笛吹き男
深き森の奥
天使は笛吹き男に
遭遇す
主よ、私を御救い下さい。私は穢れています。
ならば私は自らの意思で以って、肉体と魂を浄化しなければならないのです。
嗚呼、それでも私はあの穢れ無き肉体と魂を持つ彼女達に縋らねばなりません。
それが私と世界を救う唯一の道なのですから。穢れた私の魂の浄化と森の為に乙女を捧げましょう。
されど私は許されるのでしょうか?
救世主よ、私をお導き下さい。
天使様、どうか私に浄化を。
我が父よ、御霊は貴方の下へと。
どうかこの儀式にて常世を鎮め、世に平穏があらん事を。
そして私の扉は開かれた。
山小屋の分厚い扉をぶち破り、黄昏を背に纏いながら天使様が目の前に降臨なされたのだ。
あぁ、これで私は報われるはずだった。
だが、天使様は私の手をするりとすり抜け、その御姿をお隠しになられた。
ダメだダメだダメだ、じゃあ何の為に彼女達は血を流し罪を背負ったのだろうか。私は重い身体を持ち上げ、お隠れになった天使様を追い駆けた。
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八ッ森市連続少女監禁殺害事件 概要。
2005年5月8日、東京都八ツ森市に住む36歳無職の「北白直哉」は同市内の所有する山小屋にて少女 佐藤浅緋(9)を殺害。
現場近くに居たとされる少年 石竹緑青(10)にも軽傷を負わせたとして警察に逮捕される。その場の状況証拠、本人の自供等から日本警察では彼が一連の少女殺害事件の犯人と断定。
法廷では一連の事件の被害者、少女四人に対する殺人罪から無期懲役の判決が下されるが重度の精神障害が明らかになり、控訴審二審では一転し無罪判決が言い渡された。
2012年の現在、北白直哉は時代の流れと共に事件同様に忘れ去られ、更生施設にて療養中である。これは遠い記憶の残滓、忘れられた罪の物語である。