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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
はに〜とろっくん。
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プライスレス

ファミレスから逃れる様に退店した僕とロリ村、青磁は次に商店街を目指す。

 ひと騒ぎ起こしてファミレスを退店した僕と杉村と若草は商店街へと足を運んでいた。


 「こんな時間だ。商店街のほとんどの店が閉まってるぜ?文具店も閉店してるはずだ」


 西岡商店街に住む若草からすれば馴染みの文具店の夫婦が銃の弾薬を売っている事などにわかに信じられないのも当然だ。8歳に退行した杉村が僕の右側を陣取りながらはしゃいでいる。若草が銃の入った鞄を危険物でも扱う様に大事そうに抱え込む。弾が無いので暴発する心配は無いのだが。


 「見つかったら捕まるよな?」


 それに僕と杉村は頷く。見つかったら間違いなく没収されるどころか職務質問だ。杉村は許可証を持ってそうだけど。


 「大丈夫。見つからなければ問題無いよ」


 杉村が元気よく自分の胸を叩く。僕と杉村が若草を勇気付けながら夜道を歩き、西岡商店街のアーケードを潜る。この時間帯なので空いているお店は路地裏の居酒屋、小さなパチンコ屋さんぐらいだ。商店街のアーケード内は街灯が等間隔に並び、僕らを仄かに闇から照らし出してくれている。


「あっ、青ちゃん。お友達かい?」


 居酒屋近くを通りかかった時、店主らしきおばさんから若草が声をかけられる。僕の事と杉村の事を確認すると、僕の方は知っているみたいで笑顔で会釈される。杉村の方は知らないのか首を傾げている。


「綺麗な金髪の子だねぇ……あっ、石竹さんとこのお子さんと一緒にいるって事は誠一さんのお嬢さんかい?」


 杉村が元気よく名乗りをあげる。


「ハニー=レヴィアンですっ!」


 居酒屋の店主さんが微笑みながら立ち上がり、杉村の頭を撫でる。


「昔はよく緑青君と時々ここに遊びに来てたもんねぇ。こんなに綺麗になって……しばらく見てなかったけどイギリスに帰郷してたのかい?」


「うん。色々大変な事があって少しだけ英国に帰ってたの。でも、パパとろっくんが心配になってすぐに帰って来ちゃった!」


 明るい杉村の表情に対して、居酒屋の店主さんの表情が曇る。杉村の中では時間的感覚も消失している。


「そうかい。たいへんだったんだね。誠一さんの事も残念に思うよ」


「うん。パパ、悪い人を退治したのに警察に捕まっちゃったの」


 しょんぼりとする杉村をあやしながら、僕の方にも悲しそうに視線を送る。


「君たちは私達八ツ森の人間にとって、本当の孫みたいなもんだ。困ったらいつでも私達を頼りなよ?」


「ありがと」


 近くにすり寄ってきた野良猫に杉村の興味が移るとおばさんは若草の方に視線を送る。


「青ちゃんもこの商店街の息子みたいなもんだ。あんたと母親に困った事があったらいつでも言いな。例の男が現れても私達が一丸となって追い返してやるからね」


 若草も一言お礼を言うと、野良猫のお腹を撫でている杉村を連れて文具店へと足を進めた。店主のおばさんが言っていた例の男とは若草が虐待を受けていた実の父親の事だろう。


「いい街だよな」


 若草が呟くようにこの街の感想を述べる。


「本当に」


 僕の生活を守る為にあの事件から7年間、ずっと僕に嘘を付き続けてくれた優しい街。それが八ツ森市だ。だから今度は僕が……。

 杉村が先行して文具店に到着すると、僕らにハンドサインで前進するように指示を出してくる。そんなに警戒する必要は無いと思うが。


 「うん。閉まってる」


 22時を過ぎているので閉店しているのは当たり前か。シャッターが完全に閉まっている。


 「作戦計画αをβに移行する」


 杉村がまたもや先行し、店の周りを回るように僕らをハンドサインで手招きする。


 「杉村、楽しそうだな」


 「まぁ、昔からハニーちゃんは潜入ミッションとか好きだから」


 「え?忍び込むの?」


 「多分、杉村ならやりかねない」


 若草が慌てて杉村を止めようとするがそれに応じない杉村。裏口の前に立つと、普通にノックする。


 「夜分遅くにごめんなさーい!」


 杉村の呼びかけに店内から一向に返答が無い。


 「青ちゃん、下がって」


 若草の事をついに青ちゃんと呼び出してしまった。若草が裏口の扉から数歩下がると、杉村が戸口の近くに置いてあったアセロラの生えた植木鉢を退ける。その下にはコードキー入力用の小さなパネルがコンクリートの床に埋め込まれていた。


 四桁の数字を三回繰り返し、決定キーを押す。


 排気音と共に、砂煙が舞い上がり、先ほどまで若草が立っていたスペースに亀裂が入りそこから左右に地面が開いていく。完全に開ききると、そこには大きなハンドルがついた鉄製の扉が構えていた。見た目は完全に核シェルターである。


 「むぎぎぎっ!」


 杉村が渾身の力を込めていくと、少しずつハンドルが回転し、扉の錠が外れる音がする。


 「中からは自動で閉まるけど、外からはこうしないと開かないの」


 杉村が重そうな扉を一人で開くと、薄暗く、緑のランプで照らされた階段が奥に覗いていた。


 「緑青、馴染みの文具屋の地下にこんな場所があったなんて知ってたか?」


 「いや、気付かなかったよ」


 「ここ梅村文具店はこう見えても八ツ森の特殊部隊Nephilimに非常時の弾薬補給にも一役買ってる政府お抱えのショップなの」


 「す、すげーな。確かNephilimつったら、緑青と日嗣、杉村が山で危険な目にあった時に駆けつけてくれた部隊だろ?」


 「うん」


 「え?青磁?そんな特殊部隊が僕達の為に来てくれたの?」


 若草が首を振る。


 「ランカスター先生の手配だけど、もし、杉村があの場に居なかったら出動はしてなかったと思うぜ。杉村は英国の政界で強い権限を持つ重役の娘さんだからな」


 杉村が僕に手を出す。


 「ろっくん、パパの銃を借して?」


 「空だぞ?なんに使うんだ?」


 「最悪、弾は店内で補充する。アポ無しだから武器が無いと一方的に撃ち殺される可能性があるから」


 若草が地下への階段に一歩進めた足を引っ込める。


 「それを早く言え!って、ここの電話番号は?携帯あるだろ?」


 杉村が首を振る。


 「逆探知が怖いから、私は持てないの。パパからも禁止されてるし」


 僕の方を見る若草。


 「僕はかける相手が数人しか居ないから必要性を感じないので持ってない」


 若草が溜息をつきながら立ち上がると、携帯を取り出してお店の表側に回ろうとする。


 「確か、表の看板に番号が書いてあったよ……な?!」


 地下に続く階段の奥底からけたたましい警報が鳴り響く。


 「あ、時間切れで警報に引っかかったかも」


 杉村の手を掴もうと伸ばすが、杉村がそれをすり抜ける。


 「待ってて、ろっくん。すぐ終わらせる」


 え?まさか拠点制圧?


 杉村が黄金の軌跡を残して僕らの視界からあっという間に、それこそ消え失せる。


 「は、8歳児に退行した杉村なんだよな?相手は下手したら武器商人だろ?殺されるんじゃねぇの?」


 僕は深く頷く。


 「10年前から、虐められていた僕を彼女は一人で庇い続けてくれていたんだ。僕に悪さをする奴を数瞬で病院送りにする事から、近所では黄金銃の異名で呼ばれていた。それに精神はともかく身体能力は17歳だ。老人2人相手じゃまず負けない」


 「化け物かよ」


 しばらくの静寂のあと、発砲音が数発聞こえ、次に強烈な閃光と煙が中から立ち上る。叫び声と共に連続する銃声が聞こえてくる。この音の響き方は誰かがマシンガンをぶっ放しているようだ。杉村が持って行ったのは空のハンドガンである為、恐らく文房具店の店主が発砲しているのだろう。


 僕は心配になって地下に続く暗がりをのぞき込み、声をかける。


 「おーーいっ!無事か!?杉村ぁ?」


 ちなみに若草は発砲音に驚いて、逃げ出してしまった。発砲音が止み、しばらく静寂の時間が続いた。中からは何の音も聞こえていない。僕は扉に突っ込んでいた頭を引っ込めて、恐る恐る階段に片足を伸ばす。


 「ろっくーーん」


 小さな声がどんどん大きく反響して、誰かがこちらに駆けてくる音がする。


 「ハリネズミをお願い」


 慌てて足をシェルターから引き上げると、拘束された顔なじみの文具店のお婆さんが杉村に軽々と抱えられて扉から顔が飛び出してきた。慌てて僕はお婆さんを支えると、杉村は再び地下に潜っていく。


 「ご、ご無沙汰してます」


 口を塞がれた梅村文具店の奥さんが驚いた様な目をして僕の顔を見ている。


 「今、外しますね」


 丁寧に口に捲かれていた布をほどくと大きくせき込むお婆さん。


 「ゴホッ、ゴホッ、お前さんは確か、石竹さんの……」


 「はい。緑青です」


 「大きくなって……って事はさっきのゴリラみたいに強い金髪の子は……」


 「えと、ハニー=レヴィアンです」


 「なんじゃ、お得意先様か!強盗では無かったのかい。おかしいと思ったんじゃ。強盗にしては手際が良すぎるからのぉ。大抵の強盗はビビって逃げ出すからの」


 「ハハハ……申し訳ありません」


 「……爺さん、あやつがまだハニーちゃんだと気付いておらんからのぉ。殺さなければよいが……」


 「ハニーちゃんが負けるとは思いませんが」


 お婆さんが得意げに胸をはる。


 「ヤマアラシと呼ばれた爺さんの強さは伊達では無いわ。あの伝説の傭兵、戦場の侍と呼ばれた杉村誠一さんと肩を並べるほどじゃったからのぉ。銃撃戦では引けをとらん」


 あ、これ、結構やばいかも。


 僕は慌てて地下の階段に身体を滑り込ませると杉村の元まで一気に走り抜ける。


 地下の階段を下りると中は以外と広い様で体勢を低くしなくても十分走る事が出来た。


 中はコンクリート造りだが所々に排気口が設けられているので水没や窒息の心配は無さそうだ。カラカラと排気口のプロペラが音を立てて回る中、話声が聞こえてくる。先ほどまで充満していた煙が徐々に晴れてきていた。


 「なんじゃお主は!?うちの婆さんをどこにやった!?」


 緑のランプが室内を照らす中、煙の向こうに素早く暗躍する黄金の軌跡が目を引いた。恐らく、相手は最初のフラッシュグレネードの影響で視力がまだ回復していない。その隙をついて杉村が弾薬が並べてある棚に忍び寄って9mm弾を僕から借りたハンドガンに装填していく。


 「婆さん!婆さん!無事かっ!」


 なんだかかわいそうになってくる。


 杉村が気配を消して、やや離れた所からマシンガンを提げている肩のベルトを打ち抜こうとしている。あ、やばい。


 杉村から放たれた一瞬の僅かな殺気にお爺さんが反応して、杉村の位置を正確に把握して銃口を向ける。杉村から放たれた弾は爺さんの肩を僅かに掠め、店内においてあるショーケースの一部に穴を開けただけだった。慌てて杉村の身体を地面に引き倒すと、手からハンドガン(SIG P226)を奪う。装弾数全部を使ってお爺さんに当たらない様に、わざと色々な角度で弾丸を放ち切ると、銃を空中にゆっくりと放り投げて素早くお爺さんの背後に回り込む。


 そして気配を、殺気すら殺して、息を潜めてその時を待つ。


 僕の動きに気付いた杉村がわざと物音と殺気を放ち、そして床に落下した銃が跳ねる音に反応してそこにマシンガンの弾を撃ち込んでいくお爺さん。


 今がチャンスだ。


 背後から素早く、お爺さんの手を引き金から離し、羽交い締めにする。下手すると銃口が本人や杉村の方向に向きかねないので最新の注意を払いながら。杉村が素早く前からお爺さんに近づくと、店内のナイフを手に取り、マシンガンを繋げているベルトを切り裂いて完全にお爺さんを武装解除に追い込む。


 「くそっ!ワシを誰だと思っている!舐めるなよぉ!」


 え?!


 次の瞬間に、背後から拘束していた僕の腕を無理矢理ふり解き、僕をそのまま床に叩きつけるお爺さん。痛い。どこにこんな怪力が隠されている?!


 僕に馬乗りになったおじいさんが手探りで、そのまま僕の身体めがけて拳を振り落としてくる。地味に痛い。とてもじゃないけど、こんなものを顔面に何発も食らってしまっては只では済まない。しかし、2発目で正確に僕の鼻めがけて拳は振り下ろされた。初手として相手を攪乱させるには的確な攻撃ポイントだ。


 けど、3発目が僕に振り下ろされる事は無かった。


 杉村がマシンガンのまだ熱気を帯びている銃口をお爺さんの背中に押し当てたからだ。


 「ろっくんに、何してるの?」


 冷たく言い放った杉村の殺気でお爺さんが凍り付いたのが分かった。


 「お前等こそ、婆さんをどうした?」


 「ハリネズミは拘束して、外で待機して貰っています」


 「通称を知るお前は、どこの部隊だ?用済みとなったワシ等を証拠隠滅の為に潰しに」


 お爺さんの懐に忍ばしてあった携帯から、場違いな着信メロディが流れる。このメロディは確か、1歩進んで2歩下がるなワンツーワンツーな曲だ。おじいさんは一転して、商売人の様な明るい声になる。


 「はいよっ!筆箱から弾薬までの梅村文具店です。本日はどのようなご用件で?」


 電話の向こうから申し訳無さそうな声が聞こえてくる。


 「えっと、夜分遅くにすんません。今、そっちに俺の友達が向かったと思うんですけど。あ、俺、若草青磁です」


 文具店のお爺さんが孫と電話でもするように明るい表情になって笑い声をあげる。


 「おぉ、青ちゃんか。お前の友達?すまんな、今、忙しくての。また後にしてくれんか?」


 「えっと、金髪の女の子に無個性な男の子が肉薄してると思うんっすけど」


 お爺さんが必死に目を擦って、回復してきた視力を頼りに僕らの顔をのぞき込む。


 「すまんの。青ちゃん。光に目をやられてしばらく見えんのじゃ」


 「じゃあ、なんか蜂蜜の様な甘い匂いしないっすか?」


 「むっ?確かにそう言えば……火薬と鉄の匂いに混じって……仄かに甘い香りが……近くから香るぞ?」


 「あ、そいつです。そいつ、俺の友達の杉村蜂蜜、いや、ハニー=レヴィアンと石竹緑青です」


 「うおぉ”!?」


 驚きの声を上げつつ、マウントポジションをとっていた僕の身体からを身を離すお爺さん。そして後ろに振り向くと手探りで杉村の肩に触れる。


 「サムライのとこのお嬢さん、ハニーちゃんかい?」


 「うん。ハニー=レヴィアンだよ!?」


 さっきまでの無礼を一切詫びることなく、ロリ村は笑顔で答える。ただし、銃口は僕が立ち上がるまでお爺さんから背ける事は無かった。


 とにかくまぁ、若草のおかげで僕の怪我は大した事なくて、杉村が銃の引き金を引かなくてよかった。


 「あ、サムライのお嬢ちゃんよ」


 「何?」


 「以前に注文していたマグナム弾と特性トンファーと蜜蜂マークの特性プレート型ナイフ。本国から届いちょるぞ?支払いは?」


 杉村が思いだしたように、自分のポケットからカードを出す。そしてちょっと格好をつけてこう言った。


 「カードで」


 「ぷ、プライスレス……」


 僕は力が抜けてその場に膝をついた。とりあえず、これで弾薬は補充出来そうだ。早く家に帰りたい。

 

   

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