柿ピー
4時限目が終わり、先生が教室を出てからお弁当の準備をする。授業が終わりに近づくと、そわそわした雰囲気とともに片づけを始める音が周りからしてくる。意外とこの音は響くもので、授業をしている先生にとってはやる気がそがれることこの上ないだろうなぁ、なんて思う。
なので、私は先生が出てからお弁当の用意をするのだが、授業中に寝ないように気を紛らわせるために本を読んでしまうあたり、私も人のことは言えないなぁと思う。
でも寝ちゃったら授業聞けないし。といってもこれはヘリクツだよなぁ。
最近はさっさと部屋を抜けるんだけど、どうにも今日は出て行く気になれなくて自分の机にお弁当を置いて手を洗いに教室を出た。意地を張りすぎて疲れてしまっていた。
そして教室に戻ると私の机に弁当箱がなかった。
どうしてだろうと辺りを見回すと二つほど隣の席にポツンと置いてあった。
………。
「あ、ごめーん。中原さん。移動しといた。私ここ使いたいんだよね」
ゴメンとは言葉を使っているも謝罪の意志もこちらに了承を得る問いかけすら感じられない一方的な物言いにプツンと何かが切れる音がした。只でさえ最近面倒ごとが続いているせいでストレスが重なり、神経に障った。
その不満が顔に出ていたらしい。
「何? 文句あるの?」
と私の苛立ちのせいか醜悪な女の顔がそこにあった。
そして私に対する嫌悪が見えた。
誰かが自分のために動いて当然。その他大勢なんか知った凝っちゃないってことですか。
あぁ、一矢報いないと気がすまない。
「あるわ」
としっかり彼女の目をまっすぐと見て言い切った。
「……っ!?」
そして私は教室で食べる気がまったくしないので教室を後にした。
成瀬 宮Side
「ある」
と真っ向から言われるとは夢にも思わなかったのだろう。その女子はポカンとあっけに取られた後に一緒にご飯を食べていたらしい同じ女子のグループの前で激しく憤慨して見せた。
そして彼女は満足したのか弁当箱をもってさっさと教室を出て行ってしまった。
文句を言いたくても彼女は目の前に言えない。さぞや消化不良だろう。
お見事、だ。
学校には階級が存在すると思う。
容姿や運動力、頭の良さ、コミュニケーション力、スター性。
色々なもので序列が決められ発言権や扱いの差があると思う。
ぶっちゃけ、彼女はかなり下の位置にいる。だって大人しい女子なんて
何をいっても言い返さないのだから。格好の負の感情の捌け口だ。
つまり、彼女の発言や意志は無視されることなんて容易に起こり得ることだということ。
なのに、彼女は自分自身の反抗の意志をはっきりと示して見せた。
やっぱりアイツ図っ太いなー。おもしれー。
しかし、ここですぐにご飯を済ませる前に出て行くのもかなり目立つよ、なぁ。
と教室の微妙な空気の悪さに空気をしかめた。
「うわー女子コワー」
「………空気悪」
「しかし、アイツ誰だっけ」
などと言う声も聞こえてくる。
それを聞きながらもサクサクと箸をすすめ、ご飯をがつがつと書き込んだ。
あぁ、中原 梓さんだよ。
と後ろから声がした。それとともにその声の主に少しの驚愕に目を丸める。
………奏?
知ってたのか。意外。とまじまじと自分の相方の顔を眺め。
ん? と疑問を含んだまなざしを返されてしまって、にやりと笑ってごまかしてしまった。
「よし、ごち」
と食べ終わってガタンと席を立って彼女を追いかける。
ちと面倒だ、とため息が出るも、”彼女を追いかけること”自体には面倒さを感じないあたり
もう、手遅れかもしれない。だって興味があるのだ。
中原梓side
あの事件の後只でさえ気に入られてなかったのに
女子の一部からの恨みがましい視線が刺さる、刺さる。
とはいえ引き下がるのも負けた気がして悔しくて席を死守した。
……わたしも子供だ。
授業中つん、と肩をつつかれる。
それにびっくりして肩を揺らすと、カサリと後ろの彼が小さく四つに折りたたまれた紙を手渡される。
……名前が書いてある。わたしの。
ということは他の人に回してということではないのだろう、と紙をそっと広げた。
「何でグループ入んねぇの?」
そこには色々書き込んでどう話を始めるのか悩んだ痕跡が残っていた。
でも、悩んでもその質問を書いてしまうあたりこいつの遠慮のない性格が窺えてしまった。
その質問に答えを返した。
最初は入ってた、と書いた
「何で今は入ってないの?」
『あなたには関係ない』
ていうか、話すとそこそこ長い。
「えーなんでなんで? 知りたい」
『何で』
「何でも」
どうして、知りたいのかわからない。この前の事件を面白がっているのだろうか。
それに前から私の周りをちょろちょろしている。なぜだろう。
『どうして私に関わるの?』
「うーんそれは後で教える」
あとで? それはいつなんだろう。ていうか何がしたいんだコイツ。
「ねー、中原さん。今日ひま?」
「特に予定はない」
と咄嗟に私は正直に答えた。とはいえこうも付きまとわれるのだからいい加減理由を知りたいという理由もあった。だからこそそのあとの誘いにも乗った。
――ねぇ、今日俺とデートしない?