和三盆
「お、成瀬。何読んでんの?」
「本ー。梓に借りたー」
「梓ってだれ?」
「中原ー」
「あぁ、最近仲いいなぁ……って。 呼び捨て!? お前ら付き合ってんの?」
「ないー」
梓は今席に居ないので、響が梓の席を借りた。カコカコと椅子を斜めに傾けながら本を読んでいく。
梓のセレクトは俺のとは違うので中々新鮮で面白かったりする。梓は読了感が悪いものが嫌いで、うじうじしてる主人公のものはなくて、濃いキャラクターのものも多い。わざわざ読むのに気分悪くなりたくないらしい。せっかくの二次元なのだから、だそうだ。よくわからん。
パラパラとページを繰りながら今週の土日の予定に思いを馳せた。
「……土日遊びにいこーよ。梓ー。えーがとか水族館とか」
「えー、土日は香川いくんだけど?」
WHAT? 香川?
「うどんの?」
「そう讃岐うどんに金比羅さんに栗林公園やけん」
「なぜに?」
「うどんが食べたくなったから」
じゃあそば食べたくなったら信濃に行くのだろうか。
「それにウチのおばあちゃんの家って3階建てに一人暮らしだから部屋が余ってるから宿泊費タダ。そして学生でバス往復5000円ちょいだし。何よりうどん安くて美味しいし、京都っぽいのんびりした空気が時々味わいたくなるんだよね」
なんというかアクティブだね、梓。ホントなんで梓のこと地味子とか呼んでる人居るんだろう。
ていうか女子一人旅とか強いな、色々と。一人焼肉とか一人カラオケとかしてたりするのかな。
「うどん。美味いの?」
「美味しい。そしてバリエーションも豊富。蛸唐のったうどんめちゃウマ。おでんもあるし」
「おでん?」
「うどん屋さんには結構な確率で置いてる。私も最初は驚いた」
「へー、いいな」
「いいっしょー」
「……行きたいな」
「は?」
「ダメ?」
「うーん、ついてくるのは構わないけど部屋に関してはおばあちゃんが許可しないとダメ」
「男の子だもんね。俺」
異性を入れるなんて許す祖母がいるのだろうか。
「それが無理だったら宮だけ日帰りかな。」
「……なるほど。その手があった。」
「まぁ一応だめもとで聞いてみるよ。無駄だと思うけど」
というか。異性と一緒に旅行と言うのに危機感と言うものはないのでしょうか梓さん。
「大丈夫。信用してる!」
そんな力いっぱい信用されたら何もできませんがな。ていうか何するつもりもないけど。
後ろの席の響が言った。
「……成瀬さぁ」
「うーん、何?」
「中原と付き合ってないならもうちょっと距離感考えた方がいいんじゃないか?」
「………うん。わかった。さんきゅな」
……釘を刺された。響は周りがよく見えている人間だ。それに信用できる。
そう、だよなぁ。アイツがたいていのことは最近受け入れてくれるから俺はノンストップで距離を縮めていっている。梓って最近わかったけど身内には激甘。
美味しいもの見つけたら食べさせてくれるし、ていうか餌付けが好きと見た。ウチの弟とも仲いーし、買い物にも付き合ってくれるし、できることならやってもいいっていうスタンスで。ただし動物園を除く。もー俺梓いないと困るわーってことも多くなってきた。あぁ、でも飴ばっかりじゃないのよ?鞭もあるから。
――香川行き。やめた方がいいのかなー
梓SIDE
「香川行き。やめた方がいいのかなー」
と宮が独り言をつぶやいていた。ふぅん、行きたくないのか残念。色々案内しようと思ってたのに。
「来ないの?」
「うぉっ! 梓?」
「んー。付き合ってない男女が旅行行くのはどうだろうと思いまして」
と珍しく周りの目を気にする発言がでた。今更じゃないだろうか。最近ハグまでされている身としては心中複雑だ。とはいえ好きな女の子扱いではないので普通に放って置いてるけど。
いや、学校内ではしないけどね。さすがに。
「親御さんからダメって言われた?」
「いや、むしろはっきり言うってことはやましいことないよな?って。それに梓、ウチのオカンの信用MAXだから。問題ないと思う」
それは光栄です。宮ママいい人なんだけど。ちょっと妄想が行き過ぎているというかなんというか。
彼女認定されるところだった。否定しといたけどね。透君可愛かった。お持ち帰りしたかった。
「付き合ってるかぁ……。めんどくさい」
「めんどくさいってあーた。花の女子高生でしょーに」
「だぁって異性と仲良かったら即付き合ってるの?の質問攻めなんだもの。これは小学校の時からだからもううんざりなんだけど。」
「……今もされてる?」
「うん、否定してるけど」
「誰かと付き合わないの?」
「彼氏より旦那が欲しいな」
「なぜに、一足飛びで旦那!?」
「だってこの世代のカレカノってお互いに自立してないから、トラブル起こしやすいじゃない。
それに束縛されるでしょ。時間とか色々。面倒ごとと彼氏がつりあわないわ。
やだわーそんなめんどくさいの。だったら旦那が欲しい。お風呂掃除してほしい。」
「お前は一体何歳なんだ……ていうか。それ絶対彼氏のこと好きじゃない場合だろ」
「17歳? まー。夢中になったことはないな」
恋愛体質じゃなんだろうな、私。
「枯れてるなー」
「ほっといて」
私は小さい頃から大人びていたらしく、幼稚園のには他がグループで登下校している中一人でつきそいなしに動いてみたり、中学生の時は高校生に間違われ、今は大学生に間違われている。
その理由はこの妙に達観した落ち着いた雰囲気のせいだとテニスのコーチに言われた。
若さが足りないらしい。キャピキャピしてないらしい……複雑。ていうかキャピキャピは無理です。
「ま、正直いうと。彼氏彼女が高校生で旅行っていうこと自体アウトだと思うよ」
「……それもそうか。というかそれならなんであっさりOKしたの?」
「………大丈夫だと思ったから」
うーん、そうとしか言えない。だってそういう類のことは起こしたいとも思わないし起こりようがないと思っている。現時点のところでは。だけどこれだけでは主張としては弱い。
「楽しそうだと思ったから、それと、
うーん。まぁ。やっぱり大丈夫だから」
「いや、答えになってない」
「だってないでしょ?」
そんなめんどくさい問題ごと起こすの。わざわざしないって。
「ないけど」
するときはするっていうし……と宮が言う。ってオイ。
「じゃあ楽しそうだし」
「まぁ楽しそう」
「世間の目を気にすることも必要だけど、これは別腹といいますか」
「別腹?」
「行きたいよな?」
「行きたい」
「だよね」
「だよな!」
とハイタッチを交わした。傍から見るとカンタンに決まったようにも思えるが。なんだかんだで通じ合っているようだ。最初の頃からは考えられない。
「……とりあえずウチの親とそっちの親で相談してもらう?」
親公認なら問題ないだろうから。
「ですな」
とりあえず香川旅行計画始動です。