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第五ゲーム 8日目 パンと水

北白が2人の前に現れて3日目。貴様は一体どういうつもりだ?

私は泣きながら鳩羽君を治療する。3人組の男が私達を襲おうとする中、知らない男の人が現れて助けてくれた。いや、助けてくれたというには語弊があるか。今、私が鳩羽君の腕に包帯を巻いているのは、その助けに来てくれた人に斬りつけられたからだ。自分の事を北白と名乗る男は、かつての八ツ森市連続少女殺害事件の犯人だ。

 「ごめんね、私の為に傷ついてばかりで」

 鳩羽君が呆れた様に首を振る。

 「生きる為なら多少の傷ぐらい我慢できます」

鳩羽君を傷つけた北白さんはその代償を払えば私達に必要なものを全て用意してくれた。君達は資格を得たんだと言って、煩わしかった両足を拘束する鎖も解いてくれた。そして水にパン、暖かい毛布、衣類。体の汚れを落とすために、お風呂場がある部屋への扉も開放してくれた。ただ、やっぱり片手は鎖に繋がれたままだったので、シャワーを浴びる時は扉を締め切れないので恥ずかしい。

 「北白さんていい人だね」

 「いい人が僕達をこんな所に監禁するとは思えませんけどね。それより、さん付けですか?」

 戸惑いながら頷く私。

 「私がレイプされてる時、助けてくれたのには変わりないもの」

 鳩羽君が悔しそうに下を向く。

 「すいません、助けきれずに」

 「君は十分戦ってくれたよ。結果的に私の処女は守られた訳だしね。それより、ごめんね。私鳩羽君の手を汚してしまった」

 鳩羽君は私を助ける為に、人を殺めてしまった。

 「いいですよ。なんとも思ってませんから。それより、江ノ木先輩、レイプとか処女とか、女性があんまりそういう事を言わないで方がいいですよ?」

 あ、ごめんごめん。私に付与されている僅かな腐女子属性がそれらの単語を抵抗感無く使わせてしまっていた。それより不思議。本当に彼は気にしていない様だった。私じゃ多分、人を殺しちゃったら罪悪感で耐えられなかったと思う。3日前まで転がっていた三人の男の遺体は北白さんが片付けてくれた。どう処理したかは分からないけど。彼らの流した血の跡が生々しく床に残っている。

 「私が貴方に彼を殺させた様なものだもの。警察に因縁を付けられた時は私が全力で弁護するからね」

 短くお礼を言った鳩羽君が痛みで顔をひきつらせる。男が小屋に現れてから三日経った。その間に鳩羽君は左腕と右脛すね、左足の甲をナイフで傷つけられている。傷は死なないように加減されている為、深くは無いけど治療が必要な状態だ。北白さんが始めた生贄ゲームの概要は大体こんな感じ。


 3日前、突然現れた北白さんによって生贄ゲームが始まったの。彼は毎日15時にやってきて食事や生活品をここまで運んできてくれる。対価は血。私達にこう訊ねるのだ。


 「今日はどちらのどの部分から血を捧げて貰えるのかな?」


 一日一回、どちらか一人の部位を指定してナイフで斬る。制限時間1分間の猶予が私達に与えられて、その間に2人でどちらのどの部分が傷つけられるかを話し合わされるのだ。指定した箇所はもう二度と指定出来ない。選べる部位は、頭、首、左右の肩、胸部、腹部、下半身、左右の上腕下腕、両手、両腿、両脛、両つま先、両耳、両目、鼻、心臓。


 この中で致命傷にならない部位は限られている。16カ所を二人分。32日間は生き残られる計算だ。最悪、私の目は鳩羽君に捧げてもいいかな?それで2日ぐらいは稼げる。


 閉じ込められ、一日一回ナイフで傷付けられる事を除けば比較的普段の生活と変わりない。最初はパン二切れと水だけだったけど、こちらからの要望を聞き入れてくれて3食分のぽっかぽっか亭のお弁当とペットボトルのお茶まで用意してくれる。ここまでして私達を監禁し続ける理由があるのかな?分からない。でもこの先、一ヶ月以上の監禁は死を意味する。悠長な事は言ってられない。頭に何の躊躇も無く、男達を斧で叩き割った光景が浮かび、身震いする。あの人は恐らくなんの躊躇いも無く、必要があれば私達を殺すだろう。

 私は鳩羽君の傷の状態を確認する。北白さんが用意してくれた救急セットが私達の命を繋いでいる。打撲以外ほとんど無傷の私と違って、鳩羽君は男達に暴行を受けているので私よりも衰弱がひどい。言葉には出さないけど。

 「包帯変えるね?」

 「手間をかけさせます」

 鳩羽君の傷の状態を確かめながら消毒する私。3日前に出来た足の甲に出来た傷はほとんど塞がっていて、出血は止まっている様だったけど内部のダメージが残っているみたいで歩き辛そうにしている。右脛に出来た傷からはまだ傷が塞ぎきっていない。昨日出来た左腕の傷からはまだ血が滲んでくる。包帯を巻き直す私は彼に話かける。

 「今日は私が血を捧げるね」

 鳩羽君が怒ったような顔をして私の肩を掴む。

 「可能な限り僕が対価を払います。それに血をなるべく流さないで澄む方法も考えました」

 「どうやって?」

 「血を流さなければ対価は得られない。実質、食事抜きになるだけです」

 「あっ」

 「一回につき、日持ちする大量の食料を注文しさえすれば、何日でも生き延びれますし、最悪断食という手段も」

 「さすが、頭言いね」

 鳩羽君の顔が曇る。

 「問題なのは……犯人の狙いです」

 「え?それは生贄ゲームなんだから、血がほしいんじゃ?」

 鳩羽君が細い顎を指で支えて考え込む。私はその間に左腕に包帯を巻いていく。

 「あの男が現れる前は、本気で犯人の殺意を感じました。5日間の絶食と3人の男による暴行。けど、それが今では感じられません。むしろ生かされているような?ナイフで付けられる傷もごく浅いものですし」

 「はい、終わったよ!」

 鳩羽君が包帯の具合を確かめると関心した様に腕を回す。

 「きつ過ぎず、ゆる過ぎない。看護士に向いてるかも知れないですね」

 「誉めすぎだよ。それに私は将来はイラスト関係のお仕事に付きたいの。君が看護士の奥さんをほしがるなら別だけど」

 鳩羽君が悲しそうに笑う。

 「残念ですね。僕は結婚するつもりは無いですから」

 私はフラれた様な気がして、心が締め付けられる。いや、とっくにフラれてるけど。

 「貴女も僕なんかに構ってる暇があったら……」

 「杉村さんの事は好きなのに?」

 「好きと結婚は違いますよ。宣言してますけど、僕はあくまでファンですからね?」

 うーん、好きなら結婚したくなるものなんじゃないのかな?私はしたい。彼とは運命を感じちゃうんだけどなぁ。にゅふふ。

 「でもほっといたら、杉村さんと石竹君が結婚しちゃうかもよ?」

 鳩羽君がその事には興味無さそうに生返事で答える。

 「そうですね。石竹先輩になら僕は別に……」

 そこで何かに気付いた様に鳩羽君が立ち上がる。

 「大事な事を想定していませんでした!」

 私の目を覗き込んで真剣な表情になる彼。

 「僕の方はともかく、監禁から一週間以上経っています。江ノ木さんがそんな状態が続けば当然捜索依頼が警察に届けられて……当然、学校側にも知らされますよね?」

 確かになんの連絡も無い状態で時間が過ぎて行けば当然私達の事は行方不明扱いになって警察が捜索を始めるはずだ。

 「長期間、僕達の不在が続けば……彼等が動いてしまう可能性があります」

 「彼等?」

 「石竹先輩と杉村先輩です」

 「そんな、あの2人もバカじゃないよ。警察に任せておくはず」

 「違うんです!彼等ならこの犯行が北白によるものと感づいた場合、僕らにそんなに時間が無い事を懸念するはずです。だからすぐにでも僕達を捜しに山に……」

 「石竹君も危険に晒されるという事?」

 「そうです。下手したら、夏休みに山小屋で彼を襲ったとされる謎の男に誘い出されている可能性があります」

 「この監禁はそれが目的?」

 鳩羽君が考えを巡らせて慎重に答えてくれる。

 「一つの可能性の話です。もしかしたら、もっと別の違う理由が」

 会話を打ち切るように、山小屋の正面扉が開かれる。15時になって北白さんが両手にお弁当の袋とバスタオル、私達の下着まで準備してくれているようだ。まるで私達のお世話係の様なので少し拍子抜けしてしまう。いや、それでいい。そのままでいい。彼は平気で斧で人間を叩き割ってしまう人なのだ。挨拶をする感覚で躊躇無く私達の頭を割りかねない。

 「よいしょっと。やぁ、顔色はいいみたいだね。今日も儀式を始めようか」

 北白さんが小屋の扉に鍵を閉めて、私達の正面にやってくる。ぽっかぽっか亭のお弁当のいい匂いが私達の空腹を擽る。けれどもあれを得るには、血を流さなければいけない。傷を癒すのにも体力が要る。毎日、血を流している鳩羽君。本人は強がっているけど大分体は弱っている。次は私が。


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