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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
はに〜とろっくん。
139/319

ホームレス

タクシーの運転手さんと別れ、僕等は杉村さん家へ突撃する?

 僕(石竹緑青いしたけろくしょう)と杉村蜂蜜(ハニー=レヴィアン)と若草青磁わかくさ せいじは、訳あって杉村の自宅前に居る。早く用事を済ませて帰りたいのだが、先ほどからこの家の住人の退行ロリ村(杉村蜂蜜)が自宅の門前で一向に中に入ろうとしないのだ。

 「私、鍵を持って家を出た記憶が無い」

 若草がため息をついて、杉村の家に玄関に手をかける。

 「おいおい、不用心過ぎるだろ?もう泥棒に」

 若草がドアノブに触れようとした瞬間、杉村がその手を弾くように身体ごと薙ぎ倒す。その勢いのまま、玄関の花壇に転倒する若草。

 「ぶはっ、何すんだよ!」

 杉村が何かを警戒する様に花壇の脇に置いてあった小さなスコップをノブの上から落とし、接触させる。スコップとドアノブの表面が触れ合った瞬間、スパークが迸り、茶色いスコップが焦げ茶色に変色する。


 「やっぱり。ハニーは家に鍵を忘れて、オートロックモードに切り替わってしまってる。マニュアルロックモードで家を出た場合はこうはならないんだけど、防犯のための対人兵器が機動してしまっている」


 若草が尻餅をついたまま、青ざめた顔をする。


 「どこのホームアローンだよっ!対人兵器って!俺らはお前の家に殺されるのか?!」


 杉村が口に手を当てて、作戦を練っているようだ。

 「手元に武器は無い。あるのは……」

 杉村が僕に手を差し出す。あ、銃ね。僕はズボンに隠していた「SIGP226」(15発弾有り)を渡す。

 「念のために……」

 若草にも手を差し出す杉村。若草は重い腰を上げて、玄関近くに放置していた自分の鞄から「M9(M92FS)」を渡す。

 「少し借りるね」

 それぞれの残弾数を確認した後、セーフティーロックを解除し、両手に黒い拳銃ハンドガンを構える杉村。

 「これは父が私に与えたもうた試練。乗り越えて見せます、パパ!」

 いや、お前が家を出るときに鍵を忘れただけだろ?杉村が僕の方に向き直る。

 「私がいつまで経っても出てこなかったら、あとはろっくんに任せるね」

 「え?お前でも死ぬ危険性があるの?」

 いつになく真剣な表情のロリ村が息を飲む。

 「この家の外観からは分からないけど、パパの傭兵時代の情報を盗みにきた敵を想定して要塞化されているの。私の知る限り、仕掛けられているブービートラップで一番危険なのは、M18 クレイモア地雷(指向性対人地雷)」


 「……クレイモア地雷って、この一角が吹き飛ぶぞ?」


 「ううん。パパの部屋、2階だけを吹き飛ばすように調整されているはず。作動しても私の部屋と地下の武器庫は無事なはず。もし私が爆死しても、私の部屋と地下にある武器庫から2人の兵装は補給可能なの」

 「……死ぬ危険性があるなら、やめておけよ」

 若草がおびえつつ、杉村を引き留める。

 「ううん。少しでも私はろっくんと青ちゃんの生存率はあげておきたいの。特に私は……ろっくん最優先で動くから、もし、犯人が二人を同時に襲った場合、青ちゃんを見捨てる」


 「よし、杉村!いってこい!俺はお前を信じるぞっ!」


 若草の切り替えの早さに呆れつつ、僕は杉村を見送る。

 「あ、ろっくん。もしかしたら最後かも知れないから……」

 杉村がするりと僕の胸に飛び込んできて、僕の額にキスを浴びせる。

 「私のお守り。ろっくん、無事で居てね」

 「そ、それはこっちの台詞だろ?お前こそ無事に……」

 杉村がそれならと、目を閉じて口をむにむにさせている。僕が戸惑っていると、両腕に構えた2丁拳銃をズボンの間に仕舞い、綺麗に玄関の塀に飛び乗る。

 「フフフッ、無理しなくていいよ。ろっくん。私は父を越えてみせる!制圧作戦決行!」

 なんだかんだで楽しそうにしているようだ。

 「とぉっ!!」

 塀から一階の屋根までは常人で飛び乗れない高さにあるのだが、塀に飛び乗った勢いをそのまま利用して一階の屋根部に片足がかかると、そのまま一番高い位置にある二階まですんなりと登りきってしまう。

 「ろっくーーん!誉めてーー」

 こちらに手を振る杉村。まだまだ余裕を感じる。

 「えらいえらい。その調子ーっ!」

 「ハニーがんばる!」

 そのまま建物の側面に位置しているベランダに着地する杉村。勢いに反して接地音は小さかった。猫のようだ。辺りを見渡した後、ベランダから窓越しに中の様子を伺っている。

 「こちらホーネット、内部に人影は無いようだ。オーバー」

 無線も無いのに玄関にいる僕に話かけてくる杉村。ここで言うホーネットとは「殺人蜂ホーネット」さんの事では無い。僕らが小さい頃に使用していたコードネームの方だ。それに合わせる様に僕も返事する。

 「こちらアオミドロ。了解した。そのまま潜入されたし、フラッシュ」

 「サンダー!!」

 玄関前から僕と若草は見守っているが、ここからは中の様子が分からないので待つことしか出来ない。二階によじ登り、杉村の後を追うという手段もあるが、恐らく僕等は死んでしまうだろう。杉村が銃を片手に持ち、ベランダの窓を割る。鈍い音が響く。防弾ガラスの様だ。すぐさま銃を両手に構えた杉村が次々と窓の一点に弾丸を撃ち込んでいく。発射時の光と音が辺りの閑静な住宅街に場違いに響き渡る。これ、通報されるんじゃない?


 発砲音からして弾薬の3分の1ぐらいを費やして窓を破壊し、ベランダの扉が開かれる。それと同時に杉村の家の中から警報音が鳴り響く。一瞬、身構える杉村だがそれに臆する事無く、2階の室内へと侵入する杉村。

 僕と若草は2人して玄関の段差に並んで腰かける。もう遅い時間帯なので通りを歩く人間もほとんど居ない。特にこの辺りは高級住宅街なので素行不良な子供が夜遅くまで外に出て遊んでいる姿は無いようだ。

 「大丈夫か?杉村の奴」

 「多分。自分の家の罠にやられる事は無いと……思うけど?!」

 背後から杉村宅の全ての窓から強烈な光りが溢れ出す。音はほとんどしなかったのでスタングレネードではなさそうだ。最初に目を潰してくる辺りが、杉村誠一さんの傭兵として実力を伺える。本当に大丈夫か?杉村は暗視ゴーグルも付けて居ない。着けていたら目はやられてたけど。あの山小屋での一件以来スタングレネードには軽いトラウマがある。

 「お、おい!?今の光なんだ?!」

 「多分、フラッシュグレネードか、もしくは照射装置?音は無いから後者かも。想定さえ出来ていれば、杉村がそれに引っかかる事は無いと思う。とりあえず、今、僕らは僕らにしか出来ない事をしようか」

 「そ、そうだな……犯人の……」

 そのしばらく後、破裂音がいくつか鳴り響き、銃声の後、杉村の家は爆発炎上した。その音を聞きつけた近隣住民が何事かと表に出てきている。これは、警察を呼ばれそうだ。

 隣の家のお婆さんが表に出てきて、黒煙をあげる杉村の家を見上げて僕らに話かけてくる。

 「おやまぁ……派手にやったねぇ」

 「あの、驚かないんですか?」

 上品なパーマをかけた白髪のお婆さんが眼鏡の位置を正してため息をつく。

 「だって、杉村さんの宅でしょう?」

 「はい」

 「事前説明も数年前にあったしねぇ。いつかはこうなると思っていたわよ。あれ?でもおかしいわね?誠一さんは今、警察にいるんじゃなかったかしら?」

 お婆さんと同じ様な反応をするご近所さんが家の周りに集まってくる。だれも警察を呼ぼうとしないのはさすが杉村さん家のご近所さんである。若草が戸惑いながら集まって来た人々に声をかける。

 「警察、呼ばないんですか?もしくは消防車」

 住民達が顔を見合わせて、首を横に振る。

 「だって、消し飛んだのは、盗みに入った泥棒だろ?」

 僕と若草は口を揃えてそれを否定する。


 「「杉村さん家のです!」」

 

 *


 ベランダからね、家の中に入るとね、警報が鳴って、非常ランプが点灯したの。それでセンサーに私の足が引っかかったみたいで、強力なピカピカ。そういえばピカピカ装置は全部の部屋に付いていた気がするの。発光は一回きりだったはず。両腕で目を庇って、その光をやり過ごすの。


 天井をね、何かがね、ごろごろと転がってくる。天井の一部に空いた小さな穴から爆弾が落ちてきたの。センサーが人物を感知すると、その部屋に爆弾が流れ込む様にプログラムされてるってパパが言ってた気がする。


 手榴弾の爆破タイミングも計算されていて、落ちてきた爆弾をどこかに蹴り飛ばす余裕も、隣の部屋に逃げ込む時間も無い。でも場所を選んでばらまかれる爆弾なら火薬量も少なく、殺傷力も最低限に押さえられているはずだと思うの。

 私は部屋に置かれていた長机をひっくり返す。シールドの様にそれを立てかけて手榴弾の爆風をやり過ごすの。落ちてくる爆弾は二種類。普通の爆弾と釘が仕込まれやつ。対人用に殺傷力を高めた釘爆弾。刺さると痛い。

 その爆発による熱風を近くに感じながら、仕込まれた釘が辺りに四散し、突き立てられていく。あっ、机から少し身体を離さないと。鉄板が仕込まれているとは言っても、木製の机が熱を溜込み、炎を帯びだす。数本の鋭い釘が机の裏側からこんにちわする。もしこの机の頑丈さを過信しすぎていたら、裏側から突き出た釘により、私の身体はこの机に張り付けにされていた。ゾゾゾッ。手榴弾が天井から転がってくる気配が無くなったのを確認して、私は立ち上がーるのよー♩ろっくんが待っている一階の玄関を目指さないと!ふわふわとした意識に、冷たい何かが殺気を帯びて流れ込んでくる。邪魔しないで。私はそれに必死に足を踏ん張って抵抗する。この感覚は嫌い。嫌いなの。私の中に入って来ないでよ、もうっ!!今の私はホーネット。蜜蜂部隊、小隊長ホーネットなの。小隊付軍曹「キラービー(パパ)」が居ない今、小隊長である私がしっかりしなければならないの。


 警報、閃光、手榴弾、その次に来るのはなんだろう?


 爆弾を掻い潜り、更に侵攻してくる敵に対してパパなら追撃を行う。

 

 廊下を抜けて、駆け抜けようとする足を反射的に引き留める。下に続く階段のすぐ近くで、何かが稼働する音と共に赤いセンサーライトが私の心臓を探るように体を這ってくる。熱感知式のセンサーを搭載したトラップ型の自動小銃だ。熱源である私を感知して、銃弾をばらまいてくる。すぐさま体を翻し、後転すると、私がさっきまで居た場所が蜂の巣みたいに穴だらけになる。暗がりの中、殺し損なった私を逃がすまいと銃口が動いた気がしたので、先ほど通りすぎたパパの部屋に体当たりして潜り込む。数秒遅れて、私の背中を銃弾が掠めて通り過ぎていく。

 久しぶりに入ったパパの部屋は懐かしい匂いがした。壁には数多くの銃火器が飾られていて、各戦場で受け取った勲章なんかも飾られている。パパは主に民間人を守る為に働く傭兵さんだったの。紛争地域で民間人に被害が及ぶ危険性がある場合にパパは現地に駆けつけ、避難民の身の安全の為に、テロリストや敵対している軍隊から無関係な人を安全な場所まで移動させる仕事をしていたの。

 元々は戦争孤児を支援する仕事をしていたのだけど、仲の良かったコミニティの子供達が紛争に巻き込まれて全員亡くなったの。パパはね、その仕返しに敵地に一人で潜り込んで拠点を丸々一つ消し飛ばしたのね。その事が切っ掛けで、近くに頓留していた英国軍からスカウトを受けて、色々な作戦で活躍してパパの名は広まっていったの。その時代、ママの護衛にもついて、二人は出会ったみたい。八ツ森市で警察から授与された表彰状もこの部屋には飾られている。銃火器もこの部屋には飾られているけど、この部屋にあるのはほとんどがカモフラージュ用。銃に弾は入っていない。パパの好みじゃ無い「AKシリーズ」のアサルト・ライフルが並べられているだけ。ほとんどが支給品で、任務の都合上仕方なく所属した部隊から受け取ったものだ。パパの好みのアサルト・ライフルは「FN SCAR」シリーズでその系統の銃は地下の武器庫に大事に保管されている。

 ここにあるパパの大事なものといえば、私とママとパパが写る写真ぐらい。あと、ろっくんの家族、佐藤さんの家族と一緒に撮った写真もある。佐藤さんの家族写真の中に、幼い頃のろっくんと、佐藤深緋さとう こきひちゃんが一緒に写っている。そしてもう一人、同じ年頃の女の子がそこに居る。深緋ちゃんは呆れた様な顔をしているけど、もう一人の女の子は笑顔でろっくんの腕をそっと掴んでいる。幸せそうだ。

 もし、私が……居なかったら、この写真の女の子がろっくんの横に居たのかも知れない。心の奥がチクチクして泣いちゃいそうになる。ろっくんはこの女の子を殺してしまった事を悔やんでいる。

 けど、それは「私たち2人の罪」。ろっくんが人を愛せなくなったのは、目の前で母親を失った事や、父親に刺し殺されそうになった事、北白直哉に監禁されたからじゃない。恐らくこの子に対する罪悪感が関係していると思うの。私の目から涙がこぼれる。うん、そうだね、これだけでも持って行こう。ろっくんが何かを思い出すかも知れないし。私の一階の部屋にも武器類はあるので、他の銃火器に用は無い。とりあえず、ここからは写真だけを持って行こう。


 「私達の家族写真の方はパパに持って行ってあげ……よう?よ?よ?」


 カチリと何かが作動した様な音が聞こえた。あ。しまった。そういう事ね。パパの持ち物の中で大事なものと言えば、嫌いなメーカーの銃でも、その他兵装でも、ましてや勲章や表彰状でも機密情報が書かれた機密書類でもない。家族の写った写真だ。


 昔、パパがこんな事を言っていた。


 「パパの部屋にある家族写真だけは動かさないようにね?パパの部屋と、二階が消し飛んじゃうから。わかったかい?」


 わかってなかった。てへへっ。


 私は写真立てをパーカーのポケットに仕舞うと、両手に銃を素早く構え直す。扉前で待機しているトラップガンと差し違える覚悟は出来た。頭と胴体にさえ弾丸を食らわなければ何とかなりそう。早くしないと、2階そのものが爆発と共に消えて無くなってしまう。私の体もね。時間、間に合うかな?


 「私が死んでも代わりは……居なさそうだけど、ろっくんなら大丈夫だと思う。日嗣さんも佐藤さんも居る。ちょっと頼りないけど青ちゃんも居る」


 足に力を入れて、踏み出そうとした瞬間、私の立っていた床が左右に開いて底が抜ける。私を奈落の底に落とす。単純な罠、落とし穴だ!


 落下運動に移った体を丸め、銃を両手から放り投げる。ポケットに仕舞い込んだ写真を抱え、衝撃に備える。どこまで落ちるんだろ。穴の底に尖った何かが突き立てられてたら嫌だなぁ。死ぬ時は楽に死にたい。最後の最後まで足掻くけど。私が死ねばろっくんの生存率も下がってしまうから。


 遠ざかっていく天井の蓋が素早く閉じ、轟音が鳴り響く。パパの設置していた爆弾クレイモアが作動したんだと思う。綺麗に2階だけをごっそりと消すために。計算された位置に仕掛けられている為、一階に向かって落ちていく私の体に爆風と熱は追っては来なかった。


 パパ、ごめんね。部屋を吹き飛ばしちゃった。


  *


 玄関前に立ち尽くす僕ら二人。


 辺りに轟音と振動が伴い、赤黒い爆炎が天上に巻き上がる。炎は杉村の家の上部を軽々と吹き飛ばし、一瞬にして跡形も無く、消し飛ばしてしまった。灰になった建物の一部がハラハラと舞い落ちてくる。


 「若草、ちょっと玄関から距離をとれ、巻き上げられた構造物や家具が落下してきて……」


 若草は僕の言葉を無視して玄関の敷居を跨ぎ、扉に体当たりをかます。


 「感電……」


 「危ないのは金属製のドアノブだろ?木で出来たとこなら問題無いはずだぁ!って、ドアに体当たりってよくテレビで見るけど、相当痛てぇわ!!」


 なんだかんだで、いざとなったら捨て身で行動する若草を見直しつつ、僕はその若草の二回目の体当たりにタイミングを合わせる。周りの見物人達が後方でざわめく。


 「青磁、勢いに体重を乗せて、蝶番から離れたカ所に……突進する!!」


 僕と若草はタイミングぴったりに強く踏み込み、全体重を扉にぶつける。二人合わせて百kg以上。勢いを付ければそれなりの力が扉にかかるはず……。衝突と同時にメキメキという音を立て、扉がだらしなく向こう側に薙ぎ倒されていく。


 「やったな!緑青おおお!!??」


 バチバチという音と共に若草の体が痙攣する。


 「あ、若草。そこ、ドアノブがある……よ?」


 「早く、言え……よ」


 若草が扉前で倒れてしまった。恐らく感電死はしていなさそうだけど。


 「一名脱落。もう一人は生死不明。多分、無事だと思うけど……」


 一階の通路に恐る恐る足を踏み入れると、広い廊下が、リビングの方まで続いていた。その奥の方から杉村の呻き声が聞こえてくる。あの爆風に巻き込まれて無くて本当によかった。なんとか一階まで退避出来ていたようだな。


 二階の壊滅的な状況に対して、一階はほとんど無傷な様で原型をほとんど保っていた。もしかしたら、一階の屋根には爆発に耐えられるだけの工夫がされていたのかも知れない。奥のリビングに足を踏み入れ、手探りで電灯をつけると、天井から大きな白い袋が垂れ下がっていて、そこに杉村が捕らえられていた。蚕の繭や、蜘蛛が獲物を糸でぐるぐる巻きにした様な感じに。杉村のうめき声はそこから聞こえてくる。身動きが取れなくなっているようだ。


 「むぐぐぐぐぅ!手の力じゃ千切れないし、動けない!ろっくん!助けてぇ」


 僕の存在を気配で感じ取った杉村が助けを求めてくる。

 杉村が入っている白い大きな袋を確認すると、天井に空いた穴からぶら下がっているようで、どうやら二階に設置された落とし穴かなんかに落ちて、捕まってしまったようだ。そのおかげであの爆発には巻き込まれなかったようだけど。

 リビングの奥にあるキッチンから包丁を持ってきて、杉村の体から離れた位置を切り裂こうとするが、頑丈な繊維で造られているようで刃が全く通らない。

 「ハニーちゃん、ダメだ。包丁じゃ刃が通らない」

 「それならっ!」

 杉村が僕に体を伏せて離れるように指示を出す。

 「これでいいか?」

 「うん。銃にはまだ弾が残っているから、それで撃ち抜けるかも」

 「ほーい」

 白い繭の中で杉村が蠢き、金属が擦れる音がする。

 「とぉーーっ!!」

 籠もり気味の銃声が白い袋の中から聞こえ、天井に近い袋の上部が破裂音と共に、少しずつ引き千切れていく。自重でドサリと床に杉村が転がる。白い繭にくるまった杉村が顔だけをそこからだす。まるで雪だるまのようだ。

 「ホーネット部隊長、無事、帰還しましたぁ!」

 「う、うん。家に入れて良かったね。これからは家の鍵を忘れずに」

 「はーい」

 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてくる。騒ぎを聞きつけた近隣住民の誰かが通報したらしい。

 「杉村、やばい、警察だ!武装するにも見つかったら没収されるぞ?!」

 「確かにやばいねぇ。パパが居れば何とかしたかも知れないけど……あ、パパ、警察に捕まってた。私達もここで終わりかな」

 白い布に体がくるまれた杉村が顔だけを出してもがいている。仕方ないのでそのまま杉村を持ち上げて裏から出ようとする。

 「かくなるうえは」

 杉村が銃声と共に両手を白い布の塊から突き出すと戦闘態勢に移行する。

 「ろっくん、私の足になって?」

 「あほかっ!」

 僕は杉村を抱えたまま、裏口から出ようとする。あの爆発に巻き込まれた事にすれば……。


 「(おーい、君、大丈夫かーい?)」


 玄関の方から、声が聞こえてくる。警察の人が感電して倒れている若草に気付いたらしい。


 「(それにしてもすごいありさまだな……ガス爆発か?いや、それにしては綺麗に吹き飛びすぎか?おーいっ、誰か中に居ないかーっ?)」


 「ろっくん、私は青ちゃんを見捨てられない。ろっくんだけでも逃げて?今、ろっくんは警察に捕まる訳にはいかない。また犠牲者が増えていく……」

 「杉村?お前……」

 「残段数は左右合わせて6発。表には恐らく3人以上……殺れるかな?」

 僕はため息をついて、若草のところに向かう。

 「ろっくん?」

 「銃刀法違反より、殺人の方が罪が重いからな。お前は精神疾患で無実になるかも知れないけど、僕らはそうはいかない。いや、僕も解離性記憶健忘があるから大丈夫か?若草は幼児性愛者で犯罪者予備軍なので捕まりそうだけど」


 杉村が大人しくなって、両手に構えた銃を白い繭の中に仕舞う。

 「ハニーちゃん。身動きはとれない?」

 「うん。すごい絡まってて、一度、地面に寝転がらないと抜け出せない」

 「そうか。もう少しの辛抱な」

 「うん!青ちゃんを助けないとね」

  玄関の先で、若草の呻き声が聞こえてくる。目を覚ましたようだ。

 「(あれ?おっさんは?)」

 「(おっさんじゃない、警察だ)」

 「(……マジか)」

 「(君?その鞄はなんだい?やたらと重いけど?)」

 「(あぁ、それはパチンコの玉だ)」

 「(君ねぇ。未成年だ……ろ。ちょっと中身を確認させて貰う……よ?)」

 目の前に白い布に体を包まれた金髪の女の子を抱く僕の姿に固まる警察官。年齢は40代だろうか。ベテランの風格が漂っている。


 「君の家、すごい事なってるけど、大丈夫?ガス爆発かい?被害者は?」


それに僕に抱えられている杉村が答える。


 「うん、大丈夫。爆発しちゃったけど、巻き込まれた人間は居ないから安心していいよ?」


 「災難だったねぇ。事件性は無いと思うけど、室内を確認させて貰っていいか……な?」


 杉村の周りの空気が変わり、肌が焦げるようにピリピリする。撃つ気だ。相手に悟られない様に繭の中、銃口が警察の人に向けられているのが分かる。


 「ん?ど、どうしたんだい?怖い顔して?年頃の女の子の部屋におじさんが入るのは気に食わないだろうが、軽く中を見るぐらい……」


 けたたましい爆音と風圧と共に、一機のヘリコプターが上空に飛来する。強烈なサーチライトが僕らを暗がりから浮かび上がらせる。戸惑う僕らを余所に、間髪いれずコクピットからワイヤーが放り出され、それを伝い、数人の人影が上空から降りてくる。


 白を基調にしたフルフェイスのヘルメットと防弾チョッキで完全武装した3人の特殊部隊の様な出で立ちの男が僕と警察官の周りを囲む。手には強力な軍用アサルトライフルを装備している。珍しい銀色のタイプの銃だ。恐らくカスタマイズされている。


 一呼吸間を置いて、制服姿の女の子も上空から降りてきて、ストンと大地に降り立つ。靡く黄金の髪が流れるようにはためき、それはまごう事なき天使の様だった。ヘリの風圧ではためくスカートを上品に押さえながら、背中に忍ばせてあった銀色のハンドガンを抜くと、それを僕の目の前に抱えている杉村蜂蜜の繭に向ける。


 「その銃、抜くなよ?」


 大型の銀色の銃を正面に構えた杉村と同じ様な黄金の長い髪をなびかせた女子校生。切れ長な目に、綺麗な紺碧の瞳がヘリから受けたライトを反射させ、煌めいている。


 「その装備は、Nephilim(ネフィリム)の部隊のものですよね?何故あなた方がこちらに?」


 僕らの近くに一緒に突っ立っていた警察官が、状況が飲み込めないで申し立てする。


 「ふむ。先刻、爆発炎上した民家は、我々

Nephilimネフィリム」と協力関係にある杉村誠一の自宅だ。非常時には我々の部隊の補給用拠点とも成り得る重要な施設だ」


 警察官の人が困り果てて、杉村の方を見る。


 「お嬢ちゃんは一体何者なんだい?」


 杉村が元気よく自分の名前を答える。


 「ハニー=レヴィアンです!」


 「……そ、そうかい」


 アサルト・ライフルを構える3人のフル装備の男の先頭に立つ金髪の女子高生はこのままでは埒があかないと、銃を仕舞い、懐からナイフを取り出す。そしてこちらに向かって勢い良く歩いてくると杉村を包んでいた白い繭を切り裂き、解放してあげる。そのナイフの切れ味は相当良さそうだ。杉村の体を傷つけずに切り裂けるとは相当のナイフ使い?というか両刃の形状はダガーか?


 「先ほどの爆発は恐らく、杉村誠一が仕掛けていたクレイモアによるものだ。テロリストによる犯行ではない。大方、この不遜な妹が誤って誤爆させたのだろう」


 「そ、そうですか。そこにいるお嬢ちゃんが隊長さんの妹さんなんですか?確かに言われてみればどことなく……」


 「腹違いだがな。目の色も形も背格好も違うだろ?」


 杉村の事を妹と呼んだ金髪の女性が杉村と向かい合う。手足が自由になった杉村が何故か両手に銃を構え直している。


 「夏休み以来だな。妹よ」


 「そうだね……お姉ちゃん」


 ナイフを片手にしながら、姉と呼ばれた金髪の女性が収納していた大型の銀色の銃を再び引き抜く。片手で撃てる事にも驚きだ。


 「なぜ両手に銃を構えたままなんだ?場合によっては妹でも撃ち殺す」


 「ここはパパと私の家、踏み入れさせない。お姉ちゃんでも」


 「バカな妹だ。八ツ森特殊部隊隊長サリア=レヴィアンである私と()り合うつもりかっ!」


 銀色の銃口から火が吹き出すと同時に、杉村の体が横に飛翔し、左手に持つ銃から放たれた弾丸が相手の持つダガーを弾き飛ばす。周りには結構人が集まっているので、悲鳴をあげながら見物人が逃げ惑う。僕は一足先に離れている。


 「ちっ、やはり、ダガーは慣れないな」


 素早く両手に銃を構え直した杉村のお姉さん、サリアさんが杉村の肩を狙って引き金を引く。寸前で体を捻り、それを避ける。目はずっとその銃身を睨みつけている。そしてほとんど目で捕らえずに、サリアさんの懐に下から飛び込むと同時に、両手に強く握った銃底でサリアさんの両腕をはじき飛ばす。銀色の銃が宙を舞う。そしてそのまま足を器用に相手の脚に引っかけ、コンクリートの床に激しく叩きつける。すごい。相手はプロなのにここまで杉村の力が通用するとは思ってはいなかった。


 「くそっ!貴様っ!!」


 一言も話さずに、2丁の銃をサリアさんの脳天に突きつける杉村。


 「私とろっくんの邪魔をするなら、お姉ちゃんでも殺す。罪なら全てが片付いてから受ける」


 杉村の得体の知れ無い殺気に、後ろに控えていた同じ特殊部隊の人達が一斉に銃を構える。


 「やめろ、こいつは本気だ。銃を下げろ」


 サリアさんの指示通りに銃口が下げられる。警察官の人は想定外の状況に身動き一つ取れないでいた。

 「貴様の要求はなんだ?」

 「私達をほっといて」

 地面に倒されたサリアさんがため息をついて頷く。

 「……いいだろう。だが勘違いするな?私達はあくまでお前を心配してここまで来たんだ。捕まえるつもりも、本国に強制送還させるつもりも無い。行く行くは私の後を継がせる候補でもあるしな。あの悪人殺し(サムライ)の技能をここまで引き継いでいたとはな……だが勘違いするな?あくまでも今はだからな」

 杉村が、その言葉を素直に受け取り、銃を背中に仕舞う。


 「サリア隊長!いいんですか?今、銃を……」


 「構わん。見逃してやれ。許可証ぐらい持たせている。家宅捜査もするな。そのまま帰るぞ」


 サリアさんがヘリに合図を送ると、ロープが回収され、旋回しながら帰って行く。お姉さんと特殊部隊の人達を残したまま。


 スカートの汚れを払い、立ち上がる「サリア=レヴィアン」さん。


 「まったく、夏休みの時といい人騒がせな愚妹だ」


 特に会話を交わす訳でも無く、部下3人を引き連れて歩き出すお姉さん。ところでなんで高校生の制服を着ているんだろう。高校生?まさかな。でも、あの制服のデザインは木漏日町の方にある高校のものだ。


 「近くでタクシーを拾うぞ」


「はっ。ですが、なぜヘリを先に帰したんですか?」


「寄るところが出来た。梅村文具店を経由して八ツ森警察署に帰るぞ!」


 銃を携えた特殊部隊の人が敬礼し、その後ろに付き従う。


 「あ、お姉ちゃん!銃とナイフ!」


 杉村が戦闘体勢を解いて、後ろを追いかけようとするが、手を振ってそれを止める。


 「私を初めて負かしたご褒美だ」


 杉村の近くに先ほどまでサリアさんが手にしていたダガーと銃が転がっていた。これを譲るというのか?


 「あ、ありがと……」


 「勘違いするな。ここが戦場なら私はお前に殺されていた。死んだ人間に武器は必要ないだろ?それだけだ」


 でもこれ、マグナムリボルバーだよね?しかも銃身がカスタマイズされていて四角く大型化されている。命中精度も高そうだ。ダガーも銃弾を受けたにも関わらず、変形せずに状態を保っていた。日本では所持を禁止されているダガータイプのナイフは、RPGの装備品の様に中世な雰囲気が漂うデザインだ。


 「ろっくんか……お前が、妹が選んだ男、石竹緑青だな?」


 こちらに振り返り、僕に視線を送る杉村のお姉さん。


 「は、はい!」


 「そのなんだ……えっと、妹の背中は任せたぞ?」


 照れくさそうにお姉さんが下を向くと、頬が真っ赤に染まっていた。仲が悪い訳では無さそうだ。杉村がヤンデレなら、お姉さんはツンデレさんの様ですね。僕の返事を待たずにお姉さんは帰路につく。横で立ち尽くしていた警察の人が我に返って辺りを見渡す。


 「……なんだかよく分からないが、警察は手を引けって事だよね?もう帰っていい?お前ら、帰るぞー?」


 僕と若草、杉村は一言謝罪して、警察の人達を見送った。


 「なぁ、緑青。これって……」

 「あぁ。杉村が居れば、銃刀法違反で捕まることは無さそうだ」

 「私ってすごいね!?」


 僕はとりあえず近くに集まってきた近隣住民の方に誠意を込めて謝罪した。お騒がせしました。その後、ハニーちゃんの着替えと兵装を運び出し、僕の自宅へと搬送した。こうして僕の賃貸は要塞と化したのである。


え?何?杉村?後で見せたいものがある?


何だろ?


 

【杉村蜂蜜「アイテム欄」】


  ・鍵←<だいじなもの>

  ・財布等の貴重品

  ・着替え(日常)

 

  ・S&W M500(8.75インチモデル)のカスタムモデル。

  ・銀色のダガー ←↑<New!>


  ・迷彩服

  ・ポーチ複数

  ・通信機器

  ・ナイフお手入れツール

  ・フォールディングナイフ3本

  ・シースナイフ15本

  ・ニンジャソード(風神雷神)

  ・棒型手裏剣50本

  ・プレート型ナイフ70本

  ・専用ホルダー数種類

  ・デザートイーグル+弾薬

  ・トンファー二本

  ・9mm弾200発+予備弾奏

  ・スタングレネード

  ・発煙筒

  ・照明弾

  ・暗視ゴーグル

  ・手榴弾

  ・短距離無線機

  ・M40ガスマスク


【若草青磁「アイテム欄」】


  ・ボーガン+矢100本

  ・9mm弾(300発)

  ・M9(M92FS)

  ・予備弾装×4

  ・寒冷地用軍用ポンチョ

  ・暗視ゴーグル

  ・ライト

  ・発煙筒×20

  ・短距離無線機

  ・M40ガスマスク


【石竹緑青「アイテム欄」】


  ・SIGP226(400発)

  ・9mm弾

  ・予備弾装×4

  ・寒冷地用軍用ポンチョ

  ・暗視ゴーグル

  ・ライト

  ・スタングレネード×10

  ・メディカルパック

  ・短距離無線機

  ・M40ガスマスク

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