チューペットアイス
「うあー、腹いっぱい。あーずさ、このあとどうすんだ?」
そりゃあんだけ食べればそうでしょうとも。成長期男子の食欲ってすごい。
「あぁ、すこし部屋片付けしようか。もってきた荷物も整理した方がいいな」
「そか。了解。ほら、奏、篠崎行こうぜ」
と宮が後ろの二人に声をかけた。正直すこし助かる。まだあの二人と話すのは慣れないし、何より。篠崎さんから殺気が……。そしてあっという間にうどん屋さんを後にしておばあちゃんの店につく。徒歩2分ってやっぱすごい。
そして私たちの領土である、三階に戻って皆に指示を出した。結構食べたし、すこし腹ごなしの運動だ。それに何より布団がないと眠れない。太陽で殺菌しとかないと。
「というわけでまずは上野君。ここにある布団をベランダの竿に引っ掛けてこのクリップで留めてもらっていいかな?」
「おう、泊めてもらうんだからこれ位はしないとな。まかせろ」
と軽々と布団を持ち上げてベランダに出た。男手あると楽だな。
「うん、ありがとう」
「うおー。ベランダでけー。あ、卓球台があるんだけど梓ーっ」
と叫んでいるのは宮だ。確かにウチのベランダは大きく、二部屋分くらいの広さがある。
「お風呂あがりにでもするか? でもそれも掃除しなきゃだぞ。ほこり被ってるし。あ、篠崎さんはまず荷物整理して、これが箪笥だから服はここ。お風呂はあっちだから」
荷物整理は女子部屋がそんなに広くないので交代ごうたいでしたほうがいいだろう。昔お母さんが使っていた部屋だから1人部屋なんだよね。寝る分には問題ないけれど。
「宮ー。卓球台広げるからそっちもって」
「おう、梓そっち持ったか」
「うん、せーのっ」
と台を持ち上げて卓球台を設置する。するとぶわっとほこりが舞って、くしゃみがでる。あとで顔洗おう。
「ちょっと待ってて濡れ布巾を持って来るから」
ともうぼろぼろのタオルを探して水で湿らせてほどよく絞った。私と宮の分を二つ。そしてバケツも一つ。お互いに大きな台を拭きながら言葉を交わす。
「ほら、宮。そっち側よろしく」
「おう。しかし卓球台まである家ってすごいなー」
「ぼろいけどね、お祖母ちゃん働き者だったし。それに昔は今よりも商売繁盛してたからね。今はやっぱり物買うにしても、ショッピングモールとか全部がそろう場所があるとそっちにお客さんが流れちゃうんだよね。うん、けっこうな豪邸だと思うよ。立地もいいしね。昔はブランコも置いてあったらしいけど」
「ブランコ! へー。んー、というか卓球台はあるけどラケットとかボールとかって置いてあんの?」
「……どうだろう。もう何十年単位でこの台使ってないだろうし」
母の兄も姉も成人する前にこの家を出たし、仲良く卓球するほど”いい家族”ではなかったみたいだし。成人してからも卓球することなんてなかったろうな。あとで確かめて、なかったら100均にお世話になろう。
「うし、ピカピカ。あー。掃除とかだるい」
「同感。でも過ごしやすくするためだし。まぁ卓球台は遊びのためだけどな」
ほこりをかぶった卓球台もきれいになって、布団も植野くんが干してくれた。そして篠崎さんの荷物整理が終わったので、私も宮も洗面場で手を洗ってからそれに合流した。
「上野君おつかれー。あと、男子の部屋は箪笥はここ、お風呂はあっちだから。こっちは広いし、二人とも一緒でいいかな。じゃ、荷物整理終わったら休憩でいいから。あ、篠崎さん。一緒に2階に降りてこれる?
台所すこし片付けよう。色んなものがちゃんと動くかいまいち不安だ」
「うん。不安って……?」
あの人料理上手じゃないんだよ。だから色々設備がちゃんと整っているかが不安。そして貧乏性な人だから食べられないものも冷蔵庫に入ったままの可能性も高くて不安です。賞味期限切れとか……。処分させてもらおう。お金はお母さんにもらったし、ちゃんと新鮮なものを揃えよう。
「あー。これダメだ。ヤバイ食べたら腹壊す。処分。あ、これグラス欠けてんじゃん。危ないな。処分」
「そんなに勝手に処分しちゃっていいの……?」
とさくさく処分する私を見てそれに倣って同じように処分する篠崎さんが不安げにする。
「定期的にこうしないと、台所が使い物にならなくなる。しかもお祖母ちゃんは頑固だから話を聞かないし、こうする他ないんだよねー。お祖母ちゃんも意地張ってあとで怪我したり病気になったりするよりいいだろ」
私がここに来ることをお母さんが快諾したのもそのため。仕事以外がおろそかになりがちな祖母の生活環境を多少は改善させるためでもあったりする。若い私たちは格好の戦力だ。だからといって大掃除までする気はないけど。そこまでさせるわけにはいかないし。
「ふー。大分綺麗になったわね」
「そうね、お疲れ様篠崎さん。お茶でも入れようか。お茶の葉をこのティーバックに入れてもらっていい? 私ヤカンにお湯沸かすわ」
「うん、わかった」
案外素直に意思疎通が行えてホッとする。しかし、どうしようか。宮と恋愛関係にないことは示せても付き合う可能性がゼロとは言い切れないなら、納得しないだろう。だからと言って宮に私のこと恋愛対象じゃないよね? と聞くのは自意識過剰な気がして嫌だ。困ったや。
お茶が沸いてヤカンからポットに移し、口をあけて熱が漏れるようにして冷ます。ある程度冷めたら冷蔵庫に入れておいて、いつでも飲めるようにしておこう。そんで二人に差し入れ用にダンボールからジュースをもらっておく。店の裏の自動販売機に入れる分だしお金はあとでお祖母ちゃんに渡しておかないと。昔はタダだと思ってたんだけどね。実際は商品だ。
「篠崎さん、オレンジとアップルとサイダーどれがいい? それかコーヒー?」
「アップル。あとの二人の分も? 何がいいかな。サイダーとオレンジでいいかな」
「いいんじゃない? 私はオレンジにしよ」
と二人で分けてもって3階へ戻る。その頃には男性陣は荷物整理を終えて部屋に寝ころがってだれていた。すこしお疲れのようだ。確かにバスに長時間乗ってたし掃除もしたし多少の疲れはあるよな、とその様子をみて思ったので、ジュースを手渡し、少しの間男子部屋で休憩することにした。
ジュース缶で乾杯してその場で軽く話す。疲れているのでどちらかというとジュースを飲むほうに皆意識がいっている感じだ。とりあえず休憩きゅうけい、とオレンジジュースを口に含む。酸っぱい。美味しい。疲れてるとなおさら。
――まだ旅行は始まったばかり。とりあえずのんびりと参りましょうや。




