金平糖
車道に街路樹が沿い左には小さな公園、目の前には地方銀行。うん、この景色すら懐かしい。
じーんと感動する私だ。実際の地元と違ってたまにしかこれないからこそのこの郷愁感だ。
「じゃ、おばあちゃん家に行って荷物置こうか。それでそのあと昼ごはん」
「うん、うどん食べるの楽しみだね」
さんさんと照りつける太陽に目を薄めがちにする篠崎さんが帽子をきゅっと被りなおす。
「そうだね、どっちに行けばいい?」
「うーん。たぶんこっち」
「たぶん……。梓大丈夫なのか?」
と軽く言った私にオイと突っ込む宮。
「大丈夫よ。商店街入ったら絶対迷わないから」
その言葉の意味は香川高松の商店街を見て見ればわかる。土地が余っている所為なのか、昔から気合を入れていたのかはしれないが、普通の商店街の二倍の幅と、大きさはたぶん全国の商店街でも5本の指には入るであろうものであるからだ。
ここが田舎というからというのもあるが人とぶつかることを気にしすぎることもなく悠々と歩けるここは小さい頃から好きだった。一輪車で周ったこともあったなぁ。
「へぇ、大きーい」
「おー。」
「……でもけっこうシャッター閉まってるとこもあるね」
「このへんは商店街の中心じゃないから、お客さんあんま来ないんだよね」
まぁ、なんつーか事実上閉店? と言いながらも商店街の広さに少し驚く彼らを尻目にさくさくお祖母ちゃんの家に足を向けた。
「んで、ここがお祖母ちゃんの家です」
バスの停留所から約5分。相変わらず便利な場所にあるな、と感心する。
大学はこっちに来てのんびりするのもありかも。あ、でも情報とか流れてくるの遅そうだ。
ここはたまに来るからいいのかも。
「……なぁ。梓」
家の前で立って微妙な顔をして宮が言う。
「何。」
「ここ商店街だよな」
何を今更。この広い商店街を見ておいて。上も屋根が合って日が当たらない分涼しくていいよね。
「なんで着物屋さん?」
「ここがおばあちゃん家だから?」
と首をかしげた宮に倣って私も首をコテリと傾げた。
「店かー」
「そうだよー」
「そりゃあ店がすぐ近くにあるって言うわけだわ」
「徒歩~分じゃなく、もう秒だからね。」
「うわー。すげー」
「アニメイトも近くにあるよ。徒歩1分」
「マジか!」
「漫画とか買いたいとき便利だよ」
「パン屋さんも徒歩30秒」
あそこのクリームパン美味しいんだよねぇ。
「………チャリいらねぇな」
「うん。」
だからこそ私にはものすごくあり難い。外に出ようという気が薄れる間もなく目的地につくのだから地元にいる頃よりも健康的な生活ができそうである。屋根があるのもやっぱりポイント高い。直射日光嫌い。倒れる。
「すごいな」
「ねー。だから泊まりに来てもほとんど家にいないんだよね。寝るだけ」
「ほー」
「じゃ、上がってあがって~」
「「「おじゃましまーす」」」
ってお店なのにコレで入っていいのかという宮達ご一行を連れて店の暖簾をくぐる。
「はい、いらっしゃいませ。あら、梓さんでしたか。またうどん食べに来られたんですか?」
「はい、お友達も一緒にです。皐月さんもお元気そうですね。お掃除ですか?」
「えぇ、もうすぐ開店ですから。あ、奥様は二階にいらっしゃると思いますよ」
「ありがとうございます。では横失礼しますね」
と皐月さんの横を通り抜け、奥にある階段を目指した。
ついてきている3人は上品な雰囲気のこのお店に少し恐縮してしまっている。
大丈夫だよ。とりあえずまだ店始まってないから。
「おーい梓。何か身の置き所に困るんだけど」
「大丈夫です。お祖母ちゃんは仕事命ですからこちらのことは気になさらないですよ」
「……何か言葉遣い変わってないか?」
「あ、皐月さんの話し方移ってますね」
「おう、誰だお前。ってなった」
失礼ですね。
ぎしぎしと音を立てる古ーい木で造られた螺旋状の階段を上りとりあえず三階へ荷物を置きに行く。電気もついていなくて、手すりもほこりが残っている。あとで掃除するべきか……。
三階にはお母さんが昔使っていた部屋と、お母さんの兄貴が使っていた部屋とお風呂とトイレに洗面場があり、これまた廊下がぎしぎしなるので自然に皆足を滑らせる音がしずしずとなる。
昔に作られたものであるせいか天井が低く、男子組は頭がぶつからないように気をつける必要があるようだ。さっき植野くんがでこをぶつけて少し涙目になっていた。うーん、気をつけてね。
部屋もマンションに住む私からすると不思議な造りをしており、それがまた楽しい。
男子用の部屋は普通の和室。私たちの部屋も和室ではあるが、勉強する机のスペースの横に段差があってその段差の上に眠る所があるとほとんど和室なのに微妙に洋室である感じのちぐはぐさが好きだった。最近の卒のない和洋折衷とはまた異なった趣である。
男子用の部屋の襖を空け、障子に穴を開けるなよ、と注意し荷物を置かせた。こちらの女子部屋にもトランクをとりあえず置いて人心地。そのままだらりと休みそうな雰囲気になるも、挨拶せんとなぁ、と宮が言い出したので、確かにそれが先決かとスリッパをパコパコならしながら二階へ降りる。
あとで布団も干さねばなぁ、とため息をつく。こんな大きい家に祖母が一人なので掃除が全体に行き渡っていないのだ。宮にタオル持って来いといったのもそのためだ。使っていない分のタオルがほこりを被っている状態だ。おばあちゃんが使う分はごくわずか。使わない分は棚や押入れにでも直しておけばいい、と思うかもしれないが老体で、仕事をしていてそこまでするのはちょっと無理があるだろう。暇ができたらできるだけ色々片付けておこう。電球も代えたほうがいいかも。
……蚊取り線香も引っ張り出してこないと。
そんな風に考えながらもごうんごうんと音を立てる二層洗濯機というレトロなものを横切ってリビングというか居間に入ろうとして立て付けの悪い木造のドアをせいっと慣れた手つきで開けた。
「あら、梓ちゃん。久しぶりやねぇ。でもこれから私仕事あるからあとは好きにしてええよ。大体何がどこにあるかわかってるやろ?」
「うん。世話んなるわ。こっちが私の友達」
「あ、成瀬宮です。この度はお世話になります」
「篠崎 桜です。お世話になります」
「植野 奏です。お邪魔します。えと、今回は泊まらせて頂けるということでありがとうございまっす」
と自己紹介とともに皆頭を下げる。
「あ、これお土産です。よかったら……」と途中のサービスエリアで篠崎さんと上野くんが買ったらしいミニ大福をとりだした。まぁ、お祖母ちゃんの友だちと茶菓子として消費することになるだろう。
「まぁまぁご丁寧にどうも。ゆっくりしてってね。あんまりキレイなとこやないけど。
そんで昼ごはんなににしよん?」
「あ、うどん棒いこかな、思てるねん」
「ほうか、あそこ美味しいからな。まぁ、車に轢かれんように気ぃつけまい」
「うん。じゃあまた」
と身支度を整えたお祖母ちゃんは1階のお店に下りていった。
「また話し方違うな」
「うん、移った」
「影響受けすぎじゃねぇ?」
「なんかつい」
宮と話すことで標準語に戻った。
「じゃ、御うどん食べいこか」
「オイ、また戻ってねぇぞ」
………ホントだ。
ていうかそもそも普通に話すのってどうすればいいんだっけ。
アレ、どう話せばいいのかわかんなくなってきた。
…………。
「まぁ、えんちゃうん。そのうち戻るやろ」
「……。もう何言ってるかわかんねーよ」
マジでか。
「まぁ、案内するからついてきて」
えと、これでオケ?
「オケ」
なにしよん、とかのイントネーション結構好き何だけどなぁ……。
使ってみたかったなーなんて思いながら店の裏に回ってシャッターを上げた。
香川の方言に関しては間違ってるとこあるかもです。
その辺はご了承くださいませ。




