ラズベリーのジャムサンド
食べているものとタイトルの差が……。
年季の入った木造の扉を横にスライドさせて中に入る。最近来てなかったせいか店内がとても狭く小さく感じる。天井もそれほど高くなく、人が通る通路も細い。
私が大きくなったせいだろうか余計に手狭に感じるのは。
「あら、いらっしゃいませ」
と頭に三角巾を被ったおばさんがにこりと笑う。そしてサクサクとうどんを他の席へ運びに行った。
「えぇ、どうも」
といって、案内がないまま4人席に座る。開いている席に自由にという形で。
「……んー何にする?」
「……うーん。何がお薦め?」
「基本的に何でも美味しいけどね。個人的にはコレ」
と蛸の唐揚げの乗ったうどんを指差す。なかなか珍しいメニューじゃないかな、と思う。
「ふーん。俺それにしよ。奏お前決まった?」
「おう、コレにする」
と指差したのは肉うどん。うん、肉うどんも美味しいよね。
「…私は掻き揚げにする」
「すいませーん 注文お願いします」
注文を終えて改めて思う。香川だと私たちの格好って結構浮くな……と。
私たちの住んでいる場所のほうが服屋さんは充実しているし、こちらは最近開発が進んで少しは楽しめるようになったといってもやっぱり田舎ではあるし、更に若い人は外に流れちゃってるし、しかもそのうえクラスの男前と美少女が可愛い服だったりカッコイイ服を着ていたりするのだから、どこか垢抜けないというかんじの人たちの中では浮くんだなぁ、これが。
メイクをきちんとこなしている人も地元と比べると少ない。ナチュラル思考なのだろうか。
しかし、宮の被ってた帽子可愛かったなどこのだろう。
「はい、おまたせしました」
とめがねをかけたおばちゃんが器をトントンと並べていくと小さく歓声が上がる。
まぁ、お腹減ったしねー、とパキリと割り箸を割って頂きます、と手を合わせてうどんに手を付けた。
今日は暑いので冷うどんにしてもらった。あつあつの唐揚げと出汁の美味しいうどんを口に含んで味わう。……やっぱり美味しいぃぃ。幸せ。
周りの皆も美味しいと騒いだ。よかったよかった。と少しホッとして更に口にうどんを入れる。
「うあちっ」
宮がうっかり急いで食べてしまったようだ。気をつけようね。しかし宮は温かいうどんにしたのか。
まぁクーラーの効いた店内では温かいうどんを食べても汗かかないしね。
「あ、私がふーふーしてあげよっか?」
ごふっ。っと今度は自分が咽た。
うぉいっ!! それアウト!
篠崎さんアウト!
というか咽た私に大丈夫か、と訊ねてきてくれる上野君。気にする所はそこじゃない。
え、私が可笑しいの? 突っ込むとこじゃないの、それ……。
「い、いや大丈夫サンキュな」
と宮がそれを普通に断る。
……うーん。宮が喜んでるのか、困ってるのかがわからない。男子的にセーフなのかな、この行動。わからない。常識って、普通って何だろう。
ふ、と篠崎さんと目が合う。「何よ」と睨まれるけど、私は何をいっていいかわからないよ。
席を立ってレジ裏のおでんを温める機械が置いてある場所に行って、牛筋と大根を小皿にとり、からしを添える。そしておばちゃんに2本ねといっておいた。
「何それ」
宮が聞くので、さっと皿を見せて指でおでんのある方向を指差した。
「へー。うどんにおでんって変な感じだ」
香川ではわりとよく見かけるけどね。うどん屋さんにおでん。
俺らもとりに行こうぜ、と宮と上野くんが席を立つ。席には女性陣のみが残った。
かたかたと、木の古い椅子が音を立てる。
「ねぇ、」
「……………。」
「ねぇってば。無視しないでよ」
無視、というかうどんが口に入ってるので、もう少し待ってはくれないだろうか。さっきのことを忘れておいしいうどんを堪能しようと思っていたのに、としぶしぶ箸をそっと脇に置いた。
「なにかな」
「付き合ってるの?」
………誰とでしょう。そして何だ。
「すっとぼけないでよ。成瀬君よ」
……成瀬ってだれだっけ。あ、宮のことか。最近苗字読んでないからなー。
「付き合ってないよ」
事実そうだし、そうとしかいえません。しかし直球で聞いてきたのは篠崎さんが初めてだ。宮とどんな話をするのか、とか遠回りに聞いてきた子はちらほらいたんだけど、ね。
篠崎さんは宮が好きなのだろうか、だったらさっさと告白すればいいのに。私は止めないよ。
でもこの旅行中にされるのは気まずいからやめて欲しいな。
「でも、仲いいじゃない」
「私はそう思ってるけどね」
だけど私と比べると宮のほうが友達多いし、その分優先順位は宮の中で私はあまり高くないと思う。ところでこの牛筋は食べていいだろうか。と聞くほど私は空気が読めないわけではない。
「あなたは好きじゃないの?」
好きですが。そういえばどうするんだろう。というかこの子が言うのは恋愛的な意味だろう。私は宮と恋人とかになりたいと思うんだろうか。うーん。
「答えないのね」
だからって好きじゃないと言うのも違う気がするんだよ。篠崎さんに気を使って嫌いとも言えない。ていうか嫌いだったら一緒に旅行を計画しませんから。
「っだから。はっきりしなさ――
とこちらに覆いかぶさるように口火を切る。
「見てみろ!皿に山盛り!」
と空気をぶっ壊す声が後ろから聞こえる。聞くと二人で協力してできるだけ積み上げて見たそうだ。ちゃんと食べられるのか、この量。
「ん? どうしたんだ二人とも」
と微妙な空気に気づいた上野君が尋ねて、それに私たちはなんでもないと口を揃えて言った。
コミュニケーション能力が高い篠崎さんは積み上げられたそれに反応し、話を盛り上げ先ほどの空気を払拭する。私はそれに乗るだけで、先ほどの楽しい空気に戻った。
それに少しホッとしたものの、話が途中で済んだのは、よかったのか悪かったのかと思案する。さっさと決着を付けたいとは思うけど。私の曖昧な様子に納得してくれる気がしないから。こちらから動くか悩むなぁと大根を一口大に箸で割った。
じんわりとした、だしの味が口に優しく広がった。




