カリカリ梅
最近私の周りに出没する彼について話してみようと思う。
簡単に言ってしまうと、彼はクラスの中心人物の一人、いわゆる三枚目キャラで道化役。
ムードメーカー。自然に周りを盛り上げて馬鹿なこともしてみせる
柔らかそうな茶色の髪にどこか活動的な雰囲気を感じさせる生き生きした目、そして
――うるさい人、だ。
勉強も運動もできる爽やかさんの隣にいることが多い。
誰かと仲良くなることに抵抗がないようで、きっと外国で言葉が通じなくても臆さないでアタックするんだろう、頭から。
気持ちを伝えることを躊躇わない人、私からはそう見えていた。
そしてきっとクラスの中心からは遠い私には関わることはないだろう人物だ、と私は思っていた。
思っていた。つまり過去形。
~昼休み~
「なぁなぁ何の本読んでるの?」
えー、
「なぁってば」
うるさいな。
「麦の海に沈む果実」
「どんな話?」
「ミステリー?」
「何で疑問系?」
「さぁー?」
「ふぅん」
~昼ごはんの中庭~
「何食べてんの?」
「そーめん」
「……やっぱり見間違いじゃなかった」
マジか、と小さく呟かれる。
「楽だから」
お味噌汁と暖かいご飯が食べられると一時期流行ったお弁当箱。
その味噌汁部分にめんつゆを、ご飯の所に麺を。
おかずの所に錦糸卵にキュウリにハム。
切ってゆでるだけ。油分も少なく食べやすい。夏ばてした身体にはピッタリだ。
すばらしいじゃないか。
「おーい成瀬ぇ バスケいこーぜ」
「おー今行く!」
はやく、言ってしまえとばかりにもくもくとそーめんを口に運んだ。
うん、美味しい。でもわさび欲しいかも。今度からそうしようっと。
~朝のホームルーム前~
「石鹸のにおいがする。朝シャン?」
「うん、昨日お風呂入らずに力尽きて寝ちゃって
……匂うかな?」
ボディソープの匂いがきつかったか腕のにおいを軽く嗅いでみた。
「いや別に」(そういう反応するところじゃなくね?)
何が彼の興味を引いたのか。
物好きな人だ。何だか彼と話すのに慣れつつあるな。
しかし、ちょっと煩いんだけど。主に彼の周りが。
「ねーねー、私と話そーよ」
「何でコイツといんの? 意外」
……ウザイ。とはいえ私が席を移動するのもちょっとシャクだ。
ここは私の席なんだし。
その後移動しとけばよかったと後悔した。
目でゴメンと謝られたがつい無表情を返してしまったらしい。
愛想を振り向く気力が沸いてこなかった。
あ、顔が引きつった。
クラスで席替えをした。席は窓際の後ろから3番目そして彼は2番目。
……やってしまった。
これから周りに人が集まって煩くなるであろうことは容易に想像ができてしまう。
げんなりしつつも昼休みは図書館に避難してみることにした。
図書館私語厳禁。わかってはいるのだが、どうにも声を出していけないという空間が苦手だ。
本を探すのは好きだ。本をじっと読むのも好き。
でもなんだか規則を意識しまうと息苦しさを途端に感じてしまう。
あー駄目だ。無理かも。
リラックスができない。
2、3日すると学校の都合のよさそうな場所を探し始めた。
昼休みはのんびりしたいのだ。色んなものをシャットダウンしてリセットする。
だけどなかなか見つからなくてイライラする。
あぁ”-も”――!!
――何で私が気を使わなきゃならんのだ。