パックンチョ
「もう嫌だー! 空気なんて形のないものが読めるかー!
アホか! 無理に決まってんでしょー!!」
梓が叫んでいた。学校からの帰り道で。
「いや、まあ、人間向き不向きがあるよな」
「うっさい!」
文化祭の時期がやってきた。梓は意見がはっきりしているせいか、他の人との意見をすり合わせるというのが苦手だ。そんでもって手っ取り早い答えを自分で持っているので、ぐだぐだと無駄に全員で話し合ってもいい意見がでるわけねぇとも思っているわけである。
しっかりとした意見を持った人の考えをベースにして足りない所を直すというのが一番で、いろんな人の意見をごっちゃにしたってまとまるわけないそうである。
話し合いはぐだぐだとして誰も手を上げない時間がぽつぽつと、まあ確かに早よ、終われと思うんだろうな。
まあそういう考えもあるのかもだが、大多数はそう思っていない。
皆で頑張ること、素晴らしいじゃないか。青春っぽいよね☆ これに尽きる。
一応内容は和菓子屋さんに決まった。お菓子を売るだけではつまらないのでボディ・ペィンティングといって顔や腕に絵を書くということもするらしい。
内装は和風、服は全員おそろいのTシャツ。色は紅色。
梓は1年の時美術クラスに所属していたから、ということでTシャツ、そしてクラスの宣伝大弾幕のデザインを買って出た。本人曰く、あまりに自分のやることがなさすぎて暇、ていうか時間もてあましている人多すぎ、暇そうなの帰らせればいいのにとかイライラしていて、出来そうなことがあったからさっさと手を上げたらしい。
そりゃあ、することないからって帰るのが許される空気ではないわな。仕事見つけただけましか。
そしてデザインは勝手にいくつかアイデアを出してOKを貰う形なので、大人数で話し合うより気が楽らしい。
俺はというと、リーダー格に祭り上げられて忙しくしているので最近は帰り道でしか梓とは話せていない。
「まあ、でもTシャツとか格好良かったし、指示出す側の方が気が楽だろ」
「うん、微妙な指示に従うほうが私駄目みたい。宮みたいにやんわり改善を申し入れる技術もないし。Tシャツは普段でも着れるデザインにしてみた。お金出すのには変わりないし。どうせなら使えるものを作る」
「確かにないな、技術。そして貧乏性…」
「ううう…。でも暇そうにしてるひとにも色塗らせてるし、仕事を与えるのは平気…なんだけどな」
「あぁ、生き生きしてるな」
「でももう終わっちゃいそう。あまりに暇そうにしてる人が多くて、仕事してくれる人が多くてあっというまに塗り終える。この仕事なくなったら、私は教室でぼーっとしてないと駄目かなぁ」
そして土日を挟んで、月曜日。
「私は指示してないのに、塗り終えてた。土日しなくても充分余裕だったのに」
「ふーん。多分あまりに仕事がないから勝手に塗らせたんだろうな」
「私の仕上げで終了。バランス見たら終わり。とはいえ、特にすることもうないし、もともとの内装担当の仕事もほとんど参加してないし、やることないな。時間もてあます人更に増えるぞ」
とスプレー缶を振って、梓が言う。中々いい出来だ。特別上手いわけではないのだが、大衆受けしそうな可愛らしさがあった。絵では媚びられるのに態度では媚びられないようである。
「俺も仕事はあるけど上手く采配できてないって感じるわ。その上リーダーは自分の目の前の仕事ばっかりで他の仕事を見れてないし、仕事を与える頭がいないんだよなー」
「ふぅん……」
教室は狭いのに、仕事をしてない人が沢山居た。正直大詰めなのにあとはリーダーの仕上げのみで、俺も俺でそれなりに手を回しているがリーダーにしかできない仕事をこなすのに精一杯だった。しかもリーダなのに仕事をしない馬鹿が居て頭が痛い。しかも全然悪いと思っていないのが始末に悪い。フォローを上手くできる奴が偶に居ると有難くて泣きそうになった。
「ねぇ、そういえば中原さん知らない? 大弾幕の紐何色にするか聞こうと思ったんだけど」
「は? いないの?」
「うん」
梓、そういえば今日見かけなかったような気がする。とりあえず電話を掛けて見た。
「もしもし…」
「はいはい。何の御用?」
「大弾幕の紐何色がいい?」
「からし色で」
「OK、言っとく。てか今どこ」
「………あー」
「お前、またバックれやがったな」
俺もどれだけ最初仲良くなる前に逃げられたことか。
「仕事なくて突っ立ってるだけとか暇すぎて、今は図書室です。ごめんなさい」
本を読むのを楽しんでいたらしい。一応悪いとは思っているのだろうが、戻る気はないようだ。梓らしいといえばらしいが、協調性を学んだ方がいいぞ。
「でも戻っても仕事ない人で炙れてるだろ?」
「まぁな、教室で突っ立ってて暇そうにしてる。あー。使える奴がほしい」
「使えるっつったって全体把握できてる奴以内から無理だろ。いーじゃん期限内に終わりそうな感じだし」
「俺みたいに仕事が異様に多い場合もあるんだが」
「お前が使えるからだろ? しゃーない。できるやつに仕事はいくんだから」
「それに全体が把握できてる人もいるかもしんないけど、お前みたいに人を惹き付けられない子だったりするとだめだ。私も無理」
「お前指揮してたじゃん。大弾幕」
「私が把握してたのは大弾幕とTシャツだけ。他は知らん」
「それだけでもいいよ。正直自分の担当すら上手く動かせない奴とかたるい」
「うわ、たるいとか。宮口悪いー。イライラしてるね、疲れてるでしょ?」
「……あ”ーそうかも」
「………そうか。わかった」
ツーツーと音がする。
電話が切られた。わかったって何がだろう?
「宮居るか? ちょっと管理委員会が呼んでるそうだから来てくれ」
教室に梓が来た。さっきの電話から30分くらい過ぎた頃である。
「おお、来たぞ。っていうかぜったい嘘だろ、さっきの」
「あ、バレた? まぁ管理委員会とのツテなんて私持ってないしな」
とカウンセラー室まで連れてこられ、温かいお茶と美味しそうなミスドのドーナツ、そして更にたこ焼き。
絶対これ学校内で売ってないやつだろ、お前。
「学校抜けて、近くのモールで買ってきた。お前ネギマヨのほうがいいか?」
「あぁ、マヨくれ」
「おう」
「ってオイ。学校抜け出したとか、今一応準備とはいえ授業中だぞ。どうやったんだ?」
「買出しですっつってチャリで出てきた」
「……梓は、一番自由だな」
「アリガト。面白い本も見つけたから後でお前も読むか?」
「うん、もうホントお前自由な」
そして先生に菓子折りとしてドーナツも忘れないあたりがもうなんかなぁ。
「そんで、どう? 仕事、手伝った方がいい?」
「……梓がそんなこというなんて」
「宮疲れてるみたいだし、誰でもできる仕事ならやるよ? 宮にしかできない仕事に集中したら?使い走りくらいならするし」
たこやきは美味しかった。温かいものを食べる余裕が無かったから尚更だ。
「正直、みんなの当日シフト合わせが面倒かな。皆に聞いて周ってくれないか」
「わかった。紙あとで頂戴」
「おう、頼むわ」
「まあ当日することほとんどないだろうし、売り切れたら終了って形だし。今だけ忙しいんだろうしな」
「当日かー。知り合いの居る所だけ周るかな」
「そうかー………」
「……梓はどうすんの?」
「んー。初日は店番かな」
と首をかしげる。目が泳いでいる怪しい。
「次の日は?」
「あー。家でゆっくりしようかな、と」
「また学校抜け出すのかよ!」
「だって家でご飯食べた方が美味しいし、あんまり美味しそうなもの売ってないし、例年通り食べ物はすぐ売り切れるし、並ばなきゃだし、学食も混むじゃん」
「……お前、篠崎とは遊ばないのか?」
「あー。用事あるって言った」
「何で」
「疲れたから。文化祭準備」
「あぁ、普段以上に人と話しただろうけどな」
「……ごめんってば。でも文化祭も正直、あんまり目玉ないかなーって」
「そういうとこ、ちょっと心配だし、勝手だと思うぞ」
「知ってる。ごめん。初日はちゃんとするからさ。でも一日で充分だな、私」
と梓が苦笑した。
「まあまあ。美味しいドーナツに免じて梓ちゃん許してやってよ、成瀬君」
「……先生がそんなこと言っていいんすか」
白い白衣を着たこの女性は梓に甘い。ここの部屋を俺達に貸す辺りがホントに。
「見つかったら自己責任かな。助けるつもりは無いよ? けど梓ちゃん見てたらわかるでしょ、無理に参加しすぎると余計なストレスためる人だよこの子。もう既に団体行動に辟易してるし」
「……確かに」
さすが、プロ。よく見てるな。
「ヒドイ。まあ自覚はあるけど」
「梓、俺フレンチクルーラー」
「はいよ」
「まぁ、でも感謝はしてるよ、宮には」
「俺?」
「お前が引っ張ってこなきゃ、ここまで参加しなかったと思うし、大弾幕も書きたそうにしてる人居なくて困ってたみたいだしな。いつもならスルーしてるし」
「そうだったのか」
「ここまで私に関わろうとするなんて物好きだけど、やっぱり一緒に居ると楽しいしな。好きだな、そんで尊敬してる」
「ヤダ、直球恥ずい」
「そうか?」
嫌だこの人、本当のことしかいわないからこういうとこ怖いわ。




