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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
亡霊の再来
153/319

じゅりたん歓迎会

(参加者)石竹緑青、若草青磁、佐藤深緋、杉村蜂蜜、日嗣尊、留咲アウラ、天野樹理、ヨハン、江ノ木カナ、鳩羽竜胆、荒川静夢、ゼノヴィア=ランカスター/計11人と1匹。

 「天野樹理さん!八ツ森高校へようこそ!!」


 ランカスター先生の第一声と共に心理部フルメンバーによる「樹理ちゃん歓迎会」が始まってしまった。僕と佐藤は人数分の紅茶を淹れる為に忙しなく動き回っていたので少し汗を掻いている。奥の上座に位置する白い3人掛けソファに天野樹理さんとヨハンを真ん中に、左に荒川先生、右にランカスター先生が座る。そして、長テーブルを挟んで向かい側のソファに留咲アウラ、杉村蜂蜜、江ノ木カナが腰掛ける。

 左側のパイプ椅子には古参の心理部三人、僕(石竹緑青)、若草青磁、佐藤深緋。右側のパイプ椅子には日嗣尊と鳩羽竜胆が並んでいる。テーブルには僕が淹れた紅茶に丸いお洒落な小棚にスコーンや小さな生菓子、日本の庶民的なお菓子(ポテチなどのスナック菓子)が所狭しと並べられている。もちろんそれらの全ては部費で賄われているらしい。

 天野樹理さんがまだ慣れないのか照れくさそうにすっかり短くなった前髪をいじっている。

 「一体何の集まりなのよ?私達のクラス以外の生徒も居るわよね?右手を怪我している子はクラスで見かけたけど」

 江ノ木が人懐っこい笑顔で自己紹介する。

 「うん。クラスメイトの江ノ木カナだよ?改めて宜しくね!今日の体育の時、私は相変わらず見学だったけど、杉村さんとバトミントンで対戦して、勝っちゃうなんて驚いちゃった」

 天野さんが少し照れくさそうに「体軽いし、反射神経だけはいいからね。それに蜂蜜は片腕だったのよ?利き腕を脱臼で動かせない状態で、私とほぼ互角の動きをするって……化物だから」謙遜の言葉で返す深淵の少女。天野樹理さんが初顔合わせとなる、留咲アウラさんと鳩羽竜胆が改めて挨拶する。

 「私は最近、この心理部に入りました。パパがネパール人でママが日本人です。2年D組に在籍していて、元々は星の教会で日嗣さんと仲良くさせて頂いていました。この心理部への関わりは、日嗣さんの代役としてアニメ研究部の撮影に協力させてもらった時に、石竹君や杉村さん、江ノ木さんと仲良くさせて頂いた事が切っ掛けですね。その流れで気付いたら部員になっていました。天野さん、宜しくお願いします」

 丁寧にお辞儀するアウラさんに、微笑みながら会釈する天野さん。膝の上に座るヨハンも「ワッフ!」と挨拶する。

 「褐色の肌と波打つ黒い髪、大きな青い瞳が綺麗な美人さんね」

 「そんな事ないですよ」

 「君からは……常識人の匂いがする。多分、あとは皆、変人ね」

 横から荒川先生が軽く天野さんの頭を叩く。

 「ごめんなさい、私の嗅覚がそう告げているの」

 「私も変人の仲間か?」

 天野さんが必死に首を横に振る。

 「違う!お姉ちゃんはお姉ちゃん!愛すべき人だから、愛人?」

 荒川先生がガクッとこけるが、特に否定はしなかった。

 「それは意味合いが違うと思うが、少しずつ勉強していこうな」

 天野さんが素直に首を縦に振る。

 「天野さん!愛人なら俺が!!」

 「ヨハン、行けっ!!」

 荒川先生の合図と共にヨハンが天野さんの膝から飛び上がり、僕の席の横にいる若草青磁に噛みつく。悲鳴を上げながら若草がパイプ椅子から転げる。次に天野さんがどういう訳か、自分の体を見下ろして、自分の胸に手を当て始める。

 「アウラさん、その胸も大きいわね。ランカスター心理士ぐらいあるんじゃないの?」

 「え?そんな事は……ランカスター先生には負けますよ」

 アウラさんが顔を紅くして両手で胸を隠す仕草をする。対するランカスター先生が、自分の胸を強調する様にアウラさんに見せる。

 「アウラちゃん、私はFよ?」

 「え!?」

 アウラさんが更にきつく腕を閉めて胸を隠す。

 「私もそれぐらい・・・・・・ですね」

 僕の横のパイプ椅子に座っていた佐藤が乱暴に紅茶を置く。

 「アウラさん、嘘はよしなさい。90のGぐらいはあるでしょ?」

 佐藤が自分の胸を隠すというよりは、鬼の様な形相で腕組みをする。佐藤はその辺に敏感なのだ。

 「うくっ、佐藤さん何者?アタリです・・・・・・」

 アウラさんがまるで敗者の様に腕を胸から外し、だらりと肩を降ろす。いや、実際は勝者なんだけどね。同じくランカスター先生もがっくり肩を降ろす。

 「キュートさ、謙虚さ、目の大きさ(目の色は2人とも碧眼)、心理士の素質、若さ、そして何より、唯一勝っていると思っていた胸の大きさまで負けるとは・・・・・・ランちゃんの完敗だわ。胸だけに」

 真っ白に燃え尽きたランカスター先生と、謙遜するアウラさんを尻目に天野さんが男性陣に顔を向ける。

 「この話に、男性陣(石竹、若草、鳩羽)は全く喰いついて来ないわね?健全な男子高校生ともあろう三人が。あ、緑青と青磁の事は知っているけど、君の名前はまだ知らないわ」

 天野さんがアウラさんの次に、日嗣姉さんの横に座る鳩羽に着目する。

 「そっちのマッシュルームカットの君は?」

 鳩羽が口にしていた紅茶を机に一端置いて、自己紹介する。

 「僕は鳩羽、鳩羽竜胆です。僕だけ1年の後輩なんですが、縁あってこうして無理矢理ランカスター先生にこの部へ入部させられています。本来は剣道部所属なんですけどね」

 「そう……大変ね。こんな変な先輩達に囲まれて」

 鳩羽が遠慮がちに微笑みながら返答する。

 「ホント、すごい面子ですよね。こんな僕がここに居ていいのか疑問です」

 とりあえず僕は突っ込んどく。

 「いや、お前も変だからな?このストーカーめ!」

 鳩羽が立ち上がり、声を上げる。

 「なんですか!石竹先輩もある意味ストーカーみたいなもんじゃないですか!」

 「いや!あれは仕方無くだよっ!ハニーちゃんの安全性を確かめる為に観察していたに過ぎない!もう昔の話だから!」

 杉村がこっちを見た後、顔を赤くして俯く。

 「今は観察していないって言えるんですか!?」

 「……あ、今もしてるわ。同棲して一番近くで」

 「ほら、ただののろけじゃないですか!」

 杉村が更に下を向いて顔を赤くさせる。

 「ち、違うって!同棲してるのは杉村の家が爆発したからで」

 「そんなの誰が信じるって言うんですか!」

 その言葉を聞いて、若草が噛みついてくるヨハンを片手で抱えながら挙手する。

 「おい。鳩羽、緑青の言ってる事はホントだぞ?爆発の瞬間に俺も居たし。なっ?杉村」

 杉村が小さく頷く。天野さんがため息をついて僕らの小さな戦いを止めさせる。


 「はいはい。似たもの同士って訳ね。うん。君も変人と」


 鳩羽が何かをまだ言いたそうに席に腰を降ろす。江ノ木が、鳩羽を落ち着けるように肩に触れている。


 「それより、なんでキミは杉村さんの事をハニーとか呼んじゃってるわけ?何なの?イチャラブっぷりを見せつけてるの?死にたいの?」

 天野さんから黒い殺気の様なものが流れる。怖い。杉村が小さく「ダーリン」と呼ぶ声が聞こえてくるが、火に油を注ぎかねないのでスルーする。

 「違います。彼女の本名なんですよ!僕もずっと杉村って、名字で呼んでたんですけど……見返りとして本名で呼ぶことに」

 「へぇ。ハニーが蜂蜜の本名なんだ。だから杉村蜂蜜って名乗っているのね。私もハニーって呼んでいい?」

 杉村が必死に首を振って抵抗する。

 「ろっくん以外に呼ばれたくないの!」

 「ヨハン」天野さんが犬の名前を呼ぶと若草の腕に噛みついていたヨハンが、今度は僕の腕に噛みついてくる。地味に痛い!


 「ところで見返りって、なんの?杉村さんに君は何を懇願したの?」


 必死に腕からヨハンを剥がそうと思考錯誤するがなかなか離れない。その様子を日嗣姉さんが怯えた表情で見ている。僕が犬に襲われる状況こそ、PTSDになっているのかも知れない。その言葉に江ノ木と鳩羽がバツが悪そうに下を向くが、鳩羽だけが顔を上げて天野さんに説明する。


 「あとから聞いた話なんですが、石竹先輩の頼みで杉村先輩は、山小屋に監禁された僕と江ノ木さんを助ける為に動いてくれたんです。あと一歩遅ければ、多分、僕らはここに居なかったかも知れません」

 「山小屋って、私も監禁された事があるけど、北白直哉の模倣犯か何か?」

 鳩羽が物怖じせずに答える。鳩羽にPTSDという言葉は無いらしい。時期的にASD(急性ストレス障害)が現れてもおかしく無いのに。

 「いえ、その本人です」

 天野さんがクスクス笑う。


 「悪い冗談ね。北白は更生施設でしょ?動ける訳ない。私をからかってるの?」


 天野さんが日嗣姉さんの方を向く。天野さんと日嗣さんは一度、病院で情報交換をしている間柄だからだろう。日嗣姉さんが悲痛な表情で首を横にふる。

 「本当……なの?あの時はそんな情報教えてくれなかったじゃない」

 「鳩羽と江ノ木さんが監禁されたのは最近じゃ。秋頃、樹理たんの下を訪れた時にその情報は無かったのじゃ」

 樹理たんって、と思いつつ、天野さんの次の言葉を待つ。

 「あれ?君ってそんな口調だっけ?それより、その北白はどうしたの?あの殺しそびれた豚野郎はどうなったの!?」

 天野樹理さんの体に自然と力が入り、立ち上がる。

 「北白直哉は、そこに居る杉村さんのお父さんに始末された」

 「そう……死んだのね……ならいいわ。鳩羽君とクラスメイトの江ノ木さん。無事で良かったわ。……すごいわね。ここのメンバーって9割方……」

 「コラッ」

 荒川先生にやんわりと小突かれる天野さん。荒川先生が合図を送るとヨハンが僕の腕を離れ、その膝の上に座る。ここに居る若草と荒川先生、ランカスター先生、犬のヨハン以外は全員北白事件の被害関係者にあたるからだ。ちなみに僕がその被害者だと認識している事は天野さんは知っている。

 「ごめんなさい、こんな場では不適切ね。久しぶりの娑婆だから調子が分からなくて」

 娑婆って、まるで監獄に入れられていた様な。まぁ、あながち間違ってはいないけど。戸惑う僕らを余所にアウラさんがチョコレートケーキを食べ始める。

 「天野さん、気にする事無いですよ。同じ部員仲間に遠慮はいりません。同じ学年の生徒だしね。このチョコレートケーキも美味しいですよ?」

 このケーキを買ってきたランカスター先生が有名店のものだとアピールしつつ、全員にすすめる。一斉にそれを口に運ぶ部員達。

 「こんな上質なケーキなんて久しぶり。ありがとう、ランカスター心理士」

 「いいのよ、樹理たん。なんたって貴女の歓迎会なんですからね!」

 ランカスター先生が嬉しそうに天野さんの頭を撫でる。アウラさんがその光景を眺めつつ、微笑む。

 「樹理たん、かわいいですね!高校生とは思えないぐらいキュート!佐藤さんもキュートで中学生の様に見えるけど、天野さんは小学生みたいですごく可愛い!!」

 若草が横でそれに激しく同意している。中学生と呼ばれた佐藤の目に動揺が走っている。本人はお姉さんキャラだと思っているからだ。

 「えっと、私、こんなナリだけど、20歳なのよね。日嗣さんと一歳違いね」

 アウラさんがフォークに刺していたチョコケーキの片割れを机に落としてしまう。

 「え……」

 普通に言葉を失ってしまったアウラさん。彼女のこういう素の反応は珍しい。大抵の事は笑って受け入れる彼女も、その事実は受け止めるには大きすぎたらしい。

 「え、日嗣さんて……一回留年だから、18歳じゃ?サバ読んでたんですか?映画の脚本にその設定あったけど、フィクションかと」

 あれ?そっち?日嗣姉さんは二回留年していた事を誤魔化していたらしい。盛大にせき込む日嗣姉さん。

 「ブホッ、ブホホホ!」

 声になっていない。近くに腰かけるランカスター先生に背中をさすられている。

 「天野さんが二十歳ってだけでもすごいビックリなんですけど、星の教会で近い位置に居て、一個違いと教えられてきた私って……その程度の存在だったのかなって」

 アウラさんの目が淀み、呆れたように顔をひきつらせている。サイコパス係数が上がっていそうだ。

 「ぬおぅ、違うのじゃ。アウラよ、教室で寂しそうにしているお主を見かけた際、あまりにもその笑顔が眩しすぎて、あ、この子、私とは格が違う子だ。って劣等感に苛まれ、更に二回も留年した出来損無いとか思われたら対等にお友達に慣れないと思ってしまったのじゃ!悪気は決して」

 「ふーん。まぁいいですけどね」

 アウラさんがいつに無く冷たい表情でツンツンしながら紅茶を口に運ぶ。

 日嗣姉さんがいつも以上に狼狽しながら手をあたふたさせている。その光景を見て微笑むアウラさん。

 「フフッ、冗談ですよ。そういうお茶面とこも、私好きですから」

 日嗣姉さんが両手で真っ赤な顔を隠しながらパイプ椅子に慌てて腰を降ろして足をジタバタさせている。相当恥ずかしかったらしい。対角線上に座る僕から、喪服のワンピースの黒いスカート部の間から白い太股と漆黒の下着が見えてしまっているが気にしない。横に座る佐藤に「見えたでしょ?」と言われるが首を横に振って最後までシラを切る。

 「あらあら、女の友情にしては分厚いのね、羨ましいわ」

 天野さんが呆れ気味にスナック菓子を口に放り込み、バリバリと咀嚼し、僕と若草と鳩羽を順に眺めた後、口を開く。

 「この心理部内恋愛事情ってどうなってるの?」

 僕と若草と鳩羽が、困った様に頬を掻く。若草に至っては迷惑そうな表情すら浮かべている。

 「興味無いからな」

 荒川先生が横から補足する。

 「えっと、樹理ちゃん。若草はぺドだから女子校生に関心が向かない性質なんだ。奴は中学生以下しか愛せないらしい」

 「青磁がぺド?ぺドって何?」

 ちなみにクラスで席が近い僕等三人組は下の名前で呼ばれている。僕を呼ぶ時はキミが一番多いけど。その先の意味は聞かない方がいいと思うが、荒川先生がそっと耳に口添えをしてあげる。頷いてその言葉を聞いているうちに、天野さんの顔が赤くなり、可能な限り若草から距離を取る。

 「まさか!!青磁って、小さい私や深緋ちゃんタイプが好みなの!?」

 若草が呆れた様に首を振る。

 「まさか……佐藤は好みじゃありませんよ」

 「そう、なんだ。よかった……わ?あれ?私は除外してくれないの?」

 若草がいつに無く目を輝かせて天野さんに親指を立ててグッドサインを送る。

 「どストライクです。年齢以外」

 「ヨハン!君に決めた!かみつき!」

 荒川先生の膝の上で大人しくしていた老犬ヨハンがレークランド・テリア特有のゆるい可愛さを置いてけぼりにして、悪魔の様な唸り声をあげながら若草に飛びかかり、腕に噛みつく。見た目は可愛いが、キツネ狩りの猟犬とも呼ばれる犬種なので的確に若草を仕留めようとする。若草がパイプ椅子から転がり、カウンセリング内を駆けまわる。天野さんが納得した様に頷くと、鳩羽と僕の方を交互に見る。

 鳩羽が首を振りながら、両手を上げてそれを否定する。

 「僕にロリコン趣味はありませんよ。そういった女性の一要素に対するこだわりは持ち合わせていません。あるのは・・・・・・その一要素が誰のものかというぐらいですね」

 鳩羽が遠慮がちに杉村の方を向く。杉村にその意図は伝わらず、無邪気に手を鳩羽に手を振ってそれに答える。

 「あらあら。蜂蜜を彼から奪うのは至難の技よ?まぁ……その……気が向いたら応援してあげなくも無いけど」

 天野さんが顔を紅くして僕の方を見つめる。なんでだ?江ノ木が頬を膨らませ怪我をしていない方の手で鳩羽の耳を引っ張って自分の顔に向ける。

 「君には私が居るよ?!」

 鳩羽が思いだした様な表情で返事する。

 「そうでしたね。僕にはカナさんが……」

 しばらく間の後、小さく首を傾げる鳩羽。

 「って!勝手に事実を捻じ曲げないで下さい!僕とカナさんは恋人ではありませんから!油断も隙も無い人なんですから、あなたは!」

 「てへっ、バレた?いいじゃん私で手を打とうよ。杉村さんは石竹君のものだし、それにもうすぐ……」

 そこまで言いかけて江ノ木がハッと気づいて口を抑える。杉村の体が小さく反応し、悲しそうに下を向く。鳩羽が、フォローを入れるように言葉を繋げる。

 「知ってますよ。週末には英国に帰ってしまうんでしょ?いずれ追いかけますよ。それに離れていても僕の気持は何一つ変わりませんから」

 鳩羽が杉村の事をまっすぐ見つめる。それに答える様に杉村がティーカップを持ったまま立ち上がる。

 「その言葉……」

 鳩羽の気持が初めて伝わった瞬間だった。

 「ろっくんに言われたい」

 はずも無かった。

 がくりと肩を落とし、鳩羽が大人しく着席する。天野さんが紅茶を口につけながら「まぁ、がんばんなさい」とエールを送る。次に僕の方に視点を移す。

 「で、君はどうなの?私みたいな女の子が好きなロリコンなの?それともアウラみたいに胸が大きい子がお好きなの?」

 紅茶に手を伸ばそうとした僕の手が硬直する。

 「いや、僕にはそういうのはまだ早いかな、というか。えーと」

 「大事な事よ。私の外見や胸のサイズ(Bぐらい?)はキミ的には有りなの?無しなの?!男によってはそこを判断基準にするようなクソ野郎も少なからずこの世に存在するの。君はどっち?ねぇ?!君はクソ野郎なの?!」

 いつの間にか胸のサイズというか、天野さんに対する評価にすり変わっているが、どう答えたものか。

 「そうですね……どちらかと言うと、お尻派です」

 「なぶはっ!?」

 天野さんが噴き出す。答えを間違えたか?穏便に済ましたかったのだが。

 「き、キミ、だから病院で私のスカートの中に頭を突っ込んできたのね!?私を肩車したのもきっと……下心があって。下着を上げて貰う時、君じゃ無くて私の方が危なかったの?!」

 いや、あれは自分から被さってきたんだけど。肩車をしないと天野さんは傾れ込んで来た人達に潰されていたし。しかも下着を上げたのも天野さんの指示だし。


 「石竹、ちょっとあとで職員室に来い」


 天野さんの左横、僕の隣のソファに座る荒川先生の顔が笑ってない。向かい側の席に座る日嗣姉さんが、顔を真っ赤にさせて口元を抑えている。なんだ?

 「も、もしや、あのキャンプ場で私をおんぶするという名目で、私のお尻に触れている時……緑青君は爆発しそうだったのね!そういえば、本人は息切れとか言ってたけど、本当は興奮して!わ、私、山小屋で気を失ってからの記憶が無いんだけど、私のて、貞操は無事?!」

 「なんですか!爆発って!だから、どちらかと言うとってだけで、照れはしましたけど興奮なんてしてませんよ!」

 今度は逆にしょんぼりしてしまう日嗣姉さん。天野さんが「緑青は尻フェチね。まだ勝機はあるのかな?」と呟いている。それを杉村が小さな声で否定し、2人のやりとりが続く。やっぱり味方はハニーちゃんだけだよ。「ろっくんは、匂いフェチなの。私のブーツの匂いを嗅いでたの」敵だった!日嗣姉さんがどんよりとした顔で顔を伏せている。

 「そうですよね。そうですか。カウンセリング室で水着に着替えている時、急に現れた緑青君に全部見られたけど、君の中のなんの琴線にも触れなかった訳ですよね。どうせ私なんて」

 ヨハンに追いかけられながら若草が口を鋏む。

 「いや、前に緑青が言ってたが、日嗣の裸を見てドキドキはしたって言ってたぞ?(「青の湯」参照)」

 「え?」

 日嗣姉さんが顔を上げて僕と視線を交差させ、2人同時に顔を紅くさせて固まってしまう。確かにそんな事言った気がするので否定も出来ないし。遠のいた日嗣姉さんとの距離が少し身近に感じれた気がしたけど、日嗣姉さんは僕みたいなタイプよりも、生徒会長の様な文武両道、高身長な爽やか青年が好みだったはずだ。

 「その……なんじゃ、えーっと」

 僕も同じ様な言葉しか口から出て来ない。

 「えっと、その……尊姉さんは素敵だと思います。銀色の髪の時も、今の黒髪状態でも」

 「うぐっ、こんな場で言うで無い。反応に困るであろうが!」

 天野さんが収集のつかなくなってきた場に飽きて、話題を変える。

 「で、この粒揃いの女の子達の中で、一番の好みは誰なのよ。幼馴染みである蜂蜜や深緋との関係を加味せず、純粋に外見的な特徴で判断した場合、君は誰が一番好みなの?ちなみに私はこの中で君だから」


 天野さんに謎のプレッシャーをかけられながら、女性陣が一斉にこちらに注目する。その中にランカスター先生まで含まれているのはどうかと思うが。荒川先生は、若草に噛みついていたヨハンを「もういい、もどれ!ヨハン!」呼び戻し、膝の上に寝かせる。固唾を飲んで見守られる中、僕は心理部女性メンバーの姿を再確認する。


個性的すぎるメンバーが集結し、場は混沌とした状態に?

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