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第五ゲーム 5日目

段々と衰弱していく江ノ木と鳩羽の元に……。やめて、もうやめてあげて!


 沈みかけた太陽が森全体を鮮やかに照らし出していく。


 江ノ木がトイレに立つと鳩羽はいつもの様に目と耳を塞ぎ、顔を深く自分の膝に埋める。

鳩羽の方も相当きついはずなのに、よく耐えている。それは江ノ木が予想を超えて精神的な強さを見せているからだ。5日を水だけで過ごす。

飢えを知らない彼女達の世代にとって初めて経験する事だろうに。江ノ木が納屋部屋へと続く扉を少し開けたまま洗面台の所で手を洗っている。蛇口を捻る音がして、水音が止まり、一度納屋部屋から顔を出す。

 「鳩羽君」

 耳を塞ぐ鳩羽にはよく聞こえてないようだ。

 「鳩羽くーんっ!!」

 大きな声が小屋に響き、その声にようやく気付いた鳩羽が寄りかかっていた部屋の中央の柱から体を離す。

 「な、なんですか!?江ノ木さん」

 少し顔を赤らめて主旨を伝える江ノ木。

 「汚れた体を拭きたいから……」

 それを察した鳩羽が、納屋の扉から遠く離れ正面扉近くまで移動する。ついでに扉が開かないか、鍵をいじってみたり、扉に向かって突進するが頑丈な造りの扉が壊れることは無かった。鳩羽の後ろ姿を確認すると、江ノ木は制服の赤いリボンをドアノブにかけて、白いブラウスのボタンを上から順に外していく。微かな電球の光を受けて、黄色い下着がブラウスの下から覗く。ブラウスをリボンと同じようにドアノブにかけ、鳩羽の様子を顔を出して再度確認すると、八ツ森高校指定の黒いプリーツスカートに手をかける。ホックを外すとそれはするりと床に落ち、形を崩す。下着姿になった江ノ木が手にしたハンカチを洗面所の水で濯ぎ、丁寧に汗ばんだ体から汚れを拭いとっていく。少しやつれたような背中を眺めながら、そろそろ次の段階へと駒を進める事を決意する。食料の問題もあるし、死なれては困るからだ。だが、その前にやっておく事がある。彼女を壊す為の最良の一手を。枯れ木を踏み折る音が近くから聞こえてくる。指定した時刻に丁度現れてくれたようで助かった。タイミングもベストと言える。小屋の外で複数の青年が何かを相談する声が聞こえてくる。

 「ここが指示された小屋か?大丈夫か?私有地だぞ?」

 「ここであってると思うぜ。文句言うなよな、金も受け取ったし、これは列記とした仕事なんだからな。そんでこれが小屋の鍵だ」

 男達が同封されていた鍵を山小屋の扉の鍵穴に差し込み、ガチャガチャと音を立てて解錠する。そのまま中に入ろうとする長身の男を小さい金髪の男が止める。

 「待て、指示通りに動かないと」

 「そうだな」

 3人の男が袋から目出し帽を取り出すとそれを頭に被る。そして山小屋の正面玄関を恐る恐る開く。そこに丁度扉の前に居た鳩羽と鉢合わせしたようで驚きの声が聞こえてくる。

 「た、助かりました!ずっとここに監禁されてしまって」

 そこに下着姿の江ノ木が顔を出し、小さい悲鳴をあげて再び納屋小屋の方に引っ込んでしまった。目出し帽を被った男達は目配せで頷き、鍵を開けた扉を再び閉じて、自分達も小屋の内部に入る。その違和感を敏感に感じ取った鳩羽が江ノ木に叫ぶ。

 「納屋部屋の奥に早く避難を!くそ、鎖が邪魔で扉が……」

 小柄な体格の金髪の男が、鳩羽が叫ぶと同時に相手を床にねじ伏せる。苦しそうに呻く鳩羽。5日の絶食に体も言うことを効かないようだ。

 「なんだこいつ、大分弱ってるぞ?」

 他の男二人が口をにやつかせて江ノ木の退避した納屋小屋に近づく。江ノ木は前をはだけたブラウスだけを羽織り、納屋部屋の扉を閉じようとドアノブを必死に引張る。鎖が邪魔をして完全に扉が開かない為だ。元々は鎖の距離も短くして、ほとんど移動させないつもりだったが排便の処理が面倒なので小屋内を移動出来るぐらいの距離は持たせておいたのだが、それが効果的に江ノ木の恐怖心を煽っている。助かるかも知れない僅かな希望。それが完全に失われた時ほど絶望の度合いは大きい。さぁ、壊れろ江ノ木。その方が君は何倍も素敵に成れる。鳩羽と江ノ木の叫び声が小屋内に響き渡る。

叫びながら必死に抵抗する江ノ木だが、あっけなく扉が二人の男によって開け放たれ、鎖の長さ限界まで納屋部屋の奥まで逃げる江ノ木。ここからは見えないが恐らく部屋の突き当たりで2人の男に抵抗しているのだろう。鈍い音が小屋に響き、男達のくぐもった男の声が聞こえてくる。なかなか自分の体に触れさせない江ノ木に業を煮やした男達が片方の手をそれぞれ掴んで、持ち上げ、納屋部屋から中央の広間へと乱暴に突き飛ばす。鎖が擦れる金属の不快音を立てながら、江ノ木が広間の鳩羽の近くに転がり、倒れ込む。鳩羽は必死に抵抗しようとするが、男3人が周りを囲むと押さえつけられたまま蹴りを次々と放たれる。

苦しそうな声を上げ、苦しむ鳩羽の姿を見せつけられた江ノ木の目に覚悟の光が宿る。この状況下において、そんな目を出来る人間を私は知らない。それが自己犠牲を伴う愛がもたらした覚悟なのだろうか。

 「分かったよ!私の事は好きにしていい!だからもうやめて!」

 男達が急に静かになり、顔を見合わせている。小柄な男が鳩羽を拘束したままロックバック式のフォールディングナイフを取り出す。

 「手間をかけさせるなよ。抵抗したらこいつを刺すぞ?」

 その迫力に怯え、素直に頷く江ノ木。綺麗に切り揃えられた前髪が見る影もなく乱れている。長身の男が小柄な男に釘を刺す。

 「指示内容を分かってるな?そいつは殺すなよ?」

 ナイフの刃を鳩羽の頬に当てながら、頷く男。

 「分かってるよ。それより早くしてくれ。俺の番が回ってこないだろ?」

 少し戸惑い気味に背の高い男が返事をすると、大人しくなった江ノ木の背後に回りその両手を掴み、逃げられないようにする。体を固定された江ノ木のブラウスがはだけ、黄色い下着が僅かに覗く。スカートは着用していない為、隠すものが無いようで恥ずかしそうに足を必死に閉じている。

 唯一動ける中肉中背の男が生唾を飲み、江ノ木の小さな膨らみを持つ胸部に触れようとする。鳩羽が呻き、背中に乗る小柄な男に後ろ蹴りを放つ。

その衝撃で前のめりになり、その小さなナイフの刃先が江ノ木の胸に触れようとした男を掠める。背中に切り傷を作った男が、小柄な男を責める。

「何やってんだよ!お前!痛てぇし、いいところで邪魔すんなよなっ!」

 「悪かった。けど、こいつに蹴られてバランスを崩しただけだ!信じてくれよ!」

 鳩羽を睨みつける中背の男が小柄な男からナイフを取り上げると、軽く鳩羽の頬にナイフで斬り傷をつける。鳩羽がその痛みに耐えながら歯をくいしばる。一線引かれた傷口から赤い血が静かに溢れ出す。

 「約束でしょ!その子は傷つけないって!」

 江ノ木の芯の通った声に大の男3人が体を強ばらせ、動きを止める。両手を掴んでいた男に凄む江ノ木。

 「離して」

 彼女の言葉に素直に従ってその手を離す長身の男。江ノ木がゆっくりと堂々と鳩羽に近づく。鳩羽の頬に出来た傷に優しく手で触れると、微笑み、そのまま彼の唇に自分の唇を重ねた。数秒、その部屋の時間が止まったような感覚に襲われる。今、この場を支配しているのは彼女だ。

それは……許せない。支配者は私だ。私の意志を無視して事を進める事だけは許せない。江ノ木がゆっくりと鳩羽から顔を離すと、血に塗れた左手をぎゅっと握りしめる。

 「私があなたを守る。ちなみに初めてのキスだからね」

 その言葉に圧倒され、身動きのとれない男達。鳩羽から自覚の無いであろう大粒の涙が流れる。くだらない、つまらない、誰も、こんな展開は望んで無い!早くその女を壊せ!お前等!この役立たずどもめっ!私が感情に身を任せ壁を蹴飛ばすと、その大きな音で目を覚ました様に、男達が自我を取り戻す。江ノ木の髪を掴んで木の床に乱暴に倒すと、3人の男が江ノ木を囲む。鳩羽は涙を流しながら、ブラウスを脱がされ、下着をナイフで切り裂かれた女の子を眺めている事しか出来なかった。それでいい、それで!鳩羽がよろめきながら立ち上がり、ぼそりと呟く。まだ何をする気だ?お前は動かなくていい!

 「お前等、殺す」

 江ノ木を犯す事に夢中の犯人達の隙を突いて、余剰分の長い鎖の端を小柄な男の首に巻き付けて一気に締め上げる。勢いよく締め上げられていく鎖に巻き込まれ、首の皮がズタズタになり、血を滲ませる。苦しそうに締め上げられた鎖を必死に解こうとするが鈍い音が響き、男の首が力なく垂れ下がる。首に巻き付いた鎖を素早く解くと、床に転がっていた小型のナイフを間髪入れずに、江ノ木の股を開かせる事に夢中になっていた男の背中にそれをねじ込む。ズボンを降ろしていた男が呻き声をあげ、体を勢いよく反らせる。悲痛な叫びをあげながら床に転がった男は、むせび泣き、嗚咽を吐きながらナイフを引き抜く。そして目出し帽を脱ぐと、血を口から吐き出す。その男の顔を確認した鳩羽が驚きの表情をする。

 「お前は、確か」

 江ノ木の両肩を抑えていた長身の男がその隙をついて鳩羽の後頭部を殴りつける。頭が揺らぎ、その場にしゃがみ込む鳩羽。

 「そうだよ!俺達はお前等にコケにされた3人だよ!よくもダチを殺してくれたな!」

 長身の男が血を吐いている仲間の男の傍に駆け寄り、血に染まったナイフを拾い上げるとしゃがみ込んでいる鳩羽の首筋めがけてナイフを振り下ろそうとする。江ノ木の甲高い叫び声が小屋を貫く。

それに応えるように正面扉が勢いよく開かれる。夕陽を背に男が小屋の中に一歩踏み込む。その手には薪割り用の斧が握られ、引きずりながら鳩羽に近づいていく。

 「おぉ、お前も頼まれたのか?ちょっと協力してく……」

 その言葉を言い終わる前に、横で血を吐いて下半身を露出させていた男の頭を勢いよく斧で叩き割る。その衝撃で脳髄と血飛沫が辺りに飛散する。

 「苦しみから解放してあげたよ」

 そう一言男が呟くと、狙いをナイフを握った男に定める。

 「君は掟を破った。だから罰を与えないとね」

 男の少年の様な声色に、怯え足を竦ませるがそれを理性で抑え、ナイフを構え、その男に飛びかかる。小型のナイフが斧を構えた男の胸部を捉える前に、斧は勢いよく振り下ろされ、ナイフを持った手ごと床に叩き潰される。片手を引きちぎられた男が呻き、床に転がる。

 「君は僕以上に汚れた魂をしている」

 そう呟くと、うずくまる男の背中に斧を叩き込み、肺と背骨が潰された目出し帽の男が苦しそうに絶命していく。その光景を唖然と眺めている事しか出来ない鳩羽と江ノ木。男の背中に突き刺さった斧をゆっくりと引き抜くと、小屋に侵入してきた男が口を開く。

 「君達は生きる為に十分戦った。合格だよ。君達はその資格を有しているんだ」

 男が斧を片手で引きずりながら正面の開け放たれた扉に近付き、再びその扉を締める。江ノ木が礼を言おうと開けた口がそのままになっている。

 「時は来たれり。さぁ儀式の再開だよ」

 男は何の曇りもない眼でそう宣言した。



<浄化は生贄を伴い儀式を経て魂は濁りの無い御霊へと昇華される。大いなる意志の導き手によりその道は示され、開かれるであろう>

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