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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
蜜蜂と接合藻類
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心理部の課題

お菓子を食べてお話しするだけがこの部の活動じゃないみたい。

心理部の主な活動は、紅茶を煎れて、お菓子を交えながらお話をすること……では無いはずだけど。佐藤が嬉しそうに目の前のお菓子にも手をつける。


「ランカスター先生、毎回出るこのお菓子って、先生の実費で購入しているんですか?なんか悪い気がして……まぁ、食べますけど、パクパク」


「あっはは。面白い事言うのね、コッキー(深緋)は」


「まさか……」長机の上のショートケーキに手を付けようとしていた佐藤の手が止まる。


「もちろん部活動の費用から出てるわよ?ティーセットは私のだけど」


 紅茶と供に用意された上質なクッキーや甘いケーキ類は部費で賄われていたようだ。


 心理部は活動開始から約一カ月が経とうとしているが、未だ名称の後に(仮)が付いている。部活としてはこの先の存続が危ぶまれる状況だ。あと、この部活は何を目指してるんだ?文化祭とか何するんだろ。

 去年まで所属していた“軍部”という戦争研究、戦争根絶を目的とした部活動は、生徒会の査察により、ただのミリタリーオタクの集団である事が明るみになり廃部にされてしまった。

軍部が存在する1年前に杉村蜂蜜が転校して来ていれば、確実にその部に入っていただろう。彼女の趣向が変わっていなければだが。愛用しているジャングルブーツや、隠し持っている小型ナイフから察するに、それほど趣向は変わっていないように思えるが。それにしても生徒会の人間がこの心理部に抜き打ちで査察に来たら恐らく一発でアウトだ。

 僕の前に腰かける若草青磁わかくさ せいじは呆れた顔で顧問のランカスター先生を見ている。クッキーを頬張りながら。


 「でも、よく同好会レベルで部費が出てますね?」と佐藤。


「あ、うん。それはね……部費というか、治療代という枠組みで予算が出てるから、そこからお菓子代を捻出しているの」


「え、いいんですか?それ?」と僕も突っ込む。


「……治療にどうしてもお菓子が必要になったって言えばなんとかなるはず。私の編み出した心理療法のひとつ“お菓子療法”よ!最悪、祖国から資金提供して貰うわ」


「…私達って患者扱いですか!?」舌を出してお茶目に誤魔化そうとする白衣のランカスター先生。


「かわいくない!」と総突っ込みをする部員3人。少ししょんぼりした様に咳払いをして仕切り直す先生。


「前回のテーマについては、性格と深層心理分析についてだったのだけど、その後、個別に決めた各々の課題については覚えている?」


「はい!私の課題は“犯罪者心理について”です」佐藤が何故か嬉しそうだ。

「俺は、15歳以下の女の子の生体研究……だったような……あ、ちょっと課外授業に出掛けてくる」

「青ちゃん、先生はそんな犯罪に加担するような課題を与えた覚えはないわ。貴方に与えた課題は貴方が最も嫌う“嘘”についてでしょ?」


「あれ?そうでしたっけ?」と惚ける若草青磁。

 ……自分の課題をなかなか言い出す事が出来ない僕。

「あれ?どうしたの?石竹君?」

「俺達はまだお前の課題を聞いてないよな?」

 言い淀む僕を尻目にその課題内容を晒すランカスター先生。

「あぁ、石竹きゅんはいいのよ。課題はもう実践中だから。簡単に言うと……“幼馴染の観察日記”ね」


「ここにストーカーがいるっ!!」と騒ぎだす2人。

「ちょっと待って……幼馴染って……実家が喫茶店開いている関係で、私も一応昔から石竹君とは幼馴染で、一時的に一つ屋根の下で家族と一緒に暮らしていた間柄ですが……まさか……」佐藤が困惑した表情を僕に向ける。

 佐藤の実家は町内で喫茶店を経営している。

 昔、色々あって佐藤の家にお世話になったことがある。仲良くなったのは何時頃からだっけ?当初はほとんど話さなかった……というか、不審がられて避けられていた気がする。

 「ばれたら仕方無い。実は僕の部屋の壁には佐藤の写真で埋め尽くされてるんだ」

「警察に電話しなきゃ」

 携帯を取り出して真顔で連絡しようとする佐藤を慌てて止める若草。

 「石竹の性的趣向は残念ながら“年上のお姉さん”だ。お前をストーキングする意図が分からない。恐らく冗談だろ」何故か頬を赤らめるランカスター先生。決心したように僕の胸に飛び込んでくる。


「私はいつでもOKよ!」


「何がだっ!」


 佐藤は携帯の番号発信ボタンから指を離す。そういえば昔、佐藤の家族が何かの事件の被害に合って以来、警察とは深い関わりがあるって風の噂で聞いた事がある。

「心理部として嘘も見抜けない様じゃ恥ずかしいぞ?」と若草。

 悔しがっているのか、怒っているのか解らない表情をする佐藤。

「明らかに緑青の顔は冗談ですって顔してただろ?な、緑青?」

 え、そうなのか?やはり親友には僕の嘘はバレてしまうようだ。


「いや、ほら私って両親の喫茶店でバイトもしてるし、そこで時々都心の方から来たお客さんとかに「メイド燃え?」とか言われて写真とかお願いされるから……毎回断っては居るんだけど、その類いかと思って……」と何だか自慢にも聞こえる弁明する佐藤。


 佐藤の喫茶店には僕も若草もよくお世話になっている。そんな客が居たなんて初耳だ。改めて佐藤の姿を眺める。


なんだかんだで、佐藤ももう高校生なんだよな……。少し頬を赤くして「何よ?」左右に結んだおさげをいじり出す佐藤。

「もう高校生か……」

小さい頃から付き合いのあった佐藤も気付けばもうすぐ大人の仲間入りか。なんだか父親になったような寂しい気持ちにな……。

「どうせ!私の成長は中学生どまりですよ!」

と、思いっきり脛を蹴られる。僕は涙目になって床に転がる。小さい体のどこにこんなパワーが!しかも、そんな事言ってないし!


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