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接合藻類のココロ

留咲と石竹。眠りについた黄金の少女の傍で、少年は涙する。悲しいんだね、いいよ、今は泣いていいんだよ。その憎しみは君を前に進める糧となる。

 アウラさんに付き添われてカウンセリング室の前に到着し、扉を開けようとするが扉が閉まっている。ランカスター先生は今日は居ないようだ。杉村をお姫様抱っこをしている僕は制服のポケットから部室の合鍵を取り出すとそれをアウラさんに手渡す。


 「(ごめん、開けて貰っていいかな?)」


 それに素直に頷いて鍵を開けて扉を開いてくれる。うずくまる杉村を丁寧にベッドに座らせてやる。少し落ち着きを取り戻したようでもう涙は流れていない。


 「ろっくん、ありがと」


 僕はそれに首を横に振る。アウラさんは気を使ってか、ベッドの向こう側。カーテンの後ろで待機してくれている。アウラさんは多分、杉村だけでは無く僕の事も心配してくれているのだ。それは身動きのとれない日嗣姉さんの代わりなのかも知れないけど。


 杉村が僕の身体に言葉無く両腕を巻き付けてくる。僕は一度、カーテンを開いてアウラさんの姿を確認する。僕の視線に気付いたアウラさんが、微笑みながら目を瞑り「いいですよ。彼女を抱きしめてあげて下さい。それが何より彼女にとっては安らぐはずですから。尊さんには内緒にしておきます」と僕にも分かりやすく言葉を発してくれる。


 腰に抱きついている杉村の上半身にそっと手を回して軽く身体を抱きしめる。


 しばらくその状態を保っていると、杉村から小さな寝息が聞こえてきた。もしかしたら、木田の件に罪の意識を感じてずっと眠れていなかったのかも知れない。ゆっくりと両腕を僕から離すとそっとベッドに寝かしつける。


 朝、僕と話していた杉村は杉村であって杉村では無かった。


 「働きウォーカー」さんでも無かった。彼女は一体、何者なのだろう。働き蜂さんとはまた違う役割を彼女も担っているのかも知れない。僕はベッドの傍で三角座りしているアウラさんのよこにあぐらをかくと、手帳を取り出して記録を綴る。


 それを見たアウラさんが疑問を口にする。


 「それ、彼女の記録ですか?」


 それに僕は頷く。


 「杉村に何かしらの変化が起きている。それが良い兆候なのか悪い兆候か分からない今、少しでも情報がいるから。それを見逃さない為にも」


 「愛されているんですね。杉村さんはあなたに」


 事もなくその言葉を口にするアウラさん。僕が愛している?杉村を?


 「でも、僕は誰も愛せなくなって、その感情が分からなくて」


 アウラさんが微笑んで僕の心臓に手をあてる。


 「貴方が自覚出来なくても、愛は愛です。貴方が認識出来ないという理由で世界に無数に存在する愛を否定しないで下さい。あなたの心はあの時、死んだ訳じゃない。自覚できなくてもその行動から愛を私は感じます。それに愛情なんて目に見えません。貴方で無くとも誰も愛を証明出来ませんよ」


 日嗣姉さんの傍らにずっと居た彼女。軽い対人恐怖症を抱える日嗣姉さんすらその愛情で包み込んでいたのだろう。


 「私には我慢しないで下さい」


 手帳に杉村の事を書きながら僕は首を傾げる。僕が何を我慢しているというのだ?


 「現状、私と君の深い繋がりを知る人物はいません。この部屋には正真正銘、私とあなたと眠りについた彼女だけです」


 アウラさんの暖かい両手が僕の頬を包み込む。


 「多分、本来ならここに日嗣尊さんが居るべきでした。私に代わりが務まるかは分かりませんが、努力するつもりです」


 彼女は何を言ってるんだ?


 「尊さんは誰より貴方のことを心配しています。だから君もあまり無茶はしないで下さいね?尊さんも無茶する方だけど」


 アウラさんの優しさに触れて僕の硬直していた心が揺らぎ、形状を保てなくなっていく。


 「あなたも自分を責めるのはやめて下さい」


 その一言が僕の心の防波堤を意図も簡単に崩していく。手にしていた手帳を投げ出すと僕はそのまま彼女にしがみついた。


 「僕がっ!僕があいつを巻き込んだんだ。僕さえもっとしっかりしていれば、あいつはあんな目に遭わなかったはずなんだ!僕なら何か対策が打てたはずなのに!こんなはずじゃなかった!」


 アウラさんが首を横に振りながら僕の頭を撫でてくれる。


 「ダメです。今、君は動いてはいけません。分かってますね?隠者のカードの意味を」


 日嗣姉さんの占いの結果を思い出す。光を発するには自らが動かなければいけない。けれでもその光が増すことにより、辺りの闇は一層濃く映されるだろう。占いの結果だからそうなんじゃない。それは日嗣姉さんが膨大な情報から得た推測がそれを物語っていた。


 「今は耐える時です」


 僕は構わず泣き叫ぶ。


 「絶対に、絶対に僕はっ!許さないっ!」


 それにただ無言で頷き、抱きしめてくれるアウラさん。彼女のその柔らかい肌の温もりが過去に失った僕の愛情を暖めてくれているようだった。日嗣姉さんが僕とのパイプ役に彼女を選んだ理由が少し分かった様な気がした。

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