ブラックサンダー
「必殺。桜流…リバース・スマッシュ。せいっ!」
……いや、ラケットの裏面で打っただけだろ。と内心ツッコミつつピンポン玉を打ち返す。
「とりゃっ」
コンコンとまずは手鳴らしにこういうのが苦手そうな桜と試合中。
10点先取。同点の場合は更に2点を先にとったほうが勝ちという感じでやっている。
「あー、そこ無理っっ! 梓の鬼ぃぃ」
「勝負はずるがしこい方が勝つ」
弱点を狙うのは当たり前です。と打ちにくい場所にシュパッと玉に回転を強めにかけて打ち込んだ。おぉ、と傍から歓声が上がる。
暗いベランダで、街灯をつけたその下で白熱した勝負が行なわれていた。
……もちろん卓球のである。
「わー。梓大人げねー」
「私ガキだから」
主に精神が。
「わー。こんなときだけ子供ぶる」
悪いか。そりゃ得なほうを選ぶ。私は。
10対2でゲームセット。私の勝ち。
「案外負けず嫌いだよね。梓」
と桜がじーっと恨みがましくみる。………確かにそうかもしれない。
「次、宮やろーよ」
「わー。勝つ気満々……いいぜ。来いや」
結果。10対5で勝ち。えぇ容赦なく打ち込みましたとも。
「やったー。私の勝ちっ。ざまぁ」
コンコンと小さいラケットでボールを何度も跳ねさせ遊ばせる。上に高く挙げ、面でキャッチして、裏で打ち、細かく跳ねさせる。軽快にリズムが刻まれる。
「梓。学校とは大違いだね。感情あんまり出さないのに。なんかハイになってる?」
ハハンと鼻で笑う私に桜が言う。
「梓に負けた……。なんかショック」
「失礼な。ま、けど勝てるの最初だけだからね」
「……なんで?」
「こういうのってさ、単に私が小器用ってだけで運動神経がいいわけではないんだよね。だから反射神経がいい人は慣れると私よりもすぐ強くなるんだよ。だから最初のうちに勝っとくがいい」
そう、だいたい最初は私が勝つけど。バスケも跳び箱も、バレーボールも高飛びもな。
負けんのやだから、最初のうちに打ち負かしてしまうのである。伸びしろはあんまりない。運動に関しては。
「つまり、中原は頭がいいんだな」
と上野君がラケットを手首で回しながら言う。
「ごめん。意味がわかんない」
「ルールをいち早く理解して弱点を狙うということだ。とりあえず適当にやってみるという性格ではないんだろう」
「……確かにその気はあるかも。できるだけ楽そうな効率とか考えるし」
でもそれって、何か性格悪いねって言われてるみたいです。
「最後には俺が勝ってやる」
宮みたいな体育の授業で活躍するようなタイプは最後には私よりも強くなるんだよな。玉を追う集中力とか、咄嗟に返す瞬発力がずっといいから。
基本的に鈍いんだよな。私は動きが。
その後もダブルスしたり、強いもの同士でギリギリとした空気が流れるような試合も繰り広げられた。
桜はその後もあんまりうまくはならなかったが、宮はそこそこ上手くなった。
遊びでボールも増やしてみたり。これ卓球か……?
そして何気に上野君最強。必殺技を出すとかはないが、きっちり丁寧に返し、相手がミスするまで我慢強く迎え撃つ。ラリーが続き、じりじりと緊張感が高まり、つい力が入ると場外に飛んだりします。もしくはネットに引っかかります。
そう、勝ちをとりに焦るとやられます。さらっと普通に返されるのが余計に屈辱です。
「梓。最後気負うから」
「うっさい。分かってるけど。打てそうだったら必殺技使うじゃん」
あぁ、負けたともさ。悔しい!
相手が燃え上がってないと余計に負けた気がするのはなんででしょう。
よくある布団の中でしゃべるというようなイベントをこなすことなく、私たちの夜は卓球に始まり卓球に終わりました。
けどちょっと目がさえて眠れなかった。
……興奮状態で。




