ランカスター先生が銃を下ろし、わざとらしく耳に手をあてる。小さな声で佐藤が何かを囁いているらしい。


 「なんやて?!もういっぺん言うてみ?!」


 息も絶え絶えに佐藤が声を絞り出す。


 「私達の小さな島、必ず大きくして下さいね、それがたった一つの私の望みです、姉御」


 「おおんっ!最後の佐藤の願い!叶えてやれんのかっ!」


 下から突き上げるように会長を睨みつけるランカスター先輩。顔が近すぎてランカスター先生のボリュームのある胸が二川先輩の胸板に当たっている。一年学年代表の藤堂汀とうどう なぎさ君が「おっぱい!!」と叫びながら昏倒する。もう一名追加で陥落。


 「ゼノヴィア心理士、近いですよ」


 「鈍い男じゃのぉ、わざと当ててんのじゃ!こっちの用件、飲めるか飲めへんのか?!」


 「だから、要求ってなんですか?」


 ランカスター先生が佐藤の方に視線を送ると、ゆっくりと立ち上がり、エプロンから一枚の地図を取り出す。そこには文化祭の各クラス、各部の出店スペースが記載されていた。


 「心理部の出店スペースは、立地条件が最悪なんです。お客さんをわざわざ職員棟の4階、埃臭いところまで足を運ばせる訳にはいきません。そこで……」


 佐藤の口調が戻り、地図のある一点を指差す。


 「広い玄関フロアーが使いたいなって」


 二川先輩が佐藤の申し出にたじろぐ。


 「そ、そこは元々生徒会がクレープ屋さんを開くベストポジション。君、正気か?!八ツ森高校の顔である我生徒会のスペースを占拠しようというのか?!」


 佐藤がわざとらしく咳込む。


 「二川会長がそう言うなら仕方ありませんね。あーあ……杉村さんがアリスエプロンの姿で給仕する姿を見たかったな……。いつも杉村さんに避けられている会長に対しても、銭さえ払えば笑顔で珈琲を運んでくれるっていうのに。私がそう仕向けます。しかも、追加料金で一緒に写真も撮らせてくれる……」


 会長がいつになく真剣な眼で頷く。


 「よーしっ!その話乗った!!」


 いや、あんた杉村と写真撮りたいだけだろ。しかも、文化祭の日、当然杉村は英国に帰ったあとだ。あんたは鬼か。佐藤よ。


 田宮と3年代表の不二家先輩がため息をつく。


 「全く、うちの生徒会長は……我々に客も来ない埃っぽい会議室でクレープを焼けというのか」


 そろりと不二家先輩の横に女装した若草が歩み寄る。


 「ね?お願い?」


 不二家先輩の肩にしなだれかかり、偽物の義乳を押しつけながら、耳元に息を吹きかける若草。顔を真っ赤にして体を硬直させる不二家先輩。冷徹っていうか、単に硬派というか、ウブなだけ?人の事は言えないけど。


 「み、認めますーっ!!」


 男の色仕掛けで二つ返事で了承する硬派な不二家先輩。また一人、心理部のそれも男に陥落させられる。あれ?落ちてないのはあと田宮だけ?


 「もう不二家先輩まで……私に会議室でクレープを焼けと。まぁ、出し物がメイド喫茶に決まってからあの配置は可愛そうだと思ってたけど……それより、不二家先輩にしなだれかかっている女の子と、杉村さんと手を繋いでいるメイドの女の子、見ない顔ですね……?」


 僕は恐る恐る田宮の方を見る。目線が合う僕と田宮。首に巻かれた包帯を見て田宮がつぶやく。


 「話せないの?」


 僕はそれに便乗する形でコクリと頷く。

 

 「まぁいいわ。コスプレしてるし、私のよく知らない子なら分からないのも……当然?」


 田宮が僕の目を見つめたまま首を傾げ、若草の方と僕を交互に見る。


 「今日、心理部に在籍しているはずの石竹君と若草君が見えませんが?」


 会長が思いだした様に辺りを見渡す。日嗣姉さんが慌てて事情を説明する。

 

 「彼らは今、当日使用する資材の搬入の打ち合わせに佐藤の父親と打ち合わせ中じゃ」


 田宮がいぶかしむように日嗣姉さんの方を見る。


 「そこの可愛くて、足の綺麗な女の子の名前は?」


 「うぐっ、草部聖子くさべ せいこちゃんじゃ」


 「そっちの儚げな美人メイドさんは?」


 「石田葵いしだ あおいちゃんじゃ」


 田宮が腕を組みながら僕と若草を怪しむように睨みがら再確認した後、普通の表情に戻る。


 「確かに、その名前は一年の名簿で見たわ。帰宅部であまり関わりの無い彼女達なら私が知らなくても仕方無いか。体格も一致するし、化粧もしてるしね」


 何とか乗り切ったようだ。日嗣姉さんの膨大な情報量がこんなところで役に立つとは。

 

 「会長、私は生徒会の他のメンバーが良しとするなら、それに賛同します。ただし、クレープは焼きませんからね!」


 「そう言って貰えると助かる」


 ランカスター先生の接近を免れた二川先輩がホッと肩をなで下ろす。


 「とにかく、準備は滞りなく済みそうですね。我々は当日の間に合わない出し物に対して人手が必要か確認しにきただけです。必要なら生徒会で増援の手配をするつもりでしたので」


 ランカスター先生が拍子抜けした表情で眼を丸くする。


 「え?部費の使い道が悪くて心理部を潰しに来たんじゃないの?」


 「使い道?心理療法にかかる費用に何か不味いものでもあるんですか?」


 「不味くない不味くない!むしろおいしいから!それより、廃部にしようと君達が来たと勘違いしちゃってたわ。ランちゃん失敗、テヘッ!」


 自分の頭を可愛くゲンコツしながら舌を出すが、心理部からは可愛くない!と総突っ込みされる。生徒会の眼を覚ました藤堂とうどう なぎさ君が「美しいーっ!」叫ぶ。


 アウラさんが謝罪しながら心理部の扉を開けて、生徒会面々をお見送りする。手にはそれぞれにお菓子が入った小包を配り、抜かりない。


 藤堂とうどう なぎさ君が顔を赤くさせながら留咲アウラさんの胸部に熱い視線を送っている。それに首を傾げるアウラさん。執事服の鳩羽の方を見ると声をかける。


 「鳩羽君、どうやったらこの部に入れる?」

 鳩羽が迷惑そうに顔を掻くと微笑みながら皮肉たっぷりに応える。


 「簡単な事ですよ。山小屋に監禁されて、血を流し、殺されそうになったら入部資格を得るみたいです」


 一年学年代表の藤堂君が紅い顔を青くさせながら首を振る。


 「え、遠慮しとく!」


 慌ててカウンセリング室を出て行く藤堂君。続いて名残惜しそうに佐藤や僕らに手を振りながら上機嫌で退出する四方田卑弥呼先輩。彼女が生徒会に居る間は心理部が潰れる事はなさそうだ。呆れる眼鏡の不二家先輩に手を振る若草。咳払いし、紅い顔を誤魔化すようにそそくさと退出していく。


 残るは二川先輩と田宮だ。呆れるように手を広げるとゆっくりと退出しようとする生徒会長。思い出した様に振り返り、日嗣姉さんの方を振り返る。


 「あ、日嗣さん。デートの約束覚えてる?」

 心理部メンバーが驚いた顔で日嗣姉さんの方を見る。日嗣姉さんがバツが悪そうにボソボソと応える。


 「分かっておる。約束は約束じゃ」


 「それじゃあ約束だよ?ではまた後日」


 「うむ」


 日嗣姉さんと会長がデート。その事実に誰よりも戸惑ってしまう僕。確かに日嗣姉さんの好みは会長だと聞いていたけど、もうそんな関係に?


 「なんじゃ?妾の顔に何かついておるのか?」


 僕は慌てて首を横に振る。隣に座るアウラさんの表情が珍しく曇っている。一人取り残された田宮が佐藤の方に視線を送る。


 「佐藤さん、なかなかやるわね。私達生徒会を会議室に追いやるどころか、文化祭で一番いいスペースを横取りするとわ。あ、杉村さんが文化祭当日には居ないって事、内緒にしといてあげる」


 田宮が呆れたように口元を綻ばせる。去り際、こちらを見ないまま声をかけてくる。

 

 「あ、杉村さんの事は聞いたわ。色々大変だろうし、今週は杉村さんも同棲してるし、石竹君の家にバイトに行くつもりは無かったけど、念の為、顔は出してあげる」


 僕は田宮の心遣いに感謝し、お礼を言う。


 「ありがとう、田宮。助かる」


 田宮が部屋を出るとアウラさんが丁寧にドアを閉める。外から田宮の声が聞こえてくる。


 「なかなか似合ってるわよ、石竹君と若草君。じゃあまた明日」


 「また明日って、あっ!!」


 慌てて自分の口を両手で塞ぐが遅い。

 心理部のメンバーがやれやれといった顔で深いため息をつく。若草も珍しく青い顔をしている。


 「おい!緑青!どうしてくれんだよ!俺の残りの高校生活、女装野郎って呼ばれたらお前の性だぞ!」


 面目ない、若草。安心しろ、それは僕もだ。日嗣姉さんの方を見ると僕の視線から逃れるように下を向く。彼女の存在が再び僕から遠ざかっていく様な気がした。


 日嗣姉さんはもう自分の人生を歩み始めている。幸せになってほしい。心からそう思っている。だからこそ、僕は口を出すべき事では無い。例え僕の心が体験した事のない歪な痛みに苦しんでしまったとしても。


生徒会査察メンバーリスト


◆生徒会長「二川ふたがわ りょう」(♂)


 ・高身長で爽やかな二枚目。

 ・杉村蜂蜜にしつこくラヴレターを渡そうとしている。肝心の杉村蜂蜜からは爆弾魔と勘違いされ、ことごとく気を失わされている。

 ・生徒会のトップで周りからの信頼も高い。

 ・女生徒の事を名前で呼ぶ癖がある。

 ・剣道部主将で部長もこなす。

 

◇副会長「四方田よもだ 卑弥呼ひみこ」(♀)


 ・生徒会の副会長。

 ・苛烈な女尊男卑。

 ・男には容赦無いが、女性には優しい。

 ・抜けているようで抜け目がない。

 ・自分の名前が嫌い。

 ・佐藤と天野推し。

 ・髪型はふんわりとした茶髪のウルフカット。

  

◆一年学年代表「藤堂とうどう なぎさ」(♂)


 ・鳩羽の友達でもある。

 ・女性部員に囲まれてハーレム状態の彼を心底羨ましがる。おおきいおっぱいが大好きな普通の男子高校生。アウラたんとランカスター先生推し。

 ・杉村は可愛いと感じているが、軍部の噂が先行し恐れている。

 ・髪は短めに切られツンツンしている。


◇二年学年代表「田宮たみや 稲穂いなほ」(♀)


 ・二年A組のクラスメイト。学年代表でクラス委員長では無い。

 ・生徒会で唯一、石竹と若草に気付いた。

 ・石竹緑青の週末お手伝いさんとして、石竹家から高い給料が支払われている。

 ・彼女のエピソードは52部 毎週末の来訪者 や本編を参照。


◆三年学年代表「不二家ふじや つとむ」(♂)


 ・冷徹人間と呼ばれ、徹底的に校内の無駄を排除しようとする。改革推進派。

 ・彼の活躍で無益な部活がいくつもつぶれてきた。彼の信念は誰かが被らなければいけない罪があるなら、それを自らが被ろうとする。

 ・二川の詰めの甘さをカバーする役割。

 ・副会長の事もカバーしたり色々と苦労人。

 ・銀縁めがねをかけている。

 ・特に女性に興味を示さないのは、硬派だから。

 ・謎の美少女「草部聖子」推し。

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